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今月観るべき映画はこの1本!——『メッセージ』は、SF映画の新たなるマスターピース!?

予算規模や知名度の有無にかかわらず、「いま観るべき1本」を、映画ジャーナリストの久保玲子がピックアップ。作品理解を広げてくれる“関連作品”の紹介もお見逃しなく。

TEXT BY REIKO KUBO

「あなたのベストSF映画は何ですか?」と問われたら、どんな映画を思い浮かべるだろうか。『未知との遭遇』? それとも『2001年宇宙の旅』? はたまた『ブレードランナー』や『スター・ウォーズ』? いずれも映画史にその名を刻む作品だが、今後はそのリストに、新たなる名前が加わることになるだろう。

原作は人気SF小説

原作は、オールタイム・ベストSF第1位(2014年)に輝いたデッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」であり、本年度アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞ほか8部門でノミネート(音響編集賞を受賞)された『メッセージ』である。

主人公のルイーズ(エイミー・アダムス)は、言語学者。湖畔の家の窓辺に向かっていると、時折、幼い娘ハンナとの記憶が蘇ってくる。ハンナは彼女が亡くした娘ようだが……。

ある日、ルイーズが大学で講義中、突然、構内に緊急事態警報が鳴り響く。地球の様々な場所に巨大な米粒のような形をした宇宙船が現れ、世界各国は防衛、攻撃準備に慌てふためく。そんな中、ルイーズのもとにアメリカ軍のウェバー大佐(フォレスト・ウィテカー)が現れ、宇宙人の言語を解明するため、物理学者イアン(ジェレミー・レナー)とともに軍への協力を要請される。

宇宙船内の深遠なる闇、霧の中から現れる巨大な異形の宇宙人、彼らの言語である墨で書かれたような象形文字……。すべてがこれまでのSF映画で見慣れた造詣とは大きく異なり、そのひとつひとつが立ち現れるたびに衝撃を呼ぶ。

その闇の中、オレンジ色の防護服を身につけ、「HUMAN」とプラカードを掲げて、ファーストコンタクトに挑むルイーズ。試行錯誤を繰り返す中、彼女はついに解読の糸口を掴み、「Use Weapon」との宇宙人のメッセージを読み取る。軍は「Weapon」と聞いて浮き足立ち、とりわけ中国は核攻撃準備に入る。娘を亡くし、もう失うものがないルイーズは危険を顧みず、宇宙人との再コンタクトに挑む。

© 2017 Sony Pictures Entertainment, Inc.

「Weapon(武器)とは何か」と問いかけるルイーズの脳裏に蘇ってくる娘との記憶。夢のようなフラッシュバックの中で、ルイーズは「数学の宿題はパパに聞いて」と娘に言っているのだが、彼女の夫とは!? 過去、現在、未来。時間軸を超越した宇宙人との対話の中で、選ばれし者ルイーズはWeaponの意味を知ることになる。そして彼女の果たすべき使命をも。

そして映画の最後では、ルイーズが下す選択に大きく心が揺さぶられる。今後、マックス・リヒターの「オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト」を耳にするたびに、この異形のSF映画のヒロインのメッセージが蘇ることだろう。

監督は注目の映像作家

ドラマの鍵を握る「Weapon」が何なのか。ルイーズの選択がどういうものか。映画情報の中でこれらが明かされているメディアもあるかもしれない。しかしこの映画は極力事前情報を断って観ることをおすすめしたい。ルイーズの目を通して描かれる物語を、脚本、撮影、美術、音響、そして編集の総力を駆使して観客に追体験をさせ、驚かせ、震撼させ、気づかせ、そして個々の選択を促すのがこの『メッセージ』という映画だから。

世界中で終わりの見えない戦いが続く中、コミュニケーションの手段を探るヒロインの物語はとても現代的でもある。また、何千年、何億年という悠久の時間の中の一瞬を生きる我々は、今をどう生きるか。

そんなメッセージを届ける監督は、カナダ・ケベック出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ。日本では2000年の『渦 官能の悪夢』で初紹介されたが、2010年の『灼熱の魂』の大ヒットが記憶に新しい。レバノン内戦下で幕を開けるこの映画の主人公も女性で、彼女のたどる人生と子どもたちの過酷な運命を描く衝撃のドラマは、ニューヨーク・タイムズが2011年のベスト映画の1本に選んでいる。

そして、2013年の『複製された男』はジェイク・ギレンホール演じる主人公が自らの分身に翻弄されるサスペンスだ。その夢幻的なイメージや、映画の後半に登場する巨大蜘蛛の造詣など、今回の『メッセージ』にも通じるところがあるだろう。

1967年カナダ生まれのドゥニ・ヴィルヌーヴ。今後も話題作が控える、最注目の映画作家だ。

目下、このカナダの鬼才は、リドリー・スコットのマスター・ピース『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー 2049』を絶賛編集中だという(日本公開は10月27日予定)。さらにはデイヴィッド・リンチの『デューン/砂の惑星』の続編の監督にも抜擢されている。

実際に会うとこのヴィルヌーヴ、実にもの静かで穏やか。ハリウッドの有象無象の輩とどう渡り合っているのだろうと思うほどだが、この謙虚さと聡明なヴィジョンで製作チームに才能を呼び寄せているに違いない。話題作の続く気鋭が紡ぐ、驚きと感動のSF映画『メッセージ』、お見逃しなく!

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映画『メッセージ』
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ/出演:エイミー・アダムスほか/5月19日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて公開。© 2017 Sony Pictures Entertainment, Inc.

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