ファッションのご意見番ことスタイリスト地曳いく子さんが、独自の視点で切り込むオトナ女史のためのスタイル術「IKUKO’S METHOD」。今回は、この春に取り入れたいスタイル講座です。
STYLING BY IKUKO JIBIKI
PHOTO BY SHIN KIMURA
EDIT BY AKANE MAEKAWA
心が求めているのは
プチ・トリアノン的服!?
以前は“〇〇スタイル”という言葉でトレンドを言い切れていましたが、そうならなくなって何年経つでしょうか。特に、今季の展示会を回って気になったのが、「アーバンなの?」、「カントリーなの?」という、どっちとも言えそうではっきりと言い切れない服。モダン過ぎず、ナチュラル過ぎず、両方のテイストがほどよく共存している感じです。これって何なのだろうと思ったら、ヴェルサイユ宮殿で洗練とトレンドの極みを尽くしたマリー・アントワネットが、プチ・トリアノンにくつろぎを求めた気持ちに似ているのでは?と、私の中で結びついたんです。プチ・トリアノンに、オーガニックな庭園を造り、カントリーな服を着て楽しんでいた時代に。でも、それはけっしてやぼったい服ではなく、カントリー風味が漂うおしゃれ服なのです。今のファッションも、もしかしてこのプチ・トリアノン的な揺り戻しがあるのではないでしょうか。自然のやすらぎを求めつつも、都会に似合う服。そこで今回は、「ナチュラルテイストが入った都会の服」をテーマに集めてみました。
もし、プチ・トリアノンと聞いてピンとこなれば、ぜひ、ソフィア・コッポラの映画『マリー・アントワネット』(2006年)をチェックしてみて下さい。これは、ファッション映画としてもおすすめです。
地曳いく子が指南する
ゆるアーバンのススメ
❶ 何ごともちょうどいいが大切
ファッションにもサスティナブルの流れが押し寄せてきていますが、人それぞれに個々のサスティナブルの考えがあっていいと思います。長く着られることも大事ですが、服は必ず劣化します。私は、何年も着られるより、何回もが大切だと思っています。着られなくなるぐらい着倒すことも考えのひとつではないでしょうか。ガチガチにサスティナブルに縛られて無理をする必要はないと思います。ペットボトルの飲料も、絶対にダメだとは思いません。意識して、本数を減らせばいいのです。家にいる時は浄水器やブリタを使い、持って出掛けられるときはマイボトルを持つ。外出時に必要なときは買ってもいいと思います。脱水症状になっても困りますしね。と、少し話が飛びましたが、どちらかに行き過ぎるのではなく、何ごともちょうどいいが大切なのではないでしょうか。“ゆるアーバン”で大切なのも、程よいコンシャス感と程よいゆるさの絶妙なバランス。そのさじ加減は、ご自身の判断で。ゆるいシルエットに寄ったほうが好きな人もいれば、きちっと感がもっと出ているほうが好きな人もいます。お好みで、自分なりのちょうどいいを探してみて下さい。
❷ 天然素材もシャープに
ナチュラル派タイプのリネンと言えば、くたっとした自然な肌触りの素材感を感じるものが多かったですが、今季気になるのは粗さのないリネン。シャリっとした張りのある生地なので、シャープなラインを作りワークスタイルにも取り入れやすくなっています。でも、リネンを使っているからこそ優しい気持ちになれるのが“ゆるアーバン”。ゆるさとシャープさ、そのミックス感がポイントです。
❸ 色とシルエットは両極で考えて
色はカーキやベージュなどアースカラー。ネイチャー感が漂う色を取り込むだけでも、心はピースプルな気持ちに。ラベンダーなど優しい色も気になります。そんなネイチャーカラーを取り入れる時は、少しコンシャスなシルエットがおすすめ。反対に、硬派な印象の黒や濃紺なら、天然な素材感でゆるっとしたシルエットで抜け感があるものを選びましょう。
地曳いく子|Ikuko Jibiki
スタイリスト/1959年東京生まれ。数々のファッション誌で活躍し、女優や著名人のスタイリングも数多く手がける。大人の女性を美しくみせる的確な理論に基づくスタイリング術に定評を持つ。現在は、ファッションアイテムのプロデュースほか、テレビやラジオに出演するなど多方面で活躍。著書に『服を買うなら、捨てなさい』『着かた、生きかた』(ともに宝島社)『おしゃれも人生も映画から』(中央公論新社)、『買う幸福』 黒田知永子との共著『おしゃれ自由宣言』(ダイヤモンド社)(小学館)『おしゃれは7、8割でいい』(光文社)など多数。
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