Message from the Apple Core

リンゴの芯が問いかけるもの——「THE CORE KITCHEN/SPACE」ロゴデザイン秘話

虎ノ門ヒルズに連なる「新虎通り」のクリエイティブハブとして誕生した新たなスペース、「THE CORE KITCHEN/SPACE」。通り沿いのガラスファサードに掲げられた、“リンゴの芯”が意味するものとは? CC INC.の戸田宏一郎が語るロゴマークの制作秘話から、この街の新たな展望が見えてくる。

TEXT BY KEITA FUKASAWA
PHOTO BY Koichi Tanoue (main)

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1/3「THE CORE KITCHEN/SPACE」のペーパーカップ。“かじられたリンゴ”のロゴマークが印象を放つ(photo by Koichi Tanoue)
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2/3ランチボックスにも“かじられたリンゴ”が。あえてマークのみとすることで意味深な印象を醸し出している(photo by Koichi Tanoue)
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3/3ビアグラスはロゴタイプのみとすることで、シンプルかつメリハリを利かせたデザインに(photo by Koichi Tanoue)

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、虎ノ門―新橋の間を結ぶ東京の新たなシンボルストリート「新虎通り」。周辺エリアのにぎわいと交流の創出拠点として、18年10月、15階建ての複合施設「新虎通りCORE」がオープンした。新虎通りのほぼ中央、インキュベーションオフィスや飲食店を備えたこの建物の1階のガラス窓に、あるグラフィックがあしらわれている。丸かじりされ、芯が露わになったリンゴのモチーフ——。

実はこれは、カフェ・ダイニングと大型イベントスペースの機能を持ち合わせたクリエイターズ・ハブ「THE CORE KITCHEN/SPACE」のロゴマーク。果たしてその意味するところとは? 新虎エリアのオフィスワーカーやクリエイターの交流拠点であり、エリアマネジメント活動の中核(=コア)として地域の未来を担う気鋭のスペース。そのシンボリックなグラフィックを手がけたCC INC.のアートディレクター/クリエイティブディレクター・戸田宏一郎に、ロゴデザインに込めた想いを聞いた。

図柄を超え、新虎エリアの物語を紡ぐデザインの試み

——戸田さんが代表を務めるCC INC.のオフィスは、「新虎通りコア」から徒歩2〜3分の立地です。地域つながりということで、「THE CORE KITCHEN/SPACE」のロゴデザインを手がけることになったのでしょうか。

CC INC.代表で、アートディレクター、クリエイティブディレクターの戸田宏一郎さん(Photo by Kiichi Fukuda)

戸田 その通りです。新虎通りのビル壁面に壁画(ミューラル)を展開するプロジェクト「TOKYO MURAL PROJECT」に取り組んでいる、アンカースター株式会社の児玉太郎さんから、「森ビルが『新虎通りCORE』の1階に新しいコンセプトのオープンスペースを開設するにあたり、店内の壁面を起点の一つとして、新虎通り沿いに壁画を展開していきたいと考えている」という話を聞いたのがきっかけですね。地域のご縁もあって、「お手伝いできるならぜひ」とお話しました。

そこから話がつながり、「THE CORE KITCHEN/SPACE」のロゴデザインに携わることになったのですが、面白かったのはそもそもの仕事の立ち上がり方。かつて所属していた広告代理店では、広告制作への携わり方は“クライアントと制作会社”という受発注の関係が基本でした。でも今回は、自分が根差している地域の仲間内から「新しい街の状況を作り出したい」という話が生まれ、その気運が仕事につながっていったわけです。

——CC INC.では、決められた制作内容をこなすという従来型のデザインワークではなく、クライアントと話し合う中で課題を見いだして解決策を提案していくという、コンサルティング型のクリエイティブに取り組んでいますが、その姿勢とも通じるものがありますね。

戸田 メディアの多様化などを受けて、「決まった広告枠をどう埋めるか」という従来型の発想だけでは人々と深い関係性を築きにくい時代になりました。その中で新しい広告コミュニケーションのあり方を探求しているわけですが、今回は街という舞台で新しいデザインの実験に取り組んでいる感覚です。

例えば今回のロゴの提案一つ取っても、単なる図柄として考えるのではなく、その先にある人々のつながりや行動をデザインする意図を込めています。ロゴというものは毎日のように目にしたり身に付けたりするものだけに、その感覚に共鳴して同じような意識を持った人々が集まってきたり、ある共有の感覚が育まれたりするなど、人と人との関係性に働きかける作用がある。だからこそ、ロゴのデザインを通して人々や場所にコミットし、新たな物語を紡ぎ出していく視点が重要になると考えています。

“リンゴの芯”——大胆な構図に託した未来へのビジョン

プレゼン時のデザイン資料より。ゴシック体を基調としたニュートラルなタイプフェイスとの組み合わせによって、マークの印象を際立たせている(Photo by Kiichi Fukuda)

——飲食スペースという視点から考えると、人にかじられて食べ終えたリンゴをモチーフにしたこのデザインは、なかなかに挑戦的な試みだったのではないでしょうか。

戸田 確かに、通常の広告やCI(コーポレート・アイデンティティ)のプロジェクトではなかなか通りにくいデザインですが、あえてこの案を推したのには理由があります。まず、リンゴは“生命の起源”の象徴であること。旧約聖書のアダムとイブの話が有名ですが、リンゴの中心には種があり、ここから新たな生命が育っていく。そのことを、「新虎通りCORE」の「コア=中心」という意味に重ねてみて、丸かじりしたリンゴの芯だけが残っている様子が思い浮かびました。実の部分が食べられて、生命の中心や起源となる部分だけが残っているというイメージですね。

また、色に関しては白と黒の世界観だけで視覚的な強さを担保しようと考えました。かじられたリンゴというユニークな形状を際立たせつつ、サイズが大きくなっても小さくなっても変わらないインパクトがあり、遠目に見ても目に残りやすい表現を選びました。

——現在建設中の虎ノ門ヒルズのビジネス棟やレジデンス棟をはじめ、今まさに成長しつつある街の伸びしろを見越したデザインとも言えますね。お店のペーパーカップやランチボックスにもプリントされていますが、今後は展開場所も増えていくのでしょうか。

戸田 例えばニューヨークのデザイン系ホテルのように、全体のコンセプトからアイテムまでを統一した世界観で見せていきたいと考えています。ゆくゆくはTシャツやトートバッグ、様々なコラボレーションの可能性に至るまで、トータルで展開していけたらいいなと。

だからこそ、デザインを手がけた立場としても街の人間としても「THE CORE KITCHEN/SPACE」の状況はいつも気になっています。その点、ただ食事をしてお茶を飲むだけのスペースではなく、イベントに応じて自由に形を変えられるのは大きなポイントですね。

——戸田さんご自身も、今後はイベントなどに関わっていくのでしょうか。

戸田 個人的なつながりで言えば、地元の水産業者を紹介して、1月には佐渡島の寒ブリのイベント「THE CORE FOOD EXPERIENCE #1_SADO」が実施されました。食の要素があると、より多くの人に訴求できる。その意味でも、キッチンの機能が備わっているのはこのスペースの大きな強みですね。

また、ロゴに続いて、通り沿いで面白い活動をしている人たちをイラストでマッピングしたフリーペーパー「新虎通りエリアマップ」を企画・制作しています。この場所が面白くなっていくカギは、やっぱり人にあるんじゃないかなと。人と人とのつながりを視覚的に表現するべく、近隣のショップやオフィスで個性的な活動をしている人たちに取材し、よくある建物マップの代わりに彼らのイラストを配置してみました。

Media Ambition Tokyo 2019

「新虎通りエリアマップ」。新虎通り界隈の人々にインタビューを行い、彼らのイラストで街の魅力と活気を表現している。

——ゆくゆくは地図記号のように、かじったリンゴのロゴマークだけで「THE CORE KITCHEN/SPACE」だと一目でわかるようになれば、あたかも近隣の方々がかじったようにも見えて、面白いですね。

戸田 そうですね(笑)。かじられたリンゴがあるということは、それをかじった人がいるというわけで、残された種がまた新たな状況へつながっていくという面白さにも通じると思います。ロゴを目にする方にとって、まずは「何だろう?」という印象が入り口になり、目にするたびに意味が滲み出てきて、それがこの街に対する愛着を育むきっかけになったなら、僕としても嬉しいですね。

profile

戸田宏一郎|Koichiro Toda
CC INC.代表/アートディレクター、クリエイティブディレクター。1970年生まれ。(株)電通を経て、2017年1月にクリエイティブコンサルティング会社CC INC.を齋藤太郎と設立。コミュニケーションのアウトプットをイメージしたブランド開発から企業ロゴ、TVCMやポスターなどの広告を含むコミュニケーションに関わるデザインを手がける。朝日広告賞、OneShow Design、D&ADなど国内外で受賞多数。

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