ANREALAGE KUNIHIKO MORINAGA

アンリアレイジ森永邦彦が振り返る、カイカイキキ村上隆との出会いと協業

2020年11月に六本木ヒルズに突如現れた村上隆の最新作《お花の親子》。その後、村上と六本木ヒルズとのコラボレーションで、次々とオリジナルアイテムが登場しているが、中でも話題になっているのがファッションブランド〈アンリアレイジ〉の森永邦彦だ。これまで交わることのなかった二人は、初めての協業でどのようなやり取りをしたのか。「刺激的だった」と語る森永に振り返ってもらった。

TEXT BY Yuka Uchida
PHOTO BY Ayako Mogi

——今回はiPhoneケースからTシャツ、パッチワークのマスクまで、7アイテムを制作したそうですね。そもそも森永さんは、村上隆さんと交流があったのでしょうか?

森永 村上隆さんには、今回初めてお目にかかりました。仕事だけではなく、プライベートでもお会いした事がなかったので、本当に初対面です。ご一緒できて光栄でした。

森永邦彦|Kunihiko Morinaga  ファッションデザイナー。1980年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒業。大学在学中にバンタンデザイン研究所に通い服づくりを始める。2003年、ブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」を設立。05年に米ニューヨークの新人デザイナーコンテスト「GEN ART 2005」でアバンギャルド大賞を受賞。11年、第29回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。14年9月、東京コレクションから転じ、パリコレ公式デビュー。19年、第37回毎日ファッション大賞受賞

——最初の打ち合わせはどちらで?

森永 埼玉県入間郡の三芳町にあるカイカイキキのスタジオにお邪魔しました。驚くほど広いアトリエに、大勢のスタッフが働いていて、その中心に村上さんがいる。その場に満ちる熱量にまず圧倒されました。〈アンリアレイジ〉を知ってもらうために、ブランドの核となるアイテムを持参したのですが、それぞれのコンセプトを読み解くスピードにも驚きましたね。

——どんなアイテムを村上さんにお見せしたんですか?

森永 今回の新商品の原型となるアイテムです。ひとつは、初期から作っているパッチワークのコレクションやボールシャツといった、僕らが掲げる「神は細部に宿る」という思想を体現するもの。それに加えて、再帰性反射技術を用いたリフレクトTシャツや、紫外線量で色の変わるフォトクロミックTシャツなど、サイエンスマテリアルの研究から生まれたコレクション、今春からスタートした〈ANEVER〉のバッグやアクセサリーも持って行きました。特にサイエンスマテリルに興味を持ってくださって、「これはすごいぞ!」と、スタッフの皆さんを呼び集める場面もありました。パッチワークやドライフラワーを樹脂で固める技法に、「どうしてこんなに面倒なことをするの?」とストレートな質問をいただいたのも印象的でした。
 

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1/6本物のドライフラワーが舞う〈ANEVER〉のiPhoneケースに、村上隆の《お花の親子》の刻印が光る。すでに完売。
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2/6エッジの効いた金のライン。押し花の散らばり方にも、村上からの細やかなリクエストが反映された。
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3/6フラッシュ撮影すると、絵柄が反射し、虹色に光って写真に写るレインボーリフレクトT シャツ。
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4/6現実世界で見える像と、写真というデジタルの世界で見える像が異なるというコンセプトに、村上も興味を示したそう。
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5/6紫外線量に応じて色が変わるフォトクロミックTシャツ。
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6/6紫外線を浴びると、モノクロだったプリントが発色する。

——村上さんにとっても刺激のある時間だったのですね。そして、率直な質問が飛び出しつつも、アイテムのコンセプトを瞬間的に理解していった、と。

森永 そうなんです。例えば、代表作のひとつである「ボールシャツ」は球体をベースにパターンを考えたもの。人体に対して、球体という相反するものを原型としていることや、ブランド名に「日常」と「非日常」という真逆のものを組み合わせていること、それらを通して表現したいことを、的確な言葉で次々と射抜いていく。とても、初対面とは思えなかった。今回何をつくるのかも、最初の打ち合わせでほぼ確定しました。

——実際の制作もスムーズに進んだのでしょうか?

森永 「何をつくるか」の部分で変更はありませんでした。ですが、村上さんが求める仕上がりのクオリティはとても高かった。例えば、パッチワークマスクのサンプルを届けると、「この部分の絵柄が、あと2mm見えるように配置を再検討してほしい」といった要望が上がってくるわけです。布の上にプリントをすると、作品の繊細な線がどうしてもややファジーになってしまうのですが、その精度にも妥協がなかった。

フォトクロミックTシャツに紫外線ライトをあてる森永さん。「白い花が、光を浴びて色鮮やかに咲く。植物が光合成によって命を輝かせるのと同じなんです」

手前に見えるのがパッチワークマスク。布をはり合わせる角度や絵柄の縫い合わせ方まで微調整を重ねた。

——アイテムが完成するまでの半年間には、そういった細かな微調整があったのですね。

森永 これまで様々な方とコラボレーションをさせていただきましたが、村上さんとだからこその、熱量とスリルがありました。印象に残っているのは、紫外線量に反応するフォトクロミックTシャツの色。極端に言えばこのTシャツは、都内の太陽にかざして見る色と、埼玉の三芳町の太陽にかざして見る色とで差があるんです。その差を念頭に置きながら、どこまで理想の発色に近づけるか。アートとファッション。それぞれに流れている時間、対峙している風景の違い。ひとつひとつのやり取りが刺激的な経験でした。

——今回の新アイテムに用いた村上さんの作品は、すべて描き下ろしだとも聞きました。

森永 そうなんです。最初の打ち合わせの時に「新しく描きましょう!」と言ってくださって。このためだけに生まれた作品で、今までにないものが作れる。今回ご一緒できた一番の喜びは、そこだったと思います。

——森永さんと村上さんは「花」という共通のモチーフを扱っていますが、その表現は真逆と言っていいほど違いますよね。森永さんがリアルなドライフラワーを樹脂に封じ込めて、1点1点異なる自然の美を追求する一方で、村上さんの花はアイコンとして増殖していく。iPhoneケースの上で、この2つの花が重なっていることにも意外性を感じました。

森永さんの背後に見えるのがボールシャツ(左)とパッチワークシャツ(右)。〈アンリアレイジ〉の代表作が《お花の親子》バージョンとして発表された。

森永 僕もまさか、村上さんの花と〈ANEVER〉の花が交わる日が来るとは想像もしていませんでした。ある意味、村上さんの世界観とアンリアレイジの世界観に、距離があったからこそ、ひとつに交れたのかもしれないです。

——決して方向性が同じだからするものではない、と?

森永 僕は、何かを一緒に成し遂げる上で大切なことは、互いの力が均衡していることだと思っているんです。決して、見ている方向が同じだから協業するわけではない。引っ張ることも、引っ張られることもない。いいバランスで正面からぶつかり合えた時に、新しい何かが生まれるのではないでしょうか。

Roppongi Hills Takashi Murakami Project ——村上隆の最新作《お花の親子》が六本木ヒルズとコラボレーション。〈アンリアレイジ〉からは、森永邦彦によるボールシャツやTシャツなどを六本木ヒルズ内の〈ビーセカンド 六本木〉で販売中。