毎年1月と9月にパリで開催される、欧州最大のインテリアとデザインの見本市「メゾン・エ・オブジェ」。世界中の3,000を超える出展者がブースを広げ、商談の場としてはもちろんのこと、最新トレンドや動向を知る場としてデザイナーやジャーナリストにも注目されているマンモス・イベントです。この9月に行われたサロンのハイライトをお届けします。
TEXT BY MARI MATSUBARA
1995年に始まったこの見本市は、今年も9月8日〜12日の日程で、例年通りシャルル・ド・ゴール空港に近いヴィルパントの巨大な見本市会場で開催された。テーマごとに分かれた9つのホールは総面積が東京ドーム5個分にもなると言えば、どれだけ広い会場かお分かりいただけるだろうか? その中に家具、インテリア雑貨、テキスタイル、建材、食器や台所用品、ギフトグッズ、文房具や子供用品まで、ありとあらゆるジャンルの出展者による大小のブースがみっちりと立ち並ぶ。そのほか様々なコンファレンスやイベント、特別展示なども開催されるので、バイイングはもとより、インテリア業界の人たちにとって欠かせない情報収集の場にもなっているのだ。
今年も人気をかっさらう、チームラボのインスタレーション
数あるブースのなかでも常に行列ができていたのが、<Espace EN TEA×teamLab×M&O>。日本の嬉野茶のブランド「EN TEA」がチームラボとコラボレーションして、ユニークな喫茶体験を提供するインスタレーションだ。
黒幕で覆われた暗いブースの中に入って椅子に座ると、目の前の畳敷きのテーブルに緑茶の入った茶碗が置かれる。茶碗の中にはカラフルな花の映像が浮かんでいる。ふとした瞬間、花は大きく広がって花びらが散り、さらには茶碗の外へ、渦を巻いて流れるように飛び散っていく。幻想的なイメージにうっとりしていると、手元の茶碗には先ほどとは別の花がほころんで……。
これはあらかじめプログラムされた映像を再生しているのではなく、リアルタイムで、茶碗の温度や動きに感応して繰り広げられる、一回きりのショーなのだ。外国人の来場者もみな掌に茶碗を持ち、茶を飲む、その一瞬一瞬に浮かびあがるビジュアルアートに感嘆していた。チームラボがブランドとのコラボレーションで「メゾン・エ・オブジェ」に参加するのはこれで5回目。毎回大好評だ。
茶のブランド<EN TEA>は肥前・嬉野で茶を製造する松尾俊一と、かつては九谷焼とスペインの鬼才デザイナー、ハイメ・アジョンをコラボさせ、現在はパリで日本の工芸やうつわなどを展示・販売するギャラリー<NAKANIWA>を主宰する丸若屋とがタッグを組んだ、新しいプロジェクト。温度や抽出時間の難しさのため、海外でなかなか浸透しなかった緑茶を、粉末にしてティーバッグにし、水の中に入れてシェイクするという方法で提供。粉末がお茶の中にも残るので、「食べる緑茶」としても押し出していこうと、グローバルな市場を見据えている。ブース横の休憩スペースにはティーバッグがぶら下がり、坂本龍一氏が参画する森林保護プロジェクト<moreTrees>のためにジャスパー・モリソンと熊野亘がデザインしたヒノキのスツールが置かれ、茶の試飲が楽しめるようになっていた。
クリエイター・オブ・ザ・イヤーに仏人のトリスタン・オウアー
もう一つ知っておきたいのが、「メゾン・エ・オブジェ」で毎年1人選ばれる「クリエイター・オブ・ザ・イヤー」。日本人では過去に吉岡徳仁やnendoの佐藤オオキが選ばれている。
今年選ばれたフランス人のトリスタン・オウアーは、ラグジュアリーブランドとの相性が抜群。過去にはピュイフォルカの店舗内装、アンティーク・ビエンナーレのカルティエのブース設計、そして今年5年間の修復工事を終えてリニューアルした「オテル・ド・クリヨン」の内装も手がけ、ノリにノっている。クラシックさと前衛をかけあわせたような、絶妙のバランス感覚が好かれているようだ。
Hall8の中央にひときわ大きく設けられた白いブースの中に、彼が手がけたソファやランプ、コンソールテーブル、さらには内装をデザインしたフェラーリも展示され、豪華な一角になっていた。昨今フランス、およびヨーロッパ全体でなんとなく流行しているアールデコの雰囲気、つまりマーブルやマットな真鍮素材、黒やグレーといったシックな色使い、簡潔で強いラインなどがオウアーの作品にも明らかに表れていた。これもトレンドの1つなのだろう。
MAISON&OBJET PARIS
例年1月と9月に開かれるデザインとライフスタイル分野の見本市。2017年9月展のインスピレーションテーマは「コンフォート・ゾーン」 会期 2017年9月8日(金)〜12日(火) 会場 パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場
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