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藤原ヒロシ × トム・サックス 対談|パンク精神で叫ぶ、ハンドメイドなアート

ニューヨークを拠点に活躍するアーティスト、トム・サックスと、音楽やファッションの分野で日本のカルチャーシーンを牽引してきた藤原ヒロシ。1960年代生まれの2人が、森美術館で開催中(〜 1/9まで)の「宇宙と芸術展」を鑑賞。宇宙やアートの話にとどまらず、最近関心をよせる事柄や、活動の軸にしている思いについて、たっぷりと語り合いました。

TEXT BY yuka uchida
PHOTO BY shingo wakagi

「愛してる!」と「嫌いだ!」を同時に叫べ

藤原ヒロシ 一対一で話す機会は今まであまりなかったよね。

トム・サックス  会食やディナーパーティーではいつも近くに座っているんだけどね。ああいった場だと落ち着いては話せないから。

藤原 出会ってもう10年くらいになるのかな。きっかけは確か、クリエイターのジョン・ジェイに紹介されたことだったと思うんだけど。彼がトムのギロチンの作品を見せてくれたんだよね。

サックス ありがとう。《Chanel Guillotine》のことだね。

トム・サックス|TOM SACHS1966年ニューヨーク生まれ。アーティスト。ロンドンの建築学校、バーモント州ベニントン大学を経て、建築家フランク・ゲーリーの元で家具製作に携わる。現在ニューヨークを拠点に活動。茶の湯をテーマにした作品など日本文化にも関心が高い。

トム・サックス|TOM SACHS
1966年ニューヨーク生まれ。アーティスト。ロンドンの建築学校、バーモント州ベニントン大学を経て、建築家フランク・ゲーリーの元で家具製作に携わる。現在ニューヨークを拠点に活動。茶の湯をテーマにした作品など日本文化にも関心が高い。

藤原 紙でできた実物大くらいのギロチンにシャネルのロゴが書かれていて。すごく驚いたし、インスパイアされた。トムの作品は、他にはティファニーやエルメスの包装紙でつくったハンバーガーセットとか、人を怒らせるような要素があるよね。でも同時に、人を喜ばせることもできる。パンクっぽさがあって、それは僕らが共有している感覚かもしれない。

サックス そうだね。セックス・ピストルズに『God Save the Queen』という歌があるんだけど知ってる? 僕がパンクから学んだのは「愛してる!」と「嫌いだ!」を同時に叫ぶような態度なんだよね。

藤原 なるほどね。宇宙にまつわる作品も多いけれど、宇宙についてはどんな考えを持っているの? 怒り? それとも憧れ?

サックス 宇宙について、特にスペースシャトルについては、すごくフラストレーションを抱えているんだよね。スペースシャトルは上がっては着陸し、上がっては着陸し、宇宙と地球を行ったり来たりしているだけ。もちろん憧れはあるけれど、結局は宇宙空間を飛ぶトイレだよね。アポロ11号のような「冒険」ではない。逆にアメリカの役人マインドを感じてしまうんだ。

藤原 アメリカの見栄みたいなこと? こういうことができるぞ!という。

サックス もっと馬鹿馬鹿しいことだよ。エネルギーの無駄使いのようなね。でも、あなたはアメリカ製のものをたくさん集めているよね。アメリカのものづくりのことはどう思っているの?

90 年代でポップカルチャーは死んだ?!

藤原 僕は、アメリカは常にとても良いものをつくっていると思ってるよ。ヴィンテージのデニムとかミリタリージャケットとか。でも当のアメリカ人はそのことをわかっていない。スペースシャトルだってすごいと思うよ。少なくとも初めて見たときには興奮したしね。

藤原ヒロシ|HIROSHI FUJIWARA1964年三重県生まれ。DJ、音楽プロデューサー、ファッションクリエイター。英米で触れたクラブ文化を80年代の日本に持ち込むなど、音楽とファッションの両軸で日本のストリートカルチャーを牽引。現在、デジタルメディア「Ring of Colour」を運営する。京都精華大学ポピュラーカルチャー学部客員教授。

藤原ヒロシ|HIROSHI FUJIWARA
1964年三重県生まれ。DJ、音楽プロデューサー、ファッションクリエイター。英米で触れたクラブ文化を80年代の日本に持ち込むなど、音楽とファッションの両軸で日本のストリートカルチャーを牽引。現在、デジタルメディア「Ring of Colour」を運営する。京都精華大学ポピュラーカルチャー学部客員教授。

サックス 確かにね。僕はフロリダでスペースシャトルの発射を見たことがあるんだ。1マイルくらい離れた場所にあるバンカーで、スーツを着た大勢の偉い人たちと一緒にね。発射時刻は夜だったけど、発射の瞬間真昼のような明るさになって、野鳥たちが驚いて飛び立つんだ。そして振動が伝わってくる。今まで体が感じたことのないような、大きな音が聞こえるんだよ。それを感じた時には、すでにシャトルは空に打ち上がっていて、僕は気づいたら泣いていたんだ。シャトルには7人の宇宙飛行士が乗っていて、彼らは世界中から集まったすごく頭のいい人たちだよね。シャトルに乗って死ぬ確率はそれほど高くないけれど、宇宙飛行士たちのアートとサイエンスに対する努力を思うと涙が出てきたんだ。あなたは宇宙に行きたい?

藤原 あんまり行きたくないね(笑)。トムも行きたくないでしょ?

サックス そうだね(笑)。話が変わるけど、最近はどんなことをしてるの?

藤原 相変わらずファッション。それと、大学でポップカルチャーの講義をしてる。ポップカルチャーがいかに“終わったか”ということなんだけど。

サックス ポップカルチャーが終わった? どういうこと?

藤原 5、6年前に気づいたんだけど、レニー・クラヴィッツとかニルヴァーナの新譜を買ったら20周年だったんだよね。でも学生たちは彼らを知らなくて、これって新しいアーティストですか? と聞いてくる。今の若い人たちは20年前の音楽をフレッシュに感じるんだ。僕は10代の頃に1950年代のものを聞いたらすごく古いと思ったけどね。これは何なんだ? と考えたら、90年代でポップカルチャーって死んじゃったのかなって。継続はしているけれど、新しいものは生まれていないというかね。

サックス なるほどね。でも僕は、ヒップホップにおいてはまだ革新があると思うよ。例えば、リル・ウェインとかフランク・オーシャンは、それ以前のパブリック・エナミーやKRS Oneとは違う。

藤原 でも、根本は変わっていないと思うよ。僕らが初めてパンクやヒップホップに触れたときのような衝撃はないよね。

サックス それはそうだね。以前は軸がガラッと変わったという感覚があった。それはないのかもしれない。僕が最近考えているのは技術革新のこと。

森美術館「宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ」(2016年7月30日〜2017年1月9日)を二人で鑑賞。トムの作品《ザ・クローラー》の前で。

森美術館「宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ」(2016年7月30日〜2017年1月9日)を二人で鑑賞。トムの作品《ザ・クローラー》の前で。

どうしてわざわざ手作りするの?

藤原 技術革新はいろいろなものをシンプルに、言い換えれば、小さくしたよね。音楽なら、かつてはコンサートだったものが、レコードやCDになって、今はMP3。もはや物質でさえない。でも、アートは技術革新とは真逆だよね。シンプルなものを複雑に、小さなものを大きくすることができる。

サックス そう、そして手作りということが重要。

藤原 技術革新によってなんでも簡単にできるようになったけれど、トムのアートはあえてハンドメイド。そこが素晴らしいと思う。

サックス ありがとう、それが僕の目指していること。自分の声とか手とか、なんらかの痕跡が残るようにしたいんだ。僕がいいと思うのは、例えばこれ(藤原さんのiPhoneを指差す)。電車に乗るためのICカードをラフにテープで貼ってる。もっときれいに貼ったり、ケースで覆うこともできると思うんだけど、これがあなたの個性。

藤原 僕のiPhone を褒めてくれてうれしいよ(笑)。

サックス さっき、ポップカルチャーが死んだという話があったよね。反論はしないけど、自分の仕事はそれと戦うことなんじゃないかと思ってるんだ。

藤原 「宇宙と芸術展」にはトムの巨大なスペースシャトルがあるよね。

サックス 《ザ・クローラー》という作品。1986年に打ち上げられたチャレンジャー号の模型。打ち上げ直後に空中分解したスペースシャトルだよ。

藤原 それこそ今なら3Dプリンターでつくれちゃうものを、切って貼ってつくってるのがいいよね。今日分かったのは、僕らは年齢も近いし、見てきたもの、聴いてきたもののバックグラウンドが似ているということ。

サックス うん、楽しかった。僕の作品以外は駆け足で見てしまったけど、会場にはレオナルド・ダ・ヴィンチやガリレオ・ガリレイなんかのオリジナルの手稿や天文機器もあるんだ。科学における究極の聖杯みたいなものばかり。必ずもう一度見に来たほうがいいよ! 

森美術館

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