The View from Here

岡山天音に聞く、変容のスリルと変わらない自分——連載「そこから何が見えますか」12

「いや、つまんないからっすかね、イメージどおりになるっていうのが。自分がコントロールできないものがあるわけじゃないですか、自分のこと以外って。もう自分の体の外のことは何もコントロールできなくて、そういうものが猛威を振るってたらいいなっていう、自分においては。なんかやっぱりときめきたいですよね、そこ。びっくりしたいっていうか。常々それはベース。何か新しさを浴びていたいし」

TEXT BY sumiko sato
PHOTO BY Shingo Wakagi
Styling by Haruki Okamura
hair-make by Naoko Morishita

岡山天音さんを初めて強く意識したのは2022年の舞台「hanaー1970、コザが燃えた日ー」かもしれない。何か、自分の身体や思考を客観視しているような、持て余しているような、所在ないような、そんな雰囲気が独特だった。デビューは「中学生日記」。15歳から15年間、ずっと演じている。それでもまだ定まっていないように見える。きっと、まだまだ変容して、大きくなっていくのだと思う。岡山さんは、ゆっくりと考えを巡らせながら、岡山さんにしか話せない言葉で話してくれた。その姿を見て、その言葉を聞いているのは贅沢な時間だった。
 

——とてもたくさんの作品に出演していらして。全部は追えてないんです。

岡山 いやいや、もちろん。

——去年、30歳になられましたが、何か変わったことはありますか?

岡山 せりふで自分を指す時に、子どもとかに対して「おじさんは」とかっていうせりふが入ってきました。

——そうか。それまでは「お兄さんは」。

岡山 とかだったんじゃないですかね。何かあったとしたら、「おじさんは」になってきたぐらいですかね。あとは何も変わらないです。

——では、ここを変えたいな、と思ってることはありますか?

岡山 自分のことでですか。

——うん、自分でも、自分のまわりでも。

岡山 変えたいな……

それでいうと、ぎりぎりまでどんどん自分の表皮がむけていって、最後のひとかけになるまでは変容し続けていきたいなと思ってますけどね、むしろ。何がっていう話ではなく。

——変わっていきたい。

岡山 ていうか、その変わることを受け入れていきたいし、面白がりたいし、なんかそここそが面白いと僕は感じるんです。生きていて、時間がたって、いろんなものが自分の中に入ってきて、いろんなものとすれちがって、っていう中で、外の、外界のそういう何か色が自分に混ざってくっていうのが。だから、そこは変に頑固になりたくないっていうか、年を重ねてもそこに対しては寛容でいたいというか。

だから、むしろここを変えたいとかっていう話でいうと、具体的には別に何もないんですけど、何かが変わっていくことを楽しみ続けたいなっていうふうには思います。だから、変えたいはないけど、変わり続けはしたいかもしれないです。この年になって何かが変わるといったら、びっくりする何かとの対面があった時だと思うんです。それは期待したいです、何かそういうことは。

——文章に書いていらしたのを、メモしてきました。「長い時間を誰かと共にしていると、その誰かが自分に混ざってくるのではないだろうか」。「自分は自分という個別の存在だと思い込んでいても、所詮自分は周りを取り巻く人間が出入りした形跡に過ぎない」。

けっこうしびれたんですけど。ちょっと近い感じですか。

岡山 近いこと言ってますよね。でも。その結果自分がそれをどう受け止めるかっていうところの話でいうと…… どうなんですかね、わかんないです。わかんないけど、まあそうかもしんないです。どっちも僕が言ってることなんで。

——文章を書くのは好きですか?

岡山 好きですね。普段から、昔からメモ癖があって。要するにリアルタイムで書いてく日記みたいな感じだと思うんですけど、仕事してたり人と会ったりした中で思ったこととかを書いていて。何でも書いとこうと思ったら書くっていう癖があった。必要だったって感じはあります。処世術のためにつけてたので、そのメモは。

——それを書いている時間はどういう時間だったんですか。

岡山 単純にやっぱり忘れていくから、できる限り自分に、自分の中に濃く刻印したいみたいな。それでも忘れていくんですけど、読み返さないと。良くしていきたかったから始めたんだと思います、人生を。だから、分かりやすく言うとおんなじ失敗を繰り返したくないとか。もう一回そういう場面が来た時、次はどうすればいいんだとかを言語化して書いてました。

——読み返したりするんですか。

岡山 します。

——何歳ぐらいの時からのものがあるの?

岡山 仕事始めてからのはあります、確実に。

他者と自分が混ざる楽しさ

——「エッセイ×小説」の連載は、何かきっかけがあって始めたんですか。

岡山 「ホンシェルジュ」っていうサイトで何か書かせていただける事になって。本を紹介するサイトなので書評が多くて、自分も本や漫画も好きだしなと思ったけど、それだといくらでもあるし。だから、何かもうちょっとやる意味があったほうが、っていうことになって。こういうウェブサイトではあるけど、本どうこうっていうのは極論関係なくてもいいです、みたいなお話をいただいて、それであれになりました。

——「※この岡山天音はフィクションです。」というタイトルは自分で考えたんですか。

岡山 いや、どうだっけな。覚えてないです。

——でも、書きやすいタイトルじゃないですか。すごくうまいと思っちゃった。

岡山 そう、確かに。そうですね。でも、小説のほうが書きやすい気はしますけど。何かで聞いたけど、エッセーって自分のこととして書くからその人のほんとうのことは書きづらいけど、小説だとフィクションっていう前提があるからいくらでもその人のことを自分で吐露できるっていう。それは確かにって思います。でも、うそだからいいんですけど。

——あれはうそだって言えるしね。

岡山 そうですね。

——でも、ああいうタイトルだし、読んでるとかえってほんとなんじゃないかと思わされて、ちょっと悔しい感じがするわけです。

岡山 でも、すごい変な話ばっかですけど。

——これはほんとなのか、いや、まさか、みたいな。

岡山 ほんとではないです、何も。

——1本書くのにどれくらい時間かかるんですか。

 

岡山 ものによります。ずっと書き続けてて完成しないから、やばい、もうそろそろ出さないといけないってなって、数日で書いた短いやつを出したりとかしてる感じ。そっちのほうはほんとに1日、2日で書けてたりとかするんで。でも、最短でも、最終的に出すまではけっこう日数がかかります。分かんなくなってくるんで、その日のうちだと、もう見過ぎて、字を。

——もう一回次の日に見る。

岡山 はい、とかはします。

——小説を書きたくなったりしてませんか。

岡山 小説は、書きたいです、ずっと。そのホンシェルジュさんの打ち合わせの時に小説書きたいです、みたいな話もしたんです。でも、それ、難しかったんです。1話完結で小説を書くという企画が持ち上がってたんです。いろんな俳優さんに話を聞いて、その人が演じたい役みたいなのを僕が書くみたいな。オーダーメード的に。でも、すごい変な時代のやつとか言われたら、いちいちそれを勉強しないといけなくなるから、それは現実味ないな、ってなって。1本の小説だったら1回そこをがっつり研究して書いたりするんでしょうけど、毎度毎度それはないな、と。そういう話はでました。

——脚本は。

岡山 脚本はあんまり興味ないです。漫画の原作とかはめっちゃ興味あります。漫画もすごい好きなんで。

——いいですね。

岡山 自分の脳みそが他人の脳みそを通って出てくるとどうなるのかっていうのが、すごく気になります。絵を描く担当の方がいるわけじゃないですか。だから、極論世に出なくてもいいっていうか、その体験をしてみたいっていうのはあります。

——でも、脚本もそういうところがあるんじゃないですか。書いたものを誰かが口にだす。

岡山 脚本ってあんまり興味ないです。何だろう。漫画とかは好きで、それがやっぱ憧れっていうか聖域みたいなところがあるから興味があるのかもしれないです。わくわくが基準。

——人を演出したいとは思わないんですか。

岡山 自分で好きなキャスト選んでいいんだったら興味あるかもしれないです。でも、なんかそれもやっぱ演出なんですよね。映画を作りたいとかっていうよりも。例えば本があって、その人の脳みそがそれを形にして、自分がそこにちょっと矯正を加えるわけじゃないですか。どういう形のものが出てくるのか、最終的に、それが見たいっていう。世に出なくても。体験。そういう意味では興味あるかもしんないです。

——見ること自体が楽しい。

岡山 なんかやっぱ人と、他人と、他者と自分が混ざるのが気になります。それがどうなるのか。そういうことなのかもしんないですね、どっちも。

——お芝居しててもそういうことを考えてるんですか。

岡山 いや、全然考えてないです。

——それは違うんだ。

岡山 うん。

——役になってる人が自分と混ざるっていう感覚はあるんですか。

岡山 あります。役によりますけど。

——同時に何本かやったりしてるじゃない。

岡山 もうここ何年かはそんなにないですけど。昔、ほんと4本とかずっとやってました。

——いろんな人が入ってきて大変じゃないかなと思って。

岡山 どうなんですかね。でも、もうそんなこと考えてられなかったです。誰がいるのか、もう分かんなくなってました。忙しかったです。

スリルと快楽物質

——今、芝居とか仕事以外で興味があることは何ですか。

岡山 興味があることは…… どうなんですかね。興味あることか…… まだいろいろと解明されてないことが知りたいです。幽霊とか、死んだ後どうなるのかとか。そうですね。

——死んだ後どうなるんでしょうね。

岡山 どうなるんですかね。あんま考えたことない。でも、興味あるっていったらそれぐらいかな。

——幽霊見るんですか。

岡山 いや、見たことないですし。どうなんですかね。あんまりいる気はしないんですけど、いない気もしなくて、怪談バーとかは好きです。

——怪談バーってあるの?

岡山 あります、歌舞伎町に。

——誰が怪談をやってくれるんですか。

岡山 芸人さんとかなんですかね。でも、一応は「怪談師さん」で、怪談師さんって芸人さんがけっこういらっしゃるんです。やっぱ話すの上手だったりとかで。そういう方とか。専業の怪談師さん、いるのかな。でも、いろんな方が。

——専業の怪談師。食べていけるのかな、それ。

岡山 ねえ。でも、ブーム来てるらしいですから、なんか最近。

——バーに座ると話をしてくれるわけですか。

岡山 そうです。だから、ほんとにちっちゃい劇場じゃないですけど、ソファが何となくランダムに並べられてたりとかして、でも全員の視線は、ソファの席の向きは正面を向いてて、壇上にその方が上がって、時間になると話す。で、入れ替わり、みたいな。

——ライブみたいなものですね。

岡山 ライブですね、ちっちゃいとこで見るライブみたい。

——人気の怪談師さんとかもいるわけですか。

岡山 いると思います。でも、たぶん、もうそういう人はあんまりそういうライブとかはやらないんじゃないですか。YouTubeとか営業とか、何かそういうのがあるんじゃないですか。

——でも、ライブのほうが怖そうですね、YouTubeより。

岡山 でも、1人で部屋で見るのも超気持ち悪いと思いますけど。

——怪談は1話何分ぐらいなんですか。

岡山 いや、分かんないです。体感がほんとに狂うんで。割と暗めの部屋で、みんなで息をのんで、ぼそぼそぼそ、みたいなのを聞いてると、分かんないんです、今何分たってるのかとかが。でも、けっこう長いんだと思います。1時間近いんじゃないかな。

——1時間。

岡山 どうなんだろう、でもそんな長い怖い話、怖くないか。30分とかはあると思います。

——相当な話力がないと、1時間ずっと怖くないと思う。

 

岡山 でも、すごいんです、やっぱり。だから、その人がふらって壇上に上がって話し始めるわけですけど、僕、舞台を見に行った時に、ふらって誰かが袖から出てきて、あんだけ意識をとがらせて見たことないな、って。その差は何なんだろうなとかも思います。何なんでしょう。実体験の体とかで話されたりするからなのかな。これからほんとの話をされるっていう集中なのかな。分かんないですけど。怖い話って、なんか集中しちゃいます。

——怖くないですか。

岡山 怖いです。嫌です、だから、ほんと嫌な気持ちになります。ほんとに怖いですから。

——それ、通ってるんですか。

岡山 通ってはないです。何かタイミングで人と行ったりとかしてるぐらいで。

——ホラー映画とかも好き?

岡山 好きです。でも苦手です。ほんとに昼とかじゃないと見れないです。

——私はほんとに苦手なんです。

岡山 どうなっちゃうんですか。

——いや、もう見れない、怖くて。

岡山 来る、ってなったらもう。

——そう、見ない。声だけ聞いて、終わった頃ちょっと見るっていう感じです。

岡山 嫌なんですね、怖いの。

——怖いの嫌なんです。

岡山 もう、後、引きずりますよね、たぶん。その後も、なんかふと怖いとか思っちゃうから、生活にも若干支障を来すぐらいのレベルですよね、たぶん。

——そうなんです。だから、避けてるんです。銃声がする映画も苦手なんです。

岡山 暴力とか。

——そう。だから、見れる作品がすごく少なくて。

岡山 うちの母も、そうです。でも、暴力系のやつとか、僕、出てたりするんで、僕出てる時以外、ずっと床見てた、って。でもその映画、僕、2シーンぐらいしか出てなかったんで。ほぼ床見させちゃって申し訳なかったな。

——そう、天音さんの作品、見れないのがいくつもありました。駄目かも、みたいな。

岡山 そうですよね。

——そうなんです。

岡山 気持ち良くないんですね、衝撃とか、どきどきするスリル。

——気持ち良くないです。

岡山 もう不愉快、不快?

——何ていうんでしょう、あんまり人を信用してないかもしれないです。最後までひどい状態のままにされるんじゃないか、とか。

岡山 全然ありますもんね。ホラーとかも。

——ねえ、あるでしょう。

岡山 うん。最後の最後で最悪になって終わる、みたいなのもありますもんね。

——ハリウッド映画とかはまだいいんだけど。絶対ちょっと良かったな、みたいなことになると思えるので。

岡山 報われるっていうか、ハッピーエンドに。

——そうじゃないかもしれないのは、ちょっと。

岡山 後味悪い。

——はい、苦手です。

岡山 どういうところでスリルを摂取してるんでしょう。

——それ以外に?

岡山 うん、スリルって快楽系も出てるじゃないですか。

——うん。

岡山 だから、ギャンブルとかやっちゃうわけじゃないですか、みんな。

——そうだよね。

岡山 そういうのがそもそも喜びじゃないんですかね。

——何でしょうね。

岡山 でも、そうですよね、必要じゃないのかもしんないですね、そもそも。

——必要だという感があるわけですね。

岡山 めっちゃあります。スリルが必要。

——バンジージャンプとか、そういうのも好き?

岡山 好きではないです。怖いんですよ、僕も。やりたくないし、見たくないし、聞きたくないし。でも、やっぱ快楽物質出てるんです。

——やりたいんだな。

岡山 バンジーとか。

——スカイダイビングとか。

岡山 スカイダイビングはちょっと怖過ぎるかもな。

——怖いよね。

岡山 あんなの、だって、怖いっすよ。

——ねえ。

岡山 気絶しそうですけどね、普通に。普通だったら。みんな平気でやってるけど。でも、けっこういますもんね、やってみたいっていう人。スカイダイビングぐらいだったら。

漫画ばっか読んだり、絵ばっか描いたり

——最近影響を受けたことはありますか。人とか、物とか、事とか。

岡山 おっきいのだとなかなか、どうなんだろう。影響。難しいな。あんまりないですね。でも、漫画からはちょっとずつ何か摂取してってる感じはありますけど。読み終わった後も自分の中に残る考えとか。ちょっとずつちょっとずついろんなの読んでて。

——漫画は紙で読むんですか?

 

岡山 電子です。iPadとかでも読みます。もう置けないので、部屋に。でも、どうしても好きなやつとかは紙でも買って。

——漫画もけっこう怖いよね。

岡山 漫画、怖いですね、けっこうちゃんと。そうかも。

——漫画読んでて、自がこの役をやるってイメージすることありますか。

岡山 めったにないです。うん、ないです。これやってくださいって言われるまでは。

役ってなるとほんとにピンポイントで30前後の男のキャラクターになるわけで、それはそもそも読んでて出会うことが少ないので、っていうのはありますかね。ピンポイント過ぎるんで、演じる場合は。

——30前後。そうか。

岡山 そうっすね。確かにな。あんま影響受けてないのかな、さっきの話ですけど。影響は受けてるんですけど、ただ、影響受けてる、受けましたって言われて、受けましたねっていうほどのものは、なかなかないですもんね。

——最近好きだった漫画は?

岡山 最近好きだった漫画。『路傍のフジイ』っていう漫画です。これは固定のキャラクターというか、このフジイが主人公なんですけど、主人公じゃないんです。要は毎回主人公が変わるんです。その人が会社の後輩だったり、はたまた何かのきっかけで外で出会った人だったりとか、そういう人たちが主人公、みたいな感じなんです。フジイさんと、それこそ何かつながりを、その瞬間だけとか、そういう人もいるんですけど、つながりを持つことによって、それ以降のその人がちょっと変わるっていう話で。

『路傍のフジイ』って、ぱっと見ほんとに何の変哲もない男というか、むしろ地味に生きてる男で、後輩とかからも、ああいうふうにだけはなりたくない、出世もしなさそうだしって。でも、フジイさんとの距離が近くなってって、フジイさんのことを知ってくうちに、その見方が変わったりするんです。それが、漫画を読んでる僕らもそのフジイさんの姿を見て何かちょっと変わるっていう、この世界の受け止め方がちょっと変わる感じがあって、なんかすごく実用性のある漫画っていう感じがするんです。読んだ後、ちょっと自分の中の何かがアップデートされてる感じがあるから、その後の生活がこの登場人物たちのようにちょっと何か。

——変わる。

岡山 フジイさん化してくっていうか、ちょっとちっちゃいフジイさんが入ってくるっていうか、日常の中でも。

——すごい漫画じゃないですか。実用性がある漫画。

岡山 そうっすね。連載が続いてて、それだけバリエーションとかもすごいし。そのコンセプトでやってく上で、いってもやっぱ難しいじゃないですか。1人の人間と出会って、その人がちょっと変わったりとか、変わるまでもいかなかったりとか、何気ない話がすごい多いんですけど、それを、何だろう、ほんとに何か目に見えて変化するわけじゃない回とかもあるわけです。新しいキャラクターとか出てきて、フジイさんと出会ったりとか擦れ違ったりとかするけど。でも、それで読んでて心地よかったり、ちゃんと面白いとか、何か「あー」とか気付きを与えるようなことが描けるって、いちばんすごいじゃないですか。これといって何かがあるわけじゃない漫画で、「このマンガがすごい!」とかにランクインしてくるっていうところって、本当に才能がある人なんだなっていう。

——それはちょっと読めそうな気がするから読んでみます。

岡山 そうっすね。たぶん読みやすいと思います。

——でも、読んだ人がみんなちょっと自分が変わってたらすごいですね。

岡山 まあ、変わんない人がほとんどだと思いますけど。それはでもキャラクターもそうなんです。何か自分で自覚してないちょっとした変化だったりとかするから。でも、漫画はほんとに面白いですね。もう数が多いんで、すっごい面白いやつがいっぱいあるから。ほんとに何かいろいろ考えます、読んでて。

——本も好きですか。

岡山 はい。けっこう何でも好きです。

——絵も描くんですね。

岡山 最近は全然描いてないです。絵ってほんとに時間が溶けまくるんで。すぐに朝になっちゃうんです。

——何で描くんですか。

岡山 油以外です。ペンとかでも描くし、あとコラージュとかもやるんで、何でもって感じなんですけど。時間ある時しかできないって言おうと思ったけど、時間あってもなんかなかなか難しいですね。漫画とか読まないといけないんで。

——時間ってむずかしいですよね。

岡山 モードなんですよね、やっぱり。漫画ばっか読んでる時期があったり、本ばっかがあったり、絵ばっか描いてたりとか。満遍なくやってる感じじゃなくて、マイブームみたいな感じでそれをいろいろ移ってって、移ろいでってる感じなんで。最近は絵は描いてないです。

——どんな絵を描いてるんですか。モチーフはあるんですか。

岡山 モチーフはめっちゃあります。基本、人は描いてます。何にせよ、顔とかはどの絵にも入ってる感じがします。

——大きさは。

岡山 ちっちゃいのが好きです。すぐ描けるんで。おっきいのは描いたことないです。ほんとにおっきいやつとか、個展とかやる人は描いてたりしますけど、それは描いたことないです。

菅田将暉「美しい生き物」ジャケットイラスト:岡山天音

絵は自分にとって見えてる、何か物理的なものを見て描きたいなと思ってて。絵だけ見た人だと何描いてるか分かんないと思いますけど。俺を経由することによって何か分かんなくなるんです、たぶん。写実するわけじゃないんで、僕、描く時に。でも、それをやってます。自分にはこう見えてるっていうのを言葉とかにはできないし、絵でしかこのまんま、べん、ってことはできないっていうのを絵にしてるって感じですかね、何を描いてるかといえば。でも、僕にとってはインスピレーションを受けた生活の中で見たものとかを描いてます、モチーフっていうか対象としては。

——誰かに見せたりしないんですか。

岡山 あげたりとかします、たまに。でも、基本見せないです。でも、そこ、別にこだわりあるわけじゃないですけど、そこまで思考がいってないって感じですかね。とにかく描きたいから描いてるっていうだけで。大抵すかされるんです、見せても。

——すかされる、って?

岡山 だから、なんか面白いですね、確かに、人に見せるの。あっ、みたいなリアクション取られるから、どきっとするわけです。やっぱ俺だけだ、これ喜んでんの、っていう。でも、それ、面白いなと思います、確かに。もっとみんな何が見たいのかを聞き取りしたら自分の絵が変わるかもしれないし、それは面白いですね、確かに。

何がお好きなんですか。漫画とかは読まれないんですよね。

——読みますけど、たくさんは読まない。

岡山 どんな漫画が好きなんですか。

——怖くないものしか読まないんで。だから、何でしょう、かわいらしいのが好きです。『3月のライオン』とか読みます。

岡山 『3月のライオン』って羽海野チカさんの。確かに、でもいいですよね、ああいうの。

——ずいぶん前ですが、新井英樹は読みました。

岡山 めっちゃ怖いじゃないですか。

——すっごい怖かったけど、これを読みなさいって言われて読んだ。

岡山 確かに。読みなさいみたいな感じ、ありますもんね、新井さんって。

——そう。読むべきものを人に聞いたら、これを読めって言われたの、めっちゃ怖かったです。

岡山 何を読んだんですか、それ、ちなみに。『ワールド・イズ・マイン』とか?

——それです。

岡山 面白いってなりました?

——漫画ってすごいなと思ったけど、面白い…… まあぎりぎりですね。

岡山 ぎりぎり。でも、すごいですね、苦手なジャンルでもぎりぎり面白いかもって。

——いや、すごい漫画だなと思ったけど。それを薦めてくれた人がすごい優しい男の子だったんです。これか、君が好きなのは、と思って、ちょっといろいろ考えちゃった。

岡山 そうですね、深読みしちゃいますよね。

——そう。

岡山 内在してんじゃないか、みたいな。

——そしてこれを薦める? 私に、とか思う。

岡山 いちばん怖いタイプですよね。一見穏やかな人の暴力性って。

——そうなんです。もっと言うと部下だったんで、ちょっと怖かったです。

岡山 確かに。面白いな、それ。部下にあれ読まされたら。

——これいいですって。

岡山 何がでもお薦めポイントだったんですか、その人的には。

——いや、特にポイント、聞かなかったですけど、わりと即答されて。

岡山 そうなんだ。読むとしたらこれです、みたいな。

——そう、そうなんです。読みますか、新井さん。

岡山 読みます。強いですよね、作品が、すごく。いい、悪いじゃなくて。

5年後、10年後の自分

——30歳っていうのは通過点だと思うんですけど、ここから何年かしたらこんな感じになってたいとか、自分のイメージができますか?

岡山 何年後ですか。

——5年とか。

岡山 イメージはできます。でも、そのイメージできてるところにいたくないっていう感じですかね。5年とかだったら全然できるんじゃないですか。何も変わってないでしょうし。

——じゃあ10年は。

岡山 41。イメージできるな。なんかもう子どもとか大人ってあんまないですもんね。人って結局変わんないですもんね。

 

——どうですかね。そうも言えるし。

岡山 母親から、生まれた瞬間から変わってないって言われます。生まれて顔を初めて見た時から変わってないわ、その性格、って。

……だから、あれですけど、もちろん変わってる部分もあるし、変わってない、その言い様ですけど。なんか大人、子どもっていうのは、結局ない気がすごくするっすね。だから、勝手に失望されちゃうっていうか、おじさんとかって、大人として見られてたりするから。別にそれはおばさんもそうですけど。子どもとかから大人として見られてる、期待されてるっていうか。でも、本質は変わらないから。別に大人とか子どもっていうのを後からつくっただけだから、そもそもない気がしてて。そういう意味ではイメージはつきます。

だって、何歳になってもしょうもない部分、あるじゃないですか、みんな。子どもだなって、言葉で言うなら。けっこうみんながそういう部分をはらんでる気がして。だから、結局みんなずっと子どもなんだよねっていう。だから、別に子ども、大人じゃないっていう。見た目とか何となくのテクニックでちょっと表面に何枚か足されて、それが見えにくくなってるだけで、昔より。

どうなってるんですかね、10年後とか。もうちょっと生き方、生きることの取り扱い方をもうちょっと知れてたらいいなと思いますけど、自分の。

——扱いにくいですか、今。

岡山 扱いにくいですね。ならないのかな、でも。ならないのかもな。何でもいいですけど、別に。どうなってるんだろうな、確かに。そうですよね。確かにね。

でも、自分を許せてても、許せてなくても、それ込みで面白がれてたらいいなって思います、その頃。展望としては。いろんなことを娯楽化する機能が、もっと性能が上がってたらいいなと思います。自分のありとあらゆる苦しみとかそういうものも。面白がるしかないじゃないですか。面白がり方がたぶんあると思うんです。だから、そこを変換してくっていうか、そういうふうに見る筋力みたいなのが上がってたら、けっこう面白いんじゃないかなって思いますけど。

——5年後イメージできるけど、そうなりたくないっていうのは、そういうところ?

岡山 いや、つまんないからっすかね、イメージどおりになるっていうのが。自分がコントロールできないものがあるわけじゃないですか、自分のこと以外って。もう自分の体の外のことは何もコントロールできなくて、そういうものが猛威を振るってたらいいなっていう、自分においては。なんかやっぱりときめきたいですよね、そこ。びっくりしたいっていうか。常々それはベース。何か新しさを浴びていたいし。

だから、どんな役やってみたいですかとか取材でよく聞いていただくんですけど、いや、ここで僕が思い付くようなのじゃない役がやりたいです、って答える時があるんです。役にキャストをあてがうプロの方にはそういう、素人じゃ見つけられない潜在的な僕を見いだしてキャスティングしてもらいたいというか。でも、そういうクリエイティビティーを刺激できるような俳優にならないといけないってことなんです、僕が。1人でずっとしゃべってますね。

——思考が回っていってる。役者はずっと続けそうですか。

岡山 続けそうですよね、なんか、そんな気がします。

——そんな気がします?

岡山 なんか分かんないって、やっぱもちろん分からないじゃないですか、何が起きるかは、って思ってたりもするけど、続けてるから続けそうだな、って。でも、続けられてたらほんとにいいですよね。だって、それはやっぱ居場所がある、受け皿があるってことでもあるし、自分の。自分も芝居っていうことを面白がれてるってことだと思うんで。飽きずに面白がれ続けてるってことなんで、それはいいなとは思いますけど。それ、すごいですよね。だってもう何十年ももしこの先やってって、何十年もやってるけど面白がれてたら、けっこう面白いですもんね、それは。語彙力がちょっと悲しい感じですけど、人生としてけっこう面白いな、それって。

——うん、面白いですよ、それは。

岡山 うん。面白い人生っぽいなっていう、それって。

——いいですね。

岡山 うん。でも、何かやったことないこととか、知らない場所とかは、いろいろちゃんと踏み入れていきたいですけど。それだけをってことではなくて。

——面白いといいですね。

岡山 え?

——ずっと面白いといいですね。

岡山 そうですね。頑張ります、それは。
 

ジャケット¥143,000、シャツ参考商品、ボトム¥132,000(すべて CFCL/シーエフシーエル/support@cfcl.jp|03-6421-0555)、シューズ¥94,600(Paraboot/パラブーツ/03-5766-6688)

 

profile

佐藤澄子|Sumiko Sato

1962年東京生まれ、名古屋在住。クリエーティブディレクター、コピーライター、翻訳家。自ら立ち上げた翻訳出版の版元、2ndLapから最新刊『ニーナ・シモンのガム』が発売中。好評既刊に『スマック シリアからのレシピと物語』などがある。訳書にソナーリ・デラニヤガラ『波』(新潮クレスト・ブックス)ほか。