コロナ禍でスーツ受難の時代かと思いきや、世界的にメンズ・テーラリングが復活しているという。やはりスーツの魅力は健在ということか。六本木ヒルズには日本を代表するセレクトショップが集うが、なかでも指折りのスーツ好きショップスタッフ3人に、スーツを着る楽しさや選び方、今季のおすすめスーツについて聞いた。
PHOTO BY KAZUYA AOKI
EDIT & TEXT BY RCKT/ROCKET COMPANY*
まず言えることは、スーツって単純にかっこいい!
深澤 まずは自己紹介から。僕は銀座のテーラーなどを経てエストネーションで15年程スーツを担当しています。スーツを着ると背筋が伸びるといいますか、適度な緊張感が心地いいです。
木原 きちんと見えて色気もある。スーツって男性を一番かっこよく見せてくれる服なんじゃないかな。僕は学生時代からスーツが好きで、それもあってユナイテッドアローズに入社したんです。出張でイタリアのピッティ(メンズファッション最大の見本市、ピッティ・イマージネ・ウオモ)などメンズドレスが盛んなシーンでさらに刺激を受けています。
池上 僕は20歳の頃に関西でビームスに入社して13年になります。成人式に何を着ていこうかなと雑誌を見ていたら、ビームスの中村達也さんがスーツ着ているのを見て、スーツって男性の特権みたいでいいなと思ったのが好きになったきっかけですね。スーツへの入り口は人それぞれだけど、かっこよくなりたいという憧れは、みんな一緒のように思います。
着る人の魅力を上げる、スーツ選びのコツって?
木原 今やスーツは「着ないといけない」というよりは、「着たい人が着る」という時代。せっかく自分で選んで着るのであれば、シーンに合っていて、着ていて気分が上がるかというところで選べばいいと思うんです。絵やアートと同じで、マストではないものだからこそ気持ちの高揚感であったり、豊かさがあると思う。
池上 映画を観て俳優さんの着こなしを真似するのもおすすめです。コスプレじゃないけれど、モデルにする理想像が俳優。どこが素敵なのか分析してゆくんです。
深澤 『007』シリーズのスーツスタイルを見ると、男性の色気を感じますよね。ここ数年リラックス系のアイテムに需要があって、その中でスーツを着ることでの緊張感、メリハリもいいですよね。あとスーツの男性は3割増しで素敵に見えるという女性からの意見も聞きますし、女性受けがいいというのも。
池上 それはありますね(笑)
今季のスーツは「原点回帰」と「心地よさ」がキーワード
池上 今季のスーツについて言うと、ビームスではいろいろな色を打ち出していますが特にグレーを推しています。知性を感じさせる色であるのと、原点回帰というか、グレースーツをもう一回見直しませんかという。
木原 男性のワードローブの中で、グレーのフランネルのスーツはキーアイテムですよね。池上さんも今日着られていますが、グレーのムードというのはうち(ユナイテッドアローズ)でもあって、今日撮影用にお持ちしたのもグレーのフランネルのものなんですけど、軽いフランネルにアップデートしたものです。
深澤 うち(エストネーション)はオーダー中心なので生地の色柄バリエーションは本当に幅広いんですが、ブラウンだったりチェックだったり、少し土っぽいような色が増えているなと感じます。
木原 深澤さんの今日のスーツもブラウンですね。やはり自然を感じさせる色は目に心地いいという時代の気分が、きっとスーツにもあるのでしょうね。時代の空気としてはリラックス感というのは確実にあるのですが、そのなかで天邪鬼な方というか早い方は逆にかっちりしたものを好まれることもあります。
深澤 あとは生地で、少し前まではウレタンを入れたストレッチ素材がトレンドだったのですが、ここ最近天然繊維で織り方によってナチュラルストレッチを効かせるというのができて、(生地見本を示しながら)このドーメルのウール100%でストレッチ性が通常の2倍ある生地などは人気がありますね。
スーツは、自分らしさを出せるツール
木原 スーツって、節度を保ちながら自分の個性を出せるところが楽しいですよね。今はコロナ禍で社交の場は少ないですが、スーツを制服として着る方が減った今だからこそ、自分らしさを出せるツールになるのではないかと思います。
深澤 確かに、お客様がスーツに求めるものは千差万別ですね。例えば、身長が低いのをカバーしたい、脚を少し長くなるように見せたい、細く見せたい、貫禄をつけたい——。そういった希望に、きめ細やかに対応することができる。スーツは、カジュアルウェアよりもギミックというか引き出しが豊富なのではないかと個人的には思います。
池上 引き出しが多いからこそ、何を選んでどう着るのかでイメージを自在に操れるのもスーツの面白さですね。僕が自分を好きになれるようになったのも、服と出会えたから。スーツを楽しむ人が増えてくれると嬉しいです。
この秋、3人がおすすめするスーツスタイルはこちら
❶ フォーマルにも対応OK、スタイリッシュななかに男の色気を漂わせて——ESTNATION
「エストネーションはオーダー中心なので、生地からシルエット、ボタンからパンツのベルト仕上げに至るまでご希望を伺います。オーダー例になりますが、こちらはフォーマルな場にもおすすめのスリーピーススーツ。イタリアのクラシックスタイルに寄せたやや細身のエレガントなシルエットで、シックななかに男性の色気が出るスタイリングを意識しました。また、スーツは肩で着ると言うほど、肩幅のサイズ感は重要。エストネーションでは日本人の骨格に合うよう、肩のシルエットは前肩仕立てに。芯地のアイロン掛けをしっかり行うことで、さらに身体に馴染みやすくなります」(深澤さん)
❷ 王道の英国スタイルに小物でイタリアンクラシックを香らせる——BEAMS
「僕のいち押しは、ビームスオリジナルのグレンプレイドチェック、3つボタンと英国クラシックど真ん中の一着。生地のウエイトも程よくハリとコシがあり、ヘタれない耐久性はこれぞ英国生地といったところ。生地に対して仕立ては、副資材を極力省いた軽い仕立てにしています。イタリアらしい柔らかで丸みがあるのが特徴です。スーツの顔でもあるVゾーンには、イタリアで“アズーロ・エ・マローネ(青と茶)”と言われる鉄板人気のカラーリングを合わせました。足元は茶のスエード靴にして、スポーティーに仕上げてます」(池上さん)
❸ ダブルスーツを現代風に再解釈——UNITED ARROWS ROPPONGI
「うちのオリジナルのスーツは社交着としてのスーツを意識し、きちんと感もありつつ時代性を反映したリラックス感を大切にしています。こちらは6つボタンのダブルスーツで、逆三角形に配したボタンが重厚感ありつつすっきりした印象を与えてくれます。カシミア混の薄手のウールフランネル生地を採用し、柔らかな風合いに加え軽く適度に伸びもあり、着心地も抜群。シックな濃グレーのスーツに、タイで少量のピンクを差して柔らかな印象をプラスして“なんだかいいな”と思ってもらえるスタリングを目指しました」(木原さん)
エストネーション 六本木ヒルズ店 深澤由智
スーツ歴20年以上。銀座のテーラーでフィッターとして勤めていた経験を持ち、スーツへの造詣も深い。「今日着たのは、温かみのあるブラウンの3ピース。最近はインポートでも、自然を感じさせるナチュラルな色味も人気です」
ビームス 六本木ヒルズ店 池上大地
スーツ歴13年。20歳でビームスに入社。当時メンズファッション誌で同社の中村達也氏を見かけ、スーツの魅力に開眼。「英国調のかちっとしたスタイルに、今日はチーフであえてカラーをミックスして自分らしさを演出しました」
ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店 木原大輔
スーツ歴9年。学生時代からのスーツ好きが高じて、新卒でユナイテッドアローズへ入社。以来ドレスセクションで活躍中。「今日着たのは4つボタンのダブル。ダブルの中でも少しリラックス感のあるコンテンポラリーなデザインです」
※ 2021年10月現在の情報となります。
※ 表示価格は全て税込価格です。
※ 定休日は六本木ヒルズに準じます。
※ 店舗により臨時休業や営業時間を変更させていただいております。詳細は「六本木ヒルズの営業状況について」をご確認ください。
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