housing of your choice

間取りや内装に束縛されない、自分好みの住まいの実現

2022年1月に竣工した虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワーの高層フロアに、内装や間取りを購入者が自由に設計できるスケルトン状態の住戸が存在する。日本の新築マンションでは珍しいこの画期的な提案をリポートする。

TEXT BY MARI MATSUBARA

専有部分、共用部ともにアメリカのインテリアデザイナー、トニー・チーがデザインを手がけたことで話題となっている虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワーだが、43階〜54階のフロアに、内装や仕上げをしないままの物件が数戸存在することをご存じだろうか? このスペシャルな物件の場合、購入者は構造体である梁や柱以外、購入後に工事をしてどのような間取りにもレイアウトでき、内装も好みのままにしつらえることができるのだ。

買う側がフリープランを描ける夢のような物件だが、まったくの白図ではイメージが湧きにくい。そこで、国内外の建築家やインテリアデザイナーに声をかけ、モデルプランを提案してもらったという。新素材研究所、パトリシア・ウルキオラ、リッソーニ&パートナーズ、ニコラ・ガリツィアなど、そうそうたるメンバーが各々の持ち味を発揮し、まったく違うテイストのライフスタイルを提案している。

❶ 〈新素材研究所〉によるプラン[約500㎡]

〈新素材研究所〉は現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之が率いる建築設計事務所で、「旧素材こそ新しい」をモットーに現代の建築業界においては異色のアプローチで建築に取り組んでいる。代表作の「江之浦測候所」や「MOA美術館改修」などパブリックな例が目立つが、実は個人邸に関しても中古物件の全面改修で実績を積んでいる。規格材ではなく、無垢の木材や石材を多く用い、日本の伝統的な工法を取り入れて生み出されるインテリアが特徴だ。

 

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1/6ゲストダイニング。床は屋久杉材の乱尺張(らんじゃくばり)。高層階ならではの眺望を堪能する檜カウンターには水回りも完備し、ときには鮨職人を呼んでここを鮨カウンターにするというアイデアも。スツールやダイニングチェアは〈新素材研究所〉オリジナル。奥の畳敷きコーナーは屏風や古美術を置くのにふさわしい。©New Material Research Laboratory
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2/6ゲストダイニングの隣にあるティールームは立礼式茶道にも対応。左に一段上げた畳敷の茶室。縦桟の障子の向こうには、茶庭の露地に見立てたスペースが隠れている。©New Material Research Laboratory
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3/6落ち着いたトーンで統一されたファミリールーム、奥にライブラリー。壁には芦野石を使い、日本的で柔らかい印象を与える。多孔質の自然石は調湿性にも優れている。©New Material Research Laboratory
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4/6マスターベッドルーム。縦桟の障子が外光を柔らかくディフューズする。窓際のペリメーターゾーンは、日本の縁側や軒下を感じさせるよう、天井に木材を使っている。©New Material Research Laboratory
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5/6バスルームの壁や床には緑がかった十和田石を使う提案。多孔質の十和田石は濡れても乾きやすく、また素足に心地よい。©New Material Research Laboratory
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6/6ゲスト用ベッドルーム。入り口には沓脱石をしつらえ、天井も竿縁天井で、さながら旅館のような雰囲気だが、低いベッドで快適性を確保。©New Material Research Laboratory

〈新素材研究所〉によるプラン(平面図)©New Material Research Laboratory

〈新素材研究所〉の榊田倫之氏は、今回提出したモデルプランを、「自分たちがこれまで手がけてきた建築を標準化し、集結させたもの」だと語る。

榊田倫之|TOMOYUKI SAKAKIDA
1976年滋賀県生まれ。日本設計を経て2003年榊田倫之建築設計事務所を設立。建築家・岸和郎の東京オフィス兼務の3年間の後に、杉本博司と共同で2008年〈新素材研究所〉を設立。現在、同所代表取締役所長。

「これまで我々は、築30〜40年といった個人の住居物件をいったんスケルトンにして、全面改装するという仕事をいくつかやってきています。今回もそれが新築のタワーマンションであるというだけで、いつも通り、〈新素材研究所〉のノウハウを集結させてプランに取り組みました。一番の特徴は、日本の素材だけで空間を構成していくということでしょう。木なら針葉樹、石は凝灰岩系、壁は漆喰。つまり従来の建設業界では好まれない素材です。でもどうしてそれらをあえて使うかというと、ソリッドで厚みのある素材を使うことで、見た目だけでなく触覚や嗅覚にも心地よい空間を作り、時間の経過とともに味わいが増していく変化を楽しむような住まい方を提案したいからです」

「たとえば無垢の木の床は堅いものを落としたら凹んでしまいますが、蒸気を当てると膨らんで元に戻る力があります。漆喰も凝灰岩系の石材も同じく、多孔質な自然の素材は調湿力に優れています。その快適さは住んでみて初めて感じるものでしょう。また、美しい木目や石の表面からは超越した時間を感じ取れます。本来、自然とともにあった日本の住宅の豊かさを、この大都会の高層レジデンスにも取り入れることができるのです」

——どのような購入者を想定して、このプランを作ったのですか?

「いくつかの国を頻繁に行き来し、すでに家を1〜2軒はお持ちで、東京にも拠点が欲しいというご夫妻を想定しました。500㎡を超える広さですから、普通ならベッドルームを5つぐらい依頼されそうですが、そうではなく、夫婦主体の迎賓館的な家をイメージしました。たまに東京にやってきて、夫婦ふたりの時もあれば、子供が合流する場合もある。ゲストを招いて社交もできる。そんなシーンにフレキシブルに対応する間取りを考えました。ダイニングはファミリー用とゲスト用に分けて、間にキッチンを挟むことで両方に対応できますし、引き戸を開放すれば、ひとつながりの空間としても使えます。また、バスルームをご主人用と奥様用、別々に設けました。これも、最近の欧米のハイエンドな住まい方を取り入れた結果です」

「これまで日本の建設業界は、分譲住宅を金融商品と捉える構造で成り立ってきたように思います。つまり、銀行は新築物件という“商品”の価値を優遇評価して融資し、ディベロッパーはそれと呼応して、最初からインフィル(間仕切り・内装・設備)も含めてコスト計算上完璧に仕上げた“商品”を作る。その結果、“良質な空間を作る”という本来、建築家が目指すべき建築の文脈とズレが生じることもあるようです。しかし、もう過去に何軒か家を立てたことがある、経験豊かな方々の中には、そうした単なる商品としての住まいに魅力を感じない人も増えてきたのではないでしょうか? ですので、スケルトン状態の住戸を用意して、購入者とともに新しいアプローチで居住空間を作ろうという森ビルの意識は、そうした潮流に合っていると思います」
 

PORTRAITS BY HIROAKI SUGITA

❷ パトリシア・ウルキオラによるプラン[約500㎡]

〈新素材研究所〉のプランと同じ部屋を、イタリアを拠点に活躍する建築家兼デザイナー、パトリシア・ウルキオラが手がけたらどうなるか? 結果はまったく異なる雰囲気のプランが提案された。想定されるターゲットは経営者として成功を収めた超富裕層カップルで、アート収集が趣味。世界を飛び回る二人暮らしのための家なので、1ベッドルームながら、アートギャラリーが広く設けられたプランだ。

 

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1/7ダイニングルーム。特注の大理石の象嵌テーブルやユニークな照明が目を引く。窓に近い柱にはピンクオニキスを巻き、観葉植物のプランターまで大理石と、高級感のあるインテリア。
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2/7キッチン。上質なグリーン大理石のアイランド型カウンターに大型の照明が下がり、料理というショーを見せる舞台のような空間。床はウルキオラデザインの寄木フローリング。
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3/7天井は左官仕上げで、一方にアールをつけている。カッシーナを中心としたウルキオラデザインの家具やカーペットをクラシックなデザインアイコンと組み合わせる手腕や、配色のセンスはさすが。柱を巻く赤紫色のロッソレバント大理石が現代的なゴージャスを表現する。
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4/7広々としたアートギャラリーが設けられているのが特徴的。ガラスの壁面を立て、アートピースを飾れるようにしている。可動式スポット照明も便利。壁はトラバーチン貼り、柱はグリーン大理石巻き、天井は左官のラフ仕上げ。この部屋はアートを通じた社交の場となりそう。
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5/7ベッドルーム。オーク材の壁、ベッドのヘッドボードは革のリブ張りと、落ち着いたトーンの中に素材のゴージャスさが光る。ベッドの背面のバスルームと隔てる、リブ付きガラスのパーティションも非常にユニーク。空間を完全に仕切らず、見えるようで見通せない曖昧な視界を与える。
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6/730㎡のベッドルームの隣には24㎡もの大きなウォークインクローゼットを完備。壁3面に十分な収納スペースを備え、広々としている。巨大なベルベッドのオットマンやカラフルなラグはもちろんウルキオラデザイン。
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7/7バスルーム。意外なことに檜のビルトイン・バスタブを提案。水回りの大理石、正面の壁のオーク材、シンクの上の半透明のリブガラスといった異なる質感の素材が、統一された色のトーンで調和する。

 パトリシア・ウルキオラによるプラン(平面図)

それぞれの空間が区切られているようで、区切られておらず、透けているようではっきりとは見通せないリブガラスを用いたり、壁の一部が曲線を描いたり、部屋から部屋へゆるく繋がるような空間づくりが特徴的だ。オークや大理石、スタッコなど素材使いも本物志向で、取り合わせることでそれぞれの質感を引き立たせている。もちろん、ウルキオラがデザインした家具の魅力に負うところも大きい。

数々のラグジュアリー施設やホテルのインテリアのみならず、多くのプロダクトデザインも手がけてきたウルキオラだからこそ、クライアントのライフスタイルに合わせた住まいをトータルで、テーラーメイドのように提案することが可能なのだろう。


パトリシア・ウルキオラ|PATRICIA URQUIOLA
1961年スペイン生まれ。ミラノに在住、仕事の拠点を置く。近年の代表作に「フォーシーズンズ ホテル・ミラノ」、「カッシーナ・ショールーム・ミラノ」、コモ湖畔「イル・セレーノホテル」など。その他、ヘイワース、フロス、ルイ・ヴィトン、カルテル、cc-tapis、モローゾ、GANなど数々のブランドのプロダクトデザインを数多く手がける。2015年よりカッシーナのアートディレクターを務める。作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)やヴィトラ・デザインミュージアム、ヴィクトリア&アルバート博物館など多くの国際的美術館に展示されている。

❸ 顧客のニーズを反映した新しいチャレンジ

森ビルにとっても初めての事例となるスケルトン状態での販売について、森ビル住宅事業部リビングソリューショングループ課長の小林禎一氏に話を聞いた。

「購入検討中のお客様からの設計変更検討のご依頼はこれまでもあり、フリープランで好きなように間取りやインテリアを整えたいとおっしゃるお客様が少なからずいらしたことは確かです。森ビルのレジデンスを新築で購入された後に、レイアウトプランや内装を一からやり直すお客様もいらっしゃいました。そうした経験を踏まえ、今回は数戸にかぎり、スケルトンでの販売を森ビルとしてチャレンジすることとなりました」

——間取りや設備に関して、具体的にはどんな要望が上がるのでしょうか?

「本格的な和室を作りたいという方や、とにかく大きなウォークインクローゼットが欲しいというお客様もいらっしゃいます。あと最近ではサウナと水風呂や檜風呂を入れたいという方も増えましたね。できる限りお客様の要望には応えるようにしていますが、アフターケアやメンテナンスのことも考慮に入れて、デメリットやリスクも説明するようにしています。森ビルは、竣工物件を引き渡して終わりなのではなく、その後の管理やアフターサービスにも充分に対応していますので、その観点からも、お客様と充分にご相談を重ねてプラン検討を進めます」

——日本ではこのような物件は珍しいと聞きますが、海外ではどうですか?

「海外は日本とは逆で、内装は簡易に仕上げるか、スケルトン状態で販売されているようです。これまでロンドンやパリ、ミラノ、香港、ニューヨークやマイアミなどの高層高級物件の視察をしたり報告を聞きましたが、基本的には最低限の内装で引き渡されます。というのも、欧米では不動産は築100年ぐらいは当たり前で、構造とインフィル(内装)を分けて考えられています。買う側もライフスタイルが確立しており、自分の好きなように間取りをし、内装を自由にするのが普通です。日本人のお客様も、このクラスの物件を求められる方は既に家づくりを経験され、2、3軒目として検討される方が多いです。海外のデザイナー情報にも詳しく、目の肥えた方々なので、我々も日々、世界のインテリアデザインの動向を勉強し、適切にご提案できるよう備えています」

——今回は、世界で活躍する建築家やデザイナーがプランを寄せてくださいました。

「コロナ禍前に〈森ビルアーバンラボ〉という、東京の巨大都市模型や森ビルの進行中のプロジェクトの模型などを備えた研究施設に、来日中の海外デザイナーや建築家をご案内していたのですが、その頃から、虎ノ門プロジェクトに非常に興味を持ってくださり、これならぜひ無償でプランを提供したいとおっしゃる方もいらっしゃいました。普通、海外デザイナーはこちらから対価を払うからといって即プランを提供してくれるわけではありません。海外のトップデザイナーが関心を示してくださることはありがたく、この物件への期待の高さも実感しています」

——最後に、今回のスケルトン住戸の魅力を端的に教えてください。

「高級物件をすでに内装まで仕上がった状態で購入され、その後に壊してやり変えるのは、サステナブルな観点から見ても望ましくありません。都心の新築マンションで、最低でも220㎡以上という贅沢な空間を、ご自分のライフスタイルに合わせてゼロから作り上げるという魅力があります。また43階以上の超高層フロアですので、東京タワーや東京湾を見晴らす眺望は随一です。これほどのビューを堪能でき、かつ最高のサービスを提供するレジデンスは、日本では過去に例がないのではないでしょうか。また、トニー・チーがデザインした共用部の仕上がりやスパ、レストランなども、ファイブスターのラグジュアリーホテルを超えるクオリティだと自負しています」

TORANOMON HILLS RESIDENTIAL TOWER
虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー

所在地 東京都港区愛宕1-1-1 アクセス 虎ノ門ヒルズ駅 徒歩2分 [東京メトロ日比谷線]、神谷町駅 徒歩6分 [東京メトロ日比谷線]、虎ノ門駅 徒歩6分 [東京メトロ銀座線]、御成門駅 徒歩9分 [都営地下鉄三田線]

 

※ 物件概要等、詳細はウェブサイトにてご確認ください。
※ 掲載の完成予想CGは、計画段階の図面を基に描き起こしたもので、形状・色等は実際とは異なります。なお、形状の細部、設備機器等は表現しておりません。
※ CGの眺望は計画地41F相当の高さより撮影(2020年2月)した眺望写真を合成したもので、実際とは異なります。眺望・景観は、各階・各住戸により異なり、今後の周辺環境の変化に伴い将来にわたって保証されるものではありません。
※ 専有部(CG・写真)の家具・調度類は販売価格に含まれておりません。
※ 当記事でご紹介したスケルトン状態の住戸は、お引き渡し後、フルリノベーション工事をご希望のお客様向けに、建築基準法上の住宅の要件を満たす必要最低限の内装・設備で仕上げた住戸です。フルリノベーション工事を実施する場合は、別途「設計費用」および施工費・材料費・設備機器代等の「内装工事費用」のほか、既設のミニキッチン、ユニットシャワー等の「撤去費用」が発生いたします。(これらの費用は、販売価格には含まれません。)また、構造上の理由等により、希望するプランが施工できない場合がございます。内装工事の実施にあたっては、管理規約等に定められた手続き及び管理者の承認が必要となります。

www.toranomonhills-residentialtower.com