ART AND ANTIQUE IN TOKYO

東京で出会うアート&アンティーク——河原シンスケさんの表参道・六本木散歩

パリと東京を拠点に活動しているアーティストの河原シンスケさん。ヨーロッパ、アジア、アメリカなど世界を飛びまわる彼が「東京は散歩が楽しい街」と語るその理由や、アートとアンティークのお気に入りのスポット、パリと東京の違いについて聞いた。

TEXT BY MIHO MATSUDA
PORTRAIT BY KIICHI FUKUDA
ILLUSTRATION BY NATSUKI CAMINO
MAP BY RYOKO YAMASAKI

新旧が入り混じる東京の面白さ

作品制作や個展のほか、ブランドとのコラボレーションや空間プロデュースなども手がける河原シンスケさん。1980年代初頭よりパリを中心に活動してきたが、2年前より東京で過ごす時間が増え、現在は港区にも拠点を構えている。

「港区を選んだのは、東京の中心に位置しているから。赤坂、六本木、青山、表参道は徒歩圏内ですし、渋谷、三軒茶屋、代官山、銀座、日本橋にもアクセスがいい。僕は歩くことが好きなので、お店やギャラリーが集まっており、休憩できる公園が多い東京は散歩が楽しい。繁華街の裏手を1本入ると静かな住宅街が広がっていたりと、街に起伏があるのも魅力です。それに街が清潔です。パリは美しい街だけど残念ながら道端にゴミが落ちているし、ゴミは持ち帰るという決まりがあってもそれが守られている国はとても少ない。これだけたくさんの人がいるのに、ゴミのない東京を歩くたびに驚いています」

「シャンゼリゼ通りのマクドナルドやH&Mの看板も景観の保護により白に統一されていたり、建物の高さ、ファザードの大きさまで規制されている。それがパリの美しさを生み出すけれど、東京は新旧がミックスされた面白さがある」と河原シンスケさん。

時を経て価値を増すアンティークの魅力

30年以上もの間、パリで活動している河原さん。渡仏した当時は、まだアジア人はすべて一括りとして見なされていた時代だったと言う。

「画家の藤田嗣治さんはもちろん有名でしたが、アーティストの黒田アキさんやファッションデザイナーの高田賢三さん、島田順子さんはパリで活躍する日本人クリエイターの先駆けでした。当時は、三宅一生さん、川久保玲さん、山本耀司さんが注目され始めていた時期だったと思います。僕は大学を卒業してすぐにパリに向かったのですが、見るもの全てが日本と違う。マルシェで買い物をしたら、そのパッケージを取っておいたくらい全てが新鮮でした。パリは懐の深い街。アジア人の若いアーティストの作品でさえもきちんと見てくれて、僕にもチャンスを与えてくれました。当初は、ここまで長く住むとは思いませんでしたが」

アンティークにも造詣が深い河原さんだが、それに着目するきっかけもパリだった。

「アンティークポスターのディーラーと出会い、彼の家に遊びに行くとインテリアの全てがアンティークでした。彼には歳の離れた若い奥さんと子供がいたのですが、もし自分に何かあってもアンティークならスプーンひとつでもお金に換えることができるんだと話してくれたんです。長い時間を経てなお価値を増す本物があるんだと、考え方が変わる出来事でした」

日本では、週末に神社で行われている青空市にも足を運ぶことがあるという。そんな河原さんの、アートとアンティークのお気に入りスポットを挙げてもらった。このアドレスを参考に、本物の美しさに出会う休日を過ごしてみよう。

河原シンスケさんのフェイバリットアドレス
表参道〜六本木 編


(A) SCÈNE 
2016年に表参道にオープンしたアートサロン。シャンパンやお茶を片手に作品鑑賞できる、ゆったりとした空間だ。「2017年にここで個展を開催しました。空間デザインを手がけた森田恭通さん、篠山紀信さんなどの様々な作品に触れることができるサロンです」。通常は招待制だが、木曜日のみ一般公開することも。


(B) 根津美術館
「展示作品は日本の美術が多く、それも興味深いのですが、館内の見事な日本庭園を散策するだけでも贅沢な気分に」。都会の中心にありながら4席の茶室を備えた広い庭園は、季節に合わせ彩りを変える。3月31日(日)まで「香合百花繚乱」展を開催。香を入れる茶道具〈香合〉の中でも貴重な約170点を展示


(C) 岡本太郎記念館
「岡本太郎さんはクリエイティブで偉大なる存在。彼のエッセンスは現代にも生きています。それに僕にとってはパリの大先輩。かつてアトリエ兼住居だった記念館には、彼のエネルギーと温かさが溢れ、自分も頑張らなくてはと感じます」。5月27日(日)までは、今年3月に一般公開される〈太陽の塔〉の足跡を追う企画展を開催中。


(D) アタリー
「美意識が隅々にまで貫かれているショップ。洋服やアクセサリー、バッグのほか、骨董も取り扱っているのですが、美術館に収蔵されてもおかしくない貴重なものがさらりと置かれています」。店内では、アート作品の展示、飯塚琅玕斎を始めとする竹籠など、ジャンルを問わず「美しいもの」を紹介している。


(E) 桃居
「作家の器を扱うギャラリーであり、こちらで購入することもできます。ふらりと展覧会に足を運ぶと、いつも素晴らしい器が並んでおり、店主の選び取る目の確かさを感じます」。週替わりで、一組の作家に焦点を当てた展覧会を開催。陶器を中心にした作品は、美しさはもとより暮らしに寄り添う器が並ぶ。


(F) 小山登美夫ギャラリー
「新しい目をもち、現代のアートシーンを牽引するひとりでもある小山登美夫さん。彼とは個人的にも交流がありますし、このギャラリーは六本木ヒルズのすぐ近くで、足を運びやすい場所にあるのでよく訪れます」。3月31日(土)までは、現代の韓国美術を代表するアーティスト、キム・チョンハクの個展を開催中。
Untitled 2017 acrylic on canvas 130.3 x 162.2cm ©Kim Chong Hak

河原シンスケ|Shinsuke Kawahara
アーティスト/クリエイティブディレクター。武蔵野美術大学卒業後、80年代初頭よりパリを拠点に活動開始。エルメス、バカラ、ルイ・ヴィトンを始め、数々のブランドとのコラボレーションでも知られている。食やアンティーク、日本文化にも精通。空間プロデュースも手がける。