Glass Rock, Future Built

Glass Rockで育まれる「100年先の東京」の“可能性”

2025年4月9日(水)、複合施設「グラスロック」の残り店舗の開業をもって、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの再開発事業がいよいよ完結した。このグラスロックには、街の回遊性と賑わいを高める「物理的な結節点(ノード)」としての役割のみならず、現在と未来——それも100年先の未来をつなぐ「ビジョンの結節点」としての役割も担う会員制施設も開業するという。それはいったいどういうことなのか? 同活動のアドバイザーを務める宮田裕章 慶應義塾大学医学部教授と、森ビル株式会社 新領域事業部の竹田真二さんにうかがいます。

TEXT BY TOMONARI COTANI
Movie BY MASANORI KANESHITA



「Glass Rock」(地上4階・地下3階)は虎ノ門ヒルズの中心に位置し、「森タワー」と「ステーションタワー」をつなぐ幅員20mの大規模歩行者デッキ「T-デッキ」が貫通する。

いつの間にか「経済」と「社会」が分断してしまった

——Glass Rockは100年先の未来を見据えたSocial Actionの為のCommunityとのことですが、100年という時の長さを想像してみるとき、ひとつ指標になるのが明治神宮ではないかと思います。明治神宮の創建はいまからおよそ100年前の1920年で、本多静六ら当代随一の林学者・造園学者たちの慧眼によって、いまわたしたちは、あれほどの森を都心において享受できています。ひるがえって、今日、わたしたちが100年後を生きる人々のための「よき祖先(グッドアンセスター)」となるためには、どのような観点が必要になってくるとお考えでしょうか?

 

宮田 いままさに、世界は過渡期にあります。短期的な利益だけを追求する動き——それこそアンチ・ダイバーシティやアンチ・サステナビリティ的な価値観も台頭してきていますが、長い目で見ると、テクノロジーの発展によってコミュニティのあり方や文化の紡ぎ方が変化してきたことは間違いありません。狩猟社会では小さなコミュニティで自然の恵みを享受していましたが、農業革命で生存が安定したことで大規模なコミュニティが生まれ、ヒエラルキーなどの社会システムができました。その後の産業革命では人間の活動が機械によって拡張され、経済が活動の共有基盤になって膨れ上がり、都市やコミュニティも経済合理性を軸にかたちづくられていき、それが現在まで続いています。しかしいまこそ、それを転換すべき時期に来ていると感じます。つまり、どんな未来を創るべきかという問い直しをする必要があると思います。

「ソーシャルグッド」を追求するのであれば、価値基準は多元的であるべきです。例えば、生物多様性やウェルビーイング、学び、平和や人権、ライフスタイル、食文化……。そうしたさまざまな価値軸をもとに未来へ向かっていく新しいコミュニティや都市のあり方を探究する場、それがGlass Rockなのだと捉えています。

 

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1/4B1F Members Loungeは、全ての会員が集うGlass Rockの中心となる共創空間。
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2/4毎日のように勉強会やワークショップ、ネットワーキング等が行われ、日常の中に学びや対話が自然と生まれる。
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3/4施設内のイベントのメイン会場としても使用される。
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4/4活動を発信できるGalleryは社会課題解決のための連携と共創を目指すGlass Rockの象徴的な場。

短期的な経済利益だけを自己目的化してきた社会の流れが徐々に変わりつつあるなかで、将来世代——Z世代やその下のα世代の価値観も確実に変化してきています。彼らは未来やコミュニティを見る感覚が違いますし、「望ましい未来」を見据えながら共に歩める場が必要だと思うんです。社会のマジョリティにはまだなっていないかもしれませんが、志を同じくする人たちがリアルな空間を共有しながら問いを紡いでいく……。Glass Rockには、そんな場としての大きな価値があると感じます。

——いまのお話を受けて、竹田さんはいかがでしょうか。

竹田 まさにここ100年で社会システムは大きく変わりましたよね。例えば企業というものひとつとっても、100年前と今ではその在り方もそれに対する社会の見方がだいぶ様変わりしました。20世紀は経済成長に伴う豊かさを誰もが享受していた時代でしたが、21世紀には経済成長の幅も小さくなり、経済を優先して置き去りにしてきた多様なひずみが表面化したようにも感じます。本来、わたしたち人間は地球環境のなかで暮らし、そして人が集まる社会のなかに企業が存在しているはずなのに、経済の論理と社会的価値が乖離してしまった。最近はSX(ソーシャル・トランスフォーメーション)などといって企業も義務的に社会参加をするようになりましたが、どこか「環境によいことやってます」的な建前に見えてしまう部分もありますよね。でも、その程度では社会の仕組み自体は変わらない。本質的に「どうあるべきか」を考えないといけないだろうと感じます。

その際に明らかになっているのは、いち企業や自治体・行政だけでは社会課題は解決できないし、NPOなどのソーシャルセクターやアカデミアだけでも難しいということです。だから、異なるセクターの人たちがきちんと集まって議論をする場をしつらえ、「次の100年のために社会システムをどう変革すべきか」を本気で話し合う必要があるんです。いつの時代も、誰かが始めなければ100年後の未来は訪れません。最初に始める人はものすごく苦労するし、当初はなかなか受け入れられないかもしれない。けれども誰かが始めることでムーブメントが起こり、いつか社会システムが変わって、100年後に振り返ったとき「あの時の変化が起点だったね」と言われるようになる。Glass Rockは、まさにそんな起点となる場をつくっていく必要があるという想いから始まっています。森ビルとしても、東京・日本から世界に向けてそうした動きを発信できたらいいなと思っています。

晴れた日はオーバル広場を見下ろすテラスで仕事や息抜きも。

——竹田さんにさらに伺います。東京のような大都市だからこそ設定できる課題や可能性とは、例えばどんなことでしょうか?

竹田 特定のテーマというより、都市というのは「人が集まる場所」ですよね。歴史上、例えばブラジリアのように計画的につくられた都市もありますが、多くはさまざまな人々が集まって自然発生的にかたちづくられてきました。当然人が集まれば課題も増えますが、裏を返せば多様な人々が交わることで新しい未来を創るチャンスが生まれる。それがいろんなセクターが集まる都市の醍醐味だと思っています。つまり課題先進地である都市は、解決策とイノベーションの宝庫でもあるということです。

ポイントは「共通の未来ビジョン」を持てるかどうか

——Glass Rockは、官や民、個人、学生といった、立場も年齢も含め多様なバックグラウンドをもつ人々が集まる場になる予定と伺っています。それだけ多彩な人たちがひとつのコミュニティをつくる場合、面白さと難しさの双方があると思います。多様性のメリットを最大化しデメリットを最小化するには、どのような観点やチューニングが必要だとお考えですか?

宮田 ポイントは「共通の未来ビジョン」を持てるかどうかだと思います。産業革命から今日までは、「経済的合理性」が極めてわかりやすい共通目標でした。ほかに大事なものがあると言いつつも、結局すべてが経済の論理に収斂していった。しかし竹田さんのお話にもあった通り、これからは未来のビジョンを共有価値として、いかに共に歩いていくかが重要です。目先の利益や利害といった足元の現実だけを見ると、おそらく意見は折り合わない。格差や分断もあるし、人それぞれ立場も違う。裕福な人たちの間ですら差があります。そうした埋めがたい違いも、遠い未来を見据えて考えれば乗り越えられる可能性があるんじゃないか。経済だけを共通目的にしていては難しいことでも、「あるべき未来」をみんなで考えることで、違いを力に変え、分断ではなくつながりを生むものにできる余地があると思うんです。

Glass Rockではそのタイムスパンを100年後に設定していますが、これは数年後や数十年後といった短期・中期の目標も含めてブレイクダウンできるひとつの軸だと捉えています。100年後という遠い未来を視野に入れることで、「いまは立場が違う人同士」でも、共通言語として未来志向で語り合えるようになる。実際、東京という都市は世界最大の都市圏で、広大な連続した市街地と世界一の人口規模を持っています。さまざまな地域出身の人や海外の人が集まり、多様な価値観を受け入れてきた土壌がある。それ自体が東京の強みであり、そうした多元的な価値観やコミュニティを「未来を動かす力」に変えられるとすれば、こんなに可能性のある都市はないと思います。

 

竹田 宮田さんのお話にさらに説明を付け加えるなら、「100年先」というスパンを設定する意義です。どうしてわれわれが100年先と言っているかというと、5年先や10年先だとリアルすぎて自分の業績や利益と切り離せないし、7世代先(約140年後)なんて遠すぎてピンとこない。でも100年後なら、この場にいる誰も生きていない可能性が高いですよね(笑)。つまり自分自身の損得を一旦置いて、もっと俯瞰して社会を考えられる共通言語になるんです。目の前の自分の得失ではなく「社会のためにどうあるべきか」を話すための装置として、「100年後」という設定はちょうどいい距離感なんですよ。

だからといって「100年後に変わっていればいいよね」と傍観していてはいけないわけで、その未来のためにいま自分たちに何ができるかを考えることが重要です。実際、森ビルの都市づくりの経験からいっても、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズといったプロジェクトは完成まで何十年もかかっています。最初に地元の方々に「一緒に街づくりをしませんか」とお声がけしたとき、みなさんが即座に賛成したわけでは決してありません。生活環境や価値観も人それぞれですから。しかしわたしたちは「目先の生活の便利さだけでなく、この地域をあなたのお子さんやお孫さんの世代までよりよい街にして残しませんか?」と未来志向の話し合いを重ねました。すると、最初は反対・懐疑的だった方も「自分の子や孫の代に、この街をどうしていこうか」という視点で語り始めてくれるんです。いままで噛み合わなかった意見が、一気に未来を語る共通言語で合意形成できたという経験を何度もしました。これは非常に示唆的でしたね。

加えて、先ほど宮田さんがおっしゃったように、東京は国内外からいろいろな人が集まってできた社会で、ある意味とても恵まれた環境なんです。多様な価値観を受け入れる土壌が既にあり、それをよりよい未来につなげていけるのが東京だと思います。

宮田 いまの竹田さんの「100年」という設定に至った背景、本当にいいですよね。100年というスパンは、ちょうど自分の人生を超える長さなので、自分自身の延長としてではなく未来を考えることができる。寿命が延びればまた変わるかもしれませんが、現代人にとって100年先というのは絶妙な距離感だと思います。

「リアルに集まれる場」があることの意味

竹田 もうひとつ付け加えると、「リアルな場が持つ力」は極めて大きいと感じています。わたしたちは都市開発を手がける立場なので宣伝っぽく聞こえるかもしれませんが、異なる価値観の人々が未来に向かって進もうとするとき、やはりリアルに集まれる場が強い力を持つと思うんです。オンラインでミーティングしたりリモートで作業もできますが、顔を合わせて同じ時間や体験を共有するなかで、お互いの人となりがわかり、「じゃあこうしてみよう」という会話が生まれやすくなる。だから今回われわれは「100年後の社会のために集まろう」と呼びかけるだけでなく、実際に集まれる場であるGlass Rockを、虎ノ門ヒルズのエリア内でもひときわ人が行き交う広場に面した真ん中に配置したんです。まさに都市のさまざまな流れに浮かびながら未来を見渡せるような感覚になる、象徴的な立地だと思います。

宮田 思い返してみると、森ビルさんが六本木ヒルズに森美術館をつくったことも象徴的です。経済的に最も価値の高い場所に、すぐにはお金を生まないアートの施設をあえてつくった。しかしその文化の力によってコミュニティがドライブされ、新しい問いがどんどん立ち上がっていきました。これは、東京の都市コミュニティのなかでも非常に意義深い革新的な街づくりだったと思います。そうしたことを成し遂げてきた森ビルだからこそ、また新しい価値や問いを立てる役割を担えるのではないかと感じます。

——コミュニティづくりにおいては、人々の自発性を引き出す仕掛けも重要だと思います。義務感でやらされるのではなく、内側から湧き上がる想いでコミュニティのメンバーが動けるようにするには何が必要でしょうか。例えば、誰に頼まれずとも自分の好きなものを熱心にサポートする「推し活」のように、未来志向の社会活動も誰かに強制されるのではなく「自分ごと」として楽しく夢中になれる状態が理想だと思います。Glass Rockの活動が100年先までサステナブルに続いていくための工夫について、宮田先生のお考えをお聞かせください。

宮田 いまの「未来の推し活」というたとえは本質を突いていると思います。「こんな未来に行きたい!」と自発的に熱中するイメージですよね。農業革命以降は、ヒエラルキーのなかで自分の役割を果たし階段を上ることを志し、さらに産業革命以降は、巨大な経済エコシステムで稼いだ人が勝者になるといった図式が厳然として存在するなかで、人々は、その与えられた仕組みのなかにおける歯車としての役割を、無自覚に甘んじている部分もありました。しかしいまは、自分起点で、社会や世界とつながりながら未来を変えていくんだという意識への転換期が来ていると思うんです。誰もまだ発見していない価値を見出して「これいいよね」とネットワークをつくり、それが未来につながっていく。ここが一番大きなチェンジになり得ると思います。

そのとき重要なのが「推している実感」です。自分の行動がどんな未来につながっているかという手応え。それを可視化することが、デジタルの力で可能になってきました。いままでも人と世界はつながっていたけれど、自分の行いで世界がどう変わるのか、その実感を得ることはなかなかできませんでした。しかしいまはデジタルによって、自分の行動が未来にどれだけ寄与したかを見える化できる仕組みも出てきています。例えば海外では、ちょっと低炭素な行動をするとポイントが貯まって砂漠に木を植えられるとか、環境に優しい行動をゲーム感覚でコミュニティ化する「グリーン推し活」のような事例もあります。生物多様性に限らずいろいろな推し活があっていい。そうやって自分たちの未来を応援する活動を盛り上げていくことが、実はすごく本質的なのかもしれません。

 

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1/4コミュニティマネージャーが常駐し、社会課題解決への連携・協働を促進する。
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2/4議論だけでなく、実際にある社会課題の解決策や行動につなげていくための学びの場。
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3/4活動の輪を広げ、より大きなムーブメントへとつなげる。社会課題解決のための連携と共創を目指す象徴的な場。
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4/4時にはリラックスすることで、新たなアイデアやコラボレーションが生まれる。

わたし自身、「Human Being(人間)」から「Human Co-being」へと変えていこうとよく言っています。要するに「共に生きる存在」として未来を一緒に創ることを自覚的にアクションしていこうということです。それが、これからの人間の変化ではないかと考えています。100年後の人たちから見たときに、「自分たちはHuman Co-beingの祖先になったんだ」と思ってもらえるような、そんなメッセージを込められたら面白いですよね。

公共圏としての“場”をどうつくるか

——デジタル技術の話が出たので関連して伺います。テクノロジーとコミュニティの関係についてです。インターネットによって人と人は繋がりやすくなりましたが、一方でSNSでは滞在時間を最大化するアルゴリズムが働き、分断を加速させてしまう側面も指摘されています。テクノロジーをコミュニティの力に変えるには、どんな視点が必要でしょうか?

宮田 単に場をインターネット上に開けばいいというものではなく、「どんな価値観で場を動かすか」が大切ですよね。現在のSNSは広告ビジネスの論理で設計され、人々をできるだけ長く引き留めて消費させる場になってしまいました。その結果、過激な情報ばかりが注目されて世論が分断されるという負の面が出ています。ですから、リアルでもオンラインでも、場を動かす原動力として「何を据えるか」を意識しなくてはいけません。営利だけでなく、100年後というタイムスパンで未来の価値(シェアードバリュー)を見据えながら集う意義を考える、ということです。そういう公共圏としての場をどうつくるかが問われていると思います。

 

竹田 公共圏の視点で考えると、単に民間の力だけでなく官の力とも連携しやすい場所にあることがポイントだと思います。Glass Rockが拠点を構える虎ノ門ヒルズは、霞が関にも近い立地です。社会の仕組みを変えるには、われわれ民間がどれだけアイデアを出してもルールそのものを変えないと実現しないことが多いんです。例えば虎ノ門ヒルズの開発では、よりよい街にするために道路上空を活用して大きな広場をつくろうと、当時の小泉政権下で「立体道路制度」を新設していただきました。まさに国(霞が関)と一緒に新しいルールをつくったからこそ実現できたわけです。民だけの思いでは限界があるので、官と民がきちんとリレーションを取って共創することが重要です。「新しい公共」というと、下手をすると「お上(行政)がきっと何かしてくれるだろう」と受益者目線になりがちですが、それでは本当にいい街はできません。民間の人たちも一緒になって公共をつくっていく意識が必要で、それをここから発信できたらいいなと思います。

宮田 「新しい公共」という言葉自体は少し手あかが付いてしまった印象ですが(笑)、竹田さんがおっしゃったことはまさにその通りで、フラットに未来に向き合える公共空間をどうつくるかだと思います。インターネットが登場したことで新しい公共圏の可能性が生まれましたし、都市計画でも、例えばバルセロナのように「一定区画ごとに必ず公共空間を設ける」といった先進的な取り組みも注目されています。行政には行政のミッション、ビジネスにはビジネスの収益目標がありますが、そうした既存の価値に飲み込まれないようにしながら場の未来を考えていける場所をつくる視点が重要になってきています。Glass Rockは民間発のコミュニティとはいえ、そうした公共性も併せ持ったハイブリッドな場を目指しているんです。

2125年の東京の未来像

——最後に、いまから100年後の「2125年の東京の未来像」について、おふたりに伺いたいと思います。東京という街がどんな姿になっていて、どんな価値を提供していることを想像・期待しますか? もし描いているイメージがあれば教えてください。

竹田 難しい質問ですね……(笑)。あえて一番変わっているだろうと思う景色を挙げるなら、東京のグローバル化です。これまで東京は日本人が圧倒的多数でしたが、若い世代はデジタル技術も駆使してどんどんボーダレスに学び、交流するようになっています。100年後には都市そのものがさらにボーダレス化し、世界中から多様な人々が学びや体験、交流のために集まる場になっているんじゃないかと思います。いまも日本各地や海外から人が集まる街ですが、それがスケールアップして、東京にはより多様な価値観がインストールされている。東京がそれらを受け入れて進化し、真の多文化共生都市になっていてほしいですし、きっとなっているだろうと期待しています。

月ごとにテーマを変えるTANAは書籍を通じて会員が互いに理解をする媒介役になる。

宮田 わたし自身は「Better Co-being(よりよい共生)」というあり方を未来の軸に据えています。ひとりの幸福だけでなく、多様な人たちがきちんとつながった状態で未来に向かっていけることが望ましい、と考えているからです。その意味で、2125年の東京がどうなっているか、具体的なかたちに強いこだわりはありません。おそらく地域ごとに最適な未来の姿は違うでしょうし。とはいえ東京に暮らす人間として希望を言えば、自然との共生は外せないですね。実は近未来を描くSFって、いまだに機械に支配された無機質な世界ばかりで自然がほとんど登場しないんです。でもそれは決定的に違うだろうと。100年後を考えるなら、植物を含む自然の生態系が街に深く侵食している未来であるべきだし、そうなると信じています。

東京は幸い、明治神宮や代々木公園、皇居の森など他都市に比べて緑が多く、ひとり当たりの緑地面積も意外と多いと言われます。そこは東京の素晴らしい点なので、将来はビルの中や街区の至る所にもっと緑が入り込み、都市全体が巨大な森のようになっているといいなと。竹田さんがおっしゃったように多様性も大事ですが、ぼくとしてはとにかく東京が“緑の都市”になっていてほしいという願いがあります。

——確かに、子どものころに描いた未来図って無機質なシルバーの街だった気がしますが、いまの子どもたちは未来を緑色で描くそうですね。「いまは緑が足りないから、未来こそ緑豊かになっているはずだ」って。

竹田 実は社内でも似たようなことがありまして……。あるとき若手社員たちに未来の技術動向をレクチャーしたうえで、「将来の東京の絵を描いてみよう」というワークショップをやったんです。社名が「森ビル」なので笑ってしまったのですが、みんな真っ先に緑の絵を描いたんですよ(笑)。「ビル(=都市)」ではなく「森」をイメージしたわけです。それくらいいまの若い世代も緑豊かな未来像を求めているし、実現しようとしているんだなと感じました。

宮田 素晴らしいですね。それだけ未来像が無機質なシルバーから有機的なグリーンへとシフトしつつあるし、していかなきゃいけないということですよね。

竹田 本当にそう思います。そしてそうした変化は、多様なだけでは起きないとも思っています。最後はやはり一人ひとりの意思なんですよ。「自分は東京をもっと緑にしよう」「社会をこうよくしていこう」といった意思。ただ漠然と集まって「社会がよくなるといいね」と願っているだけでは何も変わらない。自分たちで何をしていくか意見を出し、行動に移す場にしていきたいと思っています。

宮田 今回改めて竹田さんとお話して、実際にGlass Rockで目指していくべき共創のかたちが見えてきた気がします。場がある強みを活かして、どんどん仕掛けていきたいですね。
 

profile

宮田裕章|Hiroaki Miyata
慶應義塾大学医学部教授。2003年東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。専門医制度と連携し5,000病院が参加するNational Clinical Database、LINEと厚労省の新型コロナ全国調査など、医学領域以外も含むさまざまな実践に取り組むと同時に、新しい社会ビジョンを描く。著書に『共鳴する未来:データ革命で生み出すこれからの世界』(河出新書、2020)。

Glass Rock
~Social Action Community~

 
Glass Rockは、クロスセクターの連携と共創により社会課題の解決を目指す会員制拠点です。コミュニティ運営の専門家が支える「つながる」場、実践的な学びや対話を生み出す「まなぶ」仕掛け、そしてギャラリーやスタジオなどから「ひろげる」発信機能を有します。これらの「場」と「仕掛け」を通じてクロスセクターの連携と共創を促進し、「社会課題解決」に向けたイノベーションの創出と持続可能な社会の実現に貢献します。