LIFETIME TREASURE

大垣書店が選ぶ、クリスマスに贈りたい〈 大人も楽しめる〉ピースフルな絵本5冊

「クリスマスは平和の象徴だと思うんです。世界はさまざまなことが起こっているけれど、それでも平和を願い、未来につながる希望に思いをはせる。聖夜の贈り物に似合う絵本を選びました」。そう話すのは、絵本の品揃えに定評のある『大垣書店 麻布台ヒルズ店』店長の赤井良隆さん。大人の心にも子供の感性にも響くピースフルな5冊を紹介します。

PHOTO BY MASAMORI KANESHITA
TEXT BY MASAE WAKO
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO

❶ クリスマスの日まで1日1冊。
ミニ絵本を楽しむ“アドベント”カレンダー

『メリークリスマス!せかいのめいさくえほん ★アドベントカレンダー ブルーバージョン』ハンス・クリスチャン・アンデルセンほか(31×42×1.7cm / 2024年10月初版 / 3,960円 / ひさかたチャイルド

「クリスマスまであと何日……と数えながら、ワクワクする気持ちを高めていく一冊です」。〈大垣書店 麻布台ヒルズ店〉の一角にある絵本・児童書のコーナーで、赤井さんが最初に選んだのは大判の「アドベントカレンダー」。一面にクリスマスの絵が描かれた台紙には、1から24までの日付がふられた24個の小窓が設けられている。1日一つ窓を開けるたび、中に小さな絵本が1冊収まっているという楽しい“仕掛け本”だ。

「12月1日から24日までカウントダウンしながら、毎日一つ窓を開き、ちっちゃな絵本を取り出して読む。相手が喜ぶ顔が思い浮かびますよね」。24冊の絵本は例えば、『びじょとやじゅう』『ながぐつをはいたねこ』『ゆきのじょおう』『はくちょうのみずうみ』、そしてもちろん『クリスマス・キャロル』!

扉を開くと、10cm四方のミニ絵本が現れる。「15」と日付のある窓に入っていたのは、ヨーロッパの民話をもとにした『うさぎのおはなし』。

「“アドベント”とは、イエス・キリストの降誕を待ち望む待降節の期間のこと。その根底には、平和を願う気持ちがあったはずです。このアドベントカレンダーも、眺めるたびになんだか気持ちが明るく穏やかになる。絵本とともに、ピースフルな気持ちも贈ることができたら素敵ですね」

❷ 自分だけの自由な世界が広がる〝絵を読む絵本

『世界』junaida(26×23cm / 2024年1月初版 / 2,860円 / 福音館書店)

「絵本の魅力は、読んだ人が自由に想像を広げられる点だと思います。言葉によって直接的に何かを伝える書籍もいいけれど、絵本には妄想を楽しんだり好きなように解釈したりできる余白がある。だから、プレゼントするのも楽しい。相手の好みがわからなくても“新しい出会い”を贈ると思えば選びやすいですしね」

赤井さんが選んだ2冊目は『世界』。ファンタジックで繊細な水彩画による『怪物園』、『街どろぼう』など、新しいタイプの絵本で大人気の絵本作家、junaidaの最新作だ。

「Junaidaさんの絵本は大人の方にも人気があります。とにかく絵がお洒落。そのまま家に飾ってもきれいです」。ページをめくると、水彩で細かく描き込まれた森や深海などの「世界」が現れる。色とりどりの屋根をもつキノコの家、西洋風のお城、子供と動物と妖怪たち。ドラゴンが翔び、潜水艦とクジラが並んで泳いでいる……小さいころに見た夢の中の景色や、いつか聞いたお伽話の断片がパッチワークされているようで、ぐいぐい引きまれていく。そしてふと、この絵本に文字がまったくないことに気づくのだ。

文字は一切ナシ。今にも絵が動き出しそうな、不思議な世界に引きこまれる。

著者のjunaidaは自身のエッセイで、“読める絵”つまり、文字が添えられていなくても読むことのできる一枚の絵を描きたい、と語っている。この絵本はjunaidaの世界ではあるが、あらゆる生命の数だけ世界があり、それら無数の世界が共鳴しあっているんだ、ということを視覚で、匂いで、肌で感じられる一冊だ。

❸ 誰もが笑顔になる1冊。サンタさんたちの日常とは?

『100にんのサンタクロース』谷口智則(27×19cm / 2013年11月初版 / 1,650円 / 文溪堂)

3冊目は、「ここは100にんのサンタクロースがすむまち」というひとことで始まる軽やかな絵本。

「大きいサンタ、小さいサンタ、仕立て屋サンタにパティシエサンタ、ゴスペルサンタまで。サンタさんたちは普段からプレゼントを準備したり、雪を降らす練習をしたり、箱にリボンをかけたりして一生懸命働いている。そして、クリスマスの大仕事が終わった後、実はとっておきのお楽しみが……というお話です。愛嬌のあるサンタが次々と現れて、読んでいて幸せになりますよ」と赤井さん。

作者は絵本作家の谷口智則。2004年に『サルくんとお月さま』でデビューした後、フランス、イタリア、台湾、中国、カンボジアなど海外でも数多くの絵本を出版してきた実力派だ。その特徴は、明るくきれいな色と、紙や画材の手触りまで伝わってくるような質感。「今年10月に谷口さんを招いて子供も参加できるワークショップイベントを開いたんです。そうしたら、コロコロ(ローラー)で色を塗ったり模様をつけたりした紙を切り貼りして、絵を作っていた。“こうやって描いてたんだ!”とわかって面白かったですね」

100人のサンタクロースたちには1年を通して仕事がある。春先には、クリスマスにプレゼントを配る家の地図作り。

『大垣書店 麻布台ヒルズ店』では時々、絵本のワークショップや読み聞かせイベントも行っている。「原画を展示することもあるのですが、原画を見ると画材の跡や筆致までわかって、楽しみが2倍にも3倍にも広がります。“本物の絵を見る”という機会は、絵本に興味を持ったお子さんにとってもかけがえのない体験になるはずです」

❹ 聖夜に読むからいっそう沁みる、平和と希望の物語

『まっくらな世界がおしえてくれたこと』菊田まりこ(17×25cm / 2024年9月初版 / 1,870円 / 光文社)

「クリスマスって平和を象徴する日ですよね。そして、聖夜に家族でプレゼントを贈り合うとか、眠っている間にサンタさんがやって来るとか、幸せな夜のイメージもある。この絵本は夜のように真っ暗な世界の話から始まりますが、その先につながる希望の物語でもあると僕は思っています」

作者は絵本作家の菊田まりこ。絵本デビュー作品『いつでも会える』が国内で100万部超えのミリオンセラーを記録し、海外7カ国でも翻訳された。そんな菊田の最新刊が『まっくらな世界がおしえてくれたこと』。モノクロームで描かれた「目」や「手」の絵と、描き文字も含めた文章が入り混じる、グラフィカルなページ展開にドキドキ……。

「ある日、この世界がまっくらになった」で始まる1冊。グラフィックデザインの世界を経て絵本創作を始めた作者ならではの、ダイナミックなページ構成も魅力。

「国境っていうのは、世界地図に引かれている、国と国をわける『きょうかいせん』のことさ」「ボクたちは、思い出す。あらゆるきょうかいせんをこえた『おなじ音』。」といった具合に物語は進んでいく。

「世界はとても広くて、戦争があったり紛争が起こったり、震災に巻き込まれたりもする。それでも人は未来を信じることができるんだよ、どんなに不安定な世の中でも必ず希望があるんだよ。小さい子供にも、そういうことはなんとなく伝わると思います」

❺ 心が潤う永遠の名作を、美しい愛蔵版でもう一度

『星の王子さま 80周年記念・愛蔵版』アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(訳:青木智美 / 26×21cm / 2024年10月初版 / 1,980円 / 玄光社)

「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目には見えないんだよ」——サン=テグジュペリの『星の王子さま』は、1943年にアメリカで刊行され、世界中で読み継がれてきた不朽の名作だ。クリスマスの贈り物として赤井さんが選んだのは、今年発売された刊行80周年記念の愛蔵版。サン=テグジュペリによるオリジナル原画、翻訳とも、1946年刊行のフランス版を忠実に再現した一冊だ。

「やっぱり絵がとても魅力的ですし、何度読み返しても、その時の心もちによって、あるいは自分が置かれた環境によって、印象が変わる。愛蔵版には、小説家であり飛行士でもあった作者の人物像や生きざま、どこでどんなふうに亡くなったのかいまだにわからない……というところまで、丁寧に書かれた解説がついている。こういう点も面白いですね。サン=ティグジュベリの人となりを知った後に読むと、また違った感想をもつかもしれません」

「手軽に読める文庫版も出ていますが、装丁のしっかりした愛蔵版は贈り物としても人気が高い。飾っておきたくなります」と赤井さん。

訳者のあとがきには、こんな一節がある。「一見、ファンタジーのようでいて、実は生きるということに対して何より切実に斬り込んでいる作品なのかもしれません。読む人によって、あるいは読むときの心境やタイミングによって表情を変える物語。言いかえれば、読みたいように読んでいい物語、全部をわからなくてもいい本なのだと思います」

「まさにその通りです」と赤井さん。「大人にこそ響く一冊ですが、子供さんに絵を見せながら“こんな本だよ”って言ってあげるのも楽しい。80年経っても古びない、名作中の名作です」

大垣書店

「音が出る絵本など、子供さん自身が喜ぶものも置いています。20代前半から30代の若いファミリー層もよくいらっしゃるので、0歳、1歳、2歳児向けのファーストブックや知育玩具にも力を入れています」と赤井さん。店内には絵本や児童書のコーナーのほか、原画展なども行う隠れ家的な「絵本ギャラリー」(写真)も。

昭和17年創業、京都を中心に展開し“町の本屋”として愛され続けている『大垣書店』。その関東初店舗となるのが麻布台ヒルズ店だ。

住所=麻布台ヒルズ タワープラザ 4F
営業時間=11:00~20:00