53階に出現した地下鉄六本木駅出入口! ズガ・コーサクとクリ・エイトによる“超アナログ的没入型作品”

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53階に出現した地下鉄六本木駅出入口! ズガ・コーサクとクリ・エイトによる“超アナログ的没入型作品”

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森美術館で開催中の「六本木クロッシング2025展」から注目作品をピックアップする特集。まずは、遠目には本物と見紛うばかりの再現力に驚かされ、近づいてみれば段ボールやパッケージの切れ端で形作られ、手作業で色を塗られた手作り感に2度ビックリの、ズガ・コーサクとクリ・エイトの作品からご紹介しよう!

TEXT BY MARI MATSUBARA
PHOTO BY NORIO KIDERA
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO

「六本木クロッシング2025展」の最初の大きな展示室の一番奥に見えるのは地下鉄の出入口?! 階下へと吸い込まれそうな錯覚に陥らせるのが2人組のアーティスト、ズガ・コーサクとクリ・エイトの作品だ。これまで関西を中心に活動してきた彼女たちの、初めての東京での展示が面白すぎる! 2人はいったい何者? 作品が制作された神戸のスタジオに会いに行った。


右)ズガ・コーサク|本名・岸川のぞむ。1972年生まれ。大阪市在住。絵画担当。某会社の経理担当。
左)クリ・エイト|本名・岡本和喜。1970年生まれ。西宮市在住。造形担当。近年の作品に《デコトラ》(2021年、鞆の浦de
ART/福山)、《地下道》(2023年、新開地アートひろば/神戸)、《新御堂》(2024年、スペース〇〇/尼崎)など。写真は森美術館に出展中の作品を制作した場所、神戸市の「新開地アートひろば」のスタジオにて。

——お二人は1995年頃、神戸・新開地でアーティストの酒井敏雄氏が指導していた「木星工房」に通い、出会ったそうですね。そこで銅版画や木工を習い、それぞれが個展も開催していたとか。会社勤めをしながら創作活動をしていたのですね?

ズガ 私は今もフルタイムの会社員をしながら土日だけ制作しています。プロとかアマとかあまり考えたこともなくて。

クリ 30年前から気持ちはずっと「プロ」やね、私たち。私は最近会社を辞めて、今はアート一本に打ち込めてますけど。どっか就職先あったら教えてください(笑)

クリ・エイトさん

見慣れた風景を廃材で作る

——2009年に2人展を開くことになり、初めて《駅》という作品を発表したそうですね。今回と同じように、段ボールなど身近にある廃材を使った作品でした。なぜ「駅」を作ろうと思ったのですか?

ズガ ……忘れたな。

クリ うーん、ぶっちゃけ思いつきだと思う。二人とも駅ならええなぁって思ったんです。手法に関しては私が立体を作れて、ズガは絵を描くのが得意なので、「じゃあ、私が何か作るから、あんたは絵を描きや」と言って始まったんです。

ズガ・コーサクさん

ズガ どうせならそれぞれの作品を持ち寄って並べるよりも、二人で1個の作品を一緒に作ろうと思って。二人とも好きなものが似通っていて、それでこれまで「駅」「交番」「文化住宅」「路地裏」「銀行」などを作ってきました。どれも街中の見慣れた風景ですね。

ズガ・コーサクとクリ・エイト《地下鉄出口 2》2025年(制作協力:新開地アートひろば(神戸)
展示風景:「六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年)

——今回は地下鉄六本木駅出入口とその周辺を制作されましたが、そこに行き着いたのはどんな流れで?

クリ 最初はトイレを作ろうと考えていたんです。森美術館がある六本木ヒルズ森タワー53階にはトイレが1カ所しかないでしょう?
もう1カ所、私たちでそっくりなのを作ろうかと思ったのですが、打ち合わせのために上京し、53階のトイレを見たら、あまりにも綺麗すぎて……

ズガ 私たちはいつも段ボールで作り、手で色を塗っているので、無意識のうちに汚れたり、斜めに傾いたり、ヨレヨレになるんですよ。でもあの真っ白でツルツルのトイレを段ボールで作り、絵の具で再現するのはすごく難しいだろうなと感じて、やめました。だって、やりようがないもん。

クリ せっかく東京に来たので富岡八幡宮に観光に行った時、最寄りの地下鉄駅の出入口を見て、あ、これもいいなーと思っていました。そうしたら森美術館の近くにある六本木駅の出入口も古くて感じがいいので、これやな、と創作意欲が湧きました。

ズガ やる気は湧いたんですけど、駅とか地下道ってタイルがめっちゃ多くて描くのが大変なんです。いつも嫌だ、嫌だと言いながらやっています(笑)

左)階段の下り口の、吹き溜まりのような風景をみごとに再現。
右)喫茶店に入る階段は、実物はもっと長いがスペース上、半分にカット。フロア案内板の文字や写真も丁寧に再現されている。

——どんなプロセスで制作するのですか?

ズガ 私たちは通常、現場制作なんです。展示する場に行って、そこで2カ月ぐらいかけて作品を完成させます。ところが今回はその方法では無理なので、地元・神戸の「新開地アートひろば」のスタジオを3カ月間借り切って制作しました。あらかた作ってしまってから美術館に搬入し、設営しました。

クリ スタジオの出入口を通るサイズに分割しないといけないから、それを考えるのが一苦労でしたけど。

「新開地アートひろば」スタジオ内での制作風景。細かいタイルを水彩絵の具で描いていくズガ・コーサクさん(制作風景:ズガ・コーサクとクリ・エイト 協力:新開地アートひろば)

自転車を制作中のクリ・エイトさん(制作風景:ズガ・コーサクとクリ・エイト 協力:新開地アートひろば)

スタジオ内は天井高に限りがあり、駅名の看板などは組み立てられず下に下ろされたまま。美術館に搬入後、組み立てた(制作風景:ズガ・コーサクとクリ・エイト 協力:新開地アートひろば)

点字ブロックは正方形のダンボールの上に丸いスポンジを切って貼り、ペンキで色を塗った。乾いたと思って踏むとジュワッとペンキが染み出し、靴下を汚すので制作仲間に不評だった(制作風景:ズガ・コーサクとクリ・エイト
協力:新開地アートひろば)

階段袖壁の石材の模様を再現するために、ゴムのスタンプを作ってグレーの斑を押していった。

階段のコンクリートの風情はちぎった新聞紙で表現されている。

ズガ 展示室の防火シャッターの位置を避けたり、いつもとは違う気の使い方をせざるを得なかった。スプリンクラーの機能を邪魔しないよう、駅出入口のひさしを段ボールじゃなくてメッシュにしなくてはならず、そんなこと初めてだったので面食らいました(笑)

クリ 最初に現場の写真を何枚も撮ります。ズガを横に立たせて撮っておくと、だいたいの寸法がわかるので、そのサイズ感だけで目分量で作り始めます。いつも詳細な設計図などは作らず、二人が共有するための簡単なラフスケッチしか描きません。

ズガ 立体が先にできてきて、後から私が追っかけて絵を描く感じです。どこを立体で作り、どこを絵画にするかは、阿吽の呼吸でなんとなく決まるかな。「ここは出っぱらせようや」とか、「この部分は立体で作るのは面倒だから、絵で頼むわー」とか。そんな感じです。

——なぜ主に段ボールを使うのですか?

クリ 別に段ボールじゃなくてもいいんですが、とにかく基本的にはタダで手に入るから。大量に必要ですし。しっかり立たせなければならない部分には木材を入れています。

左)制作スタジオに大量の段ボールが運び込まれた 右)ドアノブはアルミホイルで(制作風景:ズガ・コーサクとクリ・エイト 協力:新開地アートひろば)

ズガ あとはクリちゃんが個人の作品のために集めているビニールのパッケージもよく使います。

クリ 椿屋珈琲店の看板の黄色は、ごみ袋のビニールを重ねて、透け感も出したりしてね。お菓子の袋などのパッケージは日頃から友達がたくさん集めて持ってきてくれるので、助かっています。

制作中、意見の食い違いでたまに喧嘩をしながらも、仲良しの二人(制作風景:ズガ・コーサクとクリ・エイト
協力:新開地アートひろば)

よく見るといろんなパッケージのフィルムが貼られていることがわかる。

左)喫茶店の看板の、灯りで光る様子まで再現。
右)送水栓の中央にある張り紙は、実際に貼ってあったので忠実に再現した。

立体と平面、虚構と現実が入り交じる不思議さ

——お二人の作品は「立体」と「平面」の絶妙な取り合わせが面白いですね。立体で表現していた風景が、あるところから書き割りになる……

ズガ それは私も面白いと思ってます。

クリ 材料が手に入るなら全部本物で作ればいいんですが、そうはいかないから段ボールで作ってます。立体で収まらない部分は遠近法で描いたらいい。この脇にある自転車も、私物の自転車をそのまま置いてもよかったんですが、やっぱりハンドルが絵の中に挿さってないと面白くない。じゃあ実物の自転車のハンドルの先を切りますか?ってことになって、いや切られへんから、やっぱり自転車は丸ごと段ボールで作らないといけない(笑)

ズガ 絵に描かれたガードレールに寄りかかっているわけだから、ハンドルはガードレールより車道側に突き出ていないとおかしいでしょ。私たち、これでも結構リアリストなんですよ。

——(爆笑)

自転車の右ハンドルの先は立体ではなく、絵として描かれているのがわかるだろうか?

クリ しゃーないなー、面倒くさいなー、とか言ってニヤニヤしながら作っています。

——でも、よく見ると作品の地面に本物の吸い殻や落ち葉が落ちていますね。

ズガ 本物のごみが作品の中にあるのは意外と面白いと感じました。ごみをわざとらしく手で作ることもできるけれど、本物が混ざっても面白い。なるほどなーと思いました。本当に六本木の交差点で拾ったごみなんですよ。

タバコの吸い殻や落ち葉は本物。コンクリートの隙間に生えた雑草は二人が紙で制作した。

突如、異空間が出現する面白さ

——「六本木クロッシング2025展」のテーマは「時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」です。お二人はありふれた風景を作品にすることで、日常の感情や記憶がいかに脆く、失われやすいかを示しているように感じますが。

クリ ごめん、そういう意識ないです(笑)。作る前は何を考えていたかって? その場所を再現してみたい、自分で作ってみたいという一心ですね。

ズガ 作りたいってテンションが上がるものを作る。作りたいと思わない風景もあるんです。テンション上がるのは……汚いもんかな? でも以前にはデコトラも作ってるしな。

クリ 場所との相性も大事やね。いつもは現場制作なので、ある場所に突然まったく違う空間が現れるという面白さを余計に狙っています。ズガが、「53階という地面から遠く離れた場所に地下鉄の出入り口ができるのは面白い」って言って、その時初めてそうやなって思いました。

ズガ 以前、2階建ての長屋の中にバスを作って入れたんですが、天井が低いのでバスが天井を突き破って上の階まで出っぱっていた。ああいうの面白かったな。最近はネタを搾り尽くして、なかなか新作を思いつかなくて困ってます。

クリ 小さなアイディアはいっぱい頭の中にあるのですが、展示場所との兼ね合いが大事だし。あとは自分の力量に見合うかどうかの問題もある(笑)。若い時は1年に3つも作ったけどねー。

ズガ オファーがあって始まるものだから。「ここに展示して」と言われてから、喫茶店に二人集まって、これまで温めたアイディアを持ち寄って相談します。何を作るか決めるまでが一番しんどい。決まったら、もう半分はできたも同然。あとはただ手を動かすのみです。

ズガ・コーサクとクリ・エイト《地下鉄出口 1a》(部分)2025年(制作協力:新開地アートひろば(神戸)
展示風景:「六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」森美術館(東京)2025-2026年)本展のポスターも再現。文字は描いたのではなく、パッケージを切って貼ったもの。

——お二人の作品は、展示最終日にパフォーマンス大会があり、それに参加した人たちと一緒に作品を解体し、好きな破片を持ち帰ってもらうのが定番だそうですね。作品が残らないことに寂しさはないですか?

クリ ないな。単に置く場所がないからという理由だけです。

ズガ その場所を元の状態に復帰しないといけないから、作品は残せないんです。ギャラリーの壁にじかに描いた絵は白く塗りつぶさないといけないし。それに、ある一定期間に突如として異空間が出現したから面白いのであって、ずっとあっても、ねえ。

クリ 今回は会期終了後、解体して分配するのかどうか、やるとしてもそのやり方を検討中です。

——展覧会の来場者の多くは、お二人の作品の前で自撮りをしています。

ズガ それはすごく嬉しいことです。作品の中に鑑賞者が入って成立するというのが面白いなと思っているので。

クリ いつもは来場者が作品の上を踏んだり、立ったりしてもいいんです。段ボールやし、ヨレヨレでグラグラなのにもたれる人がおるからね、毎回事件が起きます(笑)。でも、たとえ壊れたとしてもそれを楽しみたいという姿勢で作ってますから。今回の展示は4カ月近くもたせないとあかんので、立ち入り禁止だし触れてはあかんのやけど、その代わり写真を撮って楽しんでください(笑)


六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠
会期 開催中〜2026年3月29日(日)会期中無休
開館時間 10:00〜22:00(火曜のみ17:00まで)※最終入館は閉館の30分前まで
会場 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)