今年の母の日は5月13日、“ありがとう”の伝え方はきっと人それぞれ違うはず——。そこで今回はヒルズにある4軒の花屋のフローリストを訪ねて、予算5,000円で旬の花を束ねてもらいながら、母の日と花に対する思いを聞かせてもらった。
TEXT BY NAO KADOKAMI
PHOTO BY KOICHI TANOUE
❶ ディリジェンスパーラー|越智康貴 さん
「母の日は誰もが普段以上にお母さんを思う日」
「イメージを浮かべながら花を束ねています」とは、表参道ヒルズ「ディリジェンスパーラー」のフローリスト・越智康貴さんの言葉。実際に野に咲くのでは起きえない組み合わせを楽しめるのは、切り花のブーケならでは。花やグリーンがもつ生命力を生かす、“植生”をテーマに掲げる花屋だ。
越智さんのお母さんが“花好き”で、母の日にブーケを贈ったことは数知れず。そのブーケは一種類の花をたっぷりと束ねたものが定番だそう。
「一種類にすると、もらった人はその花への理解が深まりますよね。ミックスにするなら、一輪は自分が選んだ花を入れると、もらった人は嬉しいと思うんです。その人はどういうものが好きかな? と考える時間は、その人について考える時間だと思うので」
そんな越智さんが母の日をイメージして手がけたのは、赤のダリアをメインにさまざまな種類・色の花を束ねたブーケ。花が咲くスピードや順番がそれぞれに異なることがポイントだそう。「花を贈った日はもちろん、その翌日以降もずっと新鮮な喜びを感じていただきたいので」。また花から根までクリアに見えるショッパーには、葉や根を含む植物全体のエネルギッシュさを楽しめるように、という願いが込められている。
越智康貴|Yasutaka Ochi
「DELIGENCE PARLOUR」主宰。フローリスト歴10年。好きな花はバラや蘭、ユリのような一輪でも主役になるもの。「今年も、一種類の花をどっさりまとめたブーケを母に贈ろうと思ってます」
❷ ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン|土屋美華 さん
「常に私を花がある環境に居させてくれた人」
「母の働く姿を見て、フローリストになりたいと思いました」。全国各地に店舗をもつ「ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン」のエリアマネージャーを務める土屋美華さんはそう話す。青山・骨董通りで出会った16年前からニコライ・バーグマン氏と共にブランドを盛り上げているが、実家も花屋であることから、土屋さんの暮らしのそばにはいつも花があった。
「二人に共通するのは、サプライズが大好きで、ビジネスセンスも鋭いところです」。「ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン」に勤め始めてから今も変わらず、ニコライ氏の進化し続けるインスピレーションに常に驚きがあるそう。「子どもの頃は家の花屋を手伝っていました。そのときの学びとニコライから日々受ける刺激が、今の私に繋がっています」
「母の日限定フレッシュフラワーボックス」は、毎年贈られる土屋さんのお母さんもお気に入り。「ブーケでなく、あえてお店のシグネチャーアイテムを贈るんです」。今年のテーマは母の日カラーとしてトレンドのピンクにニュアンスを出した造語“スカーレットピンク”。箱を見て、フタを開けて。そのときのお母さんの表情をつい想像してしまうアイテムだ。
土屋美華|Mika Tsuchiya
「Nicolai Bergmann Flowers & Design」
エリアマネージャー。フローリスト歴約20年。好きな花は香り高いシャクヤク。「お母さんにフローリストを勧められたわけではなく、あくまで自然な流れ。でもフローリストになると伝えるとすごく喜んでくれました」
❸ レ ミルフォイユ ドゥ リベルテ|天野加奈子 さん
「娘としては、母が好きなバラを贈りたい!」
「一つのブーケには3種類のグリーンを必ず入れるのが当店のモットーです」。虎ノ門ヒルズ「レ ミルフォイユ ドゥ リベルテ」店長の天野加奈子さんは教えてくれた。フランス語名の“レ ミルフォイユ”は1,000枚の葉、“リベルテ”は自由を指す。旬の花をナチュラルに楽しんでほしいとの思いが込められている。
花は実にナイーヴなもの。だからこそ、日によって美しい花は変わる。「今回はバラの“キーラ”を主役にします。今日並んでる中できれいだったから」。天野さんは“母の日=カーネーション”と思う必要はないと考える。「大切なのは感謝の気持ちを届けること。その中で季節感も楽しめると素敵ですよね」
もともと庭のある家庭で育った天野さん。昨年実家が改築するまでの母の日は鉢物の花を贈っていたが、庭がなくなった今年は、ブーケを初めて贈るそう。「庭に生えるバラをイメージしてブーケを束ねました。あと母には今年香水も贈りたいです。花も含めて、“香り”は受け取る人の記憶に残ると思うから」
天野加奈子|Kanako Amano
「Les mille feuilles de LIBERTÉ」店長。フローリスト歴4年。今の季節、好きな花は香しいハゴロモジャスミンとスズラン。「このお店は水換えもこまめ。植物を大切にするスタンスは働いてる自分にとっての誇りです」
❹ ビビアン|前田直愛 さん
「花の好み…母と私は真逆ですね(笑)」
「初めてパリに行ったときに、現地の花屋にすっかり魅了されたんです」。パリのエスプリが光るアークヒルズ「ビビアン」を営む前田直愛さんは、店を開くと決めた当時を振り返る。日本の花屋との違いは葉をふんだんに取り入れるところ。フローリストになってからは、母の日には自分が束ねたブーケを贈るようになった。
「母はコーラスが趣味でよく笑う人。だからオレンジグラデの華やかなブーケにしようかな」。そして近年ブームのネイティブフラワーで母の力強さを表現。「私はシックなテイストが好きで、店の壁や包装紙も無彩色を選ぶほど。でも母は素直に明るいものが好きだから、母の日は母の好きなものを意識します」
コーラスとリンクするバラ“ラ・カンパネラ”を主役に、ユーカリなどの葉を添えて。ところでフローリストにとっては、母の日は一年で一番忙しい一日と聞くが。「当日の閉店後はもうフラフラです。自分の母には、もういいかな……とも思うんですけど(笑)、それでも、結局今年もブーケを作るんだろうな」
前田直愛|Naoe Maeda
「beebien」代表。フローリスト歴10年。好きな花はたわわに、美しく咲くシャクヤク。「ビビアンの名前はいろんな経緯から付けました。響きはBEE(蜂)、ビアン(トレ“ビアン”)の組み合わせから」
(注) 今回、ご紹介したすべてのブーケは5,000円でアレンジしていただきました。
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