六本木ヒルズのクリスマスのシーンを9人の写真家が撮り下ろすインスタキャンペーン「サンタクロースと9人の写真家」に、インスタフォロワーが70万人を超えるRKが登場! 世界中の人びとを魅了するその独特な作品世界はいかに撮影されたのか?
TEXT BY Naoko Aono
PHOTO BY Yuu Inohara
インスタグラムのフォロワーは70万人にもなる写真家、RK。SNSだけでなく村上隆氏やKAWSらアーティストや、ブランド・企業とのコラボレーションも多い。
彼がブレイクしたきっかけはインスタグラムにアップしたいくつかの写真だった。
通勤するバイクが大きな橋を隙間なく埋め尽くす「台北大橋のバイク」。整然と陳列されたカラフルな電子パーツに囲まれて座る「秋葉原のおじいちゃん」。街の向こうに巨大な富士山がそびえ立つ「商店街と富士山」。とくに2018年にアップした「商店街と富士山」は多くのSNSでシェアされ、海外メディアでも紹介された。今も別の人が同じアングルで撮った写真がSNSにアップされている。ありえないぐらい密集したもの。非現実的なぐらい巨大なもの。そこにあるはずなのだけれど見過ごしてしまっている強烈な色や光の集積。RKの写真はそんな普通でないもの、極端なものが画面から溢れ出している。
写真家としてのRKのキャリアは少し変わっているかもしれない。今でこそ一眼レフカメラも駆使する彼だが、スタートはiPhoneによる写真だった。もともと彼はファッションに興味があり、高校生の頃はスタイリストをめざしていた。
「小学生の頃、地元の先輩にストリートカルチャー教わり、そこからファッションに興味を持ち始めました。LEVIS、EVIS、EDWINなどが流行っていた頃です。服を組み合わせる楽しさを知りました」
彼はファッションと並行してDJとしても活動を始める。そこでフライヤーのデザインを手掛けたことがきっかけで主要なグラフィックソフトの使い方を覚え、グラフィックデザインの会社に入社した。
「デスクワークが多く太ってしまい、ダイエットのため、先輩に誘われ週に1回、『AFE TOKYO』というランニングチームに入って走ることにしました。AFE TOKYOのファウンダーのDKJさんからインスタ用の写真撮ってくれと頼まれiPhoneで撮っていたところ、雑誌の仕事が決まり、それをきっかけに一眼レフに変更しました」
「最初はもっとミニマルな写真をアップしていました。真っ白な背景にぽつんとものがある、といった感じの写真です。『秋葉原のおじいちゃん』は全然ミニマルじゃない、色も情報量もぎっしりの写真だったのですが、反応がそれまでとは違った。誰も撮ってない写真だったからでしょうね」
そこからRKの写真のテイストは変わる。彼のアイコンとも言える「商店街と富士山」は3年ほど待って撮ったアングルだった。
「たまたま近くを通ってヤバイな、撮れるなと思ったんです。ずーっと狙ってたんですが、天気がよくなかったりしてダメだった」
プライベートでの撮影ではロケハン(下見)をしないことが多いそう。
「スケジュールの関係でロケハンしたくてもできない、ということもありますし、ロケハンするかしないかはケースバイケースなんですが、事前に見に行かないで一発で撮ったもの、第一印象で見たもののほうが素直に撮れるんです。光や天気などがあまりよくなくても最初に撮ったものの方が完璧なことが多いんです。自分でも不思議なんですが、最初に見た衝撃に勝るものはないです」
アーティスト、村上隆氏との交流はあるとき、RKのインスタグラムを村上氏がフォローしていることに気づいたことから始まった。RKがフォロー返しをすると村上氏からすぐにDMがきたという。
「村上さんといると本当に勉強になりますね。面白いなと思ったのは『インスタやSNSは呼吸ですから』という話です。僕は撮っても何日もインスタに載せられないこともあるのですが、村上さんに『呼吸でいいんですよ!』と言われ、はっと気づかされました」
KAWSは2021年10月まで森アーツセンターギャラリーで個展を開いていたアーティスト。グラフィティアーティストとして出発した彼は両目が×になったキャラクターで人気だ。KAWSの場合もまた、KAWSサイドのコンタクトがきっかけで関係が始まった。RKはKAWSが世界各地でおこなった、巨大なバルーンによる《KAWS:HOLIDAY》プロジェクトの大半を撮影している。
村上氏とKAWSの二人からRKは多くを学んでいる。他に影響を受けた人は? と尋ねると藤原ヒロシ氏やJONIO氏などファッションカルチャーに絶大な影響を与えた人物たちの名をあげた。
今はコロナ禍でなかなか海外に行くこともできないが、もし行けるとしたら「中国の奥地に行きたい」という。
「中国やベトナムなど、アジアの建築や街なかが好きなんです。味があって。中国では重慶が好きですね。『千と千尋の神隠し』のインスピレーション源になったと言われているところがある都市です。アジア以外だとアイスランドに興味があります。壮大すぎて、3カ月ぐらいいないとダメだと思いますが」
六本木ヒルズが開業した2003年、20歳手前だったRKは“修行時代”を過ごしていた。
「港区にDJの師匠と住んでいて、朝方帰宅するときに毎日六本木ヒルズを見ていました。DJの修行時代から見てるからこそ親近感があり、当たり前の存在になっている。一番好きなのは屋上です」
今回の撮影では“レッドカーペット”と“電飾”を持参した。
「このクリスマスツリーはブースがある側と反対側とで全然違う表情になるのがいい。反対側で撮った写真ではモデルに“電飾”を持ってもらい、ツリーの電飾の続きのようにして物語を見せる一枚を撮りました」
撮影時の彼は身軽に動く。ブース側とその反対側の2カットを1時間ほどで撮り終えた。動きはストリート的だけれど、撮影は丁寧だ。自分の立ち位置を変えて念入りにアングルを確かめる。持参した照明の色や位置も細かく変える。モデルに持たせた電飾は“決まる”まで何度も調整を繰り返した。気まぐれに吹きつける風には手こずっていたが、最後はそれすらも味方につける。写真は瞬間の勝負なのだからあらゆる可能性を試す、そんな姿勢が伝わってくる。
モデルのドレスもツリーのキーカラーの赤だ。他の人には思いつかないアイデアを次から次へと実現させていく、その行動力から生まれる写真が見る人を惹きつける。
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