STARS@MORI ART MUSEUM

「STARS展」@森美術館、7月31日開幕決定!——現代美術 夢の競演を待ちながら

いよいよ7月31日(金)の開幕が決定した展覧会、森美術館「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」。日本から世界で活躍する6人のアーティストたちの初期の作品と最新作を同時に見てみよう、彼らはいかに戦い続けてきたのか、という意欲的な試みだ。

日本から世界に発信する、日本をベースに世界で活躍する6人のアーティスト、草間彌生、李禹煥、宮島達男、村上隆、奈良美智、杉本博司(以上ABC順)を集めた展覧会。森美術館くらい大きな美術館でもそれぞれ個展ができるクラスの作家を6人いっぺんの展覧会というのにおおいに期待しているのだが。

当初はオリンピック、パラリンピックイヤーで、展覧会会期の中にオリンピック、パラリンピックの会期が入っているので、それを狙っていただろう。というか、外国や地方から来て、東京に滞在する人たちに、文化の面でも最上のものを見せようと意図したに違いない。参加するアーティストも普段だったら基本的に個展以外は断るという人も、そういうことならと、OKしたとも考えられる。

この6人を選ぶことに疑問はないけれど、入ってもらう交渉をするのが大変だったろう。さらに、6人に絞り込むまでの作業の困難さも想像に難くない。あの人も入れないといけないのでは、と。6人である物理的な理由の一つは森美術館の大きな展示スペースは3つあること。これを各2人でシェア。基本的に、絵画、彫刻、写真の作家。パフォーマンスや既存の建物などを利用するインスタレーション中心の人は入っていない。

展覧会の趣旨は各作家、デビューの頃の初期作品と最新作的なものを見せようということである。それぞれの巨匠たちの、ときに鮮烈なデビューを飾った作品、あるいは意外に反応のなかった初期作品を見てみようということ。

さて、普通の記事なら、ここからは「それでは各作家の出品作品を具体的に見ていこう」となるのだが、あらためて展覧会日程が決まったこのタイミングで、僕の仕事とこの展覧会出品の一部の作家の人たちとの話をからめて書かせていただきたい。村上隆さん、奈良美智さん、杉本博司さんである。

左)2001年9月1日号「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」 右)フレンチゲートの表紙なので、合わせを変えると表紙が変わる。

雑誌『BRUTUS』で、村上隆さん、奈良美智さんの特集を作ったのは2001年のことだ。もうほぼ20年前のこと。2001年9月1日号(8月15日発売)「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」。600円(5%の税込み)。今の『BRUTUS』最新号が700円(10%の税込み)であることを思うと、意外に雑誌って値段上がってない?

今だったら、この2人の巨匠を1冊にまとめようというのは不可能かもしれない。それぞれ雑誌1冊の特集を張れる2人だからだ。当時、村上さんも奈良さんも、小山登美夫ギャラリーの所属作家だった。実は小山さんとしては当時から、2人で1冊というのはやや難色を示したのだが、強引にまとめたのである。関係者や彼らのファンからも、年齢こそ近いけれど、作風も経歴も全然違う2人をまとめるなんて、無謀という声もあった。しかし、美術専門誌なら、ある月に「村上隆特集」、翌月に「奈良美智特集」もありえるだろうが、ライフスタイルマガジンである『BRUTUS』(年に23号出る)では美術特集は年に1回、多くても2回だ。ピンの特集となると、どちらか1人しか取り上げられない。

特集の企画は、前の年の2000年にあったある展覧会のオープニングで小山さんに会ったとき、彼がポツリとこう言ったことからである。「来年は奈良さんも村上さんも公立美術館の大きな展覧会があるからたいへんなんだ」。そのときに2001年の夏に、奈良さんは横浜美術館、村上さんは東京都現代美術館でそれぞれ大規模個展があることを知った。それを聞いたとき、僕の頭の中ではこの特集がもう出来上がっていた。

そのアイディアを会社に持ち帰って、編集長に相談した。この2人で『BRUTUS』を1冊作りたいのだが、そんなことはできるだろうか。編集長の答えは、もちろん可能。しかし、編集部としての方針が固まっても、販売部、広告部に説明、合意を得るなどしないといけないのがこういう雑誌の宿命なのだが、それもなんとかクリア。それで、小山さんのところに交渉に行った。

2人で1冊特集という企画に小山さんはやはり難色を示して、彼が出した提案は『BRUTUS』で「村上隆特集」を、同じくマガジンハウス発行の『relax』(1996年〜2006年発行。現在休刊中)で「奈良美智特集」をできないかということだった。しかし、僕としては譲れないので、僕は「奈良美智・村上特集」をやる。『relax』で「奈良美智特集」をやるなら、それもどうぞと言った。

タイトルの「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」は簡単にいうと、彼らは実は海外ですでにブレイクしていて、今回の展覧会とかは逆輸入みたいなものという意味合いを込めている。実際、すでに2人とも海外のギャラリーにも所属していたし、奈良さんはシカゴ現代美術館で展覧会をしていたし、村上さんはボストン美術館での展覧会が決まっていた。特集のイントロには海外メディアからの引用が並ぶ。
 

「村上隆は国際的なアートシーンのホットな存在だ。(略)……キュートでセクシー、そして少し不気味な彼の作品を抜きにして、アートの『新しさ』は今や語れない。」(The New York Times)

「マンガ的なものがこんなふうに理想化されていると多少戸惑うが、それでも奈良の作品が現代美術には稀有の完成度の高さに達していることは否定できない。」(L. A. Times)

「奈良が注目されるのは、子供の可愛さだけでなくイノセンスだったり悪魔的だったり精神的な特性をアイコン的に捉えている。その主題がユニバーサルだからだと思う。」(DAZED & CONFUSED)

特集の構成内容は2人の作品の紹介、美術館学芸員、ギャラリスト、コレクターの人たちが、今なぜ、この2人のアーティストが重要なのかを次々に語ってくれるというもの。2人の語りおろしバイオグラフィ、2人にそれぞれ「100の質問」など。そして「奈良美智の空間」というセクションでは当時の奈良さんのアトリエでの作業中と作業以外のシーンを写真家のホンマタカシ氏が撮影している。一方、「村上隆の時間」というセクションでは村上のパリ出張7日間にパリ在住の報道写真家、八木健二氏が密着して時系列で記録している。

雑誌の作りとしても凝っていて、表紙はフレンチゲートといって、表紙の中が割れて、そこに写真家、篠山紀信氏撮影の奈良さんと村上さんのツーショットが現れる。バイオグラフフィーのページは観音開き、さらに、2人の作品が裏表の特製の卓上屏風まで付いている。

そして、この特集限定のショッピングページがあって、奈良村上コラボTシャツとスケートボードデッキを申込者全員が買えるようになっている。余談だが16,500円で販売したこのスケボー、今年6月のSBIアートオークションに出品され、30万円で落札された。

この2001年は第1回目の横浜トリエンナーレがあったわけだが、奈良さんと村上さんはそれぞれ横浜美術館と東京都現代美術館の展覧会を成功させ、現代美術ファンの層を厚くしたという功績もある。そして、彼らの成功はこの頃から一層加速度を上げていくのである。

左)2005年9月15日号「杉本博司を知っていますか?」 右)2004年8月15日号「BOYS LIFE」。杉本が中学生のとき撮影した写真を掲載。

2005年9月15日号(9月1日発売)。タイトルは「杉本博司を知っていますか?」。杉本さんは1995年にメトロポリタン美術館、2000年にベルリン、ビルバオ、ニューヨーク・ソーホーのグッゲンハイム美術館で個展を開くなど欧米ではよく知られた作家になっていたが、日本では写真ファン、現代美術関係者以外にはそこまで知られている存在ではなかった。なので、タイトルは、知っていますか? という、やや上からな感じだ。2005年秋〜2006年、森美術館で「杉本博司:時間の終わり」が開催されるということでそのタイミングで特集を作った。

この特集の1年ほど前に「BOYS’LIFE」という写真特集を編集した。これは当時、ガーリーフォト全盛だけれども、少年写真もいいぞという話で、作家として、ジャック=アンリ・ラルティーグ、ピーター・ビアード、ヴォルフガング・ティルマンスを取り上げた。その特集の中で、杉本さんが中学生の時に撮影した鉄道写真を借りて載せた。本当に「BOYS’LIFE」、少年が撮った写真だが、その頃から、僕は杉本さんとしばしば会うようになって、特集のアイディアを深めていった。

結果、杉本特集の表紙は代表作の一つ、「劇場」シリーズの1点。基本的に杉本さんは作品のトリミングや文字乗せはNGなのだが、いくつかテスト版を作り、こちらの方が雑誌の表紙としては迫力があるからと説明し、理解していただき、トリミング、文字乗せの表紙にさせてもらえた。ロゴは特色の銀色。ロゴ上には「世界の有名美術館が競って収集する作家。世界巡回展スタート!」とある。

特集のイントロページには「劇場」「ジオラマ」「海景」という代表作が並び、「この写真を見たことがありますが?」とタイトルが付けられている。東京、京都、大阪、パリ、デュッセルドルフ、ロサンゼルス、ニューヨークの美術系大学の学生をつかまえて、その質問をしている。結果は、東京藝術大学では杉本作品を見たことがある学生多数。日本大学芸術学部写真学科の学生はほとんど知らなかった。ここは主に報道、商業写真家を輩出する学校だからだろうか。大阪芸術大学では半数以上の学生が知っていた。京都造形芸術大学は授業で扱ったので知っていた。対して、海外4都市ではどこでも杉本さんは有名作家で、絶賛する人多数。知っていますか? のタイトルはまさに適切だった。

その調査で学生たちのコメントは杉本作品を知っている人はみな一様に褒め上げるが、中にはこんな迷コメントも。
「野生の動物にここまで近寄れる勇気に敬意を表したい。」(大阪/写真学科/男)
それ、野生じゃなくて、博物館のジオラマですから。

この特集には「劇場」シリーズの1点の精緻な印刷をされたものが折り込まれている。そういったイントロ部分が終わると、「海景」の見開きになる。「海景」だけで文字などは一切載っていない。雑誌のページで写真1点だけというものはそうそうあるものではない。次の見開きも「海景」。しかし、こちらには特集タイトル「Who is Hiroshi Sugimoto? 杉本博司を知っていますか?」と特集のリードの文章がある。そして、前のページの作品クレジットも「(previous spread)〜」と書かれている。

特集の構成としては、カルティエ現代芸術財団(パリ)、メゾンエルメス銀座(東京)の展示風景を掲載。そして、「建築」シリーズの撮影現場、ボストンのエーロ・サーリネン設計 MITチャペルに同行記があり、完成作品が載っている。さらにパリでの「劇場」シリーズ撮影現場と完成作品。それと、これはギャラリーからの提供だが、「海景」撮影の現場写真と「海景」である。続いて、ニューヨークのアトリエとソナベントギャラリー、ボストンでの撮影旅の行程の写真がある。

主要作品の解説は綴込みにしてある。建築家、安藤忠雄氏と杉本さんの対談を光の教会でとった。「誰もが持ち、撮ることのできるカメラを使って、誰にも撮ることのできない世界を撮るという、困難な作業ではないかと思います」(安藤)

それ以後のページでは古美術について杉本が語り、そして、杉本の少年時代、アメリカ時代、作家になってからなどを写真と語りで綴ったバイオグラフィ、さらに森美術館「杉本博司:時間の終わり」展の詳細。

アーティストは売れるのは大変だが、売れ続けるのはもっと困難だと言われる。およそ20年前に取材をした奈良美智さんと村上隆さん、15年前に特集を作った杉本博司さん。彼らは皆ますます活躍していて、また今回、雑誌『Casa BRUTUS』2020年6月号で「STARS」展について、取材をさせていただいた。一つの仕事を長く続けてきてうれしいのはこういうことである。

STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ 会場 森美術館 日程 2020年7月31日(金)~ 2021年1月3日(日)

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鈴木芳雄|Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。明治学院大学非常勤講師。雑誌「ブルータス」元・副編集長(フクヘン)。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。雑誌「ブルータス」「婦人画報」「ハーパーズバザー」などに寄稿。