SIGGRAPH ASIA

リアルの境界を破壊する最先端CG技術が集結!「シーグラフアジア 2018」レポート

画像技術の進化は、人々の想像力をも進化させる。東京国際フォーラムで開催されたコンピュータサイエンス分野の国際学会(ACM)の分科会に位置付けられている「シーグラフアジア2018(SIGGRAPH Asia 2018)」では、強力なコンピューティング・パワーとエンジニアリングの融合による、新しい映像世界の“リアル”がいち早く披露された。そのなかから注目の技術をピックアップ!

TEXT BY YUKO NONOSHITA
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI

学会と聞くと、「一般人には無縁な学者や専門家が集まる遠い世界」だと思う人は多いだろう。

だが、CGやインタラクティブといった画像関連の最先端技術をテーマにするSIGGRAPHは、PixarのCGアニメーションやハリウッドの特殊エフェクト技術をはじめ、ゲームやシミュレーション、VRなど、一般でも目にする技術を扱っており、毎年北米で開催される展示会には、ゲームのみならず、アートや教育、医療など幅広い分野から注目を集めている。

2008年から始まったアジア地域で開催されるSIGGRAPH Asiaも年々注目度が高まり、東京での開催となった2018年の公式登録者は、世界59カ国と地域から9,735名にのぼり、SIGGRAPH Asia史上最大の登録者を記録した。

大学や企業の研究機関をはじめ、クリエイティブ組織などから約750名の発表者が登壇し、ステージ上でリアルタイムにデモを行う「Real Time Live!」もアジアで初めて開催された。

PixarやILMなど世界トップクラスのCGスタジオの技術を紹介する特別講演や、コンピュータ・アニメーション・フェスティバル(CAF)の授賞式など連日満席になるプログラムが続き、会場の外から階下まで長蛇の列ができることもしばしば。UnityやDELLら企業によるワークショップも毎回入場希望者があふれるほどであった。

基調講演では、NASAの太陽系探査プロジェクト「JPL」マネージャーのデヴィッド・オー博士や、コミュニケーションロボット「LOVOT」の発表を直前に控えていたGROOVE Xの林要氏、複雑さと芸術性を備えるオリガミの研究を続けるMITのエリック・ドメイン教授が登壇。CG製作とは直接関係なさそうに思えるジャンルの専門家らをスピーカーに招くことで、テーマとなる「クロスオーバー」を印象づけることもSIGGRAPHの特徴だ。

バーチャルの世界では「ハプティクス(触覚)」がキーワード

展示エリアも14ヵ国から93社・団体が出展し、アジアでの開催では市場最大規模となった。

その多くを占めていたのはVRやAR関連で、海外からの参加者を対象としたVRシアターや、多数のデモ作品が体験できた。ユニークなところではバンダイナムコがMSのHorolensをかぶってパックマンをプレイするゲームをアップデートし、ホンダのモビリティマシン「UNI-CAB」に乗って体験できるデモを公開。ゲームの世界を現実に体験できるという点が注目を集めた。

「Real Time Live!」で公開された、iPhoneとスーツを組み合わせて表情から体の動きすべてをキャプチャするデモ動画。

以前からSIGGRAPHでは、ハプティクスと呼ばれるバーチャル映像に触覚を与える技術が毎回いろいろ発表されている。数年前は指先で触ったり、手で持ち上げるといった感覚を再現できる程度だったが、今年はパックマンのような体全体で没入感を演出する技術が複数出展されていた。

その一つ、首都東京大学のIKEI LABが開発した「FiveStar VR」(本記事冒頭の写真をご参照あれ)は、8Kの360度映像に自転車のペダルや風を加えて旅行体験できる装置でBest VR/AR賞を受賞している。

台湾の複数の大学が開発する「Lotus」は、霧状の香りが上から吹きかけられるという演出で 機材が登場するなど、大掛かりなものになっている。VRを楽しむエンタメ施設はショッピングモールのような場所にも設置されるようになってきており、VRをリアルに近づける技術はこれからも新しいアイデアがいろいろ登場しそうだ。

Vtuberの必須アイテムが登場!?

もう一つ注目しておくべき技術といえるのがリアルタイムモーションキャプチャだ。演者にマーカーを装着し、センサーとカメラを使って動きをキャプチャする技術はかなり前からあるが、それが進化してリアルタイムで動きを表現できるまでになっている。オランダのXsens社はワイヤレスで遮蔽物に囲まれた屋外でも精密にキャプチャできる機材を開発。素早い動きはもちろん、指先の細やかな動きまでキャプチャでき、それを演者が腰に付けたデバイスで保存できるようにまでしている。

こうしたリアルタイムの画像処理は精度にもよるものの、これまではワークステーションが必須だった。しかし今では、ゲーム用のノートパソコンでも可能になっている。

オランダのXsens社による、リアルタイムモーションキャプチャのデモ動画。

リアルタイムにモーションキャプチャの応用としてフェイスキャプチャも話題を集めていた。映画では特殊メイクに変わる技術として活王が進んでいるが、顔にマーカーとなる線を書いたり、大量のカメラを装着し、ライトも当てるなど演者にかなり負担を強いていた。

前述のXsens社が開発したシステムは、iPhoneのFace IDを利用して顔の動きをキャプチャできるというもので、ヘルメットをかぶるだけでも誰でもバーチャルキャラクターに変身できる。

カメラに映した顔にCGを貼り付けてリアルタイムに動かす技術はすでにスマホにも搭載されており、Vtuberらの必須アイテムとなりそうだ。「リアルタイムライブ!」では、さらに高性能なリアルタイムモーションキャプチャのデモがいくつも披露され、実用的な技術であることが証明されていた。また、この技術とVRを組み合わせたたシェイクスピア劇なども公開されており、応用範囲はもっと広がる可能性がある。

応用分野はエンタメだけではない

コンピュータグラフィックスはエンタメ分野での活用が多い印象もあるが、遠隔で参加できるバーチャル工房でモノづくりをしたり、工場の作業を再現したり、医療技術をシミュレーションするといった応用が進んでいることが紹介されていた。

特にシミュレーションは、建物や都市設計、また、自動運転車両のナビゲーションに不可欠な3Dマッピング分野で技術革新が進んでいる。近い将来、仕事の現場で日常的にこれらの技術に触れ合うことになるかもしれない。

さらに5Gの登場で、CGをAIで動かす「バーチャルキャラクター」が街なかを歩き回る「ゲームのような世界の実現」も提案された。

バーチャルとリアルとの境界線が薄れていく未来は、思いの外すぐにやってきそう。そんな気配を感じる、SIGGRAPH Asia 2018であった。