A Park Pulls a City Together #1

ブルックリン・ブリッジ・パークはなぜ「世界でもっとも成功し続ける公園」と呼ばれるのか?

今や「世界最強の公共スペース」との誉れも高いブルックリン・ブリッジ・パーク。対岸のマンハッタンの摩天楼を眺めながらスポーツやピクニックを楽しみ、バラエティ豊かな無料イベントに参加しようと足を運ぶ人の数は、年間500万人にものぼる。ブルックリン・ブリッジ・パークはなぜ、成功し続ける唯一の公共スペースと称賛されるのか? あのハイラインには無い、ブルックリン・ブリッジ・パークだけの魅力とは何だろう? 

TEXT BY MIKA YOSHIDA & DAVID G. IMBER
Main Photo by Alexa Hoyer
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
Photo courtesy of Brooklyn Bridge Park

地元民・よその住人・旅行者がバランスよく訪れる、理想のパーク

ブルックリン・ブリッジ・パークの地図。左の対岸がマンハッタンだ。

ブルックリン・ブリッジ・パーク(以下BBP)を知るにあたり、まずマンハッタンのハイラインと比較してみよう。ハイラインは廃止された鉄道の高架部分に作られたマンハッタンの中心部に位置する縦長のバークで、各地の行政や開発業者がこぞって手本にした、都市に斬り込む公園の先駆者だ。ハイラインのコンセプトを取り入れた公共空間は世界各地に出現し、ビルバオ効果ならぬ「ハイライン効果」の造語も生まれたほど。ここを訪れる人の数は年間800万人(2019年統計)、そのうちおよそ9割を旅行者が占める。意外なことに、地元民はわずか1割程度に過ぎないのである。

一方、BBPは旅行者が1/3と比率は低い。そして地元住民が約1/3、残りのおよそ1/3はマンハッタンやクイーンズ、ブルックリンといった近隣から来る人達だ。地元民は一人で、または友人・家族と芝生やベンチでのんびり過ごす。仕事帰りにベンチに腰かけて一息ついていたら、ジャズが聞こえて来て、音楽の方向に足を向けるとフリーライブに出くわし、そのまま心地よい夕べを楽しんだりも。さりげない喜びに偶然出くわすパブリックスペースだ。

マンハッタンの住人にとっては、BBPは地下鉄一本で都会の喧噪から逃れることができるオアシスだ。ただチルアウトしに行くのもいいし、ウェブをチェックして音楽や映画上映、天体観測など、楽しい無料イベントやプログラムを目指すのも良い。BBPができたおかげで初めてこのエリアにやってきた、という人が殆どだ。

ファミリーで魚釣りを楽しむプログラム。楽しみながら、地球環境を学ぶ。Photo by Etienne-Frossard

しかし、ここはブルックリンハイツ地区とダンボ地区に隣接するウォーターフロント。マンハッタンから離れたロケーションにありながら、州外や国外から来た旅行者までもがわざわざ足を運ぶのはなぜだろう? 

そう、その答えはブルックリン・ブリッジにある。NYに来た旅行者にとって、この橋を歩いて渡るのは定番のアクティビティ。マンハッタン側から出発し、まるで絵ハガキのような風景を満喫しながら歩くこと30分。ブルックリン側に到着したものの、さてここから何をしよう? ……そんな旅行者をまるで待ち受けていたかのように、目の前に広がるのがBBPなのである。

アスリートもキッズもシニアも観光客も。誰もが参加したくなるプログラムの数々

ブルックリン・ブリッジを見上げながら、アイススケート! 冬の醍醐味。

旅先で美術館や話題のスポットを巡るのも楽しいが、地元の人々が素顔で寛ぎ、自然の中でアクティビティに興じる風景の一部になることこそ、まさに旅の醍醐味だ。人も風景も洗練されたブルックリンという町に「住んでいる気分」を味わえる、それが今どきのラグジュアリーといえる。

このBBPにはイタリアンの人気店やバー、フードコートやライブスペース、さらには抹茶カフェやファッションブランド〈KITH〉のキッズ向けショップが入った複合商業施設「エンパイア・ストアズ」もある。だがこのパークの一番の魅力は、なんといっても土地の歴史や風土に則して再構成された自然環境、そしてその特性を存分に生かしたイベントやアクティビティに他ならない。

ピア(桟橋)1から6、そしてメインストリートと呼ばれるエリア等から成るBBP。ランドスケープもアクティビティも、変化と起伏に富んでいる。年間500本ものイベントやプログラムを企画・オーガナイズするのは、〈ブルックリン・ブリッジ・パーク・コンサーバンシー〉。1985年創設、スタッフ数11~50名の非営利団体だ。

たとえば冬ならアイススケート・リンク。またサッカーやピックルボール、バレーボールのコートも世界クラスの施設ながら、誰もが無料・先着順で利用できる。

ワールドクラスのテニスコート。誰でも無料で利用できる。先着順。Photo by Alexa Hoyer

魚釣りに挑んだり、バードウォッチに時を忘れたり。ここでは120種類もの野鳥を観察できる。あちこちに設置されたパブリックアートを巡るのもいい。展示の企画やオーガナイズは公共アートのNPO〈パブリック・アート・ファンド〉が担っている。

映画にバーベキュー、祭りだけじゃない。学習イベントも充実

日没時間に合わせて上映スタート。Photo by John Eng

毎年夏のお楽しみは、ピア1のハーバーで開催される野外映画上映会だ。こちらも入場無料、先着順。『ブラムストーカーのドラキュラ』や『パルプフィクション』といった、カップルや家族で楽しめる名作がサンセットの時間にあわせて大きなスクリーンで上映される。フードや飲み物も購入できるし、大人にはバーまでも。この野外上映会は2000年のスタート以来、来場者数69万人! 7月から8月にかけて、NYの短い夏を彩る風物詩の一つとなっている。ちなみにストリーミングTVサービス〈Pluto TV〉の協賛だ。

無料で楽しめるカヤックもここの人気プログラム。オーガナイズは〈ブルックリン・ブリッジ・パーク・ボートハウス〉。

BBPの中でも特にマンハッタンの住人が喜んだのが、バーベキューグリルを設置したピア5の〈ピクニック・ペニンシュラ〉だ。食材を買い込み地下鉄でパークに行けば、無料でグリルが借りられる。車を基本的に所有しないマンハッタン人にとって、公共交通機関で手軽にできるバーベキューは、思わぬ贅沢なのである。

10月に催される秋祭りもここの風物詩。子供も大人も楽しめる催し物や屋台が1日中。運営はBBPコンサーバンシー。スポンサーは自然派甘味料メーカー「イン・ザ・ロウ」。もちろんハロウィン仮装コンテストも!

週日、フードやライブ、運動会などで盛り上がる秋祭り。企業やNPO、地元クラフト作家などの屋台もたくさん。Photo by Alexa Hoyer

環境への意識が高い土地ならではのイベントの一つに、〈シティ・オブ・フォレスト・デイ〉がある。自然愛好家団体や植物園、NY市公園局や動物保護団体、建築事務所など160以上もの様々な団体で組織された〈フォレスト・フォー・オール〉が3年前に始めた、緑の日だ。この日、BBPではティーンが植物の世話を学びにやってくる。集まるのは地元ブルックリンをはじめ、マンハッタンやクイーンズ、ブロンクスなど市内全域の子ども達。指導にあたるのは「グリーンチーム」と呼ばれるBBPのボランティアだ。

キッズ達の「曳き網漁」体験学習。Photo by Julienne Schaer

樹木の手入れや草取り、肥料のやり方などを学んだあとは、おやつを食べながら他のキッズ達との交流を図る。新しい友達と出会いながら、コミュニティサービスの習慣を身につける、それも緑や環境のことを教わりながら! そんな一日の過ごし方こそクールと見なすNYのキッズ達こそ、このパークのすみずみにまで行き渡る新しい価値観の体現にほかならない。

第二弾では、BBPのキーパーソン、ランドスケープアーキテクトのことを紹介する。

ブルックリン・ブリッジ・パーク


ブルックリンハイツ地区とダンボ地区に隣接するウォーターフロントの公園。長さ2.1km、面積34ヘクタール。2010年にピア1がオープン。当時はニューヨーク・ニュージャージー港湾公社の所有。2021年までにピア2~5,メインストリートと呼ばれるエリアが完成。NY市のNPOである〈ブルックリン・ブリッジ・パーク・コーポレーション〉が運営や管理、建設監督を行う。イベントやプログラムの企画・オーガナイズ・運営を手がけるのは同じくNPOの〈ブルックリン・ブリッジ・パーク・コンサーバンシー〉。