ドラマ化もされた『妄想彼女』の著者であり、『デイリーポータルZ』などでも活躍するライターの地主恵亮さんが、六本木ヒルズクリスマスを体験しました。けやき坂イルミネーションやクリスマスマーケットなど、クリスマスムードいっぱいの街を楽しんでいた地主さんですが、いつしか彼の眼前には自分だけに見える謎の人物が登場……。「一人で楽しむクリスマス」は、一体、どんな結末に?
TEXT BY keisuke jinushi
PHOTO BY aya kawachi
edit by miho matsuda
クリスマスというものがある。12月25日がクリスマスではあるが、その前から街はイルミネーションで輝き出し、恋人たちがロマンチックな街に溶け込んで行く。寒い冬を暖かく感じることのできる時期でもある。
そんなクリスマスイルミネーションでのデートを予習しておきたい。ここでイルミネーションを見て、あそこで夜景を見ながらカクテルを飲んでなど。六本木ヒルズのイルミネーションが素晴らしいと聞いたのだ。いつかのデートのために予習は大切だ。
デートの予定はなし
寒くなると恋人たちの距離がより近くなる気がする。それは寒いからということもあるし、クリスマスという一大イベントがあるからだろう。街を歩けばイルミネーションが輝き、ジングルベルが聞こえる。
私はそんなクリスマスと無縁な生活を送っている。もう30代なので惚れた腫れたは卒業してもいい気がしている。その昔はクリスマスの時期になると、負け組、勝ち組なんてことが話題になって、それが嫌でクリスマスのない国「オマーン」にクリスマスの時期だけ逃げたりもしていた。
ただ逃げてばかりはいられない。もしかすると恋人ができるかもしれない。恋人ができればクリスマスのイルミネーションを見に行くことになるだろう。この時期のデートには必ずイルミネーションが入るはずなのだ。私のデートプランは通年で自宅なのだ。自宅始まり、自宅解散。それが私のデート。それではたぶんフラれる。
そのためにもクリスマスイルミネーションでのデートプランを持っておきたい。いつかのために。そこで六本木ヒルズのクリスマスイルミネーションなどのオススメ情報を聞いた。それをもとに一人で巡り、いつかやってくるクリスマスデートに備えたいと思う。
クリスマスは夢の時間
六本木ヒルズはクリスマスだった。事前に情報を集めていたので知っていたけれど、とてもクリスマス。いきなり「カルティエ」の綺麗なレッドに染まる10メートルのクリスマスツリーだもの。まごうことなきクリスマスだ。
ツリーの正面がカラオケボックスのようになっており、フォトスポットになっている。撮ろうではないか、写真を。恋人と訪れて、今回は仮に「ユキ」としよう。ユキにあそこに行って歌いなよ、と言うけれど、ユキは照れて結局私がそこに行って写真を撮る、という素晴らしいデートプランが浮かぶ。
カラオケボックスでは映像も流れ「あなたにとって愛とは?」をテーマに玉森裕太さんや夏木マリさんなど総勢12人が語っている。私もユキと愛について照れながら語るのだろう。なんて答えようか。「愛とは君であり僕でありやっぱり君かな八割は」と、とりあえず言おうと決めた。
上記はウェストウォークのクリスマスツリー。ロスフラワーを活用したツリーだ。一つひとつの塊は全て手作業で土台に差し込まれ、ロスフラワーが360度隙間なく埋め込まれている。美しいけれど私はユキに言うのだ。このツリーは美しい、けど僕にとっては君の方が美しいと。そして、ユキは照れるだろう。ちなみにユキは夏生まれだ。
六本木ヒルズではクリスマスマーケットも開催されている。世界最大と言われるドイツ・シュツットガルトのクリスマスマーケットを再現している。世界的に有名なドイツのクリスマス用品専門店「ケーテ・ウォルファルト」もあり、日本では馴染みのないクリスマスピラミッドも販売されている。
手作りソーセージやドイツビール、グリューワインなどを楽しめるブースもあり、クリスマスならではの雰囲気に満ち溢れている。私はユキと何を食べるかとはしゃぎながら考え、ソーセージ2本、グリューワイン、ホットアップルワインを注文した。グリューワインはドイツのクリスマス名物だ。
ソーセージはあらびきポーク、ゴロ肉ガーリック、ニュールンベルガーなど様々あった。そこの中から2つ選んだ。二人だから2つ。選ぶのも楽しくて、ユキはハートみたいだから一緒にブレッツェルも頼んでいた。
ユキは私の脳内にいるだけなので、2つずつ頼んだけれど、全部私が食べる。どれも美味しかった。寒い時期のホットワインは美味しい。芯から温まる。心は一人だから冷えているけれど、それすら温める力を持っている。クリスマスのパワーだ。
1年後のユキへ
ちなみに私は普段、パーカーにアウトドア系のジャケットを着ている。ただその格好は六本木ヒルズでのデートっぽくないかと思い、ジャケットとコートを買った。ユキはいないのに、ユキのために自腹で買ったのだ。コートはいい値だったので、この予習を生かすべく、腫れた惚れた熱が高まった。
「wish a wish」は一年後に届くお手紙のこと。無料で送ることができる。私が並んでいる時、前には高校生カップルがいて、1年後のお互いに手紙を書いていた。甘酸っぱくて幸せな光景に泣きそうだった。私も書かなければならない、一年後のユキに。
カードのデザインは一筆書きで描かれ、大切な人への「繋がり」を表現している。ユキに向けて書くわけだけれど、脳内にしかいないユキの、さらに一年後の脳内にしかいないユキに手紙を書くのは、上手く説明できないけれど、ものすごく混乱した。あと関係ないけど、昔付き合っていた女の子が私の文字を見て、象形文字よね、と言っていた。
日が暮れたので、けやき坂イルミネーションを見に行く。17時に点灯するので、「魔法をかけるよ」と言って、落葉樹が光り出すというのをやりたい。
フォトスポットは5ヶ所。そこにはQRコードもあり、このイルミネーションのトリビアを知ることができる。たとえば、どの方向から見ても輝く光を放つLEDと、一定の角度から見た時にだけキラッとした光を放つ形状のLEDが組み合わされており、樹木の揺らぎや見る角度によって樹氷のような特別なキラメキを生み出しているなど。そういうちょっとした話を自慢げにユキにしたい。
今の私にはユキはいないけれど、近い将来写真も撮るだろう。この角度だな、と練習もした。この練習が生かされるように願いたい。この時間が無駄にならないように。もっとも純粋にただただ綺麗なので、一人で見ても全然いいんだけどね。
地上でイルミネーションを見た後は、天空から街の光を楽しみたいと、六本木ヒルズ森タワー52Fにある『THE SUN & THE MOON(Restaurant)』を訪れた。クリスマスの時期にだけ飲めるカクテルがあるのだ。これをユキに飲んで欲しかった。
ハイビスカスをベースにしたブレンドティーをウォッカにインフューズ、アプリコットのリキュールやカンパリにカカオを漬け込んだものが入った、美しい色の酸味が素敵な、このお店のオリジナルカクテルだ。なんかカッコいいからそのままユキに説明したい。
世界的にもここでしか飲めないオリジナルのカクテル。飲んでみるとカカオの甘味も感じることができ、美味しい。本来はユキが飲むのだけれど、一人で来ているので私が一人で美味しくいただいた。これはロマンチック。東京タワーをバックにカクテルだもの。
絶対にユキはここでプロポーズされると勘違いすると思う。私はプロポーズは由比ヶ浜と決めているから、ここではしないけれど、そういう雰囲気。しない方がおかしいようなロマンチックなのだ。絶対に成功すると思う。思う、以上のことは言えない。私はプロポーズをしたことがないから。
450種類4,000体
お酒を飲んだ後は同じ52階で開催されている「サンリオ展」を見に東京シティビューへ。歴代のサンリオのキャラクターが展示されている。ここでは、子供の頃バッドばつ丸が好きだったよ、などと話せる。注意点は年齢がバレることだ。ユキが年齢を誤魔化していたらたぶんバレる。サンリオは世代で好きなキャラが異なるはずだから。
増田セバスチャン氏が本展のために制作した「Unforgettable Tower」。サンリオ創業60年の間に創り出された450種類のキャラクターのぬいぐるみ4,000体以上が使われている。クリスマスの期間中はクリスマスライトアップとなる。東京タワーも見える絶景ではさらに映える。
ポチャッコ、ハンギョドンなど、自分の世代のキャラクターを見つけるのが楽しい。これは誰と来ても盛り上がる。余談だけれど、私はサンリオピューロランドに一人で2回行ったことがある。この時もデートの予習と思って行ったけれど、その予習は今現在まったく生かされていない。
同じ階にある東京シティビューのショップも覗いた。クリスマス向けの商品が置かれている。ユキはかわいいものが好きなので(そういう設定です)喜ぶだろう。季節毎に変わるアイシングクッキーもクリスマス仕様だ。
もこもこでかわいいものだらけだ。ユキとネイチャークッションブランケットに包まれながら、ソファーで二人映画を見るのもいい。基本的に私のデートは自宅始まり、自宅終わりなので自宅を快適に可愛くするのはいいはずだ。ユキの喜ぶ姿がありありと見える。もっとも、うちにソファーはないんだけど。
最後は「スカイCHILL」
森タワーのスカイデッキでは12月26日まで「天空のクリスマス2021」が催されている。しかも、クリスマスのテーマは「スカイCHILL」。チルしたいじゃない。チルをするために生まれて来たのが人類じゃん。まずは柚子の香りのアルコール除菌から始まる。
こういうのがデートではいいの。いい匂いって言って相手の鼻先に手を持って行くあのじゃれあい。自分のを匂えばいいのけど、相手のを匂う。私が一番やりたいことかもしれない。チルの極みだと思う。
東京360度の景色。ガラスなどで外と隔てられていないので、風を感じる。東京の風を感じるのだ。初めて上京した時の、東京で頑張るんだ、という初々しい気持ちが蘇った。その時はまさか妄想でユキ、ユキと言っている未来は見えていなかったけど。
クリスマス限定のヒーリングミュージックが流れていて聴覚、景色による視覚、柚子のアルコール除菌での嗅覚、そしてユキの肩を抱く感触。きっと恥ずかしい会話もするので、甘酸っぱさで味覚も満たされる。ここでは五感がフルに使われる。そんなクリスマス、素敵だ。
味覚は、週末のみの数量限定だけれど、リラクゼーションサポートドリンク「CHILL OUT」をもらえるので、それで満たそうと思う。感触はどうにもならないので、とりあえず自分の右手を自分の左肩に持って行って満たそうと思います。
ちなみに20時くらいに東京タワーの方を見ていると東京ディズニーランドの花火が見えるそうだ。次は東京ディズニーランドに行こうか、とユキとデートの計画を練った。六本木ヒルズで私たちの未来は明るくなっていくのだ。
港区の方を指さして、あの辺に見える灯りがあるでしょ? あの辺りが実家なんだよ、と言いたい。本当は北九州に実家があるけれど、そういう嘘はついていきたいと思う。ユキもさっきの「サンリオ展」で年齢をごかましていたことが発覚したのでおあいこだ。ポムポムプリン世代と言っていたけれど、ゴロピカドン世代だった。
一人でも楽しいことがわかった
デートの予習で訪れた六本木ヒルズのクリスマスではあったけれど、一人でも楽しいということはわかった。五感全てで楽しめる。カップルや家族連れも多かったので、一人でなくても楽しいのは間違いないけれど、一人でも楽しいということだ。でも、いつか、惚れた腫れた熱が復活した私は恋人と六本木ヒルズを訪れたい。サンタさん、お願いします!
地主恵亮|Keisuke Jinushi
1985年、福岡県生まれ。2009年より人気Webサイト「デイリーポータル Z」にて執筆を開始。2014年より東京農業大学非常勤講師。2013年、イギリスでもっとも権威ある新聞紙のひとつガーディアン紙の「世界でもっとも気持ち悪い男」に選ばれる。著書に『昔のグルメガイドで東京おのぼり観光』(アスペクト)、『妄想彼女 頭の中で作りあげた僕の恋人』(鉄人社)、『インスタント リア充』(扶桑社) 、『ひとりぼっちを全力で楽しむ』(すばる舎)など。
※2021年12月現在の情報となります。
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