COPENHILL TURNS A POWER PLANT INTO THE BEDROCK FOR SOCIAL LIFE

廃棄物発電所の屋上がスキー場を併設した緑の楽園に!

2019年10月、デンマークの首都、コペンハーゲンの海辺の工業地帯、アマーに出現した、まさに「都会の丘」をイメージさせる巨大施設〈コペンヒル〉。実はここ、廃棄物エネルギー・プラントなのだが、なんと、屋根には人工スキー場を設け、さらにはジョギング、ハイキングやボルタリングもできるレクリエーションセンターとしても稼働している。設計は、世界的に活躍するデンマーク人建築家ビャルケ・インゲルス率いる、B.I.G建築事務所(以下BIG)。BIGがコンペで提案した「イメージの自然」を実現させたのが、デンマークのランドスケープ建築事務所、SLAだ。

TEXT BY chieko tomita
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
main photo ©︎Ehrhorn Hummerston

スキースロープ部分は天然芝と人工芝のミックス。一年中スキーやスノーボードができる。周辺はハイキングやジョギングのコースとして活用されている。 photo ©️Ehrhorn Hummerston

頂上近くのハイキングコースからの眺め。洋上の風車はコペンハーゲン港のシンボル。 photo ©︎SLA

ゴミの山からできた市民の人気スポット

「平坦な地形のコペンハーゲンには山がない。でも、ゴミ焼却用発電所という“ゴミの山”があるじゃないか!」という、BIGのビャルケ氏の発案がコンペで採用されたのが2010年。9年の歳月をかけ、50年前の古い発電所を建て替えて完成したのが〈コペンヒル〉だ。内部では、コペンハーゲン周辺の約100,000世帯へ供給する再生電力用の最新鋭の巨大タービンが回る。発電所としての機能だけでなく、屋上ではスキーやジョギング、ハイキング、ボルタリング、ジャズコンサートなどなど、老若男女が楽しめる施設も併設されているというのがユニークだ。

特に注目は、屋上は単にレクリエーションの場というだけではないこと。人工芝と天然芝をミックスしたスロープの周囲に北欧の木々や植物を配置し、鳥が訪れ、虫たちも生育する「ルーフ・ナチュラルパーク」としてデザインされているのだ。人工の山に本物の自然を再現したのは、デンマークのランドスケープ建築事務所、SLA。SLAの建築家、ラスムス・アストルップ氏に話を聞いた。

ラスムス・アストルップ|Rasmus Astrup 1977年コペンハーゲン生まれ。コペンハーゲン大学およびミラノ工科大学で造園建築の修士号を取得。デンマークのランドスケープ建築事務所を経て、2008年からSLAランドスケープ建築事務所のパートナーおよびデザイン部門チーフ。SLAは、1994年にランドスケープ建築家スティ・L.アンダーソン(Stig L. Andersson)によって設立された。2005年からは3人のパートナーで運営され、ラスムス氏はその一人。コペンハーゲンを本社に、オーフス、オスロにオフィスをもち、北欧を中心に、国内外の造園プロジェクトを手がけている。 photo ©SLA

ビャルケ・インゲルス|Bjerke Ingels 1974年コペンハーゲン生まれ。デンマーク王立美大建築学科、バルセロナ建築大学で学び、ロッテルダムのOMAに勤務。建築事務所PLOTを共同設立後、2005年にBIGを設立。コペンハーゲンに本社、ニューヨーク、ロンドン、バルセロナにオフィスがある。 photo ©Chieko Tomita

——このプロジェクトの経緯、そして屋上のルーフ・ナチュラルパークをSLAが担当したいきさつを教えてください。

このエネルギープラント建設は、国際的なコンペにより、BIGの担当になったのはご存知の通り。屋上のルーフ・ナチュラルパークもデザインの段階では、BIGのランドスケープアーキテクトに任されていました。ところが、ビャルケの壮大なアイディアを具体化するには複雑すぎて、専門的知識が必要となり、国内外の庭園プロジェクトの経験豊富なSLAに、発電所から声がかかったのです。以来、パークのデザイニングや植物の管理も含め、私たちが担当しています。

——BIGとの共同作業はどのように行われたのでしょうか?

BIGが掲げたアイディア「プラントの屋根を人工スキー場にする」に向かって進めていたのですが、コンペで同時にプレゼンされた、ルーフ・ナチュラルパークは、あくまでも「イメージの自然」。それを本物にするのが私たちの使命。アルプスの山を模倣するのではなく、存在したことがない“コペンハーゲンの山”を作る、というチャレンジでした。そこで、プラントのある狭い地域の自然だけでなく、北欧の山々、気候、特有の生物、植物などについて丹念にスタディしました。また、生物の多様性、エコシステムにも注目し、BIGの「自然」の概念に付加価値をつけることにしたのです。

コペンヒル全体図。屋根はスキー、ランニング、ハイキング、壁面はボルタリング。建物を多様に使う。 ©︎SLA

「グリーン&ウエルネス」という観点からの植栽

——コペンヒルに植えたのはどんな植物で、四季の気候変化への対応はどのように対応するのでしょうか?

96本の大木、約200本の小木を植えました。主に松、柳の他には、ハンノキ、ナラ、セイヨウナナカマドなどです。約1,200㎡に柳といばらなどの低木を約7,000本、そして2,000㎡に牧草を植え、スキースロープを含む、およそ11,000㎡に植物の種を撒きました。SLAの方針で全植物名は挙げられませんが、選択基準は、耐久力、順応性、美的価値があるものです。

松や草花が咲く様子は、地上の森の風景と変わらない。 photo ©︎Ehrhorn Hummerston

北欧の森や草原に自生する植物同様、四季の変化に順応する種類を選んだので、年に一度、冬の終わりに高い木や伸びすぎた芝生をカットするだけで、あとは特別な世話は必要ありません。

 

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1/5植栽用の俯瞰図。植物の四季折々の変化を色分けして調整しておこなった。 ©︎ SLA
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2/5秋の植生プラン。左側が頂上。ビジターが紅葉を楽しめる色合いに変化する。 ©︎ SLA
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3/5春のプラン。北欧の春のシンボルカラーの黄色やピンクの花の植物を配置。 ©︎ SLA
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4/5夏のプラン。青葉から緑と森の木々の色の変化がイメージ。 ©︎ SLA
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5/5冬のプラン。芝生は刈られ、高い樹木は剪定される。 ©︎ SLA

——デザイニングについて、大変だったことはありましたか?

苦労したのは2点。まず、傾斜がきつい屋根での植林はとてもとても大変でした。そして、〈コペンヒル〉が建つ海辺の工業地帯とは違う、快適な微気候(マイクロクライメット)を屋上に作ることにも腐心しました。解決策としては、土地の傾斜に合わせて効果的な灌漑システム(irrigation system)が確保できる、特殊な植栽ベッドを考案したのです。これなら、嵐や大風など北欧特有の天候でも対応できます。屋根上の植林デザインは、強風を和らげ、景観を広げ、異なる空間を提供し、ユーザーがコペンヒル周辺を移動して、多様な経験ができるようにしました。

頂上付近の様子。強風にも耐える樹木を特殊な植栽ベッドで支えている。 photo ©︎SLA

小さな子供でも登れる、ハイキングコース。週末は家族連れで賑わう。 photo ©︎SLA

——コペンヒルの屋上で無農薬野菜を育てるプランは?

もちろん可能ですが、火力発電所の意向次第です。もしゴーサインが出れば、SLAはいつでもお手伝いしますよ。

グリーン・バイオダイバーシティ・ボムの試み

——コペンハーゲンのグリーン事情を教えてください。

コペンハーゲンは、2025年までに世界初のカーボンニュートラル都市を目指しています。都市部には自転車専用道路が完備され、中心部に広大な公園があるので、エコでグリーンなイメージがありますが、決して十分ではありません。長年にわたり、SLAは市当局に、生物多様性(バイオダイバーシティ)に焦点をおいた都市計画案を提案してきましたが、やっと着手の兆しがみえてきました。そのひとつの試みが、〈コペンヒル〉をデザインした際、風や鳥などによって屋根の植物や樹木の種が市内に分散されることを想定した「グリーン・バイオダイバーシティ・ボム(緑の生物多様性爆弾)」です。コペンハーゲンにグリーンエリアがもっともっと増えて、多様的で、より暮らしやすい都市づくりの一端を担いたいと願っています。

「グリーン・バイオダイバーシティ・ボム(緑の生物多様性爆弾)」の想定図。 ©︎SLA

コペンヒルは快楽主義的なサステナビリティ

建物と街、人々の生活と繋がる建築の観点から、エネルギーのインフラとしての廃棄物エネルギー・プラントを隔離された施設とするのではなく、地域交流のインフラ、リクレーションセンターとして誕生させたビャルケ・インゲルス。彼は、「サステナブルな街づくりとは、環境によいだけでなく、市民が生活をもっと楽しめるようにすること」という考えを、「快楽主義的なサステナビリティ」と表現し、〈コペンヒル〉はその明確な一例とした。現在はコロナ禍で、人が多く集まるイベントが実行しづらいが、今後もコペンハーゲンのサステナブルを象徴するランドマークとして、市民に親しまれていくに違いない。
 

Copenhill
Vindmøllevej 6, 2300 Copenhagen S, Denmark