共に建て、共に作り上げることを通して地域再生に取り組む若き建築集団「アセンブル」が、現代アートの登竜門として知られる「ターナー賞」の2015年の受賞者に選ばれたことの意味とは?
Edit & Text by Megumi Yamashita
Photos Courtesy of Assemble
連載ロンドンは変わり続ける
Report 2
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イギリスにおける現代アートの登竜門、ターナー賞。テートの主催で、イギリスで活動する50歳以下のアーティストに与えられる権威ある賞だ。デミアン・ハースト、アニッシュ・カプーア、ウォルフガング・ティルマンスなど、錚々たる面々が過去の受賞者に名を連ねている。そんな世界が注目するターナー賞に、今回は異変が起きた。建築家、アーティストなど20代の男女16人で構成される「アセンブル」が受賞したのだ。
アセンブルとは何者なのか? 受賞が決まる直前、彼らのスタジオを訪問する機会を得た。場所はオリンピック会場近くの運河や高速道路に囲まれた地区。「シュガーハウス・スタジオ」が彼らの本拠地だ。メンバーの一人、ルイス・ジョーンズが案内してくれた。「この一帯はオリンピック後の再開発推進地区で、取り壊しになるまでの期間、市の援助で旧工場を安く借り上げることができたんです」。まずは工場をオフィスとワークショップ、それにイベント用に貸し出せるスペースに改築。その後、隣の敷地にもう一つ「ヤードハウス」が建てられた。
「こちらの建物は設計から建設まで、すべて自分たちでこなしました」というから驚きだ。中には大小16のスタジオがあり、地元のクリエーターが活動するミニ・コミュニティーのような感じだ。外壁のタイルは生コンクリートに顔料を加えながら一枚ずつみんなで作ったものとのこと。ここには、それぞれのカラーを尊重しながら、みんなで一つのものを作り上げる、という彼らの基本姿勢がよく表れている。ジョーンズを始め、主要メンバーはケンブリッジ大学で建築などを学んだ言わばエリートだ。卒業後、一旦就職もしたが「もっと直接社会につながり、自分の手で作ることがしたくなった」という。こうして同志が集まり、「アセンブル」として活動を始めたのである。
プロジェクトは閉鎖になったガソリンスタンドを利用した仮設映画館など、ポップアップ的な企画から始まった。次第に低所得層の子供のための公園、伐採された木を再利用した公園用家具など、公共性のあるプロジェクトへと拡大していく。時代のムードを反映した新鮮な作品は、建築界では一目置かれ始めた。とはいえ、現代アートを対象としたターナー賞候補になったことには、本人たちも含め誰しもが驚いた。そして候補にとどまらずに受賞したことは、アート界にとって大事件なのである。
Building for Local Communities
今回、受賞の決め手になったのは、リバプールのコミュニティー再生プロジェクト「グランビー・フォー・ストリーツ」である。失業や人種問題から80年代に大暴動があったことでも知られる悪名高き地区にある、4つのストリートを再生するプロジェクトだ。ここも元はイギリスでは典型的な1900年頃に建てられたレンガ造りの家が並ぶストリートだった。ところが移民や貧困層が多く、81年の暴動の後は荒廃の一途をたどる。国や区が家を買い取り、幾度となく再生を試みたものの功を奏さず、200軒のうち70軒を残して廃屋化。取り壊しを前提に30年近く放置されていた状態だった。
一方で、今もここに暮らす住民による取り壊し反対運動も地道に続けられてきた。5年ほど前からは、家の前に草花を植えたり、ストリートマーケットを開くなどで、地域の志気も上がり始める。そんな頃、リーマンショック後の予算カットで、区による取り壊し計画がキャンセルに。2011年に地域住民は住宅の管理を区より引き継ぎ、アセンブルがその再生計画に参加することになったのだ。
アセンブルは、まずは住宅のリノベーション工程自体がコミュニティーの活性化につながるようにと考えた。複数の助成金を募り、地域住人と共同で改築を手掛ければ、コストを抑えられるだけでなく、職業訓練にもなるというわけだ。15年間空き家だった元店舗は工房へと改築され、建具や家具、タイルやカーテンなども地域住人と共同での開発が始まった。
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