六本木ヒルズからほど近いピラミデビルには、現代美術を扱う意欲的なギャラリーやアート関連のオフィスが集まっている。そのうちの一つ、〈現代芸術振興財団〉はZOZOのファウンダーでもある、前澤友作が会長を務める財団だ。連載「東京のアートシーンを作る人々」の第4回は、〈現代芸術振興財団〉に焦点をあてる。ピラミデビルに拠点を構えるこの財団がどのような活動を行っているのか、ディレクターの渡部ちひろに訊いた。
INTERVEW & TEXT NAOKO AONO
PHOTO BY SATOSHI NAGARE
EDIT BY AKANE MAEKAWA
——財団を設立した目的は何ですか。
渡部 この財団は会長の前澤友作がアートを本格的に収集し始めてから2、3年後の2012年に一般財団法人として設立され、後に公益財団法人となりました。財団の目的は大きく二つあります。一つは日本ではなかなか見られないものも含めて、アートやデザインを広く観ていただくこと。もう一つはアーティストの活動を支援することです。
——毎年開かれている「CAF賞」は支援活動の一つになりますか。
渡部 そうですね。これは留学生を含む日本全国の高校・大学・大学院・専門学校の学生と、海外の教育機関に在籍する日本の学生の作品を対象としています。教育機関は美大などでなくてもかまいません。また作品も絵画や彫刻といったジャンルを限定していません。学生向けの賞でこういった制限のない賞はほかにあまりなく、その意味で注目していただいているようです。
CAF賞では最終的に、最優秀賞・優秀賞・審査員賞と毎年6作品程度が選ばれるのですが、最終審査に入選したファイナリストの作品を展示し、図録を制作しています。こちらは毎年15名程度になります。
最優秀賞を受賞された方には副賞として個展を開いていただいています。今ピラミデビルで個展を開いている稲田和巳さんは2021年に行われた8回目のアワードの最優秀賞受賞者です。サテライト展示として、ピラミデビルの近くの別のビルで稲田さんの映像作品を展示しています。
——この稲田さんの作品はどのようなものなのでしょうか。
渡部 ピラミデビルで展示している新作は六本木を「地価」「人口」「交通騒音」「Wikipediaの項目閲覧数」という4種類のデータでマッピングしたものです。それぞれ数値が高いところを地形的に低い場所として表示することで液体や、砂のような粒子が流れ込むように見える映像も展示しています。稲田さんはCAF賞のファイナリスト展では、自身が通う筑波大学の学生寮だった建物をモチーフにした《住人たち》という作品を出品していました。この寮は今では使われていなくて廃墟になっているのですが、それぞれの窓の照明が作家が募った協力者の家の照明と連動していて、彼らが照明を点灯・消灯させると筑波大学の寮の照明も点滅します。今回の新作もそうですが、人間とテクノロジーとの関係性が彼のテーマの一つです。
——財団ではもうひとつ、「CAFAA賞」というアワードも実施していますね。
渡部 こちらは教育機関を卒業してから一定のキャリアがあるアーティストを対象に2015年から数年に一度、不定期に開催しています。この賞の創設は、海外でのアーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)に挑戦したいけれど資金や語学面で不安がある、という声を多く耳にしたことがきっかけでした。異なる文化に身を置いて制作するという体験はアーティストにとって、大きく成長するきっかけになります。2023年のCAFAA賞のグランプリ受賞者は賞金300万円と、ニューヨーク・ブルックリンにある「J-Collabo」で3カ月、滞在制作する機会が与えられます。J-Collaboは日本の方がエグゼクティブ・ディレクターをされているので、いろいろな面でサポートしていただけると思います。アーティスト・イン・レジデンスの場所はニューヨークに限ったものではなく、以前のCAFAA賞ではロンドンに滞在していただいたこともありました。
——前澤さんのコレクションを公開することも財団の目的の一つとのことですが。
渡部 年に1、2度のペースでコレクションを展示しています。場所はこのピラミデビルのギャラリーが中心ですが、条件が揃えば日本家屋など、ほかの会場で展示することも可能です。昨年、東京都現代美術館で開かれた「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」では同館と共催という形で、プルーヴェの椅子や《F 8×8 BCC組立式住宅》などを出品しました。2017年の第4回CAF賞ファイナリスト展ではジャン=ミシェル・バスキアの《Untitled》(1982年)を特別に展示しています。バスキアがこれを描いたのは21、2歳のころ。CAF賞の対象とほぼ同世代であり、学生の皆さんにもいい刺激になるのでは、という思いから展示することになりました。
——現代美術だけでなくプルーヴェのようなデザイン・建築作品、日本美術まで、前澤さんのコレクションは幅広いですよね。
渡部 最近は土器など、考古の分野まで興味が広がっています。多様なジャンルのものを集めていますが、あとから組み合わせると意外にストーリーを意識しているのかな、と思うことがありますね。そんなところも個人コレクションらしいと思います。前澤はアートと一緒に住むことが好きなんです。美術館などで対面するだけではない鑑賞のしかた、アートとの過ごし方をより多くの方と共有できれば、と考えています。
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