GO TO「THE STARS」

ニューヨーク屋敷×見取り図リリーが巡る。現代アート入門の「STARS展」

昨年のM-1グランプリで、ともにファイナリストのお笑いコンビ「見取り図」のリリーさんと、「ニューヨーク」の屋敷裕政さん。普段から交流があるというお二人が、2021年1月3日まで森美術館で開催中の「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」に訪れた。日本を超え、国際的に活躍する、草間彌生、李禹煥、宮島達男、村上隆、奈良美智、杉本博司という6名のアーティストにフォーカスした展覧会だ。 本展では各作家の貴重な初期作品から新作を通じて、それぞれの生き様や、世界的な評価を得るまでの道筋を感じることができる。お笑い芸人の二人は、アートという異なるジャンルの「スター」たちの表現に、何を感じるのだろうか?

TEXT BY TAMAKI SUGIHARA
PHOTO BY KETA TAMAMURA
EDIT BY MASAYA YOSHIDA(CINRA,inc.)

アートに縁がある二人。お笑い界の若手注目株が巡る「STARS展」

近年のお笑いシーンにおける注目の芸人として活躍中のリリーさんと屋敷さん。お互いのYouTubeチャンネルに出演しあうなど、普段から仲は良いが、一緒に美術館を訪れるのは初めてだという。

じつは二人とも、アートにまったく無縁というわけではない。リリーさんは、美術系の短大の卒業生であり、美術の教員免許の持ち主。日頃からイラストを描くのが好きで、美術の展覧会を巡るウェブ連載も持っている。

いっぽうの屋敷さんは、今年春の自粛期間中に、突如さまざまな芸人の顔を描く版画の制作を開始。7月には「ヤシキ版画展2020」という個展も開催し、来場者数は2週間で1,500名超えを達成した。

そんなアートに縁のある二人が訪れた「STARS展」。出品作家に関する知識も豊富でアート通のリリーさんと、普段はアート作品を見る機会があまりないという屋敷さんだが、本展をとおしてどんなインスピレーションを得るのだろうか。「スター」の作品を間近で見られるということで二人ともワクワクしながら本展に訪れた。

左から:リリー(見取り図)、屋敷裕政(ニューヨーク)

16億円のフィギュアも。「STARS展」の幕開けは、戦略家・村上隆の幅広い作品群

「STARS展」は、個性が際立つ6つの個展が並ぶような構成となっている。冒頭を飾るのは、日本画やオタクカルチャーの感性を現代アートに取り込み、戦略的な手法で世界に認められた村上隆の展示室だ。

村上隆は1962年生まれ。伝統的な日本絵画と、マンガ・アニメなどサブカルチャー表現の共通点に「平面性」を見出し、2020年初頭に「スーパーフラット」という独自の理論を提唱。そのコンセプトにつらなる展覧会や作品で、国際的な評価を獲得した。本展には、その代表作となる初期のフィギュア的な作品や、欧米から見た「日本」を取り込んだ平面作品などが並んでいる。

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1/3本展のために制作した巨大壁画《ポップアップフラワー》(2020年)【画像提供:森美術館】
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2/3《Ko²ちゃん(プロジェクトKo²)》(1997年)【画像提供:森美術館】
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3/3壁一面に展示されているのが《チェリーブロッサム フジヤマ JAPAN》(2020年)【画像提供:森美術館】

なかでもリリーさんと屋敷さんの関心を引いたのは、《マイ・ロンサム・カウボーイ》(1998年)という初期の代表作。ギョッとするほどエロティックな作品だが、日本のオタク文化がいまより知られていなかった時代の欧米社会で、その衝撃は一層大きなものだった。実際、《マイ・ロンサム・カウボーイ》(別エディション)は2008年に世界的なオークションで、約16億円の落札価格がついた作品でもある。

《マイ・ロンサム・カウボーイ》を鑑賞中の二人

屋敷 ええ!? 16億円ですか? この作品で西欧のアートシーンに乗りこんだって、トガりまくってるなあ。きっと「一発、カマしてやろう」って思いがあったんでしょうね。それをほかの日本作家に先駆けて、世界で最初にやってしまうのがすごいです。

リリー 村上さんはこういうサブカルチャーを取り入れた表現が海外でハネて、その後、日本に逆輸入されるかたちで評価されたんですよね。日本で評価される前に海外挑戦するなんて、相当な自信がないと踏み込めないはず。だからこそ、確実に評価されるためのロジックを立てて、作品づくりをしてきたのかなと。アーティストだけど、めちゃくちゃ戦略家だと感じます。

展示室の中心には、とても巨大な《阿像》《吽像》が屹立する。この作品は、2011年の東日本大震災後に制作された作品で、今回、コロナ禍を受けて急遽展示が決まったという。

左奥の像が《吽像》(2014年)、右手前の像が《阿像》(2014年)

リリー この「ドーン!」というスケール感が気持ちいいですね。

屋敷 顔もカッコええなあ。ぼくは版画を掘るときに、顔の表情や体の動きに躍動感が出るよう意識しているんですが、この像はドシッと構えているのにものすごく迫力がありますね。胴体の大きさと足の細さのバランスも含めて、とても決まっています。

会場では、猫の被り物をした若い男女二人が、村上隆のつくったポップな楽曲に合わせ、観光気分で福島の原発を訪れる映像作品《原発を見にいくよ》(2020年)も上映中。オブジェから映像まで、バラエティーに富んだラインナップとなっている。

屋敷 村上さんの展示は、同じ人の作品って感じがしませんね。絵だけじゃなくて、オブジェをつくったり、映像もつくったり。しかも、好きなことを自由にやっているというより、きちんと計算して「当てにいってる」。自分が見つけた表現で人から認められたいという欲望って、芸人にもリンクする部分だから、めっちゃ共感できますね。

リリー そうそう。村上さんの頭のなかを知りたいよな。どこをどこまで計算しとるのか。アートをほんまに知らん人がこの展示を見たら、この最初の部屋で「アートってこんなに幅広いんや」って驚かされると思う。

見る人が何を感じるか、ゆだねるタイプ。空間全体が李禹煥さんの作品なんだと感じます(リリー)

続いて二人が向かったのは、村上隆の部屋とは雰囲気ががらりと変わり、空間全体に白い砂利が敷かれた李禹煥の展示室。

1936年に韓国で生まれた李禹煥。1956年に来日し、1960年代末から1970年代初めにかけて日本で注目を浴びた「もの派」という重要な美術動向の中心的作家の一人として活躍してきた。

「もの派」は、石や木のような自然物、金属などの人工物を、ほぼ未加工の状態で空間に配置するスタイル。あえて、素材そのものを提示することで、物体と物体、物体と鑑賞者、物体と空間の関係性に目を向けさせる表現だ。

大きな石がひび割れたガラスの上に置かれ、自然物と人工物の出会いの光景を見せている《関係項》(1969 / 2020年)

「もの派」という名前は知っていたというリリーさんは、ステンレスの棒と石が、一組は接し、もう一組は離れて置かれた《関係項―不協和音》(2004 / 2020年)という作品が気になるとのこと。

ステンレス棒と石で構成されている《「関係項―不協和音」》が手前。奥左が《対話》(2020年)、奥右が《対話》(2019年)【画像提供:森美術館】

リリー 岩とステンレスの棒の2つの関係性を作品にした、ってことなんですかね。見る人が何を感じるか、ゆだねるタイプの作品ですね。あと、この空間全体が作品なんだと感じました。

リリーさんも指摘するとおり、もの同士のあいだにある「空間」や「間」も、李禹煥がとても重視する要素だ。そのことは、巨大なキャンバスという場所に、「点」のような筆跡が余白たっぷりに置かれた、《対話》という新作の絵画シリーズにも感じられる。

《対話》を鑑賞中

日本ではすでに知られていた「もの派」の動向だが、世界的な評価が進んだのは、21世紀に入ってからで、ごく最近のこと。この評価の流れのなかで、李禹煥は近年、ヴェルサイユ宮殿やポンピドゥー・センター・メスなど、名だたる会場で個展を開いてきた。

屋敷 そう思うと、アーティストって、いつ評価されるのかぜんぜんわかりませんね。日本だけで注目されていた人でも、歳をとってから世界的に売れる可能性がある。それを待ちながら地道に制作を続けているって、かなり根気がいるなって思います。

リリー 本当につくることが好きじゃないと、続けられへんよな。

はじめて接した李禹煥の作品と人生は、二人にも静かな刺激を与えたようだ。

草間さんの作品は、アートに疎い俺でも、見た瞬間に「すげえ」って思えました(屋敷)

三番目に訪れたのは、展示をまわる前に屋敷さんが「唯一名前を知っている」と話していた草間彌生の部屋だ。1929年生まれの草間は、今回の出品作家のなかで最高齢。

1957年に単身渡米すると、ニューヨークで実験的なパフォーマンスや作品を発表し、現地の先鋭的なアーティストと交流した。1973年の帰国後も精力的に活動を続け、1990年代以降は大型のインスタレーション作品などを手がけるとともに、国際展にも参加。現在の地位を確立した。

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1/2手前の作品は《たくさんの愛のすばらしさ》(2019年)
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2/2左から《無限の網》(1965年)、《No.A》(1959年)、《ミシガン湖》(1959年)【画像提供:森美術館】

絵画の前に立ち、「すごい!」を連発する屋敷さん。

屋敷 すごい! 絵力が強烈なので、パッと見て「すごさ」がわかりやすいです。

リリー 画面がバッ! と目に入ってくる感じがあるよな。あと、草間さんといえば、ドットのイメージがありますが、よくインタビューで「もともとはドットが怖かった。だから、自分で描くようになった」とお話しされていますよね。

幼少期から幻覚症状や、脅迫観念の影響があったそうで。絵を描くのは、ある種のリハビリのような意味合いもあったのかなと。そういった観点でも、ドットを描いた初期の絵画を見られるのは貴重ですよね。

リリーさんの後ろに写っている絵は、《女たちの群れは愛を待っているのに、男たちはいつも去っていってしまう》(2009年)

部屋の中央には、彫刻の一種で「ソフトスカルプチャー」と呼ばれる立体の作品も展示されている。そのひとつ、《トラヴェリング・ライフ》(1964年)では、男性器風のオブジェが無数に取りつけられた脚立の段上に、複数のハイヒールが置かれている。まるで当時、まだまだ男性中心だったアート界を、女性として駆け上がっていく意思の現れのようだ。

中央左ピンクの船型の作品が《ピンクボート》(1992年)、中央右の脚立型の作品が《トラヴェリング・ライフ》(1964年)

リリー いま見ても圧倒されますが、1960年代に女性が男性器をモチーフにした作品をつくるのは、かなり衝撃的だっただろうなと。日本人女性として、ほかの人に先駆けて世界で活躍した功績があるので、草間さんにインスパイアされた次世代のアーティストも多そうですよね。

会場にはほかにも、鏡を使った万華鏡のようなインスタレーションや、2009年以降、現在まで膨大な数が制作されている「わが永遠の魂」という絵画シリーズもある。90歳を超えてもなお衰えることのない創作意欲には、同じ表現者として二人も驚きを隠さない。

屋敷 ほんま、継続力がすごいっすね。どんどん描きたいものが思いつくんやなあ。モチベーションは何なんやろ。お金のためじゃなさそうですよね。俺たちでいう、「ウケたい」「ネタを褒められたい」とか、そういう次元でもなさそうやし。

リリー 「つくりたい」がまずあるんやろうな。

屋敷 たしかに。何かのための「手段」じゃないというか。草間さんの作品は、アートとかぜんぜん見たことがない俺でも、素直に「すげえ」って思えました。

LEDライトの海。宮島達男のアート作品に、リリーがグッときた理由とは?

次に二人を迎えるのは、宮島達男の展示室。暗い通路を進んでいくと、広い部屋の床一面に張られた水のなかに、淡い光で数字を刻む無数のLEDカウンターが……。

《「時の海―東北」プロジェクト(2020 東京)》を眺める二人。一つひとつの明かりは、数字を刻むLEDカウンターになっている

宮島達男は1957年生まれ。1980年代半ばより、「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、一貫してLEDカウンターを用いた数字による表現を行なってきた。この部屋に展示されている《「時の海―東北」プロジェクト(2020 東京)》は、東日本大震災の記憶の継承と犠牲者の鎮魂を目的として、宮島が2017年より継続的に展開している市民参加型の作品だ。

リリー このプロジェクトは前から知っていて、今回いちばん見たかった作品です。一つひとつのカウンターの速度は、プロジェクトに参加した方たちが、それぞれに設定したものなんですよね。以前、何かの映像で、子どもや高齢者の方がカウンターを設定している様子を見たことがあって。実際に作品を見ると、その光景も浮かんできてグッとくるものがあります。

リリーさんの言う通り、カウンターが刻んでいる別々のリズムは、震災の犠牲者の遺族や関係者、東北の子どもたちなど、プロジェクトの参加者がそれぞれに設定したもの。9から1までの数字が「生」を表すように刻まれ、「死」を意味する0は表示されない。その繰り返しの背景には、命の永遠性を説いた仏教における「輪廻転生」の考え方がある。

その後、歩みを進めると、壁一面にプロジェクトの参加者や、クラウドファンディングに出資した支援者たちの名前が、「協働アーティスト」としてリスト化されている。

参加者や支援者が記された壁を見る二人

「これは参加者の方にとって、すごく嬉しいでしょうね」と屋敷さん。現在、カウンターの数は約700個だが、将来的には3,000個まで増やし、東北の地に恒久設置することがプロジェクトの目標になっている。

さらに会場では、理論上は30万年の時間を刻むことのできる《30万年の時計》(1987年)や、一元論・二元論という名がつけられた《Monism/Dualism》(1989年)など、初期の作品も見ることができる。

《Monism / Dualism》(1989年)を眺める二人

屋敷 本当に数字で勝負しているんですね。宮島さんのほかの作品も見たくなりました。

リリー 当然ですけど、LEDの作品は100年前には絶対につくれないもの。そんなふうに新しいテクノロジーを積極的に使うのも、現代アートの面白さだなと思いました。

特徴的な女の子の絵。奈良美智の作品から感じた、アートとお笑いの共通点

続いて登場した奈良美智は、1959年生まれ。1980年代後半に活動を開始し、1988年から2000年まではドイツを拠点にした。可愛いらしくも、どこか意地悪な表情の女の子や動物の絵は、アートファンにとどまらない幅広い人気を誇っている。

奈良美智の展示室は大きく2つに分かれている。最初の部屋に展示されているのは、現在の作風にたどり着くまでの貴重な初期の絵画やドローイング。加えて、奈良自身がセレクトした音楽アルバムのジャケット、書籍や雑貨などといった大量の私物が棚に飾られている。

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1/3壁に展示されている初期のドローイング作品などを鑑賞中
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2/3初期の頃に描かれた作品《無題》(1988年)
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3/3奈良美智の私物の雑貨や書籍が並ぶ棚の一部【画像提供:森美術館】

屋敷 このドローイングは、破れた紙や普通の紙袋に描いていますね。私物を持ってくるのも含めて、これを「作品」として見せるって、すごい勇気やなあ。

屋敷さんが注目した気取らない作風は、奈良美智の作品の大きな魅力。この展示室では、奈良の絵画の変遷も感じられる。活動の最初期の絵には、背景に風景が描かれ、物語性がある。しかし、1980年代後半に活動拠点をドイツに移したあたりから、絵の背景は次第に抽象化されていき、人物や構図もよりシンプルなものになっていく。

その傾向は、最近の作品にも表れている。二つ目の展示室には、より近年の絵画作品や、アトリエを模した小屋型のインスタレーションなどが並び、シンプルながらも印象に残る作品が展示されている。

家を模した巨大なインスタレーション《Voyages of the Moon(Resting Moon)/ Voyage of the Moon》(2006年)

東日本大震災後、より精神的な雰囲気を称えた作風に変化したという奈良美智。なかでも二人が注目したのは、静かに目を瞑る少女を描いた新作《Miss Moonlight》(2020年)。

《Miss Moonlight》の大きな絵の前で、二人もしばし黙って女の子と向き合っていた

屋敷 これまでの展示全体で思ったことですけど、やっぱりオリジナルなものをいかに早く見つけられるかが大事なんすね。この特徴的な女の子の絵も、最初にたどり着いたからこそ評価されるんでしょうし。オリジナリティーが重要なのはお笑いも同じなので、そこはアートと共通する部分かも。

リリー お笑いの場合、あまりに新しいとスベりまくるけどな(笑)。奈良さんの作品には新しい部分と、いろんな人が親しめるポップな部分がうまく混ざっていますよね。

屋敷 最初の部屋に展示されていた初期に比べると、二つ目の部屋の女の子の絵は顔がだいぶ優しなった気がします。

リリー 色がすごく丁寧に塗られていますね。なんで目を瞑ってるんやろう。見方によっては眠っているようにも、悲しんでいるようにも、祈っているようにも見える。いろいろ考えてしまいます。時代とのシンクロで見方が変わるのも、絵の面白いところですよね。

写真をアートにまで高めた杉本博司。視点を変えると見えてくる新しい発見

いよいよ、最後の展示室へ。大トリを飾るのは、写真から、現代アート、建築、古美術、伝統芸能まで、幅広い分野を横断しながら活動する、杉本博司。

杉本は1948年生まれ。1970年にアメリカへと渡り、作家活動とともに、日本の古美術を販売するギャラリーも長年運営した。そんな杉本のひとつの転機となった一作が、「ジオラマ」という写真シリーズの《シロクマ》(1976年)。この作品が、ニューヨーク近代美術館にコレクションとして買い上げられて、世界に名が知られるきっかけになった。

《シロクマ》。ニューヨークのアメリカ自然史博物館に展示された剥製のシロクマを被写体にして、地球の歴史を再現したジオラマとして撮影した昨品

リリー 杉本さんには、写真をアートにまで高めたアーティストの一人、というイメージがあります。個人的には、「劇場」シリーズ(※杉本博司が1970年代から始めた、映画が上映されている劇場を長時間露光で撮影したシリーズ)も気になっていました。観るとしたら必ず時間がかかる映画を、写真の「一瞬」に収めちゃうのがすごいですよね。

リリーさんが語った「劇場」と並ぶ、杉本博司の代表的なシリーズが「海景」シリーズ。水平線を撮影し、それを画面中央に配置する表現が特徴だ。特定の時代を示すものが一切取り除かれたこの作品は、「古代人が見ていた風景を、現代人も見ることは可能なのだろうか」という杉本の関心から生まれたという。今回の会場には、その「海景」シリーズを90度回転させた「レボリューション」(1982年~)シリーズが展示されている。

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1/2「レボリューション」シリーズを鑑賞中のリリーさんと屋敷さん
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2/2「レボリューション」シリーズより、左から《Revolution 002 北大西洋、ニューファンドランド》(1982年)、《Revolution 001 北大西洋、ニューファンドランド》(1982年)、《Revolution 008 カリブ海 、ユカタン》(1990年)【画像提供:森美術館】

屋敷 普遍的な光景に関心がある人なんかな、と思いました。(写真に写る月を見て)月の軌道って、こんなに真っ直ぐなんや。視点を変えると見えてくるものがあるなあ。

普段、人は自分たちの立っている場所を水平だと思っている。しかし、いざ宇宙から眺めてみれば、その認識は大きく変わる。「回転」と同時に、「革命」という意味も持つ「レボリューション」というタイトルが名づけられたこのシリーズで、杉本博司はそんな認識の革命を鑑賞者に促しているのかもしれない。

会場の奥には、杉本が現在もっとも力を入れているという、「小田原文化財団 江之浦測候所」を映した初映画作品《時間の庭のひとりごと》(2020年)が流れている。2017年、小田原市に開業した杉本自身の設計によるこの施設は、杉本の幅広い分野の知識が結集されたもの。夏至と冬至の日にだけ光がまっすぐ走る通路を設けるなど、周囲の環境を取り込んでいる点もその魅力だ。

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1/2映像作品《時間の庭のひとりごと》を鑑賞中
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2/2部屋の左隅には、1838年に発見されたギペオン隕石が展示されている【画像提供:森美術館】

屋敷 建築までつくっちゃうんだ。本当にアートは自由なんですね。

リリー 光まで取り入れて、相当なこだわりが詰まってそうやな。

興味津々に映像を眺める二人。いっぽう、同じ部屋の隅には、なぜか実際の隕石の展示も……。

これは、ダジャレが好きという杉本博司が「STARS展」にかけて展示したもの。6人のスターを扱う展覧会の最後に、「落ちた隕石」。つまり、かつての流れ星(shooting star)を持ってくるという、どこか皮肉も感じさせる一種の「オチ」だ。「大トリとして、『俺が落とさな』というサービスなんすかね(笑)」と屋敷さん。杉本のユーモアを感じ、およそ2時間にわたる二人の展覧会巡りは幕を引いた。

STARS展を巡った二人が見出した、スターになるための条件とは?

観賞後、リリーさんと屋敷さんに、あらためて話を聞いた。終始、アーティストがいかに「売れたか」に関心を持っていた屋敷さんは、これまで見たことがなかった現代アートの展覧会に触れ、その表現の多様性に新鮮な驚きを感じたようだ。

屋敷 お笑いの場合、お客さんの「笑い声」っていう明確な基準があるじゃないですか。だけどアートの場合、その評価基準がもっと複雑で、ムズい気がしました。そういう世界に人生をかけるのは、ぼくからするとかなりの大博打。自分の感性や腕によっぽど自信があるか、純粋にものづくりが好きな人じゃないと、ここまで突き抜けられないんだろうなと感じました。

いっぽう、展覧会をたびたび訪れるリリーさんも、「『6人の作品』とだけ聞くと、すぐに回り終わってしまいそうだなと感じますけど、実際は一人ひとりの衝撃がけっこう重かったですね。こんなに脳みそを使うとは、正直思っていませんでした」と、充実した様子を見せた。

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1/2草間弥生の《Infinity Mirrored Room―信濃の灯》(2001年)を鑑賞する二人
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2/2《Infinity Mirrored Room―信濃の灯》を覗くと見える光景。合わせ鏡を用いて光やオブジェが無限に広がるように見えるインスタレーション展示【画像提供:森美術館】

最後に、同じ表現者として、展示を回って感じた「スター」の条件を聞いた。

リリー ぼくらはスターじゃないですから、難しいですね(笑)。でも、それこそ「オリジナルであること」は大事じゃないですか。そこだけは絶対、揺るがんと思います。

屋敷 ほんま、そうですね。オリジナリティーと、あとは諦めへん、辞めへんってこと。

リリー そうやな。すでにアート活動をやめた人だって、もし続けていたら、「この6人」に入っていた可能性もあったかもしれへんわけやし。

屋敷 「まだ誰もやったことないことがあるはずや」って、それを信じて頑張るしかないんじゃないかと思いますね。

現代アートと芸人という、異色の組み合わせにも思えた今回の展覧会巡り。しかし、そこで目にした異なるジャンルの「スター」たちの表現と生き様は、二人にも新たな刺激を与えるものだったようだ。6人のアーティストの人生と作品をたっぷり味わえるこの展覧会は、きっと、あらゆる世界で生きる人たちに、活動する勇気を与えてくれるはず。

【画像提供:森美術館】=撮影:高山幸三

STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ 会場 森美術館 日程 2020年7月31日(金)~ 2021年1月3日(日)

profile

リリー|Lily
1984年6月2日生まれ、岡山県出身。NSC大阪校29期。2007年に盛山晋太郎と「見取り図」を結成。2018年、2019年に2年連続で「M-1グランプリ」ファイナリスト。2019年に「第4回上方漫才協会大賞」大賞受賞。大分県立芸術文化短期大学を卒業し、美術の教員免許を持っている。YouTube「見取り図ディスカバリーチャンネル」配信中。2020年12月30日に開催される「DAIBAKUSHOW 2020」に出演予定。

profile

屋敷裕政|Hiromasa Yashiki
1986年3月1日生まれ、三重県出身。NSC東京校15期生。2010年1月に嶋佐和也とニューヨークを結成。2019年、「M-1グランプリ」ファイナリスト。2020年に「キングオブコント2020」準優勝。同年7月に初版画個展「ヤシキ版画展2020」を開催するなど、活躍の幅を広げている。趣味は版画、読書、お酒。特技は空手(二段)、ADものまね。YouTube「ニューヨーク Official Channel」配信中。2020年12月30日に開催される「DAIBAKUSHOW 2020」に出演予定。