
森美術館で開催中の現代アートの祭典「六本木クロッシング」。第6回となる今回はテーマ「つないでみる」を掲げ、日本のアーティスト25組が参加する。中でも注目のアーティストをピックアップして届けるインタビュー第2弾。ファッションブランド〈アンリアレイジ〉を主宰する森永邦彦に、今回発表する“生命を感じさせる服”について話を聞いた。
Photo_Kenta Aminaka (portrait)
Text_Yuka Uchida
絶対性のない色と形で、生命を想起させる服
——今回の作品は、東京大学の川原研究室とタッグを組んで制作したものだそうですね。
彼らが研究している、人の体温と同じ34℃で形状が変化する低沸点液体を使用しました。水などの沸点は100℃ですが、この液体は34℃なので人の体温で液体が気化し、だんだんと膨らんでくるんです。ワンピースに縫い付けた無数のコサージュの中に、パウチした低沸点液体と、温度の変えられる電子部品を潜ませて、液体を温めて気化したり、冷まして元に戻すことで、パウチが膨らんだり萎んだりする仕掛けをつくっています。その形状変化によって、コサージュの花びらがまるで生きているように、ゆっくりと開いたり閉じたりします。
——コサージュそのものの素材はなんですか?
再帰性反射のガラスビーズにより作られた特殊な布です。形状に伴って光の反射角が変わるので、さまざまな色に変化する服となりました。マネキンの背後にリアルタイムに映し出される映像では、コサージュは鮮やかに輝いて見えますが、肉眼では見る角度がピンポイントで合わない限り、真っ白な布に見えます。その極彩色と純白の対比は、生と死をも想起させます。〈アンリアレイジ〉というブランド自体も「リアル」と「アンリアル」が交錯していますし、色即是空の考えが根底にあるのです。
——なぜ形状変化に興味を持ったのでしょうか?
形状変化により絶対性を持たない色と形は、ファッションのサイクルやシーズンを表しています。ファッションにおいて「変化」は、常につきまとうもの。万物が流転していき、物凄いスピードで渦巻いている中で、消費をしながら何かを見つけるしかない。そういったファッションのバランスみたいなものを表現できたらと考えました。一方でその「変化」は自然界にもあるもの。移りゆく季節や光、そういったものとリンクする服を作りたいという思いは以前からあって、そういった思いが一体となって今回の作品になっています。


アンリアレイジ《A LIVE UN LIVE》2019年 1分間かけてしぼみ、2分かけてゆっくりと開くコサージュ。花びらの角度が変わると、光の反射角がかわり、色も変化する。会場音楽は、「音時計」をコンセプトにサカナクション山口一郎とNF青山翔太郎が楽曲を制作。
目指すのは、ファッションの概念を越境すること
——森永さんのクリエイティブは、素材ではなく、表現したいものが先にあるのですね。
常にそうです。今回使用した低沸点液体も沸点が「34℃」だから意味がある。ファッションは人の肌に触れるものですから。それが60℃では意味がないのです。今回は生命と非生命、生命の根源である光と水により作品を完成させたいという大きなテーマがありました。人の体は変わっていくもの。けれど、ファッションはその一瞬を切り取ってサイズという概念を与えています。そのナンセンスな状況に対し、人に寄り添い続ける服を開発するという考え方もありますが、一方で誰にも似合わない服を作るという考え方もある。僕は後者の非日常の方向から、ファッションを拡張させていきたいんです。
——ということは、この作品はファッションなのでしょうか? それともアートなのでしょうか?
私自身はファッションだと思って取り組んでいます。ただ〈アンリアレイジ〉はコレクションブランドなので、たくさんの洋服を作って多くの人に着てもらうより、何か一着でも、それが服じゃなかろうとも、それを“服”として生み出してみて、そこから可能性を広げていきたいと考えています。クリエイティブの中に常に非日常を組み入れていきたいんです。ファッションには、造形やデザインではない部分で心を揺さぶる瞬間があって、そういったことをやろうとすると明らかにジャンルを飛び越えてしまいます。それをアートと呼ぶ人もいるのかもしれませんが、僕にとってはあくまでファッションの拡張であり、越境する表現を目指す姿勢なのです。

森美術館15周年記念展 「六本木クロッシング2019展:つないでみる」
場所 森美術館 会期 ~5月26日(日)まで

アンリアレイジ 森永邦彦|ANREALAGE , Kunihiko Morinaga
1980年生まれの森永邦彦が、2003年に〈アンリアレイジ〉を設立。ファッションの定義を更新するコンセプトを掲げ、2015年S/Sよりパリでコレクションを発表。サカナクションやライゾマティクスといったクリエイターとのコラボレーションも話題となる。
SHARE