今回お届けするのは、2021年末からおよそ半年ぶりとなった人気企画のアンサー版。『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』志田竜児シェフが、『ジャン・ジョルジュ トウキョウ』望月良一エグゼクティブシェフのもとを訪れ、初夏のメニュー3品を実食、プロ目線で率直な感想を述べてもらいます。さて、どんなコメントが飛び出すやら、乞うご期待!
TEXT BY TAKASHI TSUCHIDA
PHOTO BY TAKUYA SUZUKI
EDIT BY TM EVOLUTION.INC
「あっ! このカウンター席、シェフの手先までほんとよく見えますね!! インテリアは無駄なものを削ぎ落としている印象を受けます」(『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』志田竜児シェフ)
「ジャン・ジョルジュ氏本人が日本の割烹が好きで。そのスタイルに憧れて、この店舗に結実しました。床面積は決して広くないものの、だからこそ、お客様と直接会話できる距離感が生まれて。ジャン・ジョルジュの海外店舗の中で、こんなにコンパクトなお店はないんです(笑)」(『ジャン・ジョルジュ トウキョウ 』望月良一エグゼクティブシェフ)
実はジョエル・ロブション氏も、日本の寿司カウンターをイメージして、ラトリエを店舗設計したとか。時代を牽引するフランスの2大シェフが、共に和の食文化に注目していた点が、感慨深い。
では、早速。1品目は「ホタテのセビーチェ」だ。……あれ!? フレンチでペルー料理のセビーチェ?
「ええ。ジャン・ジョルジュ氏自身、フランス・アルザス地方の出身なんですけれども、若い時に東南アジアのホテルでフレンチを伝えに行っていた時代があるんです。それがきっかけで、アジア料理、南国の料理を吸収して帰ってきました。フレンチがベースとはいえ、新たな食材・技法を取り入れる貪欲さは、アメリカンに近い気もします」(望月シェフ)
「しかも、お箸でいただくんですね?」(志田シェフ)
「そうなんです。ニューヨークの本店でも、お箸をご用意しています。むしろ、お箸が使えるということが、ニューヨーカーにとってはステイタス。お寿司人気からも、改めて“お箸”というアイテムが注目されているのだと思います」(望月シェフ)
「キュウリが爽やかで、美味しい! ところで望月シェフ自ら、カウンター越しに料理の説明をされることもあるんですか?」(志田シェフ)
「むしろ積極的にしています。やっぱり、造り手が自ら料理を持ってきてくれることに対する喜びってあると思うので」(望月シェフ)
「ラトリエも同じくオープンキッチンなので、私も自分でお持ちすることがあります。つい説明にも、熱が入ってしまいますよね」(志田シェフ)
料理人の手さばきをカウンター越しに眺めるのが、また楽しい。料理そっちのけで話に花が咲くよりも、せっかく美味しいものを食べに来ているのだから、その行為を存分に堪能したい。オープンキッチンなら料理が視覚的に結びつき、おのずと食事にフォーカスされる。
皮のように見える天面が、「エルブ・ド・プロバンス」だ。シンプルにまぶして焼いている。
「サーモンの皮は引いちゃってるんですか?」(志田シェフ)
「ええ、皮の代わりになるように、片面をクリスピーに仕上げています」(望月シェフ)
「なるほど、これは新しい! ああー、いい香り」(志田シェフ)
「ズッキーニのスライスは生なんですよ。生のままバジルの香りの出汁に漬けてご用意しています」(望月シェフ)
「うん! 美味しい。このズッキーニも。えっ、生で漬け込むんですか?」(志田シェフ)
「生で、バジルの香りをつけた塩水に漬け込むんです」(望月シェフ)
志田シェフに新たな発見がありますか? と訪ねたところ、首を大きく縦に振る。野菜本来の味わいを楽しんでもらいたいとする、格別の意図を感じるそうだ。
「フレンチの常套手段であるピューレには敢えてせず、生でそのまま使用しているのが、私には新鮮に映ります。それに、食材に関連性があるのが説得力になっています。エルブ・ド・プロヴァンスという南仏のハーブと、南仏の野菜類をひと皿に合わせることで、料理の統一感が取れ、とても美味しいです」(志田シェフ)
志田シェフは、魚の火入れも褒める。身がしっとりとしてちょうどいい火加減という。サーモンやトラウトは、生や燻製でも食べる食材。火を入れすぎるとパサつき、焼き鮭と変わらなくなってしまう。
「この絶妙の火入れが、プロの技です。けっこう難しいんですよ。個体差があるので、時間に頼りすぎるとブレる。やはり、大事なのはひとつひとつに向き合う感覚です」(志田シェフ)
さあ、ここで望月シェフが3品目の肉料理用に、和牛の火入れをスタート。鉄板でお肉を焼きはじめた。
「こういうジュウジュウっていうサウンドが、席までダイレクトに伝わってくるのも、すごくいいですね。ライブ感があって、音だけで美味しそう! たぶん『ラトリエ』だと、ここまでは聴こえないかもしれない」(志田シェフ)
「この和牛はとても気に入って使っています。小さな生産者さんなんで、僕らのところしかフィレは卸してないと思います。肉の旨味がしっかりとある肉質ですよね」(望月シェフ)
「そうですね。脂っこすぎなくて、好きです。フィレでも脂が強すぎると、ソースが脂に負けてしまう」(志田シェフ)
「脂が多い肉質ならば、和食の鉄板焼のようにシンプルにいただくほうがいいです」(望月シェフ)
「確かに。フレンチだと、脂はそれほど要りません。それと、ピスト(スペインの伝統的なソース)みたいなソースにしているんですか? ソースが和牛の脂や、豆のサラダと混ざり合っていくうちに変化していきます。こちらも面白い。これは計算の上ですか?」(志田シェフ)
「そうですね。“混ざる”というのは、『ジャン・ジョルジュ』の料理手法にあると思っています。このソースは、チーズの香りだけを抽出したものなんですよ」(望月シェフ)
「え! 贅沢!! 抽出ってどうするんですか?」(志田シェフ)
「熱湯を注いで濾してしまうんです。今回はチーズを細かくしたものに、熱したチキンストックを落とし、香りだけ抽出しています」(望月シェフ)
「ソースがピリッと辛いですけど、和牛の脂が最後にしっかりと受け止めています。こういう仕立ては『ラトリエ』ではしていないので、とても面白い。勉強になります」(志田シェフ)
この訪問で、志田シェフはオープンキッチンの楽しさを改めて実感したそうだ。そして、料理人はお客様と積極的にコミュニケーションすべきだとも。
社会は一層のリアルを求めている。単に美味しい、だけでは飽き足らず、どんなシェフが、どういう思いで料理を作っているのか。そのシェフの人間像も含めたストーリーに触れることで、極めてパーソナルな食体験が完成する。オープンキッチンは、シェフのライブステージにほかならない。
「ここ2〜3年のコロナ禍を経て、その傾向は、より強くなったとも感じています。シェフが発信できることとして、ただ料理を作っているだけではもはや厳しい」(望月シェフ)
「一方で、キッチンを見せる上での細かな目配せは、意外と大変なんです。ラップの置き方や、味見した後のスプーンの処理なども、望月シェフの仕事はスマートです。『ラトリエ』でもそうしていますが、ラップは商品ロゴを覆ったり、味見用の小スプーンは使い捨てを徹底したり。スプーンを使い回すのは、ちゃんとしているレストランならば、ご法度なんで。とにかくジャン・ジョルジュのオープンキッチンは、シェフとの距離感が近くて、心地いいです」(志田シェフ)
「近すぎるんで、ちょっと緊張しますけどね(笑)」(望月シェフ)
ふたりのシェフはこの時も意気投合。やはり仕事の内容で、お互いが分かり合う部分があったのだろう。六本木ヒルズで醸成される素晴らしい食文化、これからも様々な化学変化が生まれること間違いなしだ!!
※2022年5月現在の情報となります。
※表示価格は全て税込価格です。
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