28 組のアーティストに「あなたのドラえもんをつくってください」と依頼。それぞれのテーマや技法を駆使して表現された作品が、いよいよ森アーツセンターギャラリーに集結する。その中から4組のアーティストの制作現場を訪ねてみよう[後編]。
text by Keiko Kamijo
連載THE ドラえもん展 TOKYO 2017
Gallery 2
皮に絵を描く際は水性のクレヨンを用いるのだという
皮に絵を描く際は水性のクレヨンを用いるのだという
©Tomoko KONOIKE ©Fujiko-Pro
text by Keiko Kamijo
目だけではなく体で感じる巨大な絵、動物の皮に描かれたいきものたち
まるで物語の世界にいるような想像力溢れる空間で、動物と人間、霊界とこの世、過去と未来……、さまざまな世界を自由に行き来するような鴻池朋子さんの世界。今回は、いきものの皮を繋ぎ合わせた大きな絵で、洞窟のようなインスタレーションを展開する。近年、鴻池さんは皮に絵を描いているが、それにはある理由がある。
「キャンバスや白い画用紙は、絵を描くのにすごく便利。でも、ある日興味がなくなったんです。手が喜んでいなかった。いろいろな素材を試したなかで、皮に絵を描いてみたら、ふかふかとして、皺も寄るし日焼けもするし、こちらの思うようにいかない。そこに傷をつけてえぐっているような感覚が面白かったのと、こちらがコントロールできない、変化する素材とやりとりをするなかで、ものをつくる実感が湧いてきた」と鴻池さん。
今回は皮のキャンバスに、ドラえもんのキャラクターが、ヘビやカエル、チョウチョといったさまざまないきものたちと遊ぶ様子が描かれる。しかし、鴻池さんはそれらの動物やモチーフ自体が重要なのではないという。
「モチーフから絵の意味を考えるのではなく、質感やかたちを体で感じてもらえたらと思います。ドラえもんの形が持っている丸々としたふくよかさと、子ども独特のふかふかした線、ドラえもんの作品自体が持っているエネルギーや生々しさ。そうしたものが共鳴し、掛け合わさって出てくるような作品になったらと思っています」
いつものドラえもんがカラフルに変身。2.6メートルの巨大なぬいぐるみに!
初期のきゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」のMV美術で世界的に有名になったアーティストの増田セバスチャンさん。ドがつくほど派手で独自の色彩感覚と毒っ気があるビジュアルで、カワイイカルチャーを牽引してきた増田さんは、ドラえもんをどのように彩るのだろうか。作品タイトルは「さいごのウエポン」。『映画ドラえもん のび太のドラビアンナイト』をモチーフに、2.6メートルもの巨大なぬいぐるみを製作するという。ピンクを基調としたカラフルなドラえもんには、よく見るとポンポンやおもちゃのパーツがびっしり。ぜひ会場でチェックしたい。
漆の黒に吸い込まれそうな作品に、タイムトラベルへの思いを馳せる
真っ黒く艶やかで大きなオブジェ。これは漆造形作家の渡邊希さんによる作品だ。北海道在住で、本展が東京初のグループ展となる。漆の黒にはどんな画材でも出せない、しっとりとした艶めかしさがある。「漆を塗っていると内側に吸い込まれるような、異次元の世界に誘われるような感覚になることがあり、自分の作品はタイムマシンみたいだなと思っていました。漆黒って、輪郭が曖昧になり、形がどこまであるのかわからなくなるので作っていても魅力は尽きません」と渡邊さん。漆の魅力はもちろん、ぜひ近寄って細部のシーンも楽しみたい。
ドラえもんの表の顔と裏の顔、中身の構造が想像で解き明かされる
ドラえもんが好き過ぎて、漫画ばかり読んでいたら親に漫画を焼かれてしまった経験を持つ美術家の西尾康之さん。今回は「陰刻鋳造」(原型を作らず、指で粘土を押して窪みを成形した鋳型に石膏を流し込んで作る特異な彫刻技法)という手法を用いて造形した1.8メートルものドラえもんに、プロジェクションマッピングで映像を投影する。「表側はドラえもんの顔ですが、裏側は僕が想像した内部構造を投影する予定です。ドラえもんは数学的でもある美しい幾何形態ですが、生命感のあるものになったらと」と西尾さん。テーマは現実と仮想の間。ドラえもんは本当にいるのかどうか、作品を前にじっくり考えてみたい。
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