PLAYLIST FOR HILLS WORKERS

心鎮まる、“黒い“クリスマスソング19曲

クリスマス自体に浮き足立たなくなったのは、歳のせい? それとも仕事疲れ? そんな方々へのささやかな贈りものとして、音楽評論家の柳樂光隆が珠玉の19曲をセレクト。日本ではクリスマスソングが刷新されなくなって久しいけれど、音楽は常に進化している。その粋をお聴きあれ!

TEXT BY MITSUTAKA NAGIRA
ILLUSTRATION BY SUMMER HOUSE

「クリスマス時期のためのプレイリスト」というお題が来て、何となく華やかなものでも選ぼうかなとぼんやりと考えながら過ごしていたら、いつの間にか街中のBGMがクリスマスソング一色になっていた。休憩がてら、打ち合わせなどでコーヒーでも飲もうかと思えば、どこもかしこもクリスマスソングで、選曲のことが頭にあるから気になってしょうがない。それにしてもいくらなんでもワムとマライア・キャリーのゆるいカヴァーばかりなのはいかがなものかと。しかも、「今、このアレンジかよ」みたいなダサいのばかりで本当にうんざりしてしまった。とりあえず、クリスマスソングはやめだ……と。

そこでクリスマスソングというよりは、せっかくだし、クリスマスの原点に立ち返ってゴスペルでも聴いたらどうかと。とはいえ、普通のゴスペルではあんまりだし、ここではゴスペルの要素が入っている近年のブラックミュージックを中心に選んでみることにした。つまり、讃美歌を聴くような気持で現在のブラックミュージックを聴いてみることを提案してみようということだ。

今日のブラックミュージックが表象するもの

実はオバマ政権以降、ゴスペルはアメリカの音楽シーンの中でかなり重要な要素になっていて、トレンドの中にも様々な形で入り込んでいる。

もちろん、昔からソウルミュージックやファンクの中にはゴスペル的な要素は入ってはいたし、コンテンポラリーゴスペルと呼ばれている現代のゴスペルは(テイラー・スウィフトがカントリーの枠で売られているのと同じように)ほとんどR&Bと同じような形をしているものも多く、それらはヒップホップやR&B、更にはジャズのシーンと密接につながっている。ただ、わかりやすくゴスペル的なコーラスやハーモニーがトレンドの中に入るのが顕著になってきたのはここ数年で目立ったことと言っていいだろう。

その理由としては、ロバート・グラスパーのように教会でゴスペルを演奏することで音楽を学んでシーンに出て行ったゴスペル出身のジャズミュージシャンが増えてきたこともあるし、アフロアメリカンのミュージシャンたちがジャンルを問わず、自分たちのコミュニティーの日常の中にある教会やゴスペルを改めて見つめ直し始めたこともあるだろう。チャンス・ザ・ラッパーの名盤『Coloring Book』やカニエ・ウエストの『The Life Of Pablo』にUSゴスペル・シーンのトップランナーでもあるカーク・フランクリンがクレジットされているのはそんな動きの象徴的な出来事だったように思う。それはオバマからトランプに変わる時期のシリアスな時期の話でもある。マイノリティの側からのメッセージを表現する手段でもあるが、それと同時に祈りであり、鎮めであり、癒しであるのだろう。

チャンス・ザ・ラッパーのようなラッパーから、ケンドリック・ラマー諸作のプロデューサーでもあるテラス・マーティンなどの音楽の中に流れるゴスペルの響きは高揚感と同時に、心を鎮めてくれる効果もある。クリスマスの時期に少し心を鎮めてみるのも悪くないだろう。

❶ 「Ultralight Beam」 Kanye West


カニエ・ウエストが新約聖書の著者の一人でもある使徒パウロの名を冠して作ったゴスペル要素満載のヒップホップアルバムから。コンテンポラリーゴスペルの最重要人物カーク・フランクリンやチャンス・ザ・ラッパーが参加した強烈なオープニングトラック。

❷ 「Laila’s Wisdom」 Rapsody


ケンドリック・ラマーの傑作『To Pimp A Butterfly』に起用されたことでも一躍脚光を浴びた女性ラッパー、ラプソディーの2ndアルバムから。アレサ・フランクリンの中でもゴスペル色の強い名曲「Young, Gifted and Black」をサンプリングしている。

❸ 「How Great (feat. Jay Electronica, My cousin Nicole)」 Chance The Rapper


アルバムを売らないラッパーとしても知られ、フリーDL音源でグラミー賞も取った音楽シーンの革命者であり、ドニー・トランペットやノーネームなど、彼の周辺のコミュニティーの作品もことごとく好内容&話題になっているシーンの中心人物によるゴスペルソング。

❹ 「From Golden Stars Comes Silver Dew (feat. Lalah Hathaway)」 Mr Jukes


人気ロックバンドのボンベイ・バイシクル・クラブのフロントマン、ジャック・ステッドマンのソロ・プロジェクト、ミスター・ジュークスのサウンドはソウルやゴスペルのにおいが満載。レイラ・ハサウェイやBJ・ザ・シカゴ・キッドなど人選も的を射ている。

❺ 「Silent Night (feat. Javonte)」 Terrace Martin


ケンドリック・ラマーの諸作のプロデューサーで、ジャズサックス奏者でもあるテラス・マーティンがリリースしたクリスマスEPから、クリスマスのスタンダードをひねりのきいたアレンジで。歌うのはケンドリック・ラマー諸作にも参加するJavonte。

❻ 「Cure」 Moonchild


LA出身のフューチャーソウル系バンド、ムーンチャイルドはヴォーカル+キーボード2人という特殊な編成な上に、もともと全員が管楽器奏者だったという変わり種。極上のハーモニーによるとろけるようなサウンドが特徴。

❼ 「First Began」 PJ Morton


マルーン5のメンバーによるソロプロジェクト。SZAやフューチャーなどUSヒップホップ/R&Bとの的確なコラボレーションで話題を振りまいているが、ソロもベクトルは違うだけで的確。オーセンティックなソウルミュージックを思わせるソングライティングも魅力。

❽ 「Why I Love You」 MAJOR.


アリアナ・グランデなどに曲を提供してきたソングライター、メジャーの名を一躍有名にしたヒット曲。このオーガニックでストレートなラヴソングはパティ・ラヴェルが歌っている動画がYouTubeにあったり、小さなムーブメントだった。

❾ 「IV. Love」 Owen Thiele & Zack Sekoff


フランク・オーシャンやウィークエンドのヴィデオを制作したハイ・ファイヴ・コレクティブのメンバーによる動画も美しい「II. Run」が含まれるオーウェン・シールズのデビューEP『Without』から。コラボしているのはサンダーキャット諸作に参加する鍵盤奏者ザック・セコフ。

➓ 「honestly」 Lalah Hathaway


自身の作品やロバート・グラスパーやスナーキーパピー、ケンドリック・ラマーとのコラボなどで毎年のようにグラミーに名を連ねる現代最高のソウル/R&Bシンガー、レイラ・ハサウェイの2017年の新作から。

⓫ 「Love Song」 KING


コリーヌ・ベイリー・レイやロバート・グラスパーを初め、様々なアーティストに起用されているこの女性3人によるグループはエリカ・バドゥや晩年のプリンスなど数多くのビッグネームに絶賛されている。アナログシンセを駆使したドリーミーでノスタルジックなサウンドは古くて新しい不思議な感触。

⓬ 「Intentions (feat. Chachi)」 Terrace Martin Presents The Pollyseeds


テラス・マーティンがLAの仲間たちと結成したバンドのデビュー作から。スヌープ・ドッグやDJクイックなど、西海岸のギャングスタヒップホップで育った彼らしいメロウでスウィートなGファンク。

⓭ 「Christmas in L.A.」 Vulfpeck


LAを拠点の活動にしているファンク・バンド、ヴァルフペックは日本でもSuchmosのメンバーやmabanuaなどミュージシャンのファンも多い。60-70年代のソウルやファンクにインスパイアされたサウンドはどこか懐かしいザラッとした手触りがいい。

⓮「Now That’s Love (feat. Musiq Soulchild & Robert Glasper)」 Damani Nkosi


DRドレやスヌープ・ドッグにも起用されているラッパーであり、ソングライターのDamani Nkosiがロバート・グラスパーとミュージック・ソウルチャイルドを迎えてのシングル。デバージをサンプリングした

⓯「Thinking About You」 Jessie Ware


サウスロンドンのシンガーソングライター、ジェシー・ウェアの3rdアルバムから。UKの最先端のトレンドと交差しつつも、もともとジャズを聴いて音楽に目覚めただけあって、オーセンティックなサウンドも残している。

⓰ 「Lava Lamp」 Thundercat


ジャズ・ベーシストであり、プロデューサーであり、シンガーでもあるサンダーキャットは今や世界中のミュージシャンが最も共演を望む一人。コズミックでスペイシーな楽曲とスウィートな声にエレクトリックベースが美しく絡み合う。

⓱ 「Cherokee」 Kamasi Washington


フライング・ロータスのレーベル、ブレインフィーダーからリリースされたカマシ・ワシントン『The Epic』は2010年代のジャズの運命を変えた一枚だと思う。チャーリー・パーカーの名演で知られる曲をメロウかつソウルフルに仕上げた1曲。

⓲ 「Never Thought」 Braxton Cook


敏腕サックス奏者として、USジャズシーンのキーマンの一人、クリスチャン・スコットなどにも起用されるのと並行して、その美声でも注目を浴びているのがブラクストン・クック。艶やかな音色で吹くアーバンなサックスソロも素晴らしい。

⓳ 「Wake」 Brenda Nicole Moorer


NYで活動するジャズシンガー、ブレンダ・ニコル・ムーアのデビュー作。スナーキー・パピーやBIGYUKIらに起用されるシンガーのクリス・ターナーを迎えての極上のバラード。ゴスペルテイストのキーボードはプロデュースを務めたジェシ・フィッシャー。

柳樂光隆|Mitsutaka Nagira
1979年島根県出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。現在進行形のジャズを紹介したガイド・ブック「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。21世紀のマイルス・デイビス・ガイド『Miles Reimagined』の監修、ジャズのコンピレーションの選曲なども多数手掛ける。11月に後藤雅洋、村井康司とともに初録音から100年が経ったジャズの歴史を再検証した鼎談集『100年のジャズを聴く』を発売したばかり。

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