2020年の東京五輪も迫る今、私たちはこれからの都市をどう考え、都市とどう付き合っていくと良いのでしょうか? 建築家として、まちづくりにも積極的に関わる藤村龍至さんにお話を聞きました。六本木のアカデミーヒルズでのトークイベント「都市は思考する」に登壇予定でもある藤村さん。未来のまちづくりに必要な視点とは?
TEXT BY SHINICHI UCHIDA
PHOTO BY KOICHI TANOUE
路上発、都市デザインの社会実験
——今日は、さいたま市・大宮区役所前での「おおみやストリートテラス」(9/15〜9/24開催)におじゃましています。まずは、この催しで藤村さんたちが取り組んだ「社会実験」について教えていただけますか?
藤村 これは、公共空間を使ったひとつの実験です。今私たちが座って話しているこのエリア、じつは「道路予定地」なんですね。10月からの本格工事の直前に、ここで将来どんな使われ方が可能かを試行/思考するため、この催しを企画しました。
——ガードレールを木板で覆ってカウンターテーブルに変身させるなどし、期間中は地元のベーグル屋さんらが入れ替わりで出店。誰もが使える休憩所などもつくり、さらにトークイベントやコンサートも開かれたとか。
藤村 はい。今この舗装された予定地に、6mぶんの目盛りが書いてありますよね。例えば自転車道と歩道を各1.5m、2m幅で作るとしたら、間に生まれるスペースにこれくらいの余裕ができるよね、とわかるようにしました。そこで「こんなことや、あんなこともできますよね」ということを試しています。
——それらを街の人々が、実際に楽しみながら考える場?
藤村 そうですね。いわば都市のショールームのようなもので、仮設とはいえ実際に作ることで、行政や市民にこれからの使い方についてイメージを膨らませてもらおう、という試みです。ゲリラ的実験ではなく行政との連携で行われ、かといって「ハコモノ」的でもない。こうした実験は今後もっと増えて良いのではと思っています。
——これを主催したアーバンデザインセンター大宮(UDCO)とは、どんな組織?
藤村 UDCOは、市民、行政、企業、教育・研究機関などが連携したまちづくりのために、2017年3月に誕生しました。センター長の工藤和美さんも建築家で、この道路予定地に面した大宮区役所の移転計画に関わっています。私も工藤さんと同じ大学で教えていた縁で、学生たちと共に大宮のまちづくりを考えるプロジェクトを始めました。やがて、駅前公有地の利活用計画などに第三者的な調整役として参加することになり、いま私はUDCO副センター長という立場でこの町と関わっています。
都市を形づくる「大きな渦」「小さな渦」
——藤村さんは、都市のデザインに関してどんなお考えを持っていますか?
藤村 都市デザインには「大きな渦」と「小さな渦」が共存していると思います。例えば2000年代初頭の東京では、六本木や大丸有(大手町・丸の内・有楽町)で巨大開発が進みました。他方、神田や日本橋では空き物件が増加してしまったのですが、そこにユニークな新プレイヤーたちが現れ、街の新しい魅力を創出・発信し始めました。大宮の話もスケールは異なりますが、今進行中の駅前東口再開発計画という大きな渦と、今回の社会実験のような小さな渦が同時に動いているとも言えます。
——まちづくりの専門家たちと、そこでの暮らしに関わる人々が共に話し合い、プロジェクトを進めていく。藤村さんはこうした実践について「民主主義の練習」というキーワードでも表現されています。
藤村 漸進主義という言葉もありますが、少しずつでも、変えられるところから変えていく。そういう考え方は建築家としても参考になる部分がいろいろあります。短期間で大規模開発を敢行しようとすると、無理が出ることも多い。新国立競技場の設計をめぐって起きた騒動にも、そんな側面はあったと感じます。また、これからの都市では「街をたたむ」ことをやらねばならない場所も多いはずで、その点でもこうした実践的な「練習」は、小規模な公共施設などから始めていくと良いのではと思います。
——それは、いわゆる縮小社会における街の再編成ということ?
藤村 そうです。これは様々な痛みも伴うので難しさがありますが、都市開発の現場でもその必要性は高まっています。皆で使ってきたものを建て替えるとき、そこで生じるかもしれない不便とも向き合いつつ、今までにないニーズに応えるという課題があります。私自身は、これは自分たちの世代のライフワークだと考えています。
まちづくりの未来を共に考える
——藤村さんの代表的なプロジェクトとして、やはり埼玉県の鶴ヶ島市における「eコラボつるがしま」があります。これは、住宅地にできた大きな太陽光発電施設のなかに、誰もが利用できる環境教育施設を作るというものでした。地域の方々を迎えたパブリックミーティングを重ね、模型を囲んで交わした意見を取り入れつつ、丁寧に建物の姿へとまとめていく。その手法に、単なる多数決とは違う民主主義的デザインの可能性を感じました。
藤村 その意味では、建築はアートに近い力もあると思います。つまり、複雑な問題をパッとシンプルに伝えられる力です。これを活かすことで、バラバラになりそうなプロジェクトをまとめあげ、前進させることもできる。表参道ヒルズの開発では、設計者の安藤忠雄さんが3カ月に一度の地元説明会を3年間続けたと聞きました。そうなると、最後は「この人がいないと進まない」というところまで関係が築かれるわけですよね。これは建物ができ上がる手前のことですが、とても重要な建築の力であり、私はそこにも強い興味があります。
——東京オリンピックの2020年開催が決定して以降は、これを見据えた大規模再開発も各所で進行していますね。これも両極というか、地域の実情を見直しながら、それに即したまちづくりがある一方で、一部では国際的な存在価値を示す都市づくりも求められている印象です。
藤村 大きく言えばそうだと思います。東京は日本の屋台骨ですし、特に都心三区(千代田、中央、港)はそうした役割を担うでしょう。1964年の東京五輪と状況は違うものの、似ている点もあるかもしれませんね。前回は、開催決定後にまず東京の大改造が行われ、そこから開発が全国に広がっていきました。そのパラダイムがちょうど一周したような今、再び東京で五輪が開かれる。今回は東京以外にも大きな軸を作ろうという動きとして「2025年大阪万博」の招致という話もありますね。前回の万博は「人類の進歩と調和」がテーマだったのが、今回は「健康」「長寿」などがキーワードに挙がっているのも興味深いです。
——都市デザインの理想的なサイクル、というものはあるのでしょうか?
藤村 東京五輪は約半世紀ぶりに開催されるわけですが、建築の世界でも、大体50年くらいで耐用年数を迎えることが多い。これは人間の世代とも重なるなど、考えやすいスパンでもあります。伊勢神宮のように、20年に一度立て直すからこそ、技術が世代を超えて継承されるという側面もある。他方、次の世代の建物を考えなくてはいけないというとき、必要とされるものはまた違ってくる。それら全体を見極めるのが大切でしょう。都市の再開発においては、これを「社会を組み立て直すチャンス」ととらえる意味合いも大きいと思います。
——最後に、藤村さんが登壇するアカデミーヒルズでのトークイベント「都市を思考する」(10月16日)についても伺えたらと思います。ゲストは物流のプロフェッショナル、株式会社イー・ロジット代表の角井亮一さんです。意外な組み合わせですが、どんなお話になりそうですか?
藤村 建築に携わっていると「人を集める建物をつくること」を要請されることも非常に多いです。ただ、情報化やネット空間の発達により、リアルな空間の意味もだいぶ変わってきました。例えば商業でいうと、物販は苦戦する一方で飲食が強い傾向があり、そこからは「人と出会うための場」「時間消費」といった考え方も見えてきます。こうしたなか、建築家の果たすべき役割においてもこの領域はより重要になってきました。例えば、アークヒルズと六本木ヒルズの間にも、こうした視点から見た違いはあるし、それは時代を経た「進化」だとも思います。都市における人とモノの流れに関する考察もまた、日々進化しています。角井さんとはそんな話を通じて、私自身もぜひ勉強させてもらえたらと思っています。
アカデミーヒルズスクール 「都市は思考する〜IoTで進化を迫られる物流から考える都市の将来像〜」 ゲストスピーカー 角井亮一(物流コンサルタント/株式会社イー・ロジット代表取締役) モデレーター 藤村龍至(建築家・東京藝術大学建築科准教授/RFA主宰) 日時 10月16日 (月) 19:00〜20:30 受講料 3,500円(税込)
藤村龍至|Ryuji Fujimura
建築家・東京藝術大学建築科准教授/1976年東京生まれ。2008年東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。2005年より藤村龍至建築設計事務所主宰。2016年東京藝術大学美術学部建築科准教授就任。主な作品に「BUILDING K」(2008年)、「家の家」(2012年)、「鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設」(2014年)など。主な著作に『1995年以後-次世代建築家の語る現代の都市と建築』(編著、エクスナレッジ、2009年)、『批判的工学主義の建築 ソーシャル・アーキテクトを目指して』(NTT出版、2014年)、『プロトタイピング-模型とつぶやき』(LIXIL出版、2014年)など。2016年日本建築学会作品選集新人賞を「家の家」と「鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設」で受賞。
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