THE ESSENTIAL SXSW

「世界がうらやむビジネスフェスティバル」の作り方

エスタブリッシュな東海岸から南南西の位置にあるテキサス州のある街で、オルタナティブな音楽フェスティバルが始まったのが1987年。そのフェスティバルはやがて映画やマルチメディアへと領域を拡げ、いまやイノベーションの震源地として確固たる地位を築き上げるまでに至った。世界中から多様な人材を惹きつけるSXSW(サウスバイサウスウエスト)の内実とは?

Text & photo by Tomonari Cotani

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毎年3月にアメリカ・テキサス州オースティンで開催される、世界最大規模のクリエイティブ・ビジネス・フェスティバル「SXSW(サウスバイサウスウエスト)」。音楽、映画、インタラクティブという3つのメインカテゴリーに加え、教育、エコ、食、ゲーム、コメディ、アートといった多様なサブジャンルまでがクロスオーバーするこのフェスティバルに、なぜ世界中から人が集うのか。その秘密の一端を知るべく、「主催者」であるSXSW, LLCのピーター・ルイス(シニア・インターナショナル・ビジネス・ディベロップメント・マネジャー)に話を訊いた。

キーワードは「コンバージェンス」

——まずはSXSWの概要や規模について教えてください。

ルイス SXSWがスタートしたのは1987年のことで、当初は音楽だけのフェスティバルでした。アーティストやマネジャー、プロデューサーといった音楽産業に携わるクリエイティブな人たちの目標や夢の実現の手助けをするべく、人々が出会い、ビジネスを構築できる場所をつくりあげることが私たちの目標でした。その後94年に映画部門が立ち上がり、98年にインタラクティブ部門がスタートしました。

今年、SXSWミュージックでは2,085のパフォーマンスが行われ、来場者は16万7千人を数えました。SXSWフィルムでは171本の短編と130本の長編が公開され、そのうちワールドプレミアは83本ありました。来場者はおよそ7万人です。そしてSXSWインタラクティブでは、2,887のセッション、5,280名のスピーカーが登壇し、来場者は7万人を超えました。

登壇者や来場者は世界97カ国から集まり、その67%が新規ビジネスの機会を模索するためにSXSWを訪れ、28%の人が決裁権の持ち主、つまりその場で意思決定ができる人でした。このデシジョン・メイキング・パワーは、SXSWのひとつの特徴だと言えると思います。

——ちなみに、投資家の割合はどの程度でしょうか?

ルイス およそ5%になります。一見この数字は低いと思われるかもしれませんが、インタラクティブ部門への来場者が7万人ですから、3,500人が投資案件を探していることになります。それって決して少なくないですよね。

——米国以外だと、どの国からの参加者が多いのでしょうか?

ルイス 参加者の78%が米国国内で、残りの22%のうち、英国が1位、それに続いて日本からの参加者が多いというデータが出ています。

——SXSWは、ミュージック、フィルム、インタラクティブ以外にも、教育、エコ、食、ゲーム、コメディ、アートと、テーマが多岐にわたっているのが特徴です。この多様性には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

ルイス さまざまな業界からさまざまな人が一定期間に集まることで、カオティックでユニークな環境が醸成されるのがSXSWの特徴です。垣根を越えたコミュニケーションが自ずと発生し、そこから新たな発見が起こるのではないでしょうか。私たちはコンバージェンス、つまりは分野横断的なコミュニケーションやコラボレーションが、新しいアイデアやサービスやプロダクトの発現を加速させると信じています。

ソフトからハードへ

——インタラクティブ部門について、SXSWのここ数年の傾向と、2017年の特徴について教えてください。

ルイス ご存じかもしれませんが、2006年にTwitterがSXSWでローンチされ、そこから爆発的な広がりをみせたことを契機となり、その後、ウェブサービスやアプリといったソフトウェアのイノベーションが次々にSXSWから生まれて行きました。その流れに変化が起きたのが、2017年でした。具体的には、VR/ARのテクノロジーやロボティクスなど、ハードウェアへのシフトです。

市場のニーズが、デジタルなものからタンジブル(触れる)なものへと移り変わっているのかもしれません。その意味では、ソニーやパナソニックといった世界的なメーカーがSXSWに出展し、実際に触ることができるプロトタイプを発表して評判を呼んだことは、2017年を象徴する出来事だったと言えると思います。

——そうした「ソフトからハードへ」という傾向をいち早く読み取り、キーノートやワークショップのプログラムを作っていくのでしょうか?

ルイス 私たちはオープンプラットフォームなので、参加を希望するすべての企業や人物に対して門戸を開いています。そして参加を希望するクライアントに対して、「こういうサービス、こういうプロダクトを出展してください」と指定することはありません。イノベイティブなアイデアが集まった結果、市場のトレンドや、企業がどこにフォーカスしているのかというトレンドが反映されているのだと思います。

——タンジブル、あるいはフィジカルなものへのシフトは、過剰なデジタル主義に対する揺り戻しなのでしょうか。

ルイス そうかもしれません。実際、テクノロジーに人間味をもたせるという視点が増えているというか深まっている印象です。これまでは、効率を上げることが最大の目標でしたが、いまは、人の生活の質を上げることだったり、人々の生活になにかポジティブなインパクトを与えるために、デジタルテクノロジーがどのように寄与するか、という視点が強まっていると思います。

来年はあなたが登壇者!?

——最後に、SXSWの今後について教えてください。

ルイス ネクストステップは、2018年のSXSWを滞りなく運営することです。というのは冗談で(笑)、6月26日から、パネルピックのプロセスが開始となります。これは、世界中の誰もがアイデアを提出できるプロセスで、セッションに関してでも、ワークショップに関してでも構いません。集まったアイデアに対して、一般投票、スタッフによるレビュー、さらには諮問委員会を経て、どのパネルが選択されたのかを10月上旬に発表します。

テックインダストリー、ミュージックインダストリー、フィルムインダストリー向けのコンテンツはもちろん、ブランドマーケティング、デザイン、ヘルス、ジャーナリズム、ソーシャルインパクトなど、私たちが求めるコンテンツトラックは24ありますので、どのようなアイデアであれ、いずれかに該当するのではないかと思います。

私たちが特に見ているのは、アイデアの多様性です。インターネットを見れば大抵のことにアクセスできる時代ですので、そうした表面的なことではなく、狭く深く議論できるアイデアを私たちは求めています。ぜひあなたのアイデアを、私たちに聞かせてください!

profile

ピーター・ルイス|Peter Lewis
テキサス大学オースティン校を卒業後、SXSWに入社。現在はインターナショナル・ビジネス、マーケティングを統括するマネジャー。今回のインタビューは、2017年5月末、SXSWのさらなるビジネスディベロップメントのために来日した折に合間を縫って行われた。