仕事で毎日通う人、週末に買い物に来る人、旅行で訪れた観光客etc…。 視点が変われば、同じ街がまったく違う表情を見せる。新たな街の魅力を発掘すべく、さまざまなステイタスをもつ方々に、それぞれのライフスタイルに密着した街をご紹介いただく企画。第2回目は、ロンドンと東京を拠点に活動するアーティストSHOKOさんに、幼い頃から親しんだ“地元・港区”を案内してもらった。
TEXT BY KYOKO INOU
PHOTO BY TOSHITAKA HORIBA
待ち合わせをしたのは、麻布台にあるブーランジェリー「メゾン・ランドゥメンヌ トーキョー」。アトリエへ仕事に向かう前に、必ずといっていいほど立ち寄るという、SHOKOさんお気に入りの場所だ。「いつも買うのは、ライ麦100%のトゥルト ド セーグル。みんなに配って食べてもらいたいくらいおいしいの!」と言って、実際に買って撮影スタッフにお裾分けをしてくれる。ノーブルで近寄りがたいイメージを見事に裏切る、軽やかな雰囲気と人なつっこい笑顔が印象的な女性だ。
アーティスト、歌手、ファッションデザイナー。いくつもの顔を持ち活躍するSHOKOさんは、麻布生まれの麻布育ち。「このあたりは、小さい頃に住んでいた懐かしい場所。近所の子たちと連なって、この前の道で電車ごっこしたりしてました(笑)」。
パリ仕込みのおいしいパンを堪能したあとは、よく足を運ぶという森美術館を目指し、六本木ヒルズへ。さすが、アートを仕事とするSHOKOさん。ファインアートはもちろん、写真展からサブカル系の企画展まで、ジャンルを問わず、できる限り時間をつくって観ているという。「年に4回は海外へ出かけるので、大きな展覧会はそこでチェックしています。ロンドンやパリは、街中におもしろいギャラリーがあって、散歩の途中にふらりと立ち寄れる。アートとの距離が近くてワクワクします」。
展覧会を鑑賞したあとは、東京シティビューの屋内展望回廊でのんびり過ごすのが定番コース。「52階という高さが絶妙。近すぎず遠すぎずのちょうどいいミニチュア感で、都心の街並みを細部までしっかり眺められる。あの辺りにはこんな建物があるんだとか、意外な発見があったりして、何度来ても飽きません」。
この日、最後に訪れたのは、東麻布にあるSHOKOさんのアトリエだ。周辺には、昔ながらの商店街など古い街並みが残る。彼女自身のファッションブランド「S for Shoko」のショールームを兼ねていて、水曜と土曜の2日間はショップとして一般に開放されている。スタッフとのミーティングや、雑誌への寄稿、取引先との打合せなど、忙しい仕事の合間を縫って、毎日、必ず、絵を描くのだという。「絵の師匠の『毎日描きなさい』という教えを、忠実に守っています」。毎日描き続けながら、“職人”にならず常にアーティストである——難しい課題を、SHOKOさんは飄々とクリアしているようだ。
「絵は、自分の思い通りに表現していいもの。歌を歌うのも同じで、“アート”の領域と言えばいいでしょうか。服は“デザイン”。着る人がきれいに見えるのは、どんなシルエットなのか、きちんと考えなければ、完成しない。自分の好き放題ではなく、別の誰かの思いや制約が介在する表現です。クライアントの依頼を受けてイラストを描くのにも似ていますね。私は、“アート”と“デザイン”の両方がある状態が好き。どちらか片方では物足りないんです。でも、何をしている時でも、気持ちは変わりません。その時々で、いちばんいい方法を選んで、表現しているだけ」
「私の作る服に、トレンドは関係ありません。アートピースのように、手に入れることが嬉しいものであってほしいし、長く大事にしてもらいたいと思います。でも、あくまでも“着るもの”。“似合う”とか“着やすさ”とか、デザインの中に大切にすべき要素がたくさんあるからこそ、やりがいを感じています」。
「港区は、世界中からエネルギーが集まる街」だとSHOKOさんは言う。そしてその街は、彼女にとっては幼い頃から親しんできた「地元」だ。多くの人の、夢に向かう大きな熱量が、あたりまえにそこにある環境。それは確かに彼女にも影響を与え、独特の感性を育んできたのだと思う。しかし、そのエネルギーの大きさも、彼女にとっては懐かしい友達のようなもの。だからこそ彼女は、やりたいことを次々と実現しながら、こんなにも軽やかな存在感を放てるのだろう。
SHOKO
16歳で『mcシスター』専属モデルとしてデビュー。文化服装学院卒業後に渡英、セントマーティンズ・ロンドン芸術大学・同大学院で学んだ。ドローイングやイラストを中心に、写真や音楽、パフォーマンスなど、手法に囚われることなく独自の表現を続けている。2016年春夏のロンドンコレクションにて、自身のファッションブランド「S for Shoko(エス・フォー・ショウコ)」をスタート。
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