デザインミュージムによる、デザイナー育成の中心的プロジェクトに「デザイナーズ・イン・レジデンス」がある。毎年、国内外を問わず、社会に出て5年以内のデザイナーや建築家を募集。4人をセレクトし、場所や資金、作品制作に必要なサポートを提供するというものだ。年によって課題が異なり、今年は「OPEN」がキーワード。それぞれ地域のコミュニティの活性化につながるプロジェクトを展開した。その中の2人を紹介しよう。
Main Photo Courtesy of Andrea de Chirico
text by Megumi Yamashita
材料調達から製造までスーパーローカルな挑戦
Production as a Way of Learning
グローバル化やオートメーション化で、昔ながらの製造業が衰退するなか、イタリア出身のアンドレア・デチリコが推進しているのが「スーパーローカル」というプロジェクトだ。イタリアとオランダに続き、今回、ロンドンでもその試みが行われた。
「材料調達から製造まで、地元でのものづくりを目指すプロジェクトです。今回はデザインミュージムから自転車で行ける範囲で、2.5キロ圏内で作れるものとして、ドライヤーとスツールをデザインしました」
ワークショップの参加者は、エリアを探索しながら素材を仕入れ、実際に作品の制作まで行うことになる。参加費には材料費やランチ費も込み。地元レストランの発見も含まれているのがイタリア人らしい。
スツールなら、合板をデザインに従ってコンピュータ制御のマシーンでカットし、組み立てる。最後に布の座面を張るだけと、工程は極めてシンプルだ。
「地域の交流や自分の手でものを作る体験を通し、これからの社会のあり方のヒントや希望が見えてくると思います」
実際、自作できる家具などのための、ダウンロードできるデジタルな‘型紙’は増えてきている。テクノロジーの発達で地元から奪われた産業。それが再びテクノロジーの力で地元に戻る可能性が見えてくる。
アンドレア・デチリコ|Andrea de Chiricoローマの ISIA, プリマス大学、アイントホーフェン工科大学でデザインを学ぶ。シンプルな日常品をデザインし、各地区で共同製作する「スーパーローカル」を開設し、小さな社会革命を目指す。PHOTO BY HARUKO TOMIOKA
地域社会の多様性を浮き彫りにする
Talking about the Diversity of Individuals
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フランス出身のアリクス・ビゼは、作品を通して社会問題を提起するクリエイターだ。自身が混血でアフロヘアーゆえ、ストレートヘアを「標準」とする社会に疑問を感じてきた。「髪の質や色は人により千差万別。それは個人の遺伝的背景や地域性を示すものです。そこで特定地域で集めた髪を作品にし、多様性を浮き彫りにできればとおもったのです」
髪を通して人種的、社会的、文化的、経済的、年齢的な違いへの気付きを促そうというものだ。
作業はロンドンの高校でワークショップを行いながら共同で進められた。まずは理髪店を回って散髪された髪を収集。「ロンドンは人種のるつぼなので髪もバラエティー豊か。それでも地域的特色はあります」。エコ素材とも言える人毛を使ってクラフト技術を学ぶことも目的の一つだ。
集められた髪はトーン別に仕分けされ、フェルトに加工。その後、裁断、縫製され、パーカーに仕立てられた。フェルトを型押したHAIRと、地区の郵便番号もアップリケされ、毛質やトーンの違いがわかるようなデザインになっている。文字通り、地域を構成する人々のDNAを一つに織り上げた作品というわけだ。多様性への気付きを促すと同時に、コミュニティの団結を図るプロジェクトとしても大いに意義があるだろう。
アリクス・ビゼ|Alix Bizetソルボンヌ大学でアートを学んだ後、セントラル・セント・マーチンズ芸術大、アイントホーフェン工科大学でデザインを学ぶ。人間の行動や心理、置かれた環境との関係を追求した社会性のある作品を追求する。PHOTO BY HARUKO TOMIOKA
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