28 組のアーティストに「あなたのドラえもんをつくってください」と依頼。それぞれのテーマや技法を駆使して表現された作品が、いよいよ森アーツセンターギャラリーに集結する。その中から8組のアーティストの制作現場を訪ねてみよう[前編]。
text by Keiko Kamijo
連載THE ドラえもん展 TOKYO 2017
Gallery 1
シルクスクリーンで輪郭線はとるが、最終的な仕上げはいつも手作業でおこなう。アクリル絵の具を使用
シルクスクリーンで輪郭線はとるが、最終的な仕上げはいつも手作業でおこなう。アクリル絵の具を使用
©2017 Mr./Kaikai Kiki Co.,Ltd.All Rights Reserved. ©Fujiko-Pro
text by Keiko Kamijo
昔ながらののび太の部屋が、重力のない世界に変貌
美少女アニメや萌え絵に端を発し、幅広い創作の世界を見せてくれるアーティストのMr.(ミスター)さん。最近では、横浜トリエンナーレで大規模なインスタレーションをしたり、ファレル・ウィリアムスのPV を手がけたり、グッチとのコラボでも有名。以前にも「魔法少女まどか☆マギカ」や「初音ミク」を題材として制作に取り組んだこともあるMr. さんは、「公式キャラクターを描くのは好きなんですよ。なのでドラえもん展のお話をいただいた時はうれしかったです。いろいろ想像が湧きました」と語る。
今回Mr. さんが手がけたのは、のび太の部屋。ドラえもんのひみつ道具「重力ちょうせつ機」で、無重力空間になったのび太の部屋でしずかちゃんやドラえもん、のび太のほかさまざまなモチーフが宙に浮く、不思議な絵だ。この着想はどこから湧いたのだろうか。
「日常的なものと非日常的なものが同居するような絵を描きたいと思いました。3DCG ソフトを使ってのび太の絵をコンピュータ上につくり、それをぐるぐる回転させながらアングルを探り構図を決めました。その後、輪郭線やベタ塗りの版にわけてフィルムをつくり、シルクスクリーンで下絵を描き、最後は手描きで仕上げます」
絵の中には、のび太の部屋にありそうな地球儀やランドセル、ドラ焼き、文房具、お菓子などに加え、お弁当の中身やゲーム機、玩具などさまざまな時代のものが飛び交っており、見ているだけで楽しい絵になりそうだ。
15年の時を経て、連動する作品。大好きなドラえもんと再びデート
15年前の2002年に開催された『THE ドラえもん展』にも参加している蜷川実花さん。花や蝶などの目にも鮮やかで心躍る色彩をもって、写真や映画のジャンルを超え、ファッションブランドなどとのコラボを通して多方面で活躍中。2回目の参加となる今回は、前回出品した《ドラちゃん1日デートの巻》と対になる作品を発表する。「ドラえもんは私も息子も大好きなキャラクターなので、再度参加できてとても嬉しいです。今回は15年という時を経てコンセプトが連動しつつ、時代の差異が出せるような作品を制作できればと思いました」と蜷川さん。
1985年生まれの若手作家が描く、鏡面世界と現実世界のギャップ
18歳で広島から上京、渋谷でガングロの「マンバギャル」を経験したのち独学で絵画を学んだという異色の経歴を持つ近藤智美さん。2012年にはペインターの登竜門ともいえるVOCA展にも出品し、さまざまな展覧会にも参加する注目の若手画家だ。グッズも集めていたというドラえもん好きな近藤さんは、『映画ドラえもん のび太と鉄人兵団』に登場するしずかちゃんの台詞「ときどきりくつにあわないことするのが人間なのよ」からインスピレーションを受け、人間の矛盾や二面性について考えさせる鏡面世界を描く。
現実とアニメが複雑に交錯する、ドラえもんだけが存在する世界
佐藤雅晴さんは、絵画と写真の間のような、平面作品と映像の間のような独特なアニメーション作品を制作。どちらでもないメディアの“境界”を行ったり来たりすることで、鑑賞者の現実世界を鋭く揺さぶる。「僕の手法は、実写で撮影したものの一部をトレースしてアニメーション化するのですが、ドラえもんはもともと架空の世界のもの。それを撮影して再度絵にする過程は、現実と虚構が複雑に絡む不思議な感覚でした」。虚実ないまぜの映像のなかで、ドラえもんはずっと何かを探しつづける。何を探しているのかは、作品を見て考えてみてください。
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