日置市に暮らす人々の元気の秘密は、あつ~いお湯割りと温泉にあるんだとか。心地よい薩摩の旅、地元流で養う明日への英気。
Text by Kaname Takahashi / Photo by Yujiro Ichioka
連載旅する新虎マーケット Ⅲ期
Exhibitor 4-2
Text by Kaname Takahashi / Photo by Yujiro Ichioka
楽しい旅には、心地よい疲れもつきもの。そんなときは、香り豊かな焼酎でひとときのだれやめを。「だれやめ」とは、鹿児島の方言で、焼酎を飲みながら一日の「だれ(疲れ)」を「やめる(止める)」晩酌のこと。飲み方は、ロックか、それとも水割り? いえいえ、芋焼酎はお湯割りで、香りを楽しみながらいただくのが鹿児島流ですよ。
さらに気分をリフレッシュしたいなら、日置市での湯めぐりもおすすめです。霧島や指宿という有名な温泉地の多い鹿児島県にあって、実は日置市も良質な源泉に恵まれた魅力的な温泉地。日置の地で江戸時代から繁栄する二つの温泉は、きっとあなたの旅の疲れを癒してくれるはず。
さて今日はひとつ、だれやめに欠かせない美味しい焼酎づくりの現場と、日置が誇る二つの温泉郷をめぐる旅へ出かけましょう。
清澄な湧水に恵まれた日置の大地に蒸留蔵を置く小正醸造は、創業130年以上の歴史を持つ焼酎づくりの老舗。
230品種を超える商品を取り揃え、ネーミングやパッケージデザインなど、その仕事のひとつひとつにこだわりをみることができます。とはいえそれは、素材を生かし、味と品質にこだわり抜いた実直な焼酎づくりが土台にあってこそ。
素材となるさつまいもは、旬を逃さずに収穫し、一つ一つ人の手で選別。状態のいい部分だけを次の工程へと送り出します。旬をとらえる秘訣は、契約農家さんとの密なコミュニケーション。地道なやりとりが最高の素材を手に入れる鍵です。
芋蒸ししたものを米麹と合わせた二次もろみは、県内で唯一の横型蒸留器で蒸留。沸騰しやすく、もろみの特徴が出やすい横型蒸留器は、味や香り、それに原料の品種ごとに縦型と使い分けるそう。
だからこそ230種類もの製品をつくることができるんですね。
見学を終えて隣接した直売所に戻れば、蔵に漂う芳醇な香りに高揚した気持ちを察するかのように、私たちを出迎えてくれる焼酎の数々。そして、試飲をおすすめしてくれるスタッフのみなさん。
豊富なラインナップが揃う小正醸造の芋焼酎。一日の疲れを癒す大事なお酒だもの、しっかり味見してから選ばないと。
すっきりとした柔らかさが飲みやすい「赤猿」、強烈な芋の香りとネーミングがクセになる「小鶴 初心者お断り」、そして独特の香りとコク、まろやかさが深いこだわりを感じさせる「蔵の師魂」・・・。あぁ、芋焼酎がこんなにも個性豊かなものだったなんて知らなかった。
だれやめで飲みたい一本は、蔵で働く職人の技とこだわりに思いをはせながら選んでみましょう。きっと焼酎への愛着も、ひとしおですよ。
次に向かったのは、日置市を代表する温泉郷のひとつ、湯之元。
1640年ごろに開湯されたと言われるこの温泉地は、神経痛や皮膚病などに効能のある良好な泉質で知られ、観光客や湯治客が今でも訪れています。どこか懐かしさを感じる古い町並みと合わせて印象的だったのは、早くから温泉に入りにくる地元のみなさんの姿。
私たちが入浴させていただいた「元湯・打込湯」にも、地元の常連さんが次々と訪れます。浴場の中で交わされる常連さん同士の方言の難解さには思わず笑ってしまうけど、それはそれで湯之元という地域と混ざり合えている気がして、なんだか心地がいい。
帰り際、「またいらしてくださいね」と見送ってくれたお母さんの素敵な笑顔に「またきます!」と声に出す自分がいたのでした。
湯之元温泉をあとにして向かったのは、日置を代表するふたつ目の温泉郷、吹上温泉。
日置市南部に位置する吹上エリアもまた、良質な硫黄泉に恵まれた温泉地のひとつであり、西郷隆盛や小松帯刀も湯治に訪れたという歴史ある場所です。夕方に温泉へ着くと、中には数人の常連さんが。
「昔はこの温泉があるからといって家に風呂を作らない人も多くいたんですよ。だから今でもこうやって、地域の人が毎日入りにくるんです。」そう説明をしてくれたのは、レトロな雰囲気がその歴史を感じさせる中島温泉旅館のご主人、中島さん。
500年近く前から温泉として利用されてきた中島湯は、地元住民にとっては「あるのが当たり前」な公共物に近いのかもしれません。家にお風呂のない地元住民のために、月々定額で入り放題という決まりもあるそう。まさに地域密着型の温泉です。
吹上温泉の上質なお湯で一汗流したら、いよいよお待ちかねのだれやめの時間。お気に入りの焼酎の準備はいいですか?飲み方はもちろん、お湯割りですよ。お湯を先に注いで、焼酎はあとから。芋焼酎の柔らかな風味を楽しみながら、さぁ乾杯。鼻へと抜ける芋の香り、体をめぐる心地よい熱。これで明日も、頑張れそう。
せんべいの上に乗った山椒が印象的な「湯之元せんべい」は、まもなく創業100年を迎える菓子の老舗「梅月堂」の看板商品。創業当初からの店の顔であるばかりか、今や鹿児島土産の定番としても広く知られています。
シンプルかつ上質な素材にこだわった素朴な甘さに山椒の爽やかさが加わり、新しい味わいを楽しむことができます。
お土産をしっかり買い込んだら、薩摩の英気の源をめぐる旅も本当におしまい。日置に暮らす人々の真面目さと優しさ、そして暮らしの一端にふれることのできた旅でした。
だれやめと、温泉と。疲れたらまた、日置に戻ってきます。
湯之元温泉(株) 元湯・打込湯
早朝から地元客で賑わう人気の温泉施設。成分の異なる二つの温泉を一度に楽しむことができます。リーズナブルな料金設定も嬉しいところ。
古民家カフェMARIKA
女性に人気のレストラン。広々とした店内でゆっくりお食事を楽しめます。おすすめは野菜中心でヘルシーながらもボリューム満点の「レディースセット」。
湯之元せんべい 梅月堂
看板商品の「湯之元せんべい」は鹿児島土産の定番。本店でしか食べることのできない絶品のオリジナルアイスクリームは、お風呂上がりにぜひご賞味あれ。
中島温泉旅館
西郷隆盛も湯治に訪れたことで有名な吹上温泉の老舗。宿泊の際は「西郷どんの湯」を存分にお楽しみください。
江口蓬莱館
江口浜に揚がった新鮮な魚介料理を味わえるほか、地元の野菜や特産品などが豊富に取り揃えられています。平日でも賑わう人気スポット。
かめまる館
地元の農産物や加工品を扱った直売所。ローカルな品物がところ狭しと並びます。冷凍焼き芋は一食の価値あり!
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