今日に至っても刷新されることのない「未来都市のイメージのひな形」を築き上げた、『ブレードランナー』。その続編が、いよいよ日本でも公開となる。その陰で、ひっそりと「あるカルト作品」が公開される。SF映画の金字塔とカルト作の、奇妙なる縁とは?
TEXT BY REIKO KUBO
精油工場からソーラーパネルへの転換
フィリップ・K・ディックの原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に、ハードボイルドの風を吹き込み、新宿・歌舞伎町の風景を取り込んだディストピア映像でSF映画に革命をもたらした『ブレードランナー』(82)。その35年ぶりの続編『ブレードランナー2049』がついに全貌を現した。
前編同様、瞳のアップから始まる『2049』だが、続いて映し出されるのは精油工場が火を噴く夜のロサンゼルスでなく、虹彩さながらにソーラーパネルが広がる巨大農業地帯だ。30年の間に進んだ地球温暖化と環境破壊によって生態系は崩壊し、合成農業に成功した起業家ウォレスがタイレル社に変わってレプリカントを製造している。人間に絶対服従の新型レプリカントが労働力を担っており、寿命制限のない“ネクサス8”の残党は〈解任〉の対象だ。ライアン・ゴズリング演じるレプリカントのKは、その残党を追う捜査官“ブレードランナー”。やがて彼は、前作のラストで行方をくらますデッカードとレイチェルのその後の秘密を追うことになる。
今回、リドリー・スコットからメガホンを譲り受けたのは、『灼熱の魂』(10)『複製された男』(13)、『メッセージ』(16)等で知られる、カナダ・ケベック出身の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ。プレッシャーのかかるプロジェクトに押しつぶされることなく、撮影監督ロジャー・ディーキンスとともに、砂漠や雪原が広がる圧巻の舞台映像を作り込んだ。そうすることで、人間に隷属するしかないアンドロイドKの記憶をめぐる切ない旅を、見事にデッカードの物語に繋げている。
勿論、前作で強烈な印象を残した酸性雨そぼ降るアジア的街角風景も、シド・ミードがデザインした空飛ぶ車「スピナー」も改良型が登場する。また『ブレードランナー』は未来を予言したといわれるが、今作も、核爆発による電磁パルス攻撃によって世界が闇に包まれる様子が描かれる。美しくも荒涼とした風景が絵空事ではない、という恐怖がじわじわと迫ってくる。
カナダの俊英の次回作は、いわく付きの“あの”作品
ところでリドリー・スコットといえば、『エイリアン』シリーズでも知られていることだろう。マイケル・ファスベンダー扮するアンドロイドが主役を喰う活躍を見せる、『プロメテウス』(12)と『エイリアン: コヴェナント』(17/現在公開中)は、当初のサバイバル・エンターテイメントを突き抜け、人類の起原と行方の探求に驀進中のご様子。その点を鑑みると、やはり型破りなSF映画『メッセージ』を作ったヴィルヌーヴが、御大のお眼鏡にかかったのも頷ける。
そして、今回の『ブレードランナー2049』での砂漠の映像で期待が高まるのが、ヴィルヌーヴの次回作となる『DUNE/砂の惑星』(84)のリメイクだ。実はこの流れ、つまりは『エイリアン』(79)、『ブレードランナー』、『DUNE/砂の惑星』をひとつにつなぐ、あるカルト映画のグルがいる。アレハンドロ・ホドロフスキーである。
当初『DUNE/砂の惑星』は、リドリー・スコットが監督する予定だったが、彼が降りたために鬼才デイヴィッド・リンチに托された、といういきさつがある。しかしそもそもは、ホドロフスキーが監督すべく準備した壮大なプロジェクトが存在した。それが頓挫したことは、ドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』(13)に詳しい。
こぼれ落ちた才能が、その後の未来像を決定づけた
ホドロフスキー版『DUNE』(75・未完成)においては、当時はまだ無名だったダン・オバノン(脚本家・映画監督)が脚本を手がけ、映画とは無縁だったメビウス(バンドデシネ作家)やH.G.ギーガー(画家・デザイナー)が膨大なエコンテを描き、オーソン・ウェルズやサルバドール・ダリ、ミック・ジャガーといった面々が、キャストに名を連ねていた。ところがカルト監督の名では製作費が集まらず(そのいきさつも『ホドロフスキーのDUNE』で詳しく紹介される)、企画はリドリー・スコットの手に渡る。
スコットは、そのままダン・オバノンとH.G.ギーガーを起用、さらには、ウェルズの『市民ケーン』のオマージュを挿入しての『エイリアン』、メビウスのイメージを借りて『ブレードランナー』を完成させた。
画期的SF映画の“青写真”を作ったホドロフスキー。御年88歳となる彼の最新作である自伝的映画『エンドレス・ポエトリー』が、縁がないとはとても言えない『ブレードランナー2049』の公開と時を同じくしたのは、なんという運命の采配だろう。
ますます精神世界へと突き進む巨匠スコットと、気鋭ヴィルヌーヴにも霊感を与えたであろうホドロフスキーの最新作も、ぜひ『ブレードランナー』祭りの一環として楽しんでほしい。
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