BOOKSTORE CRUISE

秋は、アートな本が欲しくなる——モデル/ギャラリー主宰・髙橋義明の書店クルーズ

真夏の情緒も落ち着き、秋めく季節が見え隠れするこの頃。到来した涼しさに一層心ひかれるのが読書、そしてアート。ヒルズには、アートブックを魅力的なキュレーションで取り揃えた書店があります。本記事では、アーティストランスペース〈東葛西1-11-6 A倉庫〉の運営にも携わるモデルの髙橋義明氏が書店をめぐりお気に入りのアートブックと出会うまでをリポート。書店の楽しみ方や、本の選び方について聞きました。

PHOTO BY SHIN HAMADA
EDIT BY RCKT/Rocket Company*

有名ディストリビューターが手掛ける本棚が魅力
——大垣書店@麻布台ヒルズ

京都の有名書店が、東京に初進出。「本と人とをつなぐ書店」がコンセプトの〈大垣書店〉には、一冊一冊丁寧に選び抜かれた書籍が並ぶ。アートブックコーナーは、アートブック専門のディストリビューター「twelvebooks」がキュレーションを手掛けている。

アートブックコーナーは、大きくはアート、写真、建築、ファッションとジャンル毎に棚作りされているが、細かく見ると、棚から棚へと部分的にジャンルを越境した書籍が並べられているのが分かる。興味の糸を結んで繋いでいくようなショッピングが楽しい。

「『twelvebooks』が手掛けているとは知りませんでした。何時間でも見ていられますね」と、魅力的な品揃えに驚く髙橋氏。まず気になったのが、韓国の現代美術を代表するアーティストハ・ジョンヒョン(河鍾賢、Ha Chong-hyun)の作品集だという。

大学で建築を学んだ髙橋氏は、東葛西にあるアーティストランスペース〈東葛西1-11-6 A倉庫〉の運営にも携わる。ページを開いているのは、Iwan Baan(イワン・バーン)の作品集 “MOMENTS IN ARCHITECTURE”。

〈大垣書店〉で髙橋氏が選んだ建築家トーマス・デマンドの一冊。その魅力は後述。”MUNDO DE PAPEL” by Thomas Demand ¥23,100

丁寧に選書、平積みされた多様なアートブックが揃う麻布台ヒルズの〈大垣書店〉。麻布台ヒルズには、世界的にも有名なメガギャラリー〈Pace Gallery〉等、アートギャラリーも併設されているため、各所と連動した選書スペースを設置する取り組みも行われているという。

——分野横断的に活動されている髙橋さんですが、企画、運営、施工、そして被写体として、様々な形でプロジェクトに参画するからこそ、日常的なリサーチは欠かせないかと思います。フィジカルな書店に足を運ぶ理由を教えてください。

髙橋 自分の視野を広げたいときに、書店に行くことが多いです。いろんな分野の本を読むのが趣味で、特に新書はトレンドがわかりやすく、異なる沢山のジャンルの棚から棚へ、見て読んでは歩きます。図書館とも共通していますが、書店はネットとは違って、歩いていれば色々な本に行き当たります。自分が求めている以外のものにも興味が湧きやすい性格なので、それが書店の魅力なのかなと思います。

——どういったジャンルの本を買うことが多いですか?また、アートブックの蔵書が多い書店に行った際に、まず目当てにするアートジャンルの棚は?

髙橋 インディペンデントの出版レーベルや、作家本人が少部数で作っているzineを買うことが多いです。小さなアートブックフェアの企画もやっているので、その時に蔵書がガッと増えたりします。書店でまず目当てにするのは……基本的に特に差はないのですが、表紙のヴィジュアルや装丁で気になるものを手に取ることが多いです。ペインティングや、インスタレーションの作家の本が多いかもしれません。あー、でも考えてみると、建築→アート→ファッション→その他みたいな流れかもしれないです。

——〈大垣書店〉で、気になった一冊を教えてください。

髙橋 Thomas Demand(トーマス・デマンド)の”MUNDO DE PAPEL”という本です。去年のヨーロッパ旅行で、パリのJeu de Paume(ジュ・ド・ポーム国立美術館)っていう美術館でやっていた彼の個展を、運良く観ることができました。写真のクオリティだけでなく、インスタレーションもすごい作家の方。今回選んだこの本は僕が見た展示のものではないですが、彼のインスタレーション作品が、彼が幼少期に親しんだという飛び出す絵本(仕掛け絵本)の形で再現されていて、子供と一緒に楽しめそうです。紙で再現していく彼の制作スタイルとも親和性があるので作品としてコレクションするのもいいかもしれません。


大垣書店 麻布台ヒルズ店
住所=東京都港区麻布台1-3-1 ⿇布台ヒルズ タワープラザ 4F
電話=03-5570-1700
営業時間=11:00~20:00

グローバルな文化圏で多様な機能を持つ
——六本木 蔦屋書店@六本木ヒルズ

「六本木 蔦屋書店」は、オフィスワーカーが気軽に作業できるSHARE LOUNGE、世界中の雑誌を取り揃えたマガジンコーナー、海外のお客様のニーズにも応える書籍フロアや、コーヒーを飲みながら読書ができるBOOK & CAFEなど、ここで暮らす人々に寄り添い、生活の中にある読書時間を心地よく探求できる場となっている。

ショーを見て衝撃を受け、以来好きになったというファッションデザイナーRick Owens(リック・オウエンス)の作品集。

夢中で本棚から本棚へ、本を探す髙橋氏。自宅の本棚は、アート・建築・デザイン・思想書が7割程度を占め、残りの3割はzineや小説。カメラが壊れるまで撮っていた昔の写真アルバムのコーナーもあるのだとか。

1980年代のニューヨークのアートシーンに焦点を当てた作品集” Urban Theater: New York Art in the 1980s”。ジャン=ミシェル・バスキア、ナン・ゴールディン、ジェフ・クーンズら当時熱狂を生んだアーティストの作品が並ぶ。ニューヨークの名高い出版社Rizzoli(リッツォーリ)刊行。

居心地のいいSHARE LOUNGEは、朝8時から夜23時までオープン。188席備えた空間には、一人席、複数席、会議室等、シーンに合わせて使用できるスペースが用意されている。フリードリンク&スナックも楽しめ、イベントスペースや、ギャラリーも併設されている。

好きな建築家の一人だという磯崎新の関する書籍『ネオ・ダダJAPAN 1958-1998 磯崎新とホワイトハウスの面々』。1998年に磯崎新設計の大分県立図書館のリニューアルオープンに際して開催された展示の図録。

真剣な表情の髙橋氏。読書の時間をいつ設けているか尋ねると、「いま読まなきゃならない!と思った本は早朝に起きて読みます。あとは公共交通機関での移動中や撮影中の待ち時間など。寝る前には小説を読みます」と答えた。

「六本木 蔦屋書店」で髙橋氏が選んだ一冊は、日本の写真史に関する書籍。『日本写真史 写真雑誌 1874‐1985』金子隆一、戸田昌子、アイヴァン・ヴァルタニアン ¥22,000

読書が生活の中に溶け込む、そんな空間を叶えた「六本木 蔦屋書店」。場所柄か、近隣に勤めるオフィスワーカーや観光客も多数来店するという。そのため、国内の有名なアートブックを多数取り揃えるなど、海外旅行者に向けた選書も意識的に取り組んでいるという。

——色々な分野に興味があると伺いましたが、どういった意識から雑多なジャンルに関心があるのですか?

髙橋 建築でも写真でも、ファッションでも、色々なジャンルの現行の流れを知ったり、歴史を学ぶことで、今自分が取り組んでいることにも、影響してくる、跳ね返ってくることが多いんです。ただ好きだっていう側面も強いのですが、そういった意味でも様々な物事に触れることは大事なのかなと思います。特に歴史を学ぶことが好きですね。

——歴史学の魅力はどういったところにありますか?

髙橋 それぞれのジャンルに歴史があって、そしてその中にも通史的な大きな歴史、個人史的な小さな歴史があります。歴史学はそれぞれ異なる分野をつなげる共通言語のような役割もあると感じていて、世界がつながりながら、しっかりと複雑になっていくのがいいところだと思います。

——〈六本木 蔦屋書店〉で、気になった一冊を教えてください。

髙橋 『日本写真史 写真雑誌 1874‐1985』(金子隆一、戸田昌子、アイヴァン・ヴァルタニアン)です。街中でも、ネット上でも無数のイメージに触れながら僕たちは生きています。僕自身雑誌を見て育ち、今はモデルの仕事でも生活者としてもwebメディアに触れることも多くなってきています。その中で写真史、しかも日本の写真史が通読できるのは貴重ですし、自分たちの生活環境を理解する上で役立ちそうな一冊です。


六本木 蔦屋書店
住所=東京都港区六本木6-11-1 六本木ヒルズ 六本木けやき坂通り 1F・2F
電話=03-5775-1515
営業時間=1F:9:00~23:00(スターバックス コーヒーは7:00)、2F:8:00~23:00(SHARE LOUNGE) ※閉店時間は延長される場合がございます

profile

髙橋義明|Yoshiaki Takahashi
1989年愛知県生まれ。〈東葛西1-11-6 A倉庫〉借主、元メンズノンノモデル。武蔵野美術大学建築学科卒。建築士資格取得後、大学の同期のメンバーを中心に江戸川区にあった元床柱工場を改装し、現在はその場所を東葛西1-11-6 A倉庫として公開している。在学時から継続しているモデル業と並行しながらアーティストと共同で企画する展示を通して、アートと社会をつなぐインフラのあり方を考察している。

※2024年9月現在の情報です。
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