J.J.エイブラムズ監督の手でリブートを果たしたエピソード7『フォースの覚醒』から、はや2年。いよいよ12月15日(金)に公開となるエピソード8は、監督のライアン・ジョンソンが「ファンを絶対驚かせる」と宣言済みの衝撃作だ。12月6日には六本木ヒルズアリーナに監督や出演者たちが集合し、レッドカーペット・イベントが開催されるなど期待はいやが上にも盛りあがるばかり。ここに紹介する3つの期待すべきサプライズを熟読しつつ、数日後に迫った公開に備えたい。
TEXT BY SHIN ASAW a.k.a. ASSAwSSIN
PHOTO BY Koichi Tanoue
いきなり昔話で恐縮だが、スターウォーズ(以下SW)最大の「驚き」といえば、熱心なファンはエピソード5『帝国の逆襲』のラストシーンを思い浮かべるだろう。あらかじめ違う台詞が刷られた台本をもとに、役者もスタッフも本当の結末を知らないまま撮影が完了。試写で「例の台詞」が流れた途端、(声を担当したジェームズ・アール・ジョーンズ、そして主演のマーク・ハミル以外は)出演者もスタッフも全員びっくり仰天した——という、有名な逸話が残っている。
そんな『帝国の逆襲』を塗り替えるほどの衝撃作かもしれない、今回のエピソード8『最後のジェダイ』。それを象徴する撮影裏話がある。久々に出番たっぷりの御大マーク・ハミル(ルーク・スカイウォーカー役)が、今回の脚本を受け取った際、中身に少々憤慨し、しかめっ面をしたというのだ。
その1:ハリウッドの定石「ミッドポイント」に驚きたい!
何故マークは怒ったのか? そもそも彼が演じてきたルーク・スカイウォーカーは主役中の主役、シリーズ最大のヒーロー。最凶最悪のデス・スターをぶっ壊し、帝国を滅ぼした英雄である。妹レイアにもらったメダルを首からぶらさげ、ニマニマするだけの幸せな老後を約束されたお人だ。そんな寝た子をわざわざ起こし、軽く怒らせた……ということは、おそらく「英雄ルークの名誉が傷つく、重大事実が語られる」ということだろう。えらいこっちゃ。SWファンとして、明らかに「覚悟」したほうがいい。
一方、前作の監督であり本作ではプロデューサーを務めるJ.J.が「どうして自分で監督しなかったのか後悔している」というほど、脚本の出来映えを褒めちぎっているらしい。そんな発言があるぐらいだから『最後のジェダイ』のストーリーには大いに期待すべき。マークが怒ったという事実は、その逆説的な裏付けなのである。
よくよく考えれば、ハリウッド映画の脚本にはスリーアクト・ストラクチャー(三幕構成)という定石がある。序盤でつかみ、中盤でひっくり返し、終盤に盛り上げる。特に中盤のヘソは「ミッドポイント」と呼ばれ、主人公の意外な過去が明らかになったり、信じていた仲間が敵に寝返ったりなど、物語を大きく動かす「折り返し地点」を作るべき、とされている。
現在進行中のシークエル・トリロジー(エピソード7・8・9)を全体でスリーアクトと考えるならば、今回のエピソード8は明らかに「ミッドポイント」を含んでいる筈。前作で信じ込んだアレやコレが、ひっくり返されるに決まっているのだ。そういえば過去を振り返ってみても、オリジナル・トリロジー(エピソード4・5・6)においてミッドポイントにあたる、あの『帝国の逆襲』が衝撃的なラストシーンで終わった事実は見逃せない。
ついでにいうと『帝国の逆襲』は、SWファンの人気が最も高い作品の一つ。現在進行中のシークエル・トリロジーでも、今回のエピソード8が最高に人気を博する可能性は十分ある。そんな作品の監督をしなかったという失態について、J.J.は嘆いているのだろう。そして、どうやら新参者のライアンが、もっとも美味しいところを持っていくのである。
おっと、見所は脚本のみに非ず。SWへの期待を語る上で、史上最高のVFX工房「ILM(インダストリアル・ライト・アンド・マジック)」が生み出す脅威の映像テクノロジーについて、触れておくべきだ。触れなければモグリ。はい、次いってみよう。
その2:レイア姫の回想シーンに驚きたい!!
最近発表された『最後のジェダイ』のメイキング画像を眺めていると、シリーズ初参加の女優ローラ・ダーンとレイア姫役のキャリー・フィッシャーが会話する場面に出くわす。ローラの役どころは詳細不明だが、とはいえ御年50歳。配役的に「登場人物の誰かの母親」という可能性が高く、しかもおばちゃん二人が集まるとなれば、あらやだお久しぶりという挨拶もそこそこに、昔話(回想シーン)に花が咲くだろう。いや……本当かな。まさか殴り合いとかしないよね。
https://youtu.be/RcaZJ591y90さて、筆者の「回想シーンがあるらしいよ仮説」をもっともらしく語る上で、エピソード8にしか成し得ないであろう視覚効果に言及したい。昨年公開されたスピンオフ映画『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』を覚えておいでだろう。時間軸としてエピソード4(シリーズ第1作)につながるべき「前日譚」は、見事な出来映えで往年のSWファンを驚嘆させた。何故なら、エピソード4が撮影された1977年当時のお姿で、あのモフ・ターキン提督や若き日のレイア姫が劇中に登場し、まったく新しい台詞を口にしたからである。
この技術を、従来のハリウッド映画に多用されるデジタル・ダブル(=CGの俳優にスタントをさせること。英語圏ではスタントマンのことをボディ・ダブルと呼ぶ)と同列に語ってはならない。
『スパイダーマン』のデジタル・ダブルは覆面したままあちこちを飛び回るが、顔の演技まではさせない。『アバター』のデジタル・ダブルは顔の演技もするけれど、外見が怪物で人間に似せる必要がない。『Xメン』や『キャプテン・アメリカ』は、キャラクターを強引に若返らせ、あるいは激ヤセさせて、過去から未来までのドラマを作るアクロバットをやってのけた。しかし、顔の表情を演じたのはあくまで本人だ。
ところが昨年の『ローグ・ワン』では、故ピーター・カッシングと若き日のキャリー・フィッシャーを再現すべく、別の俳優に演技をさせて、それに顔のCGを移植し、そっくりにするというアイデアが試された。この作業は極めて難産で、あらゆる困難を克服してきたILMにとってもハードルが高く、初期のテスト画像はまるで期待通りに仕上がらなかったという。ところが彼らは試行錯誤の果てにデジタルなレイア姫を完成させ、しかも、下地を演じた女優の素材は「手」しか残らなかった。つまり、つまりだ。ILMは「過去に実在した俳優」をほぼゼロから再現してしまった。こんなことが可能なら、極論すればマリリン・モンローの完全新作だって観られるという話になる。
そんなILMの最新デジタル・ダブル技術は、果たしてこの一年で、どれほど進歩を遂げたのだろう。その答えが本作『最後のジェダイ』にあるかもしれない。つまり、過去に公開されたエピソード1から6の古いフッテージに記憶されたキャラクターたち、例えば若き日のルークが、あるいは老オビ=ワンが、回想シーンに登場し、シリーズで一度も語られたことのない新事実を喋ってしまうかもしれない……うわ、そんなのアリかよ……自分で言っていて怖い……というわけで、ローラ・ダーン演ずる新キャラの登場シーンに要注目です。
おっと……「CGが前提の映画なんてつまらない」「CGがむしろ映画のレベルを下げた」などという意地悪な声が聞こえてきそうだ。そんな諸氏には『ローグ・ワン』の特殊効果を担当したジョン・ノールの逸話を紹介したい。彼はSWに影響をうけてILMに入社し、その後、Adobe Photoshopとして知られるようになったソフトウェアを開発した男だ。PhotoshopですよPhotoshop! 他にも博士号を持つ研究者を大量に雇い、光学や流体のシミュレーションといったリアルな表現を育み、世界のクリエイティヴを牽引してきたのが映像工房ILM。きっとあなたも間接的に何かしら恩恵を受けている。劇場で払う入場料は、いわばお布施。ILMに栄光あれ。
閑話休題。さらにメイキング画像を眺めていると、レイ役のデイジー・リドリーとカイロ・レン役のアダム・ドライバーが、棒術系の敵役と殺陣(たて)の練習をしている場面にでくわす。こんな撮影風景をわざわざ紹介するということは……今回は殺陣も頑張ってますよwという、プロデューサーたちのメッセージに違いない。何故なら、それは前作のリベンジにほかならないからだ。
その3:(個人的には)歴代最高の殺陣に驚きたい!!!
あえて言おう。SWはスペースオペラの皮を被ったチャンバラ・ムービーだ。かのヴンヴンと唸るビームな剣「ライトセイバー」抜きにSWは成立せず、SWファンの集いともなれば「歴代最高の殺陣は、どの作品のどのシーン?」という会話をしないわけにいかない。
ところが、前作のエピソード7で「殺陣が良かった」という声はまるで聞かない。かくいう自分も不満を持った。というより、エピソード8でレイが英雄ルークに鍛えられ、エピソード9に向かって尻上がりに強くなる……という流れのために、エピソード7における殺陣は地味にせざるを得なかった……うん。ファンにとっては、そうとでも言って擁護すべき出来映えでしかなかった。
ここでようやく、SWの生みの親・ジョージ・ルーカスにご登壇いただかねばならない。彼は第一作『スターウォーズ/新たなる希望(エピソード4)』を監督した際、オビ=ワン役に英国人アレック・ギネスではなく、かの三船敏郎をキャスティングしようとした(!)というほどの時代劇好き。ジェダイの語源は日本語の「時代」であり、本シリーズを象徴するC−3POとR2−D2のおまぬけロボットコンビは、黒澤明監督の『隠し砦の三悪人(1958)』で活躍するお調子者の百姓コンビから着想を得ている。
そんなルーカスはオリジナル・トリロジー、プリクエル・トリロジーの全六作を通じ、ライトセイバーによる殺陣の見せ方、つまり「チャンバラ」にこだわってきた。エピソード1では、長い棒の両端が刃のダブルブレード・ライトセイバーを振り回す悪漢ダース・モールが。エピソード3では腕が四本、剣も四本のサイボーグ野郎・グリーバス将軍が存分に暴れた。
そうしたギミックもさることながら、ルーカスは激しいつばぜり合いを如何に終わらせるべきか、アイデアに腐心し、「驚くべき決着」にこだわる。例えばエピソード4。「まさかの展開」がもたらす老オビ=ワンの末路。あるいはエピソード3で「どちらが有利かはっきりさせた上で」の一振りがもたらす切ない幕切れ……「チャンバラの決着には、ある種のサプライズが必要」というこだわりを貫き、一人の時代劇愛好家として、剣劇の魅力を世界に知らしめる。それが古典映画オタクの権化・ジョージ・ルーカスであり、ルーカスによる妄想の産物・SWなのである。ところが2012年、ルーカスは引退を決意し、全ての権利をディズニーに売り払った。従って前作『フォースの覚醒』は、ルーカス抜きで作られた初のSWである。だからだろうか、殺陣の魅力において過去作を超える出来栄えには至らなかった。それが寂しい。
「殺陣以外で魅せるスターウォーズのバリエーション。それもあっていいじゃないか」といった意見があるかもしれない。けれど、SWは映画界の太い「幹」として長らく君臨してきたのだ。その証左として、派生したSF映画は枚挙にいとまがない。ルーカスに憧れたから、リドリー・スコットは『エイリアン』を撮った。SWを観た日にトラックの運転手を辞めたジェームズ・キャメロンは、後に『ターミネーター』を、そして『アバター』を世に送り出した。……つまり「SWから生えてきた枝葉」なんて、もうすでに沢山ある。だったら幹は太くあれ。まるでご神木のように、ずどどーんと突っ立っていてほしいのである。
あえて言おう。生粋のSWファンは、SWだからこそ、殺陣でも驚かせてほしいのだ。頼む。いえ、お願いします。メイキング映像を観る限りは、やってくれそう。というか……早く観たいぞ。
ストーリー、ビジュアル、アクション。三つの期待を一身に集める最新作『スターウォーズ/最後のジェダイ』は、いよいよ12月15日(金)公開。もちろん、おなじみチューバッカもキュートなBB−8も出てきます。ところで、初参加の俳優ベニチオ・デル・トロは御年50歳、同じく初登場のローラ・ダーンと同い年だそうです。もしかしてあなたたち、夫婦役なの? じゃあ、あんたらの子供って……もしや……まぁ、いいか。どうせ来週にはわかるんだし!
https://youtu.be/PJgsqUO9EYE吾奏 伸|SHIN ASAW a.k.a. ASSAwSSIN
映像演出家。CGアニメと実写の両方を手がける映像工房タワムレ主宰。京都大学大学院(物理工学)を修了後、家電メーカーのエンジニアを経て現職。理系の感覚を活かした執筆など、映像以外にも活躍の場を広げている。
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