森美術館で開催中の現代アートの祭典「六本木クロッシング」。第6回となる今回はテーマ「つないでみる」を掲げ、日本のアーティスト25組が参加する。中でも注目のアーティストをピックアップして届けるインタビュー第1弾。茨城県の取手市を拠点に活動する、佐藤雅晴に話を聞いた。
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鳴り続ける電話が暗示する、繋がりと分断
——作品《Calling》のコンセプトを教えてください。
「誰もいない場所」を自分の身の回りの世界で描いたら、どんな作品になるだろうと考えました。きっかけは2010年にフランス大使館の旧庁舎で開催された「No Man’s Land」展に参加したことです。この時の展覧会のテーマが「No Man’s Land」だったので、誰もいない場所ってなんだろう?と考え始めました。
そんな時、用事があって当時住んでいたドイツから日本に数カ所、電話をしたんです。するとタイミングが悪いのか誰も電話に出ないという経験をしました。モヤモヤした不安が湧きあがって、受話器を置くとネットですぐに日本のニュースをチェックしました。結果的には何も大事故や大災害が起きたわけではなかったのですが、電話をかけた先方の誰もいない光景が数日グルグルとぼくの頭の中を支配していました。それで、誰もいない場所って、これだ!と閃いて《Calling》が生まれました。
——作中では、鳴り続ける電話を取る人は誰もいません。この映像の中では、何がつながり、何が隔たれているのでしょうか。
《Calling》を観ている観客の視点は、各シーンに出てくる電話を取らない人の視点でもあると思って作りました。なので、映像を観ている間は電話が鳴っている世界につながり、でもただの映像なので現実的に電話に触ることはできません。つまり、この作品に登場する電話は、観客の人々と映像世界をつなげたり、拒絶したりしているのです。
闘病中の茨城から届ける、「つないでみる」への回答
——佐藤さんは映像作品を作る際に、実写をトレースしているそうですね。膨大な時間をかけてトレースするのは何故ですか?
自分の身の回りにあるものが、本当に存在しているのかを確認するためにわざと手間をかけているのかなと思います。簡単に手に入るものは、簡単に手放すことができる。でも苦労して手に入れたものは自分の肉となり骨となる。ぼくにとって「トレース」とは、食べる行為と同じなのかもしれません。
——今回の六本木クロッシングのテーマは「つないでみる」です。現代において「つながり」という言葉は、ポジティブにも、ネガティブにも捉えられるようになったと思います。このテーマに対して、佐藤さんはどんな印象がありますか?
ラブホテルを舞台にした《Calling》は2018年からコツコツと制作していたものです。電話という道具がぼくにとってまさに「つながり」だったので、今回のテーマを聞いて、人々がつながる場所で《Calling》を映像にしたら面白いと思いました。ところが、8年前から患っていた癌が再発して手に負えない状態まで悪化。昨年9月に余命宣告3ヶ月と言われ、その頃にはアニメーションがまったくできない状態になり、新作の《Calling》の制作を中断しました。
今回発表しているのは、病気で制作ができなくなった時のことを見込んで、事前に編集していた2010年のドイツ編と2014年の日本編をつなげたものです。その時期にぼくが住んでいた場所がモデルになっていて、場所と年月が違うだけで、電話が鳴っている光景という世界観は同じです。そして結果的にその映像が今回の展覧会のテーマ、「つないでみる」と呼応したので何かの縁を感じ、展示することを決断しました。いつの日か奇跡が起きて、体が回復した時は制作を再開したいと思っています。
佐藤雅晴|MASAHARU SATO
1973年大分県生まれ。東京芸術大学大学院修士課程修了。2000年~2002年まで国立デュッセルドルフクンストアカデミーにガストシュラー(研究生)として在籍する。現在は茨城県取手市を拠点に、絵画と写真の間のような平面作品や、絵画と映像の間のようなアニメーション作品を発表する。第12回岡本太郎現代芸術賞」特別賞、第15回文化庁メディア芸術祭」審査委員会推薦(アート部門)受賞。
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