麻布台ヒルズ ガーデンプラザ2階にある〈エイタブリッシュ〉は、全30席中24席がテラス席。スイーツなどのショッピングだけでも立ち寄れるオープンな空間だ。2000年、青山に開いた〈カフェエイト〉時代から一貫してヴィーガンメニューを提供し続けていることから「ヴィーガンレストランのパイオニア」でもある。代表でアートディレクターの川村明子さんに、創業時から変わらぬ思いと麻布台で考えるこれからについて話を聞いた。
TEXT BY KEI SASAKI
PHOTO BY NORIO KIDERA
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
illustration by Geoff McFetridge
自由で創造的なコミュニティの中から生まれた“ヴィーガン”という価値観
——川村さんが〈エイタブリッシュ〉の前身にあたる〈カフェエイト〉をオープンされてから約四半世紀、東京には多くのヴィーガン料理やスイーツの店ができ、賑わいを見せていますね。
川村 飲食店を経営していますが、飲食業界の動向にうといというか、平たく言うとよそのお店のことをあまり知らないんですね。そんな私ですら、事務所のある表参道界隈を歩いているだけでも、「確かに、増えているな」と、感じることはあります。私たちが24年前にカフェを立ち上げたときは「ヴィーガン」という言葉さえも今ほど浸透していなかったので、時代は変わったなと思いますね。よく「ヴィーガンのパイオニア」だとか言って頂くのですが、自分ではそんなつもりはまったくなく。でも、ヴィーガンの店が増えること自体は、とてもいいことだと思っています。私が考えるヴィーガンの一番の価値は、「多くの人が同じ食卓を囲み、豊かな食の時間を共有できること」なので、そういう場所は、たくさんあるほうがいい。
——今やヴィーガンは、飲食業界において「訴求力のあるコンセプト」になりました。ですが、まったくそうでなかった2000年になぜヴィーガンのカフェを開こうと思われたのでしょうか。
川村 当時、私は留学先のニューヨークから帰国し、デザイン事務所を立ち上げたばかりという時期だったのですが、インテリアショップを経営する知人に、「青山に店を開くから、そこで飲食店をやらないか?」と誘って頂いたのがきっかけです。1990年代後半から2000年あたりの東京といえば、グラフィティアートなどのスケーター文化やレゲエミュージックなどが華やかな時代。私もまだ30歳そこそこで、友人はアーティストやミュージシャンが多く、そんなコミュニティの中の友人を通じて“ヴィーガン”というものを知り、「すごくいいじゃない」と思ったんです。ある意味、偶発的というか、自然発生的というか。〈カフェエイト〉は私を含め3人で立ち上げた店で、3人それぞれの想いがあったと思います。ですが、繰り返しになるけれど、私にとっては「誰もが同じものを食べられる」という点こそがもっとも重要なことでした。
——「食の場の垣根をなくす」という川村さんの想いとは裏腹に、「ヴィーガン」というだけでマニアックなものと思われたり、極端な思想とセットにされたりしがちな時代でもありました。
川村 そうなんですよ。スタッフの求人にも、実にいろんな方が来られました。おっしゃる通り、垣根をなくすために開いた店が、特殊な、あるいは排他的な場になっては元も子もないので、そこには心を砕きましたね。ぱっと見おしゃれな、というと軽薄ですが、誰もが「行きたい」「心地よい」と思うような空間をつくること。デザイン、アートディレクションは元々私の本業ですからそこは外せない。もう一つ、ヴィーガンと知らずに食事をした人が「おいしい」「また来たい」と思う料理を出すこと。これについても、私自身がまったくヴィーガンでないことが役に立ったのかもしれません。現料理長の和田仁美は、もう20年近く、店の味づくりを担い続けていて、私の考えを十分に理解し、料理という形に具現してくれています。
ヴィーガンである以前に、「オーガニック」であるべき
——料理やスイーツのおいしさには長年、定評がありますよね。
川村 ありがたいことに、店のお客様はもちろんのこと、多くの企業から依頼を頂き、ケータリングやオリジナルのギフト制作を手掛けています。数年前から、東京都青梅市にある有機野菜の生産者〈Ome Farm〉と提携し、和田の料理を若い世代に継承する試みも続けています。そもそもの始まりから「ヴィーガン」は前提なのですが、それ以上に「オーガニック」であることに力を入れ続けてきました。ヴィーガンでも、農薬まみれの野菜では意味がないですよね。そしてスイーツは、今私たちがもっとも大事にしているコンテンツの一つです。レストランの料理は店に足を運んで食べて頂かなくてはなりませんが、スイーツは手土産にギフトと、より多くの、そして遠くの人ともシェアして頂ける。とりわけクッキーは、小さなお子様が初めて口にするお菓子である場合も多く、素材からパッケージまでこだわって作っています。
——お店の場所やスタイル、店名も変わりましたが、料理のおいしさ、食事をする楽しさは変わらない。理由は、ゆるぎないブランドの思想があってこそなのでしょうか。
川村 私自身、料理人%
SHARE