STARS BY ERIKA KOBAYASHI

いま同時代を生きているということ——小林エリカ|わたしの「STARS展」@森美術館 ❶

森美術館で開催中の「STARS展」(〜2021.1.3)は、鑑賞者ひとりひとりの目に何を映し、何を感じる機会になっているでしょうか。独自の創作活動を展開する注目のクリエイター3人に、それぞれの「STARS展」体験を自身の言葉で綴っていただきました。3回シリーズの第1回は、作家・マンガ家として活躍する小林エリカさんです。

TEXT BY erika kobayashi
PHOTO BY mie morimoto

大人になってはじめてパリのルーブル美術館を訪れたとき、心底驚いたことを私はいまでもはっきりと覚えている。
レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」に、ラファエロの「聖母子像」、ミロの「ヴィーナス」・・・・あげてゆけばきりがないが、次から次に現れる名作の数々に圧倒された。
それはどれも遥か遠く、中学生だった私が日本の東京郊外キャベツ畑が見える部屋のベッドで懸命に捲った画集の中に見たものであったから。
私はどうしよもなく恥ずかしい我が中学時代をもはや懐かしみつつ、感動に胸を震わせた。
その本物を、こんなにも一同に揃って見ることができるだなんて!

2020年COVID-19によりオリンピックがなくなった東京、六本木の街で、「STARS展」を観ながら、私は仄かにそんなかつての驚きを思い出していた。
村上隆にはじまり、李禹煥、草間彌生、宮島達男、奈良美智、杉本博司(敬称略)。
それをみんな一同に揃って見ることができるだなんて!

ひとりひとりの作家は私にとってのスターでもある。
まだ二十歳になったばかりの私が、村上隆や奈良美智の作品に出会ったときの驚きや感動を、いまなおはっきりおぼえている。
それだけではない、直島を訪れ草間彌生のカボチャの前で記念写真を撮ってから李禹煥美術館や杉本博司の護王神社を訪れたこと、六本木ヒルズけやき坂通りの宮島達男作品の前で恋人と待ち合わせをしたこと。
私は展示室をひとつまたひとつとあるき抜けながら、これまたどうしよもなく恥ずかしい我が青春時代をもはや懐かしみつつ、感動に胸を震わせた。

けれど、この展示の本当の凄さは、その素晴らしい作家たちが、いま同時代を生きているということ。
いくらルーブル美術館でも、もはやレオナルド・ダ・ヴィンチの新作は見られない。
「STARS展」の作家たちは、いま、私たちとこの場所で同じ時代を生き、現在進行形で作品をいまも作り続けているのだ。
展示作品の中には、象徴的な旧作もあれば、東日本大震災や、その後の東京電力福島原子力発電所事故を巡る事象をとり扱う作品もある。私は私自身の時を重ねつつその作品たちを見る。

先日、小田原の杉本博司による江之浦測候所を訪れたら、地図に紙が挟み込まれていて、その庭園にたぬきなど、幾つかの新しい作品が増えていた。
二度目に森美術館を訪れようと六本木ヒルズへ行ったら、広場ではルイーズ・ブルジョワ蜘蛛の彫刻の向かいに巨大な黄金色の村上隆の作品がクレーンで設置中だった。
私は、いまも、そしてこれからも、その作家たちの新しい作品に、触れることができるのだ、という喜びを噛みしめる。

これから「STARS展」をはじまりに、その作家たちに続く若い世代を、星々を、また森美術館で見ることができる日を心待ちにしている。
 

profile

小林エリカ|Erika Kobayashi
作家、マンガ家。小説に『トリニティ、トリニティ、トリニティ、』(第7回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞)、『マダム・キュリーと朝食を』(第27回三島賞候補、第151回芥川賞候補)(共に集英社)、マンガに『光の子ども1~3』(リトルモア)他。テキストから派生するインスタレーションも手掛け、主な個展に「最後の挨拶 His Last Bow」(2019年、Yamamoto Keiko Rochaix、ロンドン)、「野鳥の森 1F」(Yutaka Kikutake Gallery、東京、2019)、グループ展に、「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」(国立新美術館、東京、2019)、「六本木クロッシング2016: 僕の身体、あなたの声」(2016年、森美術館、東京)他。

STARS展」 場所 森美術館(六本木ヒルズ 森タワー 53F) 期間 〜2021年1月3(日) 時間 10:00~22:00(最終入館 21:30) ※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30) ※以下日程は特別営業となり、朝9時から開館します。また、12月29日(火)は通常17時までのところ、22時まで開館いたします。期間 12月12日(土)、13日(日)、19日(土)、20日(日)、26日(土)~1月3日(日)