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連載デザインがつなぐロンドン

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The Design Museum

デザインを通して「共に学ぶ場」をめざす

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photo_Gravity Road © the Design Museum

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1989年の創設以来、デザイン界をリードし続けてきたロンドンの〈デザインミュージアム〉が2016年の秋、移転オープンして話題を集めた。社会や環境が抱える課題に対してデザインに何ができるかを見つめつつ、ワークショップを通して来館者と共にデザインが果たす役割や影響を学んでいく。今回の特集では、そんな〈デザインミュージアム〉の、特に「学び」をめぐる取り組みに注目しながら、都市とデザインの新たなつながりについて考えてみたい。

text by Megumi Yamashita
photo by Haruko Tomioka

デザインの殿堂の名にふさわしい、中央を天井まで3フロア吹き抜いた大空間。どこからでも屋根のフォルムが背景に見える。

世界的なライフスタイル・リーダーとして知られるテレンス・コンラン卿によって、ロンドンに「デザインミュージアム」が開設されたのは1989年のこと。2016年11月、約3倍の広さを持つ新館へと移転を果たした。新しい建物は、元「コモンウェルス・インスティチュート」という英連邦国の展示施設を改築したものだ。1960年代のモダニズムを代表するアイコン的な建築だったが、閉鎖になった後、長らく再開発の見込みが立たずにいた。

そんな中、その建物を含む周辺の土地を買い上げたディベロッパーが、そこに集合住宅を建設する条件として、保存指定のあるこの建造物を文化施設として再開発するよう求められる。その結果、施設の拡張を計画していたデザインミュージアムへの実質上の寄贈が実現した。

改築はコンペを経て、内観をジョン・ポーソンが、周囲の集合住宅を含めた外観修復はレム・コールハース率いるOMAらがそれぞれ手掛けている。

テレンス・コンラン卿|Sir Terence Conranデザインミュージアム創設者/1960年代に「コンラン・ショップ」の前身となる「ハビタ」をオープン。その審美眼とビジネスセンスで、レストランやホテル経営でも成功を収める。1980年代には「コンラン基金」を開設。デザインミュージアムの創設や、学生や若手デザイナーへの支援を惜しみなく行ってきた。

この建物の特徴は何と言っても広げたハンカチを2カ所で摘んだようなフォルムのシェル構造の屋根。丹下健三の代々木体育館のように当時の最先端をいくデザインと構造を持つ。その特徴を生かすため、天井まで建物の真ん中を3フロア吹き抜いた内観は圧巻だ。どこからでも彫刻的な屋根を内側から望め、建物本来のデザイン性が強調されている。

 

デザインの重要性を伝える多角的な学びの場
Learn How to Solve Problems with Design

 

長年の悲願であった広い新施設を得て、ミュージアムは創設から引き継がれてきたDNAである「学び」に、より力を入れる方針を打ち出す。「単に秀でたデザインを展示するのではなく、デザインが世の中にもたらす役割や影響を考えるフォーラムを目指しています」と館長のデヤン・スジックは言う。

その中心となるのが無料で入場できる「Designer Maker User」と題された常設展だ。20世紀以降の建築、プロダクト、ファッション、グラフィック、デジタルなどが、どのようにしてデザインされ、作られ、使われてきたかを総合的に展示する。併せて学生向けのワークショップを始め、家族向け、大人向けのプログラムも各種あり、年間6万人の参加を目標にしているという。

左上より時計まわり) 常設展「Designer Maker User」では25カ国から一般公募された200点を展示。エジンバラ公を困惑させた赤いバケツもここに展示されている/企画展「Fear & Love」より、セーターなどをリサイクルして繊維に戻す展示/「Designer Maker User」の内観/毎年恒例のデザイン大賞展。各カテゴリーごとにノミネートされた作品が並ぶ。

例えば、14〜16歳向けの「デザイン・ヴェンチューラ」は、専門家の指導を受けながら、グループでプロダクトを開発するというプログラムだ。年間1万人ほどを参加対象に、最優秀作は製品化され、館内のショップで販売もされる。デザインと事業のつながりを若い学生に体験してもらうこともその目的だ。同様に館内のスタジオをベースに、駆け出しのデザイナーをサポートする「デザイナーズ・イン・レジデンス」も、旧ミュージアムから続く企画である。イギリスでは主要の美術館や博物館は国公立で、大英博物館やテートも常設展は無料という恵まれた環境にある。一方、デザインミュージアムは私設。企業や慈善家、ボランティアによる支援は欠かせない。オリジナルの商品の企画販売もワークショップとリンクして進めていく計画だという。

今回、開館式のために訪れたエリザベス女王の夫であるエジンバラ公は、常設展示の中にあるプラスチックのバケツに困惑した様子を見せた、と一部のメディアが茶化すように取り上げた。たかがバケツであっても、それは誰かによってデザインされ、作られ、使われる。どんなものにも「デザイン」は不可欠なのだ。そして、今、ものを作ることだけでなく、社会や環境が抱える問題の解決にも、デザインの役割がより重要になりつつある。デザインミュージアムは未来に向け、そのことを伝えようとしている。

The Design Museum

デザイン・ミュージアム
住所:224-238 Kensington High Street, London, W8 6AG 開館:10:00〜18:00(第1木曜〜20:00/年中無休) 料金:特別展以外は入場無料 ※デザイン関係の書籍や資料を揃えた図書館も利用可/各種のワークショップやトークは事前予約が必要。レストラン、カフェ、ショップもあり。


2017年1月1日発行『HILLS LIFE』プリント版(No.82)より転載]

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