企画展「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」が森美術館で開催中。新しい時代をいかによく生きるかを主題として、オノ・ヨーコ、ヴォルフガング・ライプなど国内外のアーティスト16名の作品を通して問いを促す。期間は11月6日(日)まで。
TEXT BY Mariko Uramoto
作家が表現した風景から、
世界の見方、生き方を考える
「新型コロナウイルス感染症の世界的拡大によって、世界中の活動が急に停止した時、人間には何ができたのでしょうか? アートには何ができたのでしょうか? パンデミック以降をいかに生きるべきなのでしょうか?」
そうした問いから、今展は出発する。展覧会タイトル「地球がまわる音が聴く」は、オノ・ヨーコの作品から引用した言葉。インストラクション(指示書)を詩的に綴った彼女の代表作「グレープフルーツ」は、見る世界が外へと広がっていくような言葉の数々に出会える。
花粉や蜜蝋、牛乳などの身近なものを用いて制作を続けるヴォルグガング・ライプ。身近なものを用いて、生命のエッセンスをシンプルで美しい表現方法で展示してきた。床が黄色に輝く《ヘーゼルナッツの花粉》は、生命の尊さ、自然の循環について考えさせられる。ギド・ファン・デア・ウェルベの《第9番 世界と一緒に回らなかった日》は、作家自ら北極点に立ち、24時間かけて、自転と反対向きに回り続ける様子を捉えた映像作品。普段は私たちがあまり自覚することのない自転という地球の壮大な営みを可視化する。
飯山由貴はコロナ禍で増加したドメスティック・バイオレンスをテーマに作品を発表。DVの当事者や支援者へのインタビューと、飯山自身が出演する映像を中心としたインスタレーションによって、家族観やジェンダー観の現状を突きつける。ロベール・クートラスがタロットカードほどの大きさのボール紙に描いた《僕の夜(リザーブ・カルト)》からは、画壇をはなれ、困窮の中で自身の信念を貫いた画家の思いが伝わってくる。台湾を代表する作家、ツァイ・チャウエイの作品は丸型の鏡、ガラス、ダイヤモンドで曼荼羅を表現していて、鏡に映り込む私たちの存在もまた、曼荼羅の表す壮大な宇宙の一部であることを示しているようだ。
健康危機をもたらしただけでなく、社会に横たわる様々な問題や分断、衝突を可視化したパンデミック。“当たり前”の価値観が大きく揺らぎ、これから私たちはどう生きたらいいのだろうか。突き詰めていけば、一人一人の在り方や関係性を見つめ直す必要があるだろう。その手がかりとして、今展は大きく作用する。作家の視点、作品の想像力を借りて、複雑で広大な世界を省みること、本質を見つめ直すきっかけを掴みたい。
SHARE