料理を一種の“サイエンス”として捉える、若きシェフの思想や哲学などが料理に反映された、これまでの常識に捉われないイノベーティブなレストラン。その世界観を感じられる、驚きに満ちた、六本木周辺にあるレストラン3軒の真価をご紹介しよう。
TEXT BY YOSHIKO NAKASHIMA
EDIT BY TM EVOLUTION.INC
❶ シェフの独創性と挑戦が生み出すアートなひと皿
——S”ACCAPAU(サッカパウ)
1/6コースの前菜「ズワイガニ ミント 洋梨」。球体は、水風船に入れた洋梨のジュースを液体窒素の中で瞬間凍結させたもの。科学を応用した分子調理(分子ガストロミー)と言われる技法のひとつで、風味や食感を損なわず冷凍できるという。
2/6ひと口サイズのラビオリのようなパスタ”アニョロッティ・ダル・プリン”をチーズとバターで味をつけ、器に入れ瞬間スモーク。ピエモンテの郷土料理をベースにした田淵シェフのオリジナル料理。
3/6アミューズは、プチサイズのハンバーガー、ローズマリーとトマトのスープ、フォアグラのテリーヌなど、見た目も可愛らしい5種のフィンガーフード。まるでシェフの感性が凝縮したような“食べるアート作品”だ。
4/6抑え気味の照明とスタイリッシュな内装デザインに期待感が膨らむ店内。カウンター席とテーブル席があり、奥には個室にできる席もある。要予約。
5/6コースは¥9,000と¥15,000(税・サービス料別)。フルコースディナーだけでなく、アラカルトとワインを、そしてバータイムにはお酒と乾きもののおつまみをと、用途に合わせて利用できるのも嬉しい。
6/6新しい技法を積極的に取り入れている田淵拓シェフ。イタリア各地で修業した後、ドイツでイタリアンレストランを共同経営。シェフを務めた後に帰国、東京で同店を開業。
液体窒素の中で転がして固めた球体にナイフを入れると、中から美しいズワイガニの赤とミントの緑が現れた。球体は洋梨のジュースをシャーベット状に瞬間凍結させたもので、中にはカニのほか、モヒートのエスプーマ、カニミソのソースが入り、ひと口食べるとモヒートの酸味と冷たい洋梨が、カニの旨味を引き立てて何とも言えず爽やかだ。
この科学的かつ芸術的とも言える料理を生み出すのは、イタリア7年、ドイツ8年と海外での仕事経験が長い田淵拓シェフ。イタリアで培った確かな技法と長い海外生活で育んだ感性をもとに、ここ西麻布で独創的な料理に取り組んでいる。「イタリア料理がベースですが、日本の食材や和食の技法も使います。例えば生魚もマリネなどにしてよく使いますし、炭火焼きの技法なども取り入れています」とシェフ。
その感性が結集したとも言える5種のアミューズもシェフのオリジナル料理。プレゼンテーションが可愛らしく、酸味、甘みなど様々な味を楽しめ、テーブルの会話が盛り上がること間違いない。
PHOTO BY YUJI YAMAZAKI(DAISAKU NISHIMIYA OFFICE)
S”ACCAPAU(サッカパウ) 住所 東京都港区西麻布1-12-4 nishiazabu 1124 B1F 電話 03-6721-0935 営業時間 18:00〜 23:00(コースL.O.21:00、アラカルトL.O.22:00)/ バータイム18:00〜27:00 (L.O.25:00) 定休日 日曜 ※カード使用可
❷ 煌めく夜景とモダンフレンチの競演
——Restaurant THE MOON(レストラン ザ・ムーン)
1/6ブランドサバのカクテル仕立て。特殊なフィルムでカクテルグラスの中にスモークを閉じ込め、お客様の前で開いて提供する。マリネしたサバにはりんご、ラディッシュ、オレンジなどの濃縮ピューレを合わせて。
2/6フォアグラのソテー ブーダンノワール。ソテーしたフランス産のフォアグラは、まずそのまま、次にジャガイモのエスプーマ(ムースのような泡状にする調理法)、ブータンノワール、ビーツ、フランボワーズにつけてと、ひと皿で様々な味の取り合わせを楽しめる趣向。
3/6デザートは、モンブランにフランボワーズのアイスクリームを添えて。アイスクリームはテーブルで液体窒素を使い瞬間冷凍させてから提供。最初は口の中でカラカラという新しい食感、常温に戻ってからは通常のアイスの味をと、2種類の食感を楽しめる。
4/6昼も夜も、森タワーの52階から広がる、素晴らしい東京の景色を見渡せる。隣接する森美術館との融和を図り、店内には随所にアートを配している。
5/6エントランス右手が『THE MOON Lounge』。ここでは、モダン洋食やアフタヌーンティーが提供されている。
6/6「コース最初の前菜にはスモークを使った演出で、和んでリラックスしていただけたら」と、総料理長の増谷武士シェフ。
森美術館と東京シティビュー(展望台)に隣接するミュージアムレストラン。料理は分子ガストロノミーを駆使した華やかなフランス料理で、ランチもディナーもコースのみが提供されている。
器ごと耐熱フィルムで包んで中にスモークを閉じ込めた料理、色々な食材をムースのような泡状にするエスプーマ料理、そして液体窒素を使って瞬間冷凍したデザートなど、驚きのある料理が次々と登場する。
「会話も気分も盛り上がって、食事を楽しんでいただけたら」と、増谷武士総料理長は話す。フランス産のフォアグラや日本各地の旬の食材をふんだんに使い、まるでアートのような盛り付けの7品のコースを満喫できる。ディナーは¥7,000、¥10,000、¥13,000(税・サービス料別)の3種類。最先端の場所にありながら、店内は木のテーブルと椅子で温かみがある。壁に飾られたアート作品も寛げる雰囲気にひと役買っている。
PHOTO BY YUJI YAMAZAKI(DAISAKU NISHIMIYA OFFICE)
Restaurant THE MOON(レストラン ザ・ムーン) 住所 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52F 電話 03-3470-0052 営業時間 レストラン11:30〜15:30(L.O.14:00)/18:00〜23:00 (L.O.フード21:00、ドリンク21:30) 定休日 無休 ※カード使用可 ※飲食代とは別にVIEW CHARGE¥500円(1名)
❸ 故郷の食材をメインに供されるイノベーティブな料理
——ICHII(イチイ)
1/6コースでは前菜の前にフィンガーフードのアミューズが3種ほど出る。写真はキタアカリをロール状にしたフリット。発酵させたキタアカリのピューレとからすみのパウダーをかけている。季節感溢れるプレゼンテーション。
2/6にんじん ビーツ 帆立。にんじんをビーツのジュースでマリネし加熱、2日間休ませる。炭火で軽く炙った帆立と合わせた料理。2種類の野菜の甘みと香りを感じることができる。器への盛り方も斬新。
3/6前菜のアオリイカ みかん うずら卵。軽く火入れしたイカとみかんと生のイカをレモンオイルで和え半熟のうずら卵をのせイカのシートを被せる。グリルしたみかんの甘みと酸味、ほのかな苦味がイカとよく合う一品。
4/6抑え気味の照明、個性的でスタイリッシュな店内。カウンター席とテーブル席、個室がある。個室は4名利用が2室、8名利用が1室あり、接待や記念日の食事に落ち着いて会食ができそう。予約はお早めに。
5/6店内に配置される先鋭的なオブジェも魅力。お酒は山梨産の日本ワインをはじめ、ワインやシャンパン、日本酒、ノンアルコールなど、料理に合わせた幅広い品揃え。
6/6堀内浩平シェフ。日本においてはフレンチ、イタリアン、ホテルで基本的な技法を身につけ、北フランスの2ツ星レストラン『ラ・グルヌイエール』で一年間研鑽を積む。独学で常に様々な調理方法を探求している。
ジャンルを超えた様々な技法を身につけた堀内浩平シェフが『ICHII』の料理を任されて約3カ月、それまでのメニューを一新し、イノベーティブな料理を提案している。食事はアラカルトとコース料理があり、コースには前菜8種、魚料理、肉料理、デザート2種などの12皿が、まるでアート作品のようなプレゼンテーションで供される。フレンチのフォンドボー、野菜出汁、鰹出汁などを駆使し、オリジナルのクリエイティブな料理を生み出している。
「旨味成分がどれくらい入っているかなど、もちろん美味しさについても塾考しますが、その時に感じたことを大切にして食材の組み合わせや調理方法、盛り付けを考えます」とシェフ。新しい絵を描くように、料理をアート作品のように捉える一方、味わいや技術的な研究も日々怠らない。
料理は、シェフの出身地である山梨の農家から野菜と果物、きのこ類、富士山麓牛、八ヶ岳のジビエ、川魚などを取り寄せ、展開。メニューには食材のみの表記で、どんな料理が出てくるのか、訪れるものの胸を躍らせてやまない。
PHOTO BY SHO KATO(DAISAKU NISHIMIYA OFFICE)
ICHII(イチイ) 住所 東京都港区西麻布3-1-22 サイビル2F 電話 03-3423-8260 営業時間 18:00〜 24:00(L.O.22:30) 定休日 日曜・祝日 ※カード使用可 ※価格にはサービス料別途10%
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