シーズンに向け、完成したばかりのクリスマスメニューを、他店のシェフが食し、どう評価するのか? そんな趣向で、今回は双方とも六本木ヒルズに店を構える気鋭のフレンチシェフにご登場願った。フレンチレストラン『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』のクリスマスメニュー2品を、『ジャン・ジョルジュ トウキョウ』の望月良一エグゼクティブシェフが試食。その率直な感想、シェフ同士の貴重な対話を完全収録した。
TEXT BY TAKASHI TSUCHIDA
PHOTO BY CHISATO NOGUCHI (NDPP.)
EDIT BY TM EVOLUTION.INC
「本日の試食は、クリスマスコースの前菜として『特大ホッキ貝のポシェ なめらかなカリフラワーのムースとキャヴィアのハーモニー』をご用意しました。彩りでミニアスパラ、赤いお花、キャヴィアを添えています。お楽しみください」(ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション志田竜児シェフ)
「とても美しい! いつもながら細やかな仕事ですね。限られたスペースに、こんなにも美しく盛り込むことは、自分では挑戦したことがないです。これはロブションさんならではの美学ですね」(ジャン・ジョルジュ トウキョウ 望月良一エグゼクティブシェフ)
まるでアート作品のような盛り付けに、早くも心を奪われた様子の望月シェフ。そしてすぐさま、このアイデアがどこから生まれたのかが気になったようだ。
「フレンチの定番レシピの中に“カリフラワーとホタテ”の組み合わせがありますが、それをホッキ貝に置き換えたイメージですか?」(望月シェフ)
「そうです。今の時期、日本のホッキ貝がとても美味しいと思うので。この食材を、フランス料理の伝統技法に合わせてみました。一方で、カリフラワーについてはピューレからクリームに仕立てるのが一般的ですが、ロブションの場合はカリフラワーのエキスをベースにしてムースを作ります。そこが、ちょっと違うかもしれません。従って、より凝縮したカリフラワーの味わいが楽しめると思います」(志田シェフ)
ホッキ貝の甘み、ミネラル感を、カリフラワーが優しく包み込む至高のひと皿。そのムースについては、ロブションのスペシャリテ「カリフラワーのクリームとオマールエビのジュレ」から応用しているそうだ。そしてレモンとターメリックを軸にソースを仕立ているのも面白い。
「スパイスが、いい仕事をしていますね。キャビアの塩味も含め、これらがあると食べた時の味の引き締まり方が全然違います。今日、ここに来られてよかった(笑)。勉強になります」(望月シェフ)
「ありがとうございます。ホッキ貝もカリフラワーも共に甘みがあるので、塩味・酸味がないと印象がぼやけてくると思うんです。ところで、スパイスの生かし方は、望月シェフが得意とするところですよね? 今度、学ばせてもらいたいです」(志田シェフ)
フランス料理といっても、アフリカ料理から多大な影響を受け、ベトナム料理にもルーツを持つ。故にクラシックなフランス料理でもスパイスを多用するのは定石なのだ。
次の試食アイテムは、クリスマスコースに新しく登場するデセール「クーロンヌ・ド・ノエル リースに見立て 苺のムースと赤い果実を煌めく飴に閉じ込めて」だ。“クリスマスリース”を連想させるリング状の盛り付けが印象的である。
「ひと目でホリデーシーズンをイメージできるデザートを作りたかったんです。メイン食材は苺。球体の飴細工の中には、滑らかな苺のムースと、フレッシュの苺をソースに絡め、チョコレートクリスピーのサクサクとした食感を添えました」(ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション髙橋和久エグゼクティブシェフパティシエ)
「素晴らしい! 絶対女性ウケいいでしょうね。それにしても飴が薄い! フランボワーズの酸味もとてもいいです。これ、自分たちで作っているんですか……凄いな」(望月シェフ)
ロブションのデセールといったら、この球体の飴細工が楽しみどころ。球体を割り崩して、中身のクリームと共に食感を楽しめる逸品だ。そのクリームも、コース料理後に提供されることを踏まえ、ずば抜けて軽やかに仕上げられている。
「飴細工は、薄すぎるとクリームを充填するそばから割れてしまいます。しかも湿度にも弱い。詰めているときは大丈夫でも、お客様のお手元に届けるまでに溶け出しちゃったり……それくらい繊細なものなんです」(髙橋シェフパティシエ)
「仕込みがとても大変なんですよね。分かります。あれっ、薔薇の香りが漂っていますね?」(望月シェフ)
「お気づきいただき、ありがとうございます。苺のムースの中に“隠しフレーバー”として使用しています」(髙橋シェフパティシエ)
「やっぱり薔薇ですか。鼻腔から抜けていく薔薇のほのかな香りがすごくいい。甘みと酸味のバランスが良くて、しかも華やかな香りに包まれて。とてもステキな体験です」(望月シェフ)
さて、2品の試食を終えた望月シェフだが、この体験で得るものは多かったようだ。共に六本木ヒルズ内にあるフレンチ料理店を営み、しかも、世界的に有名な外国人シェフの名前を看板にしている。その共通項を持ちつつも、それぞれに“オンリーワン”の個性を常に発信し続けていることが何より素晴らしい。
「今回、改めて試食させていただき、クラシックなフレンチの文脈の中で、新たな表現に挑戦していることの意義深さを感じました。志田シェフが仰る通り、前菜で言うと“キャヴィアの塩味とドレッシング”。貝とカリフラワーというフレンチの定番の組み合わせに対して、ひと際斬新で、素晴らしいクリエイティビティーを感じました」(望月シェフ)
「ロブションの場合は、どちらかというとフランス料理の中でも王道のスタイル。それでもローカル食材を使いながら新レシピにも積極的に挑戦しています。そして、フランス料理全てが似たような味つけでは面白くありませんよね。ですから、同じ六本木ヒルズの中に、モダンフレンチ『ジャン・ジョルジュ』があって、お客様が気分に合わせて選べることが、すごくいいなと思っているんです」(志田シェフ)
これにて対話は終了。シェフお三方とも素晴らしいキャラクターであり、食に対する真摯な姿勢を持つ“仕事人”たちである。キッチン越しにご本人を見かけた際は、「この記事を読みました!」と、ひと声かけてみることを是非お勧めしよう。満面の笑みと共に、目の前のお皿のレシピ秘話を語ってくれるはずだ。
※ 2021年12月現在の情報となります。
※ 表示価格は全て税込価格です。
※ 六本木ヒルズ等各施設では、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、一部店舗・施設の営業内容を変更しております。営業状況は定期的に変更がありますので、ご来店の際には事前に各施設HPをご覧ください。
SHARE