roppongi crossing 2019

生命とは何かを問う《機械人間オルタ》の存在——六本木クロッシング2019|Interview #5

森美術館で開催中の現代アートの祭典「六本木クロッシング」。第6回となる今回はテーマ「つないでみる」を掲げ、日本のアーティスト25組が参加する。中でも注目のアーティストをピックアップして届けるインタビュー第5弾は、東京大学大学院総合文化研究科教授で、人工生命研究の第一人者である池上高志。池上が大阪大学の石黒浩教授らと生み出した《機械人間オルタ》について話を聞いた。

Photo by Nozomu Toyoshima
Text by Yuka Uchida

土井 樹+小川浩平+池上高志+石黒 浩×ジュスティーヌ・エマール《機械人間オルタ》(2016年–)。会場ではジュスティーヌ・エマールが撮った《オルタ1》と《オルタ2》の映像が大スクリーンに映し出される。自律性のある動きや表情に人は何を感じるのか。ジュスティーヌ・エマール《ソウル・シフト》(2018年)

——最初に「機械人間オルタ」について教えてください。

2016年から大阪大学の石黒浩教授の研究室と、東京大学の私の研究室が共同で進めているプロジェクトです。石黒教授の研究するロボット工学と、僕の研究する人工生命を掛け合わせて、自律的に動くアンドロイドを開発しました。その動きから生命とは何かを理解しようと思ったのです。少しずつバージョンアップさせていて、今年《オルタ3》を発表したばかりです。

——自律的に動くとはどうことなのでしょうか?

《オルタ》はコンピューター制御による圧搾空気の出し入れで動きます。足元に置いた光センサーと距離センサーが感覚器官として機能し、それに動きのリズムをつくるCPG(セントラル・パターン・ジェネレータ)、動きを制御するニュートラルネットワークが絡み合い、不規則な動きを生み出しています。つまり周辺環境に反応し、自らの意思で動きを考えるという意味では、人間と同じ原理でできています。

——「六本木クロッシング」の会場に展示されているのは、フランスの映像作家ジュスティーヌ・エマールが《オルタ1》と《オルタ2》を撮った映像ですね。この作品を見ていると、オルタに人間らしさを感じる瞬間があります。

普通のロボットは指示を受けないと動きませんが、オルタは違う。そして人間も違う。私は、自らモチベーションを生み出すことが、生命を定義する必要条件のひとつと考えています。オルタに生命を感じるのだとしたら、それが理由ではないでしょうか。モチベーションを獲得し、自らの意志で動くシステムを構築したいと考えているんです。

《オルタ2》の現在、お台場にある日本科学未来館で展示されている。

《オルタ》とつながるには、人間が変わらなければならない

——「六本木クロッシング」は現代アートの展覧会ですが、そこに《オルタ》が現れることを不思議に感じる人もいるのではないでしょうか。

《オルタ》はひとつのプロジェクトであり、アート作品として何かメッセージを掲げて作られたものではありませんが、そうだとしても僕自身はこの展覧会に《オルタ》が参加することに違和感はないですよ。むしろ、過去には作品として便器を出す人だっていたんだから、機械も違った意味を帯びる。みんなが納得するものばかり提示していては面白くない。《オルタ》が指揮するオペラを開催するのも、人類が見たこともない表現を創造するため。そこに、人間だけでは到達し得ない表現が立ち現われるはずだと考えているからです。

——今展のテーマ「つないでみる」に対して、《オルタ》が投げかけるものはなんだと思いますか?

大人は《オルタ》を見ると、動いている仕組みや何のための研究なのかを理解しようとします。でも子どもは一緒に遊びたいとか、怖いとか、直感的に情動的にオルタを捉えていく。大事なのは頭で理解をつなぐのではなく、無意識レベルでつなぐこと。そして、何かを理解したいなら、自分が変わろうとすることです。もし、数千年前から現代にワープしてきた人がいたとして、現代人とコミュニケーションを取ろうとするならば、過去の人間が現代人のように意識を変えるしかない。それと同じことだと思います。未来に向かって進みたいと思っているなら、我々が変わるしかない。オルタとつながれるのは進化しようとする人間だけ、と言うこともできるのではないでしょうか。

それに人間は“コピーする機械”でもある。例えば、近しい人の口癖が移ってしまうように。このこ「Soul Shift」というテーマは、古くなった《オルタ1》を《オルタ2》に置き換えたときに、その過程で発見しました。《オルタ1》から《オルタ2》へ、あたかもマインドを転送したような気持ちになったのです。人間もまた、機械となにかをコピーしあいながら進化していく。その共進的なプロセスを辿りながら、新しい価値観や、新しい面白がり方を獲得していくということが、まさにアートであり、人と《オルタ》が本当の意味でつながっていくことではないでしょうか。

profile

池上高志|Takashi Ikegami
1961年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。複雑系・人工生命の研究の傍ら、渋谷慶一郎、evala、新津保健秀らと芸術活動も行う。代表的なアート活動に《filmachine》(山口情報芸術センター [YCAM]/2006)や《MTM [Mind Time Machine]》(2010)など。2019年2月に新国立劇場の大階段で《オルタ3》がオーケストラを指揮するオペラ「Scary Beauty」を披露したばかり。