重力から自由になれる建物や、鏡ごしに別の空間が現れる美容院、無限に続く迷路のような試着室。「常識」をゆさぶり、豊かな思考へ誘う体験型アートの数々に触れてみませんか? アルゼンチン出身の現代美術家、レアンドロ・エルリッヒが世界最大規模の大型展で、東京を刺激します!
edit & text by Shinichi Uchida
photo by Mie Morimoto
レトロな建物の壁にぶらさがって歓声をあげる、陽気な3世代ファミリー(写真・上)。じつはこれ、床に横たわる建物のファサードに寝転ぶと、それを映し出す巨大鏡によって、垂直の壁面に本当によじ登っているように見える体験型アートです。
ご覧の写真で作品を楽しんでいるのは、アーティスト本人とご家族&ご友人。森美術館で開催中の「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」は彼自身にとっても特別な展覧会だそうです。開幕に合わせて来日した作家に話を聞きました。
● エルリッヒ作品を楽しむ3つの秘訣
「世界中で多くの美術展に参加してきたけれど、僕の作品は大きいこともあって、いつもほぼ1作ずつの展示でした。今回は、初めて主要作品が集結する特別な個展。しかも東京という、世界有数の驚きに満ちた都市で開催できるのがすごく嬉しいですね」
多彩なエルリッヒ作品に共通するのは、鏡やガラスの「反射 (Reflection)」によるイメージ(鏡像)など、誰もが共有できる知覚を通じて驚きを与えてくれること。だからこそ彼の作品は、世代や文化の差を超えて親しまれるのです。
そこにはさらに深い意味もあります。
「“Reflection”という言葉には“熟考”という意味もあります。人は鏡像と向き合うとき、現実や実在とは何かについて思考を巡らせるのではないでしょうか。それも僕がこの現象や言葉が好きな理由です」
そう聞くと、鏡の向こうに別人がいたり、誰もいなかったり、さらに鏡像だと思ったものが物質だったりする体験は、豊かな気づきを生み、普段と違う角度で世界を眺めるきっかけになりそうです。新年のアート初めに、皆で出かけてみては?
● 歴代作品の記録や模型の展示も見応えあり!
レアンドロ・エルリッヒ|Leandro Erlich
アーティスト/1973 年、アルゼンチンのブエノスアイレス出身。同地とウルグアイのモンテビデオを拠点に活動。世界各地の国際展をはじめ、日本では「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟、2006、2012)、「瀬戸内国際芸術祭 2010」(香川)などに参加し、2014 年に金沢 21 世紀美術館で日本初個展を開いた。
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