WALK WITH MUSIC

六本木ヒルズを冨田ラボの音楽と歩く! 音声AR〈WALK w/MUSIC〉による、今だからこその音楽体験とは?

毎年J-WAVE(81.3FM)と六本木ヒルズがゴールデンウィークに開催してきたフリーライブ「TOKYO M.A.P.S」。今年はオーガナイザーに冨田ラボを迎え、スピンオフバージョンでの開催となり、その一つの目玉となるのが音声AR〈WALK w/ MUSIC〉。ARのプログラムを担当したクリエイティブディレクターの馬場鑑平と冨田ラボが、六本木ヒルズ内を歩きながら〈WALK w/ MUSIC〉を体験。その楽しみ方を伝授します!

TEXT BY YUKA UCHIDA
PHOTO BY KAORI NISHIDA

心地よい風が吹く初夏の六本木ヒルズ。村上隆の《お花の親子》の前で待ち合わせをした、音楽家の冨田ラボさんとクリエイティブディレクターの馬場鑑平さん。二人が初タッグを組んで制作したのが、本日(6月4日)公開された音声AR〈WALK w/MUSIC〉。特設サイトにアクセスし、六本木ヒルズ内を散策しながら、楽曲がインストールされた特定エリアに近づくとその楽曲にアクセスできるようになり、音楽を聴きながら街歩きが楽しめる。

音楽はすべて冨田ラボさんの楽曲で、セレクトも本人にお願いしたという。一体どこで、どんな音楽が聴けるのか? スマホを手に二人で六本木ヒルズを歩くことにした。

馬場 実は僕、以前から冨田さんの音楽の大ファンなんです。今回、こんな形でご一緒できるとは。このプロジェクトの依頼があった時、どんな印象を持たれましたか?

冨田 音楽と、それを聞く環境については、以前から興味がありました。環境が変われば、音の感じ方も変わるし、そういった実験ができる面白い企画だな、と。六本木ヒルズにはJ-WAVEの仕事で定期的に来ているので、通りや広場を思い返しながら、割とスムーズに5曲の選曲が決まりましたね。

馬場 今回の音声ARは、5つのスポットで、それぞれ違う曲が聴けるというプログラム。冨田さんからは5曲のタイトルをポン! といただいたので、それぞれの曲をヒルズ内のどこで聴けるようにしようかと考えるのが楽しかった。

冨田 馬場さんが場所と音楽をつなげてくれたんですね。村上隆さんの作品《お花の親子》の前で聴けるのは『MAP for LOVE』ですが、この意図は?

左から、冨田ラボさんと馬場鑑平さん。初対面だが意気投合し、話が弾む。背後には光り輝く村上隆の《お花の親子》が。

馬場 村上隆さんの《お花の親子》や巨大な蜘蛛のアート《ママン》があるここは、六本木ヒルズの玄関的な雰囲気のある場所なんですよね。5曲はどんな順で聴いてもらってもいいんですが、あえて決めるなら、ここがスタート地点かな、と。ならば、この曲『MAP for LOVE』からプロジェクトを始めたい、と選んでみました。

冨田 嬉しいです。去年作った曲ですが、僕もこれが今回のプロジェクトの“核”だな、と感じていたので。実はこの曲、大勢のアーティストが参加しているんですが、完全にリモートワークで制作したんです。開催中止となったライブイベント〈TOKYO M.A.P.S TOMITA LAB EDITION〉に出演予定だったアーティストたちと作り上げたもので、医療従事者へのチャリティとして期間限定で公開しました。

馬場 いい曲ですよね。心が落ち着くというか。

冨田 この場所から移動しても、音楽は途切れないんですか?

馬場 もちろん! このまま毛利庭園に行ってみましょう。そこでもまた一曲、聴けるようになっているんです。

スマホを手に、新緑が眩しい毛利庭園へ。

馬場がここに選んだのは《M-P-C feat. Ryohu》。その選曲意図に「なるほど!」と感激する冨田さん。

馬場 毛利庭園、緑が気持ちいい季節になってきましたね。ここでは《M-P-C feat. Ryohu》を聴きたいな、と選んでみました。

冨田 この選曲にも理由が?

馬場 ここは人工の自然なんですよ。《M-P-C feat. Ryohu》のタイトルにある“M-P-C”は、メンタリティ、フィジカリティ、コンピューターの頭文字ですよね。

冨田 その通り。なるほど。選曲意図が分かった気がします。

馬場 自然豊かなんだけど、人為的な空間という面白い場所だから、この曲のコンセプトにあうかなって。

冨田 そこまで読み込んでくださったとは……。すごいです。メンタルとフィジカルってよく対で語られますが、そこにコンピューター、つまりテクノロジーを並列させたんです。僕の仕事においては、メンタルとフィジカルと同じくらい、コンピューターも大切で、バンドメンバーのように思っている存在だから。

馬場 どの曲をどこで聴いても楽しめると思うし、ただ音楽に身を委ねてもらうのでいいんですけど、選んだ理由はひとつひとつあるんですよね。それを面白いと思ってくれる人には、その部分も楽しんでもらえたら。特設サイトでは、今日の対談を経て、冨田さんからいただいたコメントも読めるようになっているので、聴きつつ、読みつつ、で楽しんでもらうのもいいと思います。

続いて、六本木ヒルズアリーナへ。イヤフォンから流れ始めたのは《Radio体操ガール feat. YONCE》。

冨田 屋外で、こうやってイヤフォンで聴くというのは、やっぱり、家でスピーカーで聴くのとはまったく異なる音楽体験ですよね。六本木ヒルズアリーナで聴く《Radio体操ガール feat. YONCE》、すごくいい。この場のイメージと合っている気がします。

馬場 ここはよくイベントが開催されていて、多くの人が集まっていたり、アクティブなイメージがある場所。だから、ぴったりかなと。

冨田 こんな感じで、街そのものに音楽がセットされているような“ミュージックシティ”が、東京のあちこちに出現したら面白いだろうなぁ。例えば、あの街の選曲はいつも素晴らしくて、歩いているだけで新しい音楽が次々吸収できる、とか。

馬場 それ、面白いですね。今回は音楽に「場所」というパラメーターを足しただけですけど、例えば「時間」とか「身体感覚」とか、聴く人の状況を細かく読み取って、そこから導いた音楽が流れる、とか。そういう時代が近く来るかもしれないですよね。

冨田 本当に。今回の音声ARは、そういうことの足がかりにもなる試みだと思うんですよね。音楽と環境の可能性はもっともっと広がる気がします。

六本木けやき坂通りを下って、六本木蔦屋書店の前へ。

ここで聞けるのは《MIXTAPE》。ポップス、ジャズ、R&B、ソウル、ヒップホップ……とサウンドコラージュのように音が切り替わっていく。

馬場 冨田さんは、自身の楽曲が聴かれる環境を、どの程度想像しながら制作をしているんですか?

冨田 そうですね。今は聴き方が多様化しているから、ある環境を前提にすることは難しいですよね。

馬場 確かに……。僕、最近ヘッドフォンを新調したんです。このプロジェクトもあるし、スタジオのモニタリングで使うような、いいヘッドフォンで聴いてみようかな、と。そしたら、よく聴いていた曲も印象ががらっと変わってしまった。今まで聴こえていなかった音が聞こえてきて、すごく立体的になったというか……。

冨田 そうなんです。環境で全く変わってしまう。それに、世の中の状況にも影響される。聴く方のメンタリティで受け取り方も変わるわけで。なので、音楽を作るときは、自分のスタジオの2チャンネルのスピーカーと対峙して、そこでベストなものをつくれば、どんな環境においてもベストになるだろう、という考えで制作しています。

馬場 環境の多様化を加味するのではなく、いかなる環境下でもベストが尽くせるものをまず作る、と。

冨田 すべての視聴環境に気を配るのは無理ですからね(笑)。例えば、スマートフォンのスピーカーで聴くことを前提に作ると、いいヘッドフォンやオーディオセットで聴くのには適さない。でも、その逆は大丈夫なことが多い。スマートフォンのスピーカーは、ある音域が欠けてしまうんですけど、カットされる部分があったとしても、重要な音の情報はほとんど残っている。その大まかなことで伝えられることはあるし、共感してくれる人もいる。大は小を兼ねるではないけれども、いつもの自分の環境でパーフェクトに仕上げれば、どんな環境で聴いてもらっても大丈夫、と思っています。

最後はグランドハイアット東京の前へ。ここでは、夜の六本木をイメージして選んだ《都会の夜 わたしの街 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう》が聴ける。

ぶらりと散策を楽しみながら、音楽談義に花を咲かせた二人。

馬場 先ほど、音楽を聴くときのメンタリティの話が出ましたが、“今”聴いてもらうということをどの程度、意識して選曲されたんですか?

冨田 今、世の中は困難な状況ですよね。でも、音楽は流れ続けるし、街はあり続けるし。大事なのは、その“けれども”って気持ちだと思うんです。

馬場 そうですね。

冨田 実は、5曲を選んだ後に気づいたことがあったんです。この中で一番古いのは《都会の夜 わたしの街 feat. 原 由子, 横山剣, 椎名林檎, さかいゆう》なんですけど、これは2011年の東日本大震災の後に書いた曲なんです。

馬場 そうだったんですか。穏やかなメロディという点では、昨年生まれた《MAP for LOVE》とも通ずる雰囲気がありますよね。

冨田 無意識なんでしょうね。自分が心穏やかにありたいと思っているから、そういう曲が自ずと生まれる。その曲を10年経ってまた選ぶのも、きっと意識下で思っていることがあるのかもしれない。

馬場 今は、大勢で集まって音楽を共有することが難しい状況ですが、この〈WALK w/MUSIC〉を通じて、ひとりひとりが街歩きをしながら、でもみんなで同じ曲を楽しんでいるというのが、ユニークな音楽体験になると思うんです。

冨田 “けれども”の姿勢ですよね。ひとりでも多くの人に楽しんでもらえたら嬉しいです。
 

profile

冨田ラボ|Tomita Lab
音楽家、音楽プロデューサー。冨田ラボとして今までに6枚のアルバムを発表、最新作は2018年発売の『M-PC “Mentality, Physicality, Computer”』。音楽プロデューサーとしても、キリンジ、MISIA、平井堅、中島美嘉、ももいろクローバーZ、矢野顕子、RIP SLYME、椎名林檎、他数多くのアーティストにそれぞれの新境地となるような楽曲を提供。音楽業界を中心に耳の肥えた音楽ファンに圧倒的な支持を得るポップス界のマエストロ。
 

 

4月21日にリリースされたニューシングル「MAP for LOVE」は、J-WAVE(81.3FM)をきっかけに誕生した曲で、2020年5月6日にSTAY HOMEで楽しめる15時間の音楽フェス『J-WAVE HOLIDAY SPECIAL #音楽を止めるな ~STAY HOME FESTIVAL~』を開催。音楽の力で少しでも多くのリスナーに前向きな気持ちを届けるべく「音楽を止めるな!」プロジェクトとしてメッセージを発信。冨田ラボもこのプロジェクトに賛同し、新型コロナウイルスの影響で残念ながら開催中止となった「J-WAVE & Roppongi Hills present TOKYO M.A.P.S〜TOMITA LAB EDITION」でも何かできることはないかとオーガナイザー・冨田ラボが、開催中止となったライブイベント「TOKYO M.A.P.S」に出演予定だった一部アーティストたちと共に、この日のためにリモートワークで曲を制作。1年前にリモートワークで制作されて以降、冨田がさらに手を加えた2021年ヴァージョンをリリースしたものだ。
 
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馬場鑑平|Kampei Baba 
1976年大分県生まれ。株式会社バスキュール エクスペリエンスディレクター。広告、アトラクションイベント、教育、アートなど、さまざまな領域のインタラクティブコンテンツの企画・開発に携わる。「HILLS LIFE DAILY」のアートディレクターも務める。

「J-WAVE & Roppongi Hills present TOKYO M.A.P.S SPIN-OFF TOMITA LAB EDITION」のプログラムのひとつとして公開された音声AR〈WALK w/ MUSIC〉。オーガナイザーは音楽家の冨田ラボ。六本木ヒルズの5つのスポットに散りばめられた音楽を、その場所に足を運ぶことで聴くことができる。無料。

J-WAVE & Roppongi Hills present TOKYO M.A.P.S SPIN-OFF TOMITA LAB EDITION 六本木ヒルズとFMラジオ局J-WAVEがコラボレーションし、2008年からゴールデンウィークに開催しているフリーライブイベント「TOKYO M.A.P.S」。今年はオーガナイザーに冨田ラボを迎え、新たな試みとして「TOKYO M.A.P.S SPIN-OFF TOMITA LAB EDITION」を開催。去る4月29日には、ラジオ番組『J-WAVE GOLDEN WEEK SPECIAL TOKYO M.A.P.S SPINOFF ~TOMITA LAB EDITION~』を9時間オンエア。音声ARコンテンツ「WALK w/ MUSIC」と合わせて音楽体験を楽しめる。