1998年9月、アークヒルズに会員制クラブ「アークヒルズクラブ」が設立される際、インテリアから家具まで全体のデザイン設計を手がけたのがコンラン卿でした。以来20年にわたって当時の姿を変えることなく日々大切に使い続けられているクラブの内部(通常非公開)を、今回の特集を機に特別な許可を得てご紹介します。
photo by Kiichi Fukuda text by hillslife.jp
(2018.2.14)
連載コンラン卿からのメッセージ
Article 3
photo by Kiichi Fukuda text by hillslife.jp
(2018.2.14)
1998年の完成から今年の9月で20年。その間、大きな改修もなく大切に使われてきたクラブに足を踏み入れてみると、まさに森稔会長が夢見た通りの空間が今も鮮やかに広がり、インテリアから家具、備品に至るまで、コンラン卿が当時手がけたデザインがほぼそのままに使われています。会員制クラブのため通常非公開ながら、今回の特集のために特別に許可を得てその一部を紹介します。
数年前、フランス・ロンシャンにあるル・コルビュジエが建築した教会を訪れる機会があった。長い間、この教会は私にとって、20世紀建築の中で最も気になる存在であったので、この訪問は非常に貴重な体験となった。
それまでロンシャンへの私の理解は単に写真や模型に基づいたものであったが、驚くべき現実を目前にして、私の理解が取るに足らないものであったことを実感した。
極寒の2月、雪で覆われた原野の果てからロンシャンは次第にその姿を現した。
その情景は、建物の性質と完全に調和するかのように、清冽な沈黙をつくり出していた。外観周辺を歩いてみるにつれ、その曲線、形態、そして量感が、移り変わる新鮮な景色を生み出し、その一つ一つが、私の想像をはるかに超越していた。
こうして私は改めて天才、ル・コルビュジエを再認識したのである。
ロンシャンへの訪問から15年経った1998年、私は森稔氏よりアークヒルズクラブのデザイン設計の依頼を受けた。そして、森氏のル・コルビュジエ・コレクションの一部を展示するためにクラブのスペースが提供されることを知り、私は興奮した。それはアーティスト、彫刻家としての彼の作品を広く知ってもらうために格好の機会であり、新しい時代の幕開けにふさわしい、と感じたからだ。建築ではない他の創造性における才能こそが、彼を二十世紀における最も優れた建築家として際立たせているのだから。
同世代の他の建築家やデザイナーと同様、私はル・コルビュジエの作品から実に多くの影響を受けている。今世紀初頭にデザインが装飾芸術に多大な影響を受けたことを忘れてはならない。中でもル・コルビュジエはこのアプローチに果敢に挑んだ。この試みのために彼の初期の作品や理論は過去のアンチテーゼ、また革新的思想の象徴として必ず論争の的となった。この時期にル・コルビュジエが試みた建築とはまさしく彼の挑戦の表れでもあった——つまり「住むための機械」を創造することである。しかし同時に、ル・コルビュジエは、自らが構築する建造物の合理性や理論性を強調することを重要とする一方で、美しさも明確に表現していた。
例えば、ヴィラ・サヴォアの曲線的な浴室。この初期作品は、私にとって、ル・コルビュジエの美術作品や彫刻が、後期になってより表現ゆたかに成熟するであろうことを予期する重要な証となっている。あらためて彼の作品を評価してみれば、いまなお感性あふれるフォルムが私の中で共鳴し、至上の喜びを与えてくれるものだということがわかる。
——『CROSSING THE PARALLEL』(森ビル / 1999)より抜粋
人・情報・文化の発信拠点として、1998 年9月にアークヒルズに設立された会員制クラブ。以来、20 年間にわたり、変わらない安心感をもって訪れる人をやさしく包み込むとともに、快適な都市空間における新しい文化の愉しみ方を提供し続けている(通常非公開)。www.arkhillsclub.com
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