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今月はこの映画を観よ!『ワンダーウーマン』と『エル ELLE』は、あなたの「フェミニスト度」を教えてくれる

映画ジャーナリスト久保玲子が、旬の作品をピックアップ。今回は、世界中で話題となったキャンペーン「Fearless Girl」のごとく、いろいろな意味で“強い”女性が主役を張るアメリカとフランスの作品を紹介。この2本を見たら、もはや「女性観」を刷新せざるを得ない!?

TEXT BY REIKO KUBO

企業における女性役員の比率の低さに対する問題意識を提起するために、ある投資会社が、ウォール・ストリートの象徴として知られる雄牛の銅像「チャージング・ ブル」の向かい側に、それに挑むような少女の銅像を設置した。従来の広告手法とは異なるアプローチは共感を呼び、世界3大広告賞のひとつであるカンヌライオンズで、全24部門のうち4部門でグランプリを受賞。

女性解放のシンボルでありながら、緊縛コスチュームなワケ

昨年公開の『バットマンvs スーパーマン ジャスティスの誕生』で、老いやら存在意義やら戦う使命やらについて延々と悩みまくる2大ヒーローの前に突如現れ、観客の視線をかっさらった最強美女ダイアナ(ワンダーウーマン)。いよいよ単独実写化となった『ワンダーウーマン』は、本国で『アイマンマン』や『ローガン/ローガン』といった単独ヒーロー作品を抜く大ヒットを記録し、この夏は、日本市場でマーベルの『スパイダーマン ホームカミング』と火花を散らす。

今回の映画では、神々の王ゼウスから与えられた絶海の孤島で生まれたアマゾネスの姫ダイアナが、戦闘機もろとも島に落下してきたアメリカ人スパイのスティーヴ(クリス・パイン)とともに第一次世界大戦の最前線に赴き、ワンダーウーマンとなるまでが描かれる。

©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

そもそも1941年にスーパーヒロインを生み出したのは、DCコミックのアドバイザーとして迎えられた心理学者、精神科医、発明家など多くの肩書きを持ち、“嘘発見機”の発明者でもあったウィリアム・モールトン・マーストン。若いころからフェミニストだった彼は、当時では珍しい女性弁護士であった妻の影響もあり、女性解放の象徴たるヒロインの必要性を感じていたという。しかしその一方で、元教え子の愛人とは密かに緊縛嗜好を共有していたという趣味から派生して、ワンダーウーマンの衣装はボンデージ風とあいなった。

「女性解放のシンボルでありながら緊縛コスチューム」という原型を踏襲しながらの新生『ワンダーウーマン』。その全米大ヒットは、文句なしにカッコいい主演ガル・ガドットによるところが大きい。なんと兵役経験もあり、戦闘トレーナーをしていたという元ミス・イスラエルは、32歳、2児の母でもある!

しかもアクション三昧の撮影時には、第2子を妊娠中だったというから驚きだ(張り出したお腹はCG処理でセクシーにくびれ修正された)。そんなド根性女優をがっちりサポートするのが、長編デビュー作『モンスター』でシャリーズ・セロンにオスカーをもたらした女性監督パティ・ジェンキンス。彼女は『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』でも監督に抜擢されながら、制作コンセプトの違いから降板。『モンスター』撮影時より映画化を熱望していた『ワンダーウーマン』を、十数年来の悲願を叶えて完成させた。

そんなジェンキンスは、ドラマの中で女性がシャワー姿を覗かれ「いや〜ん」と恥じらう場面を、男女反転させてハリウッドのマチスムにお仕置き。そして堂々、女性監督として映画史上No.1ヒットを記録して、マーベルに押されっぱなしだったDC起死回生の立役者となったのだ。

2017年のサウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)では、Googleの提供により「The Art of Wonder」と題した展示が行われた。写真は、ビジュアルアーティストのクリスティーナ・アンジェリーナによるアートワーク。『ワンダーウーマン』がいちエンタメ作品ではなく、女性の地位向上など、さまざまな社会問題に呼応した作品として受け止められていることを物語る一幕だ。Photo_Tomonari Cotani

ポスト・フェミニスト映画の傑作が誕生!?

『エル ELLE』でヒロインを演じたイザベル・ユペール。アカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされた。 ©2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

そんな熱い女性監督・女優コンビは応援できても、フランス女優イザベル・ユペール64歳が演じる『エル ELLE』のヒロインはどうだろうか。成功したゲーム会社の経営者で、瀟洒な一軒家に独り住まいのミシェルは、アルバイト暮らしの息子と若いツバメに入れ上げる母親を演じながら、別れた夫の仕事の口も気にしている。仕事上の右腕は古くからの親友だが、実は彼女の夫とは不倫中。そんな彼女がある夜、自宅で何者かに襲われる。

https://youtu.be/ICedkkRbzU8

©2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

『ピアニスト』で抑圧された女のエロスを迸らせ、カンヌ映画祭主演女優賞に輝いたユペールだし、鬼才ポール・ヴァーホーヴェンということで、ヒッチコック的なサスペンス調の出だしは『氷の微笑』のようなエロティックサスペンスを期待させる。ところが脳震盪から醒めたミシェルは寿司屋に電話して、訪ねてきた息子と何喰わぬ顔で出前の寿司を平らげ、翌日は通常出勤してセクシャルゲームの開発チームに「こんなの全然エロくないっ!」と厳しくハッパをかける。と同時に、社内に犯人はいないかと目をこらし、催涙スプレーや銃を買い込んで反撃に備え……。

今回、筋金入りのフェミニストであるヴァーホーヴェンは、シャロン・ストーン、ニコール・キッドマンが恐れをなして逃げ出したミシェルというヒロインを、役や台詞についての議論もないまま、そっくりユペールに託したという。「難役であればあるほど燃える!」というユペール様とのあうんの呼吸で、「レイプすら経験として消化して、 “暴力”について考察するミシェル」という強烈な女のポートレイトを描き出した。

映画は今年のゴールデングローブ賞で主演女優賞(ドラマ部門)と外国語映画賞をW受賞し、ユペールはオスカーにもノミネートされた。欧米ではポスト・フェミニスト映画と呼ばれて絶賛された『エル ELLE』。楽しめるか、それとも震え上がるか。あなたのフェミニスト度数が試される映画に違いない。

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『ワンダーウーマン』
監督 パティ・ジェンキンス 出演 ガル・ガドット、クリス・パインほか 公開 8/25(金)よりTOHOシネマズ六本木をはじめ、全国ロードショー 
©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

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『エル ELLE』
監督 ポール・ヴァーホーヴェン 出演 イザベル・ユペールほか 公開 8/25(金)よりTOHOシネマズ六本木をはじめ、全国ロードショー ©2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP