Not Quite Dead Yet

やっぱり超独創的! 映画『一度死んでみた』をめぐる澤本嘉光の最高に“くだらない”脚本術

大人気SFコメディ映画、『一度死んでみた』。“サイエンス・フィクション”と“死んだふり”——ふたつの「SF」が重なる本作の脚本を手掛けたのは、数々のヒットCMを手掛けるCMプランナー/クリエイティブディレクターの澤本嘉光。主演の広瀬すずや吉沢亮をはじめ豪華キャストに彩られる本作はいかにつくられたのか? かねてより澤本と親交のあるホイチョイ・プロダクションズの馬場康夫がたずねた(※一部ネタバレが含まれますのでご注意ください)。

Interview by Yasuo Baba
Text by Shunta Ishigami
Photo by Yu Inohara

「くだらない」作品のつくり方

馬場 今回、澤本さんから事前に「くだらない作品だと思うんですけど」とメールで言われていたんですが、たしかにくだらなかった(笑)。言っときますけどこれ褒め言葉ですけから。ただ、脚本的にはきちんと伏線も張られていてやるべきことをやられてるなと。

澤本 そう言っていただけないと、終始くだらないだけで終わっちゃいますからね(笑)

馬場 普段つくられているCMだと映画のようなフリ・オチは考えない?

澤本 CMは短いので、瞬間芸が多くなりがちですね。フリをつくって回収するには最低でも90秒くらいないと難しくて。本当はそういう構造が好きなんですけど。

馬場 お好きですよね、絶対。たしかにCMって感覚勝負かもしれない。この人がこんな人やってるのが面白い、とか。

澤本嘉光|Yoshimitsu Sawamoto 1966年生まれ。CMプランナー/クリエイティブ・ディレクターとして、ソフトバンク「白戸家」シリーズ等の国民的CMを手掛けてきた。映画脚本は『犬と私の10の約束』『ジャッジ!』に続き本作で3作目。

澤本 でもCMのようにここでこの人がこんなことを言ったら面白いという考え方でつくるシーンもありました。今回いろいろな方に出演してもらっていて、5秒しか出てこないような方も多くて。古田(新太)さんとか、こんな短いシーンにこんな人が出てくるのはもったいないって人にお願いしています。

馬場 そういうときはネタが先にあるものなんですか?

澤本 ネタ先行ですね。この人だからできるってことを見越して書いています。

馬場 普通脚本家がホン[編注:脚本のこと]を書くときは当て書きしないですよね(笑)。CMのときも同じつくり方で?

澤本 CMの場合は同時並行です。この人を使えるならこんなことができるとか、元の企画は違うけどこの人がいればこんなバージョンがつくれるよねとプレゼンすることもあります。

馬場 なるほど。俳優陣の顔ぶれがすごいことになってますけど、澤本さんや浜崎さん[編注:浜崎慎治監督]がこれまで仕事してきた人ばかりなんですか?

澤本 ほとんどそうだと思います。ただ城田(優)さんはぼくも浜崎さんも仕事してなかったかな。

馬場 じゃあ城田さんはなぜ?

澤本 誰が警備員役になって一言だけ「存在感なし!」と言えば目立つか考えたときに、一番適役は城田優さんだろう、と。声も、体も大きいし、顔も濃い。

馬場 ちょい役なのに。くだらないなあ(笑)

澤本 でも、後日城田さんに会って話したら「なんでこんな短いセリフのためだけにオファーがきたのか興味深かったです」と言っていただけたので(笑)。ご本人にとっても面白いオファーになったみたいです。

馬場康夫|Yasuo Baba 1954年生まれ。ホイチョイ・プロダクションズ代表/映画監督。1982年『気まぐれコンセプト(現在も連載中)』でデビュー。代表作に『見栄講座』『東京いい店やれる店』『エンタメの夜明け』、映画『私をスキーに連れてって』『バブルへGO!!』(原案・監督)など。

シェイクスピアからフランク・キャプラまで

馬場 そもそも今回のお話を思いつくきっかけってなんだったんですか?

澤本 馬場さんはよくご存知だと思うんですが、佐々木宏さんという広告界の“アレキサンダー大魔王”と呼ばれている方がいて。佐々木さんと話しているときに「これまでだいたいのことは実現できたけど、唯一できないことがあると気づいた。自分の葬式に参列できないんだよね」と。自分の葬式で誰が悪口を言っているかチェックしたいらしいんですよ(笑)

馬場 その気持ちすごいわかるなあ(笑)

澤本 そこから話を広げています。自分の葬式に参加したらできることとか、それによって解決されることとか。

馬場 その発想はすごく広告的ですね。簡潔なコンセプトがあって、そこから広がっていく。映画の脚本って普通はあまりそう書かない気がします。

澤本 でも、高尚なことをいうと、シェイクスピアをやればいいんだと気づいたんですよ。

馬場 えっ! シェイクスピア!?(笑)

澤本 シェイクスピアって死んで生き返る話を書いてるし、荒唐無稽なことも多くて。だから劇中に登場する薬の名前が「ロミオとジュリエット」なのは、シェイクスピアオマージュなんです。相当リスペクトしてつくってるんですけど、誰も気づかないし説明しても信じてくれない(笑)

馬場 いやあ、気づかないでしょう(笑)

澤本 ほかにも、今回のビジュアルの背景が真っ白なのは『天国から来たチャンピオン』から影響を受けています。あの作品でも霊界に渡るときは背景が真っ白になっていて。ぼくにとって死後の世界の入り口は白いイメージでしたから。

馬場 言われてみると、『素晴らしき哉、人生!』などもそうですがアメリカ映画って死んだ人が現世を観てる物語が好きですよね。

澤本 ぼくは(フランク・)キャプラが好きなので、『素晴らしき哉、人生!』も観なおしましたよ。

馬場 アメリカ映画のパターンが根底にあるんだ(笑)

澤本 キャプラからはかなり影響を受けていて、以前つくった『ジャッジ!』も構成は(キャプラの)『スミス都へ行く』なんですよ(笑)

馬場 結果として生まれた作品は全然違うけどね(笑)

澤本 思い返してみると、入社するときも好きな監督を聞かれたらフランク・キャプラと答えていました。キャプラと近いことをやろうとしていた部分もありますね。

広告的アイデアと映画的構造の蜜月

馬場 フランク・キャプラはすごい監督ですよね。でも、彼が描いている「優しさ」みたいなものっていまだと恥ずかしくて前面には出せないでしょ。そのあたりの“くささ”を抜くことは考えたんですか?

澤本 自分でつくっているCMも映画もそうなんですが、よく「人間の感情が入っていない」といわれるんですよね。ぼくが一生懸命書いてもそうなるなら、結果的にちょうどよくなるんじゃないかなと。キャプラと同じ題材について書いても、彼と同じくらい人情っぽくはならないと思うんです。個人的にも事実を並べていくうちに人情が出てくるようにはしたくて。

馬場 いやあ、そこまでキャプラがお好きだったとは。

澤本 『ジャッジ!』は『或る夜の出来事』ともミックスしていますから。キャプラの演出を取り入れてもいて。

馬場 言われてみるとたしかに! でも澤本さんってぼくより10歳以上年下でしょ。『スミス都へ行く』なんて古い映画を観るのは苦痛じゃなかったですか?

澤本 なんででしょうね。最初は大学生のときに受講した蓮實(重彦)さんのゼミがきっかけで。ほかの蓮實ファンがものすごく難しい映画の話をするので、かっこつけるために観に行ったら好きになったんですよ。

馬場 映画自体昔から好きだったんだ。自分で撮ったりは?

澤本 全然してないですね。大学生のころにナム・ジュン・パイクが現れてビデオアートが盛り上がっていたので、そのときに授業で撮らされたことはありましたけど。といっても5〜10分程度の映像で、ほかの人が上手いから奇をてらおうと思って影や電線ばかり撮っていました。ゴキブリの視点で映像を撮るとか。意外と褒められましたけど(笑)。

馬場 広告屋っぽい発想だなあ(笑)。ほとんど殺虫剤のCMじゃないですか。

澤本 そのときはCMの仕事をするとは思ってませんでしたけど、そういうことをすると人は喜ぶんだなと思った記憶がありますね。

馬場 でもそういったCMっぽい発想と構造的な脚本のつくり方ってぜんぜんべつですよね。構造的な発想はあとからついてきたの?

澤本 脚本は45歳くらいまで書いたこともなかったですしね。でも書いてみたら意外と面白くて。書いているうちに、前半で張られた伏線がきちんと回収されるような構造の作品が好きなんだなと気づかされました。ただ、そういう構造って時間的・予算的な制約で脚本を直すのが大変なんですよ。些細なシーンでも伏線が入っていると今度は後半も成り立たなくなっちゃうから(笑)。頼みこんでカットしないでもらったシーンもあります。

馬場 今回主演の広瀬すずさんは当て書きだったんですか?

澤本 『ジャッジ!』をつくったあとに松竹さんとまたオリジナル作品をつくろうという話になって、コメディをつくりたいと思っていました。そのあとたまたまソフトバンクのCMですずちゃんを撮影したときに、現場で事務所の社長さんと話したんです。すずちゃんでコメディはやらないんですかと聞いたら「本人はお笑いも好きだけど、コメディはやってないから書いたらもってきてみて」と。

馬場 そのときにはもう葬式のアイデアが?

澤本 もうなんとなくできていて。だから当て書きのセリフも多いですね。すずちゃんってコメディをやらないように見えますが、人が喋ったことに対するリアクションがものすごくうまい。(『ジャッジ!』主演の)妻夫木(聡)くんもそう。面白いリアクションができるなら、コメディをやったら面白いだろうと。あとは東京ガスのCMを撮ったときにすずちゃんが『キャプテン翼』のワンシーンを再現するようなシーンを撮ったんですが、アクションもすごくうまかった。だからすずちゃんがどんなことをできるのか何となくわかっていたのも大きかったです。

馬場 じゃあリアクションのシーンも増やそうと?

澤本 少しありますね。ただ、ぼくが思っていたより浜崎さんがリアクションを大きくしちゃったんですけど……絶妙なリアクションを狙ったはずが巨大なリアクションに(笑)。それも含めて面白かったですけどね。

馬場 すずちゃんは売れないデスメタルバンドのボーカル役でしたが、今回は音楽もよかったですね。

澤本 すごくよかったです。(音楽を担当した)ヒャダインさんのおかげで観られるものになってると思う(笑)。浜崎さんにも「この映画は脚本がくだらないから絵だけを見ると相当痛々しい感じも否めないかも」と言っていて。かつて『スターウォーズ』も音がついていないときは駄作だといわれていたんですが、音がついたら傑作になったんですよね。だから『スターウォーズ』だと思って頭からお尻まで音をつけてくれと(笑)。

馬場 最後はすずちゃんも歌うしね。

澤本 あの歌もよかったです。「デスメタルを履き違えた人が親に反抗するためにやってるバンド」の歌だから難しかったんですよ。本当のデスメタルにはできないし、かわいくするとBABY METALになってしまう。ヒャダインさんはある種ポップなのにデスメタルの要素が入った曲があがってきて、すばらしいなと。

SFと普遍的な面白さの希求

馬場 自分でつくった映画の売り方について指示することはあるんですか?

澤本 口を出しすぎると嫌われるのでやめました(笑)。唯一、「死んだふり(Shinda Furi)」で「SF」と書いてほしいとは伝えましたね。藤子・F・不二雄が好きだったので、F先生がSFを「少し不思議」と表現されていたのに影響されて。

馬場 たしかにこの映画も「少し不思議」だもんね。

澤本 そのまま使うとF先生に化けて出られそうなので、何かしらで「SF」と言わねばと。

馬場 SFが好きなのに、作品はずっとお笑いだよね。

澤本 そうなんです。たとえばSFなら大林宣彦の『時をかける少女』が大好きなんですけど、とくに笑かそうとする部分はない。ああいうのがつくりたいと思ってるんですけど(笑)

馬場 つい筆が滑っちゃうんだ(笑)

澤本 笑かそうとしないと恥ずかしくなっちゃうんでしょうね。でもファンタジーSFというか、ちょっとグッとくるような作品はつくってみたいですね。

馬場 言われてみると澤本さんの作品は徐々にファンタジー感が強まってるかもね。じゃあつぎにやってみたいことももう浮かんでいたり?

澤本 でも今回つくってみて、もっと普遍的に面白いものを書きたいなと思いました。完成披露試写会で一般の方が観ていたときに、ぼくの狙ったところではないところで笑う方が多くて。みんなセリフより行動を見て笑うことに気づかされたんです。これまでぼくはセリフを書いて満足していたので、行動ももっと考えなければなと。

馬場 でも、CMも絵や動きを想像して書かれるんじゃないの?

澤本 そう思っていたんですけど、CMだとセリフが言いっぱなしになるのに対して、映画は“間”がある。CMだとセリフで笑う前に次のセリフがもう出てくるんですが、たとえば今回の映画だと吉沢(亮)くんが何か言ったあとの間で笑う人が多かった。だからセリフを詰め込まなくても行動で笑わせられるんだなと。

馬場 もはや監督の領域になってしまいそうですね。

澤本 監督をやろうとはまったく思っていなかったんですけど、脚本の限界も感じました。この前、映画『ジョジョ・ラビット』を見たときも脚本ではここまで表現しきれないと思って。あれは前半部がある種の幻想として描かれて、中盤から完全に戦闘シーンになっていく。監督がはじめから自分のつくりたいものをイメージして脚本を書かないと具現化できないと思ったんです。監督にならずとも、そういう表現の仕方に挑戦してみたいなと思っています。監督なんてできないですから。

馬場 それを実現するには監督だろうな(笑)。脚本より監督のほうが簡単だから澤本さんもできますよ。

澤本 ぜったいそんなことないでしょ(笑)


映画『一度死んでみた』 広瀬すず、人生初のコメディ映画に挑戦!〈2日間だけ死んじゃう薬〉をめぐり大騒動が巻き起こる! 超豪華キャスト×トップクリエイター陣が贈る、最高にハートウォーミングなSF(死んだ・ふり)コメディの誕生デス! 公開情報については公式サイトをご覧ください。

監督 浜崎慎治 脚本 澤本嘉光 出演 広瀬すず、吉沢亮、堤真一、リリー・フランキー、小澤征悦、嶋田久作、木村多江、松田翔太、加藤諒、でんでん、柄本時生、前野朋哉、清水伸、西野七瀬、城田優、原日出子、真壁刀義、本間朋晃、野口聡一(JAXA宇宙飛行士)、佐藤健、池田エライザ、志尊淳、古田新太、大友康平、竹中直人、妻夫木聡 音楽 ヒャダイン

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