森美術館で開催中の「六本木クロッシング2025展」に、ひときわ目をひくビビッドな色彩とサイズ感の陶芸作品を出展した桑田卓郎さん。岐阜県多治見市に構える制作アトリエを訪ねて話を聞きました。
TEXT BY MARI MATSUBARA
PHOTO BY NORIO KIDERA
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
特集注目!日本の現代アート最前線
Roppongi Crossing 2025
TEXT BY MARI MATSUBARA
PHOTO BY NORIO KIDERA
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
窯業の町として長い歴史がある岐阜県多治見市。かつては1日5,000個もの飯茶碗を生産していた工場が廃業し、その建屋を受け継いで自らの設計のもと、5年ほど前にフルリノベーションしたのが現在の桑田卓郎さんの仕事場だ。1,500坪もの広い敷地内に作業場や倉庫、オフィスなど幾つかの棟が分散して経っている。作業場は大型作品を作るにも天井高は十分で、巨大な電気炉が3つ並んでいる。
建屋の骨組みだけを残し、壁も床もすべて改修した。桑田さんが自ら設計し、施工会社と相談しながら完成させたアトリエはシルバーやグレーを基調としたソリッドな空間。
大型作品を焼くための電気炉。思い通りのテクスチャーに焼くために炉壁を薄くするなど工夫が凝らされている。桑田さんが着ているのは、ニューヨークを拠点に活躍するファッションデザイナー、大丸隆平さんに作ってもらったタイベック(高密度ポリエチレン製不織布)素材のオーバーオール。紙のような質感で軽く、強度がある。
桑田 もともと器づくりから始めたので、こんなに大きなオブジェを作るようになるとは思っていませんでした。まず故郷の広島で陶芸家の財満進先生の下で修業し、その後、多治見市陶磁器意匠研究所に行きました。そこでプロダクトデザインや産業としての陶芸技法を学ぶうちに、だんだんと個人のアート活動と量産技術を混ぜたような作風になっていきました。
作品が大型化する転機となったのは2010年、東京・六本木の小山登美夫ギャラリーでの個展だった。
桑田 それまでは茶碗などを陶芸ギャラリーで発表していましたが、初めてホワイトキューブ空間で展示することになり、用途から離れたものを作ろうと考えました。とは言っても僕自身の中に何か特定のモチーフがあるわけじゃない。じゃあ自分のキャリアの中で無理せず自然にできるものは何か?と考えた時、釉薬の表情や焼成時に起こる現象そのものをシンプルに見せるようなものを作ろうと思い立ち、「かいらぎ」や「石はぜ」といった茶碗の表面に偶然現れる表情にフォーカスしたんです。その後、小山さんが欧州最大規模のアートフェア「アートバーゼル」に僕の作品を持っていくことになり、それで作品が巨大化していったという感じです。
桑田の代表的な3つの作品シリーズに「KAIRAGI」「ISHIHAZE」「TENTEKI」がある。これらは日本の伝統的なやきものの表面に現れる表情を拡大し再解釈した作品だ。「かいらぎ」とは主に井戸茶碗などの高台の周りにかけた釉薬が焼成中にちぢれてひび割れたようになったことを指すが、それを思い切り大きく誇張して見せたのが「KAIRAGI」シリーズだ。
森美術館で展示中の《無題》(2025)の部分。ブルーの素地の上にかけた分厚い銀色の釉薬が焼いている間にちぢれてひび割れた「かいらぎ」の様子を意図的に制作している。
また、粘土の中に含まれる石などの鉱物が焼成中に爆ぜて表面に現れることを「石はぜ」と呼ぶが、これを意図的に狙って作られたのが「ISHIHAZE」シリーズ。
森美術館で展示中の作品《無題》(2021)※手前。黄色い部分に、本来は偶然に起こる「石はぜ」をコントロールして出している。
また伊賀焼で粘土の中の長石や珪石が半透明の粒々になって表面に現れることがあるが、この現象から着想し、粒を巨大化させて意図的にあとからくっつけて焼いたのが「TENTEKI」シリーズだ。
桑田が手に取ろうとしているのが「TENTEKI」シリーズの試作品。表面のブルーの粒はもともと伊賀焼に見られる半透明の粒の表情を意図的に装飾としたもの。
桑田 財満先生の下で修業をしていた時、先生が焼いた伊賀焼の皿の上にプツプツと出てくる粒状のものを取り除く処理を任されていたんです。そのままだと売り物にならないので。でもその粒が半透明で綺麗だなーと思っていて、その表情を自分の作品に釉薬を意図的につけることで再現してみたら面白かった。釉薬の調合を工夫して、窯の中で溶けて滴れずにもっちりと膨らむようにして、ランダムにつけたり、一定のピッチでつけたりして。その粒を、もはや粒とは呼べないぐらい思い切り巨大化してのせたのが森美術館で展示した作品ですね。
森美術館で展示中の作品《無題》(2025)。「KAIRAGI」と「TENTEKI」を組み合わせた。
茶の湯の世界で賞翫されてきたやきものの表情にフォーカスし、それを並外れて拡大化した桑田の作品は、海外ではセラミックアートの斬新な表現として受け入れられている。
桑田 外国の方は彫刻として見ているようです。僕はジャンルにこだわらないし、興味を持ってもらえればそれでいい。器の形をしていると工芸的な視線から逃れられないので、あえて新しい目でフラットに見てもらえるようにと思って、こうした抽象的な形の大型作品を作るようになりました。
森美術館「六本木クロッシング2025展」での展示風景。
もう一つ、桑田の特徴にド派手とも言える鮮やかな色づかいがある。ビビッドな赤やイエロー、マットなブルー、ギラギラしたゴールド。日本の伝統的な陶芸には使われてこなかった色だ。
桑田 もともとカラフルな色が好きで、北欧の家具やライフスタイルに惹かれていました。今でこそおしゃれなカフェに作家もののマグカップが置かれるようになりましたが、僕が20代の頃はまだそういう場所はなく、もう少し上の世代は喫茶店に行っちゃう。カフェでももうちょっと違う雰囲気のカップを使えばいいのになと思っていました。北欧スタイルを紹介する雑誌などもよく読んでいて、その鮮やかな色使いと侘び寂びの世界を融合すれば、陶芸ファンにも陶芸に無縁の人にも新しいものを見せられるのではないかと思ったんです。最初のうちは食器屋に真っピンクの茶碗を持っていっても、ご飯に合わないからと言って拒絶されましたが。
釉薬の配合と窯の温度によってどのような発色になるか。「KAIRAGI」の釉薬が流れきってしまわずにちょうどいい形でとどまるには炉中をどう設えるべきか。「ISHIHAZE」の表情を効果的に出すにはどの種類の石を使えばいいのか。すべては試行錯誤から生まれるという。
業者から譲ってもらった、デッドストックの長石。粉砕する前の大きいサイズは日本では手に入りにくいので貴重。これを釉薬にするのではなく、作品の表面にくっつけて焼くという。
桑田 陶磁器意匠研究所で教わった技術は作品作りのベースの部分でもちろん役立っていますが、学校で学んだことを「本当かな?」と疑ってかかる性分で。「こうやって作るのが定石だから」と言われても、その理由をちゃんと知りたい。それに決まりごとに沿って作れば標準値のものはできるけれど、そこからはみ出たものを作る時にはその慣例が合わない場合もある。常識外のものを作るには自分が窯を何度も焚き、失敗を重ねて正解を探すしかない。そのうち確実性が増していくんです。
「KAIRAGI」シリーズの制作途中。成形した粘土に無数に刺したピンが、焼成中に釉薬が流れ落ちるのを堰き止め、あの独特の表情が生まれる。
まるで精密機械工場のような桑田さんのアトリエ。前庭に敷いた園芸用の砂利はなんと「ISHIHAZE」シリーズのために使われる。
2年前から敷地内には薪窯も備わった。
今後はどのような作品を作っていきたいのだろう?
桑田 僕が取り組んでいるのは2つあって、一つはアート。こちらは引き続き、自分がワクワクするものを作りたいし、別に陶芸にこだわっているわけでもなく、作りたい形があればそれが鋳造でもプラスチックでもいいと思っています。熱を加えることで素材が形を変えるのが僕の作品の特徴なので、プラスチックを溶かしてプランターを作ったり、ファッションショーのヘアピースなどを作ったりしたこともあります。ただ、年齢を重ねるにつれてワクワク感が減ってきてしまって。気持ちが沸かないと作品を作れないので、異分野の人と積極的に交わって刺激をもらいたいですね。
奥にある巨大な物体は、《桃木(とうき)》(2023年)という高さ4mのブロンズ作品を作る際の鋳型の元となったポリウレタン素材の塑像。完成形では飛び出した枝の先に桃の実を模したブロンズ彫刻を付けた。
オーダーを受けて作ったプラスチックのプランター。青い巨大なバケツをベースに、表面にさまざまなプラスチック製品を溶かしてくっつけた。
カップなどプロダクトのために使う鮮やかな色の釉薬。レシピに従えばスタッフの誰でも調合できるようにしている。
桑田 あともう一つはクラフトです。釉薬の調合などレシピをちゃんと残して、僕じゃなくても誰でも同じものが作れるようにして、プロダクトとして確立させたい。そうすることで多治見の陶磁器産業に何かしら貢献できたらと思っています。まだまだこれからですが。ポケモンとのコラボ商品や、今回森美術館のショップで抽選販売させていただいたカップもその一環です。
抽選発売の《桑田卓郎カップ》。後列のMサイズ各66,000円、各色1点、計5点のみ。森美術館内の「森美術館 ショップ 53」店頭にて抽選IDを受け取り、ウェブ上で申し込む。応募期間は1月28日(水)〜2月23日(月)。応募フォーム:こちら(前列Sサイズは募集終了)
日本の伝統的なやきものにあった表情がクローズアップされ、極端に拡大され、侘び寂びとは正反対の極彩色をまとった時、それがアートになる。やきものの可能性を豊富な知識と技術をベースに押し広げ、さらには陶から離れても、見る者を高揚させる造形を追求する。それが桑田卓郎なのだ。

桑田卓郎|Takuro Kuwata1981年広島県生まれ。2001年京都嵯峨芸術大学短期大学部卒業。02年より陶芸家の財満進氏に師事。07年に多治見市陶磁器意匠研究所を修了。18年LOEWE Craft Prize 2018 特別賞、2022年日本陶磁協会賞を受賞。作品は国立工芸館、シカゴ美術館、メトロポリタン美術館などに収蔵されている。現在は多治見市で制作。

六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠会期 開催中〜2026年3月29日(日)会期中無休開館時間 10:00〜22:00(火曜のみ17:00まで)※最終入館は閉館の30分前まで会場 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
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